その奇妙な男に会ったのは
季節が秋から冬に変わる寒い夜の事だった


久しぶりに入ったバーのカウンターで僕が飲んでいると隣に座った男が声をかけてきた

「やぁ、ご機嫌な帽子だね」

僕が猫の耳の付いた奇妙な帽子を被って
ギムレットを飲んでいたからだろう

「僕にも最高の猫の相棒がいるよ、でもこいつは冬が嫌いでね。冬になると家の扉を一つ一つ開けろっていうんだ、やつはそのうちの一つは夏に繋がる扉だと信じているんだ」

そう彼は話し出した



僕はひどく感心した

「なるほどそうでしたか、実はうちの猫もしょっちゅうドアを開けろってうるさいんですよ」

たったこれだけの会話で僕らは意気投合し酒を酌み交わした


彼は少し年上だったが
さりげないなく着こなしたダークグレーのスーツがとても高価なものであるのはすぐに分かった

僕が彼のスーツを誉めると彼は照れくさそうに笑った

「僕は本当は技術屋だからこんな服は窮屈で仕方がないんだ、作業服を着ていたほうが落ち着くんだがなぁ」



不思議な男だった

まるで僕の父親と話しているようでもあり
時に古くからの友人と話しているような錯覚にも陥った



猫の話題は世界の経済の話になり
やがて恋愛論や運命論に及んだ

「人生には失敗がいくつもあります。でも失敗を受け入れ新しい道を歩むのが人生だと思います」

僕がそんな話をした時に彼はこう言った

「僕はちょっと違う考え方なんだよ。失敗した人生はやり直さないと気がすまないんだ」

「でも人間は過去や未来に行けません、神ではないですから」

「ところが僕は過去や未来に行ってきたのさ、おかげで僕は大会社の社長で、30歳も年下の妻と結婚したのさ」

「冗談でしょ。それともあなたはタイムトラベラーなんですか?」


僕は彼が酔っ払っているのだと思ったのだ


「いや…未来に行く事は難しくないさ。コールドスリープすればね」

「あの冷凍保存ですか?」

「そうさ、僕は30年過去からやってきたのさ。しかし過去に帰る事は難しい、でも一度だけ戻ったのさ」



僕は次の言葉が出なかった

何故なら
彼は本当の事を語っていると
直感で思ったからだ




「今夜はこれで失礼しよう。ピートが鞄の中で不機嫌なんだ」

彼はそう言うとウインクして鞄を大事そうに持って店を出た




その夜僕は珍しく酔っ払った


そして家に帰ると
我が家の猫に話しかけた


「なぁ、ミーヤ僕を昔に連れて行ってくれないか?」


彼女は睡眠を邪魔されてうるさそうに一声鳴くと

また丸くなって寝てしまった


僕は深くため息をつくと


仕方なくベッドに潜り込んだのだった。












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ロバート・A・ハインラインに捧ぐ