私に人生と
いえるものがあるなら
あなたと過ごした
あの夏の日々


きらめく草の葉に
心がはずみ
野に咲く花に
心が通う


愛していたのに
あなたは消えた
信じていたのに
何故か解らない


許されるのなら
やり直してみたい
出来ることなら
あの日に帰りたい


私に人生と
いえるものがあるなら
あなたと過ごした
あの夏の日々














僕は結局1年ちょっとで大阪営業所を退職し地元に帰ってきた

そのわずか1年の間にいろんな人との出会いやたくさんの思い出があるのだが
それを書いていくと更に長い日記になってしまうので割愛する


とにかく僕は家の近くの食品会社に再就職した
今度は現場仕事だった

そこの工場はとても忙しくて二交代の勤務で朝の6時から夜の6時までの早番と夜の6時から朝の6時まで働く遅番勤務があった
故郷に帰った気楽さはあったが
くたくたになって家に帰るという毎日だった
でも学生時代の友人とはよく遊べるようになり
それなりに楽しい毎日だった


1年、2年と経過していき
オコシとは疎遠になったが時々手紙を書いた
彼女もしばらくすると返事を送ってくれた
たいがいは仕事の悩みや近況報告といった内容だった
保母さんという仕事の悩みや喜びがいつも綴られていた
それにセツルでの思い出話もあった


その後、保母を辞めて違う仕事に就くことになったこととか
時には付き合っている彼に対する不安な気持ちが書かれていることもあった

大阪の仕事を辞めてから3年ほど経った頃
結婚が決まりました
という手紙が来た
彼の就職が決まって結婚できるめどがついたのだそうだ

「今は、結婚の準備というか、慌ただしい毎日です。特別、何をするというわけでもないけど、落ちつきません。このあいだウェディングドレスを着たりしたのだけど、何か照れくさくて一人ではしゃいでいます。今も荷物だらけの部屋で(片づけている中で)手紙を書いています。あれもこれもダンボールに詰め込んで分けています。「紙ふうせん」のコンサートに行ったこと、覚えていますか?ナッツに録ってもらったカセットテープも大事に持っていきます。あの時の紙ふうせんの歌声、すてきだったですね…楽しかったし…そんな事を思っているから、なかなかはかどらなくて…いっぱい散らかってます。思えばいろいろな人にお世話になって、教えられて、今があるんだなと感じます。ナッツ君ともいろいろな話をしたし、お世話になりましたね…。本当にありがとう…」


オコシの結婚式の2ヶ月ほど前にヌルヌルの結婚式が愛知県であった

そこに僕とライアンとカススケとタマとオコシが友人として招待された

普通だったらなかなか来ないものだが
オコシもわざわざ来てくれた
当日僕とライアンは彼女を迎えに車で名古屋駅ま
で行った
また彼女に会えるなんて
なんだか不思議な縁があったのかもしれない

恥ずかしそうな笑顔でオコシは現れた
上品な赤いワンピースの彼女は少し痩せてとてもきれいになっていた

美しくなった彼女を見て僕は心の中でいいようのないため息をついていた

いったいお前はいままで何をしていたのだ…


ヌルヌルの結婚式までの時間に近くの神社に行った
ライアンが気をつかって僕とオコシの二人だけの写真を撮ってくれた
「あんた、これが最後のオコシとの思い出やで」


僕はいつか彼女の下宿で撮った二人の写真のことを思い出した
あの時はこんな日が来るなんて夢にも思わなかったなぁ…

もう本当に最後のツーショットだった


ヌルヌルの結婚式では僕とオコシとライアンは同じテーブルだった
時間が止まって欲しいと思った


結婚式が終わり
僕はまたオコシを車で名古屋駅まで送って行った
日帰りの強行軍で彼女は帰って行った
笑顔で手を振りながら

それがオコシに会った最後になった…


しばらくして彼女から手紙が来た

「いろいろ本当にお世話になり、ありがとうございました。思いきって行ってよかったな~と思います。会って少しの時間だったけどセツルをやっていたあの頃に戻ったようでした。(中略)
ナッツもこれから社会の中でいろいろあると思いますが、自分を大切にして頑張ってください。名古屋駅に向かう車の中でナッツが言った事…『セツラーにはしあわせになってほしい…』そんな言葉が心に残ります。私もそう思います。もちろんナッツに対してもそうであって欲しいと思います。」


あぁ
本当にこれでもう終わりなんだ
もうどうしようもないんだ

彼女の手紙を読みながら後悔ばかりが頭の中を駆けめぐった


悩んだ末に
最後に彼女に手紙を書いた

名古屋に来てくれてありがとう
学生時代からいろんな話をしてくれてありがとう
本当に楽しくて大切な思い出ばかりです
…僕はずっとずっとオコシのことが大好きでした…



最後の言葉に手が震えた

いまさら書いてどうするんだ
馬鹿な男だ…
分かっているけど
自分勝手だけど
いままでどうしても言えなかったこと
書けなかったことを書いた


もちろん彼女からの返事は無かった
彼女は4月の終わりに結婚するのだ
勝手な一方通行の手紙に
返事なんて書ける訳も無かった




やがて彼女は結婚して
手の届かない存在になってしまった

ダスティン・ホフマンになれなかった僕は
いまある環境の中で時間に流されるように生きていくしかなかった

オコシからはそれからも年賀状が毎年送られてきた

やがて男の子が生まれ
そして女の子が生まれ
年賀状の写真の子供達はだんだんと成長していった


そんな年賀状もいつしか途切れてしまった



僕もいろんな恋をして
やがて結婚した

昔の思い出は
古くなった映画のフィルムのように少しづつ記憶がかすれて消えつつある

それでも僕はいまでも時々オコシのことを思い出す

アルバムの中の彼女は
温かい微笑みで
僕に語りかける

時にやんわりと僕を叱ったり

励ましてくれる


そして僕はいまでも思っている

オコシに会えて本当に良かった


僕は一生君を忘れないよ


と。








(終わり)





自分一人で四国を回って仕事をするようになって
自由な気楽さはあったが

仕事がうまくいかなかった時や
宿で一人夕食を食べたりする時は
寂しくなったり落ち込むことが何度もあった

自分と同期で入社した営業の男のうち3人が系列の薬品会社に出向になっていた
そのうちの一人のHが四国と中国地方の担当になったと聞いて
時々連絡をとって同じ宿に泊まるようにしていた

お互いの仕事の悩みや
女のコの話をしたり
夜は美味いものを一緒に食べに行ったりした

それが自分にとっては救いでありストレス解消になっていた

ところが秋になると約束した宿にHが来ることが無くなった
不審に思って11月のある夜
彼の自宅に電話してみた

だがHは不在で
しかも今月いっぱいで会社を退職することになったのだと彼の母親から聞いた

ショックだった…

それからしばらくしてからHから電話があった

「宿を一緒にしようと思ったんだけど、会うのが辛かった」

彼が仕事で悩んでいて転職したいという気持ちは何度も聞いていたので
いつかはこんな日がくるのは覚悟していた

だが僕も仕事でかなり悩んでいた
一人で落ち込んでいた時にHが来てくれたのだ

松山、宇和島、高知…
月のうちに2日ぐらいだったけど
彼と会って愚痴を言い合う時
僕は幸せだった
同じような悩みを持った仲間がいる
一人の出張はツラいけど同じ境遇の同期がいる
だから乗り越えられる気がした

だが彼の悩みは僕よりもきっと深かったのだろう


川之江のビジネスホテルに泊まった夜
一人で夕食を食べて
海岸の近くに車を止めて
僕は一人で泣いた

二人で泊まって楽しかったことを思い出して泣いた
Hの今までの苦しみを思って泣いた
自分のこれからを考えて泣いた
悲しくて、苦しくて、
泣いた


泣くのは嫌だ
涙を流すのは嫌だ
自分がどんどん弱くなっていくような気がする


そんなことがあった少し後に
またオコシに会った
僕の営業車にオコシを乗せて日本料理の店に行ってすき焼きを食べた
すき焼きを作る時に
目の前に二つの調味料があった
一つが醤油
もう一つがソース

オコシがこれが醤油だというのを信じて牛肉にソースをかけてしまった
でも二人で笑いながらソースのすき焼きを食べた
やっぱりあまり美味しくなかった

その時にオコシから彼氏が出来たという話を聞かされた
まだ大学に通っている学生だという

聞いた瞬間に
周りの景色が凍りついたような気がした

血の気がひいて
頭の中が真っ白になった

またか…
お前はいったい今まで何をやっていたんだ
いくらでも告白するチャンスはあったのに
怖くて本当の気持ちが伝えられなくて
結局このざまだ…


もう
この場から逃げ出したいと思った
オコシの顔がまともに見れなくなってしまった


「そろそろ帰る?」
と聞くと

「まだいいよ。9時ぐらいまでは」

僕はちょっとヤケクソ気味に
「今からドライブしようか?」
と言った

「うん、いこう」
と彼女が言うので

「じゃあ、海に行こうか」

「うん、いく」

それで真っ暗な夜道を走らせて
彼女の案内に従って海の堤防を走った

堤防の道幅は狭くて
なんか嫌だなぁ
と思っていたら対向車が来た
お互いにギリギリまで避けてすれ違ったのだが
その時片側のタイヤが堤防のコンクリートを擦りながら通過したのでオコシがビビってしまって
海に降りる道を忘れてしまって
結局海を見にいくのは断念した


なんて冴えない日なんだろう
もう帰るしかない

でもオコシは

「喫茶店でも行く?」
と言って逆に打ち解けてきた感じで
僕は複雑な気持ちになった
結局なんだかんだと話をしながら彼女を送っていった

その日宿に帰ると
僕はやりきれない気持ちで床についた

まるでフーテンの寅さんだな
一人で浮かれていい気になって
気がつかないうちに彼女にはいい人ができて…

自分もかっこ悪過ぎて
いっそ何もかも捨てて旅にでも出たい気分だった


「思い起こせば、恥ずかしきことの数々…いまはただ反省の日々を過ごしております」

いつかこの日を振り返って
寅さんのように
こんな風に思うんだろうな



それから半年ほど過ぎて
僕は転職することにした

失恋の痛み
という訳ではなかったのだが
この仕事に挫折してしまったのだ
その間に2回ぐらいオコシに会った

自分の中ではもう失恋しているのに
友達としてまだ繋がっていたかったのだろう
情けない話だ


退職を決めた夜に
オコシに電話した
初めは驚いていたが自分の気持ちを分かってくれた

「もう一度会いたかった。また四国に来ることがあったら知らせてね」
と言ってくれた



退職に関しては
急に辞めたいと決めた為に会社の上司や先輩には迷惑をかけてしまった
いま思えば義理を欠いた行動で自分を温かく見守ってくれた人達をガッカリさせるような辞め方になってしまった

だからいまでもこの時のことを思い出すと胸が痛む


さよなら四国

さよなら大坂

さよならオコシ



僕の大きな挫折だった。