一つ!おお人間よ!しかと聞け!


二つ!深い真夜中は何を語るか?


三つ!「私は眠った、私は眠った——、


四つ!深い夢から、いま目がさめた。——


五つ!世界は深い、


六つ!昼が考えたよりも深い。


七つ!世界の苦しみは深い——


八つ!悦び——それは心底からの苦悩よりもいっそう深い。


九つ!苦しみは言う、『終わってくれ!』と。


十!しかし、すべての悦びは永遠を欲する——、


十一!——深い、深い永遠を欲する!」


十二!













蒸し蒸しと暑さの残る夏の黄昏時に
僕はバス停までゆっくりと歩いていた


道端に白い夕顔の花が咲いていた
ずいぶん久しぶりに見た気がして懐かしい気持ちになった


古びた小さなバスの待合室のベンチにはサラリーマンが一人うつむいて座っていた



うなだれた中年の男は紺色のスーツに身を包み
虚ろな目をしていた


この夏の暑さにスーツ姿はつらかろう


無精ひげがのび
ワイシャツは襟が少し汚れ
生活に疲れているようにも見える


僕が少し離れた場所に座ると



待っていたかのように話しかけてきた


「もう生きているのがつらくてつらく仕方がありません」




「そんなに何が辛いのですか?」
と聞くと


「毎日朝早くから会社に行き 夜遅くまで外回りをしてもたいして業績が上がらない 会社に戻れば上司からはノルマが果たせていないだの 給料泥棒だのと罵られる。家に帰れば女房は子供の成績が悪いだの 近所や知り合いの人の悪口を機関銃のように喋りまくる。子供は自分の事など父親として尊敬もしてないし 無理して買ったマイホームはローンが定年後まで残っている。実家の年老いた両親の面倒も考えないといけない。もう自分にはやっていく自信がありません」
と言う



「それならそんな会社辞めて 奥さんとも別れちゃえばいいじゃないですか」


「とんでもない。私の年で転職しようと思ったってどこも雇ってくれません。女房もいまはカリカリしてますが 根は真面目でいい奴なんです。子供だって昔は素直ないい子だった」



「そうなんですか?でもローンもたくさん残っているし 働き詰めでくたくたなんでしょ」


「えぇ…そうです。正直払いきる自信がありません」



「無理して買ったんですね」


「はい…無理して買いました。こうなると分かっていたけど…夢でしたから」


「ご家族が喜ぶ顔が見たかったんですね」


「…はい…そうです」



「あなたは立派だと思いますよ。自分の事ではなく家族の為に頑張ってきた。そうでしょ」


「…はい…でももう限界なんです」



「もういいじゃないですか これ以上頑張らなくても 無理に残業しなくても。その分早く帰って奥さんの話を聞いてあげれば。ローンも返せなければ売ってアパートに住めばいい」



「えぇ…そうですね。そうしてもいいかな」


「なんとかなりますよ。人生は無理を重ねる為にあるんじゃない」



「はい…そうですね…なんだか気が楽になりました」



「もう一人で行けますよね」



「えっ?どこに行くんですか?」



「行き先が分からなくなってたんでしょ」


「…ええ そうでした。そうか…そういう事だったんですね…分かりました」



「では道を間違えないようにね」



「はい…ありがとうございました」



そう言うと男の姿は少しずつ薄れ

やがてすっかり消えてしまった




僕は男が座っていたベンチに座ると


いつの間にか現れたバスに乗り込んだ彼を見送った




そして本当のバスが来るまで

男を偲んで煙草を一本静かに吸った




待合室の足元には
赤い彼岸花が咲いていた


赤い美しい花は夕暮れの風に揺れて
ゆっくりと踊っているように見えた


でも


少しだけ寂しそうだった。















ブルームーン

わたしを見つけて

広い世界で

わたしだけを



ブルームーン

わたしを連れていって

誰も知らない遠いところに

会わなければ良かったのに

わたしとあなたは
出会ってしまった

知らなければ良かったのに

わたしはあなたを知ってしまった



ブルームーン

わたしに微笑んで

わたしもきっと

微笑むから

ブルームーン

わたしを忘れないで

わたしはずっとあなたを忘れない



月の光の中で

あなたと踊りましょう

どんな星よりも

あなたが一番好き



ブルームーン

わたしを連れていって

あなたと一緒なら


わたしは幸せ