久しぶりに
故郷柴又に帰ってきた


やっぱり故郷はいいよなぁ


ところが
感慨にふける間もなく
つまらない事で
おいちゃん、おばちゃんと喧嘩して
また旅にでるはめになっちまった


喧嘩したくて帰ってきた訳じゃない

妹の亭主に憎まれ口をたたく為に帰ってきた訳じゃない


俺は居場所が欲しかっただけなんだよ

実家に腰を据えて
世間並みの暮らしをぼちぼちしてみようか

そう
何度も夢見たのさ



だけど俺がいると
いつもみんなと喧嘩になっちまうんだ

親父と喧嘩して家を飛び出して数十年


いつしか俺もいっぱしの大人になったつもりだよ

今度帰ったらうまく行くかもしれない

故郷に居場所を見つける事ができるかもしれない
そう思ってね…


でもやっぱりまたやっちゃったよ


俺の居場所はまだ無かったんだ



だから俺は
また新しい居場所を探さなくちゃならないのさ

この狭いようで
広い日本のどこかに

きっと俺の居心地のいい居場所があるに違いない

そう信じて
俺は旅にでるのさ



旅先なら俺は
違う人間になれるんだ


家に帰ると
みんなを困らせる出来の悪い厄介者だけどさ

旅先の人には
何故か優しくなれるのさ



ほら
今日だってテキ屋仲間と商人宿の女将さんと
笑い転げて宴会騒ぎさ


だけど
俺の居場所はここじゃない

俺はただの旅人でしかないんだ



あの町は
良かったな

いい娘がいたんだ


俺も普通の家庭生活をしてみようか
なんて思ったんだけどよ


俺のような流れ者じゃ
あの娘が可哀相だ



なに
いいって事よ

また旅に出ればいいだけの事さ



どこかに行かなくちゃならない旅じゃない

南風が吹いたら
北に行けばいい

空っ風が吹いたら
南にいけばいい


空にぽっかり浮かぶ雲みたいに
自由気ままなだけが
俺のとりえさ


さぁて

明日はどこに行こうかな



日本のどこかに
きっと
俺を待っている居場所があるさ


なぁに
焦っちゃいけねえなぁ

簡単に見つかっちゃ

面白くねぇ



まだまだ人生長いんだから

ゆっくり

のんびり

そう


探すのさ。







その奇妙な男に会ったのは
季節が秋から冬に変わる寒い夜の事だった


久しぶりに入ったバーのカウンターで僕が飲んでいると隣に座った男が声をかけてきた

「やぁ、ご機嫌な帽子だね」

僕が猫の耳の付いた奇妙な帽子を被って
ギムレットを飲んでいたからだろう

「僕にも最高の猫の相棒がいるよ、でもこいつは冬が嫌いでね。冬になると家の扉を一つ一つ開けろっていうんだ、やつはそのうちの一つは夏に繋がる扉だと信じているんだ」

そう彼は話し出した



僕はひどく感心した

「なるほどそうでしたか、実はうちの猫もしょっちゅうドアを開けろってうるさいんですよ」

たったこれだけの会話で僕らは意気投合し酒を酌み交わした


彼は少し年上だったが
さりげないなく着こなしたダークグレーのスーツがとても高価なものであるのはすぐに分かった

僕が彼のスーツを誉めると彼は照れくさそうに笑った

「僕は本当は技術屋だからこんな服は窮屈で仕方がないんだ、作業服を着ていたほうが落ち着くんだがなぁ」



不思議な男だった

まるで僕の父親と話しているようでもあり
時に古くからの友人と話しているような錯覚にも陥った



猫の話題は世界の経済の話になり
やがて恋愛論や運命論に及んだ

「人生には失敗がいくつもあります。でも失敗を受け入れ新しい道を歩むのが人生だと思います」

僕がそんな話をした時に彼はこう言った

「僕はちょっと違う考え方なんだよ。失敗した人生はやり直さないと気がすまないんだ」

「でも人間は過去や未来に行けません、神ではないですから」

「ところが僕は過去や未来に行ってきたのさ、おかげで僕は大会社の社長で、30歳も年下の妻と結婚したのさ」

「冗談でしょ。それともあなたはタイムトラベラーなんですか?」


僕は彼が酔っ払っているのだと思ったのだ


「いや…未来に行く事は難しくないさ。コールドスリープすればね」

「あの冷凍保存ですか?」

「そうさ、僕は30年過去からやってきたのさ。しかし過去に帰る事は難しい、でも一度だけ戻ったのさ」



僕は次の言葉が出なかった

何故なら
彼は本当の事を語っていると
直感で思ったからだ




「今夜はこれで失礼しよう。ピートが鞄の中で不機嫌なんだ」

彼はそう言うとウインクして鞄を大事そうに持って店を出た




その夜僕は珍しく酔っ払った


そして家に帰ると
我が家の猫に話しかけた


「なぁ、ミーヤ僕を昔に連れて行ってくれないか?」


彼女は睡眠を邪魔されてうるさそうに一声鳴くと

また丸くなって寝てしまった


僕は深くため息をつくと


仕方なくベッドに潜り込んだのだった。












この日記を

ロバート・A・ハインラインに捧ぐ








私の人生の中で一番難しいのは
信じ続けること

この狂った世界に
私を待っていてくれる人がいると信じ続けること

つかの間の人生を行き交う人々の中で
その人が私の前に現れても見逃してしまうかもしれない


「約束などいらない、シンプルな関係でいましょう」

と私はよく言った


けれど自由は
あなたのさよならを早めただけ

少し時間がかかったけど
物事はそう上手くはいかないとやっと学んだ
でも私にとってその代償はとても大きかった


私には愛が必要だとわかっている
いままであまりにも時間を無駄にしたとわかっている
私は不完全な世界に完璧を求めている

愚かなことに
それが見つかると思っている


私はポケットにたくさん希望をつめこんでいるけど
今夜は何ひとつ私を慰めてくれない

朝の4時なのに目は冴えるばかり
ひとりとして友達はそばになく
それでも希望にしがみついている


だけど私は大丈夫


私には愛が必要だとわかっている
いままであまりにも時間を無駄にしたとわかっている
私は不完全な世界に完璧を求めている

愚かなことにそれが見つかると思っている


私に本当に必要なのは愛だとわかっている
でもあまりにも長い時間を無駄にしてきたのだとわかっている
私は不完全な世界に完璧を求めている

愚かなことにそれが見つかると信じている…。





(カーペンターズ)