合宿の前日
というよりも当日の朝の4時頃までかかって
「ブロック化」を書いていた
それでも未完成だったので諦めてサークル室で横になって少し仮眠した

8時頃みんなが集合してきてその話し声で目を覚ました
それからしばらくして貸し切りバスに乗って馬籠に出発した
みんなの中に短大2年生のオコシが来ていてうれしかった
短大の2年生はほぼ全滅だと聞いていたからだ
彼女は少し長めの髪をショートカットにしてすごく可愛くなっていた

昼の2時ぐらいに民宿に到着すると
早速3時から全体討論が始まった

夕食後も討論があって
それが終わってから運営委員は毎日2時過ぎまで文章化をしていた


朝起きるとまずみんなでラジオ体操をするのだが運営委員は朝食ギリギリまで寝ている
という状態が毎日続いた

「国民的闘いの一翼として」
では議長をしてみんなの発言を最後にまとめた

終わってからあぶさんが寄ってきて

「ナッツ先生うまいですね、まとめるの。オレもみんなの意見を聞いて自分だったらどうまとめるか考えてたんだけど、かなり似たまとめ方して、うん…良かったですよ」

と言ってくれてうれしかった

4日目の夜はレク企画の「夜の肝だめし」に運営委員も参加した
僕はひよっこパートの一年生のワカメと組んだ
うちのジャケイはワカメに気があるのだ

悪いなジャケイ
ぐふふ

田舎の電灯もない暗い田んぼや山道を月明かりを頼りに歩いた
月がとても明るい夜で気持よかった
月明かりで自分の影ができるような明るさだった

竹林の横を通り小さな橋を渡った
ところが途中で道を間違えてしまって
変なところに出て慌てて戻った

脅かす役のジャケイが
「そっちじゃないけー。こっちじゃ!」

と少し怒り気味だった
ぐふふ

久しぶりに楽しいひと時だった

最終日前夜
最後の「ブロック化」を朝の6時までかかって完徹して書き上げた
ガリ切りしてもらうとザラ紙6枚になる大作だった

討論最終日は比較的スムーズに進んで
昼から「ブロック化」の討論になった
みんないろいろと発言してくれてうれしかった

「最後の一発言」
と言うと3人が手を上げてくれた

夕方前に全ての討論が終わった

その後はパート会だったが
うちは次にジャケイがキャップをやると事前に決まっていたので馬籠をブラブラ散歩して喫茶店でのんびりした

夕方から総会の採択をして終了

笑顔でボッチとライアンとしっかり握手をした

その後はコンパだった
僕の隣はオコシだった

と言うよりもオコシの引いた座席のクジには番号が書いてなかったので

「それなら僕の隣においでよ」
と誘ったのだ

オコシは5~6歳の幼児を対象にしたパートのおっとりした性格のいい子だった
ほとんどの短大2年生がサークルを辞めていったのに合宿まで来てくれた子は少なかった
彼女は裏方として今回の合宿を支えてくれた
運営委員が夜中に原稿を書き上げると
それを何度もガリ切りしてくれたのだ
僕の原稿もいくつかが彼女の文字になって印刷された

それにしても一年前に比べると
オコシは驚くほどきれいになっていた

お互いにビールを飲みながら初めてと言っていいほどじっくりとオコシと話しをした

「2年間じゃなくてせめて3年あったらいいのに。そうしたらもっとセツルができるのに。ピーコやタワケが辞めていったことが本当に残念。一緒にやって欲しかった」

いい子だなオコシは
彼女は話す時に必ず相手の目を見て話すので
すこし酔いで赤くなった色っぽい目元に見とれてながら僕はドキドキしていた

だんだんとオコシも酔ってきて
しみじみと僕の顔を眺めた

「なんでナッツさんってそんなに可愛いの?」

思わず苦笑いをするしかなかった


コンパが4時間を過ぎた頃
そろそろ疲れてきて会場を抜け出して運営委員会の部屋に行くとライアンとボッチが二人でビールを飲んでいた

そばに酒を飲んでぶっ倒れたシツレイが口にガムテープを貼られて眠ったままのたうち回っていた

そろそろ寝ようかと言っていると
一年生のターザンが酔って入ってきて

「いまの1年生は3年生を越えなくちゃダメだ~」
と突然言い出した

「合宿の討論視点はなんだ~。あんな抽象的な視点じゃ1年生は何を言っていいのか分からん。オレ自分がものすごく歯がゆいんよ。あんな視点じゃ1年生は語れない。あれじゃ感想の出し合いだ~。情けないよ、あれじゃやってけないよ。なんで2・3年生はもっと語ってくれん?なんで3年生は1年生の声を導き出すように語ってくれん。あんなんじゃダメだ~。オレものすごく情けない。オレ達はまだ4年間もセツルをやってくんだ。あれじゃやってけないよ!」

と涙を流しながら大声で叫んだ

そんなターザンに始めはムカッときたが
涙を流す姿に心を打たれた

そんなふうに自分の歯がゆさや上級生に対する不満を涙ながらに訴える新入生を初めて見たからだった

だがボッチは真剣に怒って大声でやり返していた

「こっちだって真剣に考えて会議を進めてきたんだ。言いたいことがあるならなんで討議の時に言わないんだ!」


だんだんと酔いがさめてきたターザンを僕とライアンで別の部屋に連れていっていろいろと話していった
視点はたしかに抽象的かもしれないが
それは少しでも1年生が多くのことを語れるように配慮して出したことで
それでも一時間以上話して決めたことだ
基調ってものはそもそもどんなものかっていう話

実践でいろいろと変わっていった子供達の話

どこでどう納得したのか分からないが
ターザンの顔が次第に明るくなってきた

「オレよかった。今日こんな話ができて。こんな話ができた1年生いないもんな。良かった、ありがとう!」

とターザンは喜んでいた

「いまからみんなに、いま得たことを返してくる」
とターザンはビール瓶を片手に部屋を出て行った


やれやれ
なんともお騒がせな奴だ

しかしあんな熱い男がセツルには必要なんだよなぁ

そうしみじみ思いながら布団が敷いてある部屋に行った

部屋ではタケさんが横になっていた

「これでやっとゆっくり寝れる。これで寝ていても無理やり文章点検で起こされることも、目に無理やり目薬を挿されることもない。幸せだ~」

とタケさんがしみじみとつぶやいた

それを聞いて僕は思わず吹き出してしまった

この合宿中彼は寝てる時に何度もポテト(2年♀)に目薬を挿されて無理やり起こされたのだった

次の日はみんなで土産物屋に行っておみやげを買ったり
近くのお寺に行って写真を撮ったりした

帰り道バスに揺られながら木曽路の山々を眺めていた

深夜のきつい文章化の日々
ターザンの涙
オコシの可愛さ

そんなさまざまなことが去来して
いつかうつらうつらと眠っていた。












ミッキーへの手紙を最後に僕は彼女のことをキッパリと諦めることにした

冷静に考えると
もっと時間をかけて
友達としていろんな事を話せるようになっていければ良かったのかもしれない

だが一度火がついてしまった想いは勢いがついてしまって
なかなか冷静になれるものではない

未熟なアプローチだったがきちんと告白できたことはやはり自分としては後悔のないことだった


数日後、大学のベンチに座ってボーとしているとタマがやってきた
ちょうど昼時だったので近くの定食屋に行こうということになった

タマは豚肉のショウガ焼き定食
僕は鶏肉のからあげ定食を頼んだ

「ナッツ、お前下宿しろ。お前下宿せんからいかんのだ。だから女に手を出せないんや。まず自立して生活しなかったら一生一人もんやぞ」

とタマは味噌汁をのみながら僕に説教をした
タマの前歯についたワカメを見つめながら

「下宿は難しいけど、もうちょっと頑張るよ」

タマは僕がミッキーにアタックしたこともフラれたことも知らない
だから僕の煮えきらない態度に叱咤激励をしてくれたのだ

でも確かに下宿は魅力的だよなぁ

「そういえば前にシチューが言っとったジャガとキンキンはどうや?」


そういえばそんな話もあったなぁ
あの子達と初めて会った日のことを思い出した

あれは4月の終わり頃だった
講義が終わってサークル室でブラブラしているとドアをノックして3人の女の子が入ってきた

「ちょっと話を聞きたいんですが、いいですか?」
みんな1年生だった
僕が話し相手になった
すでに誰かからセツルの説明は聞いていたらしかった

「家庭訪問ってどういう風にやるんですか?」

「夏休みは8月からって聞きましたけど」

いろいろと話していくと
そのうち一人はマンガ研究会に入りたいと言っていたが

「どうする?」

「わたしは入るわ」

「じゃあ私も」

と言って結局3人ともその場で入ったのだ

それが、マルチン、ジャガ、キンキンだった

その数日後、1年生向けの入門講座をした時に
マルチンが
「この前、先輩が話してくれた夜、もらった新入生向け資料のセツラー紹介を見て、あの人はなんていうセツラーか、みんなで考えたんです。それでみんなでパーマンっていう人に違いないって言ってたんです。でもサークル室に行って聞いてみると違う人がパーマンだって分かって。それからみんな『旧パーマン』『新パーマン』って呼んでるんです」
と言ってみんなで大笑いした

その日家に帰ると気になり資料を読んでみると
パーマンの紹介はこんな風に書かれていた

「スケベさは天下一品。でも包容力のある落ち着きのあるセツラーです」

みんなどんな話をしとったんやろう…


結局彼女達3人はありんこパートに入った
つまりミッキーと同じパートだ

だからという訳でもないが
ミッキーが駄目だから次の人にすぐに切り替えることなど
できるはずもなかった

だから僕はタマに曖昧な返事をするしかなかったのだ


失恋のショックから立ち直る為に
僕はまたサークル活動に没頭した

というよりも他の3年生が愛セツ連の役員をしたり教育実習やら帰省でいない
他の1・2年生はひよったり退部したり
ゼミや自治会に行ってしまって
僕とジャケイだけで実践やパート会をすることも珍しくなかったのだ

夏のキャンプ実践、地域のぐるみの集中実践があって
8月の終わりにはまた運営委員会総括が始まった

今回は同じ学年の執行部が多かったので会議も楽しかった
会議が遅くなると
いままでよく泊めてもらったあぶさんやヌルヌルの下宿だけでなく
同学年のボッチや火星人の下宿にもよく泊めてもらった

僕と同じ自宅生のライアンもひょっこパートのキャップだった
彼はうちの大学では珍しく車で通学していたのでよく乗せてもらった
朝から晩まで一緒にいる時間も多く
自然と彼らとの交流も深いものになっていった

ボッチとは恋愛問題についてお互いに意見交換をしたり愚痴を言い合う仲になった
彼は1年生のゴクーという女の子にアタックして付き合い始めていた
彼の作戦はラブレターだった
それを聞いて自分もラブレターを書けばよかったかも
と思ったりもした


そうは言っても
活動総括は今回も楽しいものではなかった
今度もサークル員が集まる総括合宿に向けて4つの項目の文章化が割り当てられた

僕の担当は
「パートの実践」
「国民的闘いの一翼として」
「ブロック化」
「他の団体との提携について」

ややこしいものばかりだった

またまた一週間ほどかけて
大学のサークル室で朝から深夜まで話し合いが続いた

合宿の前までに書けたのは
「闘い」のみで
「実践」は8割
「ブロック化」は3割
「提携」はゼロだった

ほとんど家に帰らず
あぶさんやタケさん、
ボッチやヌルヌルの下宿に泊めてもらった


その年の総括合宿は岐阜県の馬籠の民宿に5泊6日だった

馬籠かぁ
いいよなぁ

でもどうせ行くなら純粋な旅行で行きたかったなぁ

総括合宿で行っても部屋に籠って朝から晩まで討論に明け暮れるんだもんなぁ


あっという間に総括合宿の当日になってしまった。







次の日に大学でミッキーの姿を探したが会えなかった

夕方の帰りに地下鉄のホームで電車を待っていると
階段からミッキーとウランが降りてきた
僕が手を振るとミッキーははにかんで手を振ってくれた

僕は無理に明るく振る舞って冗談を言って二人を笑わせた

途中で二人と別れて
こんな中途半端ではいけないと思い
夜に公衆電話からミッキーの家に電話をかけた

「明日 話したいんだけど」

「明日?いいよ」

「いつがいい?」

「2限目にサブゼミがあるから…3限目ならいいよ」

「じゃあ3限目にしよう。場所はえ~っと…児童公園は?」

「え~あんなとこまで行くの嫌だ。サークル室にしよう」

「う~ん、じゃあ図書館は?」

「ん~いいよ」

「じゃあそれで」

「うん」

話していてミッキーが冷めているような感じがした
やっぱり駄目なのかなぁ
弱気な気持ちが顔を出していた

悪い方にばかり考えるのが自分の情けないところだ
でもここまで来たら
当たって砕けるしかないんだから

次の日 大学の図書館で待っていると約束通りミッキーが来てくれた

「とりあえず出ようか」

と言って学生会館の屋上で座って話した

「いま正直いってどんな気持ち?」

「あたしさぁ、日曜日の話でもう終わったと思ってた。それで昨日地下鉄で会った時も前みたいに話せたから、あ~良かったって思ってたの。でも夜に電話がかかってきて、まだ終わってないんだなぁって思ったの」


そっか
あの階段のはにかんだような笑顔はそういう意味だったのか
でも僕は自分の想いを全力で伝えるしかない

自分がミッキーのことをいいなぁと思うようになった過程のことや
自分が高校時代どんな人間でサークルでどう変わってきたのかを話していった

「いままでナッツのことそんなに知らなかったし、いつも冗談ばかり言ってたでしょう。だからそんな風な人だって知らなかった。いままでのままじゃいけないの?」

「言ってしまったからには後にひけないよ。自分は自分なりに悩んで言ったんだもの」

「あんなこと言わなきゃ良かったのに。そしたら今まで通りにいられたのに」

確かにそうかもしれない
自分は焦り過ぎているのかもしれない
自分だけ盛り上がっていて相手の気持を置き去りにしているのかもしれない

「う~ん、ごめんね。結論は急がなくていいから、ゆっくり考えてみてくれる?」

「うん、考えてみる。あとで返事する」

「今日はちょっと強引すぎたかなぁ」

「うん。ナッツは自分のことは言ったけど、あたしの立場を分かってくれないみたい」

「うん、ごめん。でもどうしようもなくて」

「でもなんでそんなことを落ちついて言えるの?」

「落ちついてるなんて、そんなことないよ。日曜日だって迷いに迷ってやっと言ったんだよ。言った時なんか気が遠くなりそうだった。今日だって一言いいだすのにドキドキしながら言ったんだから」

「でもすごく落ちついてるように見える」

「そう見せてるだけだよ」


下を向いて考えてるミッキーの横顔が可愛かった

同時にこんなに困らせてしまって申し訳ないと反省していた

だが、恋愛に対して気の弱い自分がよくここまで言えたものだと自分に驚いていた

1時間半ぐらい話して彼女は病院に行くと言って帰っていった
腰が悪くて整形外科に通っているんだそうだ
そうなんだ
自分はミッキーのことをまだまだ分かってなかったのかもしれない
そうふと考えた


次の日に大学に行くと
ベンチにタマ(4年♂)がいたのでしばらく二人でアホな話ばかりしていた

最近タマとカール(3年♀)がよく話してるところを見かけるので

「タマ!カールとはどうなってるの?」
と聞くと

「とおっほっほっ。なんでや!そんなのあらへんて」

「じゃあ、リッツかオバコは?」

「そんなんいらんわ。ワシはミッキーがええわ」


驚いた!
ミッキーの名前が出てきたからだった

やっぱりみんなミッキーが気になるんだな
きっと僕では無理なんじゃないかなぁとまた弱気になった

そうしているとシチュー(1年♀)が通りかかったので3人で誰がいいとか
そんな話ばっかりになった

「前ね一年生が集まった時にナッツさんがいい、いいって言っとった子が二人おったんよ。あのね~ジャガとキンキンなん」とシチューが言った

「おっ!ナッツ君すごいやんか。モテモテやんか。ほっほっほっ」

なに?そうだったのか
二人ともいい感じの子だった
もっと早く言ってくれよ~!


それから一週間後
愛セツ連大会に向けて実践レポートを作る為にパート合宿をする事になった
パート会が始まる前にボッチ(3年♂)がきてそっと手紙を渡してくれた
ミッキーからだった

その時感じた

きっと駄目なんだろうなって

パート会の休憩にベランダに出てそっと手紙を開いた

「気持ちはうれしいけど、やっぱりつき合う気になれません。私の気持ちは変わりません」

ガーンという感じだった
やはり辛かった
一番キツかったのは

「この前『いまつき合う気はない』と言ったけど、それはウソ。もし自分を賭けれる人が現れたらその時はきっとつき合うつもりです」

自分では駄目なんだ
自分では駄目なんだ…

そんな想いが頭の中でこだましていた


その日の合宿で
僕はまったくの腑抜け状態だったことは言うまでもない

放心状態とはあんな状態のことなんだろう

合宿の後であぶさんの部屋の布団の中で僕はそっと泣いた


こんな風に3年の春に芽生えた恋心はあっけなく終わってしまった

恋愛というものは僕にとって難しいものだとあらためて感じたのだった。