本屋で立読みした料理本に簡単なアイスクリームの作り方が載っていたので休みの日に作ってみた


確かに簡単にできる方法だったが
出来上がって食べてみると想像してた味と少し違っていたのでがっかりしてしまった


なかなか上手くいかないものだなぁと思いながらふと幼い頃
母親がアイスクリームを作ってくれた事を思い出した



母はずっと共稼ぎで働いていたから平日におやつを作っくれる事はほとんど無かったが
たまに日曜日に手作りでおやつを作ってくれた事があった


ドーナツ、サツマイモパン、ポテトチップス、トウモロコシや空豆の塩ゆで、緑や赤の寒天、ミルクセーキ、アイスクリーム


ドーナツは抜き型の中の丸い部分も揚げて
僕はこれが好きだった

でも特に自分のお気に入りは
ミルクセーキとアイスクリームだった

どちらも牛乳と卵を使って泡立てて作ったような気がする

アイスクリームは市販のアイスクリームの素みたいなものを買ってきて
それに牛乳、卵を混ぜて泡立てて
アルミの弁当箱に流し込み冷凍庫て冷やして作ったように記憶している


とにかく
いまのようにコンビニもなくお菓子も充実してなかった時代の事だから
出来上がるのが待ち遠しくて仕方がなかったのだ


まだかまだかと
何度も冷蔵庫を開けるので母から叱られるほどだった

首を長くして待った末に出来たアイスクリームは包丁で切られて
ヨウカンのようにお皿にのって出てきた

そのアイスクリームの美味しかった事

家族で切り分ける分まで一人占めしたくなるような気持ちだった


いま思えば店で売られているアイスクリームのようなクリーミーさはなくてシャーベットとの中間のような食感だったのだが
幼い僕を充分に満足させる味だった


それから何度もせがんで作ってもらったのだが
母もだんだんとめんどくさくなってきたのか
アイスクリームの素が手にはいらなくなったのか

夏のおやつはかき氷に替わっていった

専用の氷型に水を入れて冷凍庫で凍らせて
かき氷器でシャリシャリとかいてシロップをかけて食べるというやつだ

これなら子供でも簡単にできるから
母も楽ちんだったのだろう

もちろんそれはそれで美味しいのだが
時々あの弁当箱で作ったアイスクリームが懐かしく思ったものだ



大人になったいま
なぜか無性にあの弁当箱のアイスクリームもどきが食べたくなる

スーパーに行くと
時々製菓コーナーを覗いてアイスクリームの素がないのか探すが

やはりそんなものはないのだ



いま僕は

サーティワンのアイスよりも
コンビニで売っているどんなアイスよりも
あの弁当箱のアイスクリームが食べたいと思う


幼い頃に大好きだったものは

大人になっても変わらないものだと

しみじみ不思議に思うのだ。





abusandayonさんのブログ-海.jpg



学生時代の友人に久しぶりに会って
ドライブすることになった


まだ夏の暑さには早く
風の爽やかないい季節だった


混雑した街のざわめきから離れるように車を走らせると
いつしか車は東に向かって走り続けていた

初夏の新緑もいいが
やはり潮の香りが懐かしく感じて
海を見たくなった


昔はよくその道の先にあるあの半島までドライブしたものだった
特に女のコを隣に乗せるとあの海に行くというのが僕のお決まりコースだった

別に定番コースという訳ではないが
僕の住む町からおよそ2時間で行けるそこは
お手軽な半日ドライブのコースなのだ

それにしてもあれだけよく行ってた割には
最後に行ったのはもう10年も前のことだった


1時間ほど走ると
そういえば半島の先端に向かう途中に
お気に入りの喫茶兼ビストロがあったのを思い出した

レンガ造りの洒落た外観のそこは海に面した場所に建っていて
テーブル席からはガラス張りの向こうに海を見ることができた

ここのご主人は画家で
アトリエ兼
料理好きの美人の奥さんの為のビストロの店
としてそこを建てたのだと聞いたことがあった

実際にそこのご主人の描いた絵が2階に展示されていて
お願いすれば見せてもらえた

その絵は海と船と少女がモチーフの暗い色彩を使った少し重い感じの絵で数点展示されていた

どちらかといえば渋い絵だったが
僕はその絵が好きで
その店を訪ねると帰りにいつもお願いして
絵を見せてもらうのが楽しみでもあった


たしかこの辺りだと思ったけど
とキョロキョロしていると見覚えのあるレンガ造りの建物が姿を現した


あった!
ここだ

店の名前は
「ミューズ」といった

だが建物はあの当時のままだったが入口は閉ざされていた

どうやら去年あたりから閉店したような事が入口に書かれていた


そうか閉店したのか
とても残念だった
自分好みのとてもいい店だったのに…


この店で彼女と海の見える席でアイスティを飲んだことを思い出した

遠くに大きな船が見えて
ユーミンの
「海を見ていた午後」
になぞらえてグラス越しに船を眺めたっけ

音符ソーダ水の中を貨物船が通る…」

店内はゆっくり時間が流れるような落ち着いた空間だった


店名の
「ミューズ」
は芸術の神を表していた
ミューズの娘がヴィーナスだった


店を後にして僕は少し後悔していた
店じまいする前にもっとここに来れば良かった

センチメンタルな気持ちになって僕らはまた車を走らせた

僕は車の中にあった岡村孝子のCDをかけた
懐かしい曲が流れた



「ねぇ、この曲わたし好き。この『音符女のコの性格って相手しだいで変わる…』って歌詞があるでしょ。なんかよくわかるの」

「ふぅ~ん、確かにそうかもしれないね」

「わたしね、最近友達から『あなた性格変わったね』って言われたの」

「えっ?そうなの?どんなふうに変わったの?」

「なんかよく分かんないけど…ふふっ、悪くはなってないよ」

「それって僕のせい?」

「ふふっ、どうかなぁ」

彼女はうれしそうに笑った





「おい!どうするよ?」

「えっ?何が?」

「何が?ってさっきから話かけても返事しなくて、どうしたのさ?」

「あぁ、ごめん、ちょっと考えごとしててさ」

「いまから岬の先端までいこうか?」

「うん、それでもいいけど、この先の山の上にホテルがあっただろう。そこに行きたいな」

僕らは岬近くの道を少し外れて小高い山を登って古くからあるホテルに到着した

車から降りると眼下は180度のオーシャンビューだった

よく晴れて風の気持ちのいい日だった
潮風は爽やかな夏の訪れを乗せて僕らを歓迎してくれてるようだった

真っ直ぐに広がる砂浜に打ち寄せる白い波
青い海と白い雲の浮かぶ青空


「いい風景だな」

「あぁ男2人じゃ勿体無いな」

そう言って顔を見合わせて笑った


ホテルの中に入って展望台まで登ると更に素晴らしい眺めだった
半島の先端が一望できて海の遠くに水平線が微かに丸みを帯びているのが分かった

「夕陽がきれいだろうな」

「そうだよな。女のコと一緒に見たらいい感じになっちゃうだろうな」

「じゃあ夕陽になる前に帰らなくちゃな」

「まったくだ。お前に恋したらまずいからな」

「ははは、それだけは御免だ!」




「ねぇ、この『音符クリスマスに二人で見た海が鮮やか過ぎて、どんな人とあの海へ行っても心が動かない…』って歌ってるでしょ。わたしこの海ってここの海じゃないかなって思うの」

「そうかな?他の海じゃない?」

夕陽の見える海沿いの道で車を停めて
あの時彼女と海を見ていた

「ううん、きっとこの海よ。わたしこの歌の気持ちがとてもよく分かるの。凄くきれいな海、凄くきれいな夕陽、わたしずっと忘れないわ。もしいつか他の人ときても、わたし絶対にこんな風に感動しないと思うの」

彼女はそう言うと僕の肩に頭を寄せてきた

彼女はうっすらと涙を滲ませて目を伏せた




音符絵になるように生きて余裕を持てたら、もっとましな言葉の魔法かけてあげていたのに
ベイビー ベイビー うまくはいかないものね、あなたの痛み背負うほど、大きすぎる夢は歌えないけど歩くきっかけにして」


岡村孝子のあの歌を聴くと
あの時の会話が
今でも鮮明に甦ってきた

そうだった
あの辺りの道だった


あの時の気持ち
こんなところに


置き忘れていたんだなぁ。








僕が君を好きなのは
君が可愛いからじゃない
僕が君を好きなのは
君が優しいからじゃない

僕が君を好きなのは
君が微笑んでくれるからじゃない
僕が君を好きなのは
君がよく話してくれるからじゃない


僕が君を好きなのは
君といると自分が生きていて楽しいと感じられるからなんだ
僕が君を好きなのは
君といると嫌なこともどうでもいいって思えるからなんだ


ねぇ知ってるかい
いま日本の人口は
1億2618万人なんだってさ
僕は寂しい夜に時々不安になるよ
総務省統計局はちゃんと人口の数の中に僕も加えてくれてるのかな

僕だけ数え忘れられてるんじゃないだろうかってね


そうさ僕は人口に加えても加えなくてもいいぐらいつまらない男なんだ
僕には人に誇れることなどなに一つない
そんなことは自分が一番よく分かっているさ


だけどそんな自分をたまらなく嫌いになってしまうことがあるのさ
君もたまにはあるだろう
分かるかな

自分がなんの為に生きているのか
いい年してそんなふうに考えるなんて信じられないだろうね


だけど人間なんて所詮そんなもんさ
誰だって多かれ少なかれ浮かれたり落ち込んだりしながら
なんとか毎日を生きているじゃないかな
少なくとも僕は
そんなふうにして迷いながら今日まで生きてきたんだ
楽しいことなんてめったに無かったさ


だけど君が現れて
君はいつしか僕に笑顔で話しかけてくれるようになって
僕は毎日が楽しいって思えるようになったんだ


君は知らないうちに
僕が存在していることを肯定してくれたんだ


あぁもちろん君はそんな事すら気がついていないけどね


でも僕はそれで充分なんだ

だって君は僕に一番大切なことを教えてくれたんだから

そう
生きていて良かったってことをね


だから
だからね


僕は君が
大好きなんだ