自分一人で四国を回って仕事をするようになって
自由な気楽さはあったが
仕事がうまくいかなかった時や
宿で一人夕食を食べたりする時は
寂しくなったり落ち込むことが何度もあった
自分と同期で入社した営業の男のうち3人が系列の薬品会社に出向になっていた
そのうちの一人のHが四国と中国地方の担当になったと聞いて
時々連絡をとって同じ宿に泊まるようにしていた
お互いの仕事の悩みや
女のコの話をしたり
夜は美味いものを一緒に食べに行ったりした
それが自分にとっては救いでありストレス解消になっていた
ところが秋になると約束した宿にHが来ることが無くなった
不審に思って11月のある夜
彼の自宅に電話してみた
だがHは不在で
しかも今月いっぱいで会社を退職することになったのだと彼の母親から聞いた
ショックだった…
それからしばらくしてからHから電話があった
「宿を一緒にしようと思ったんだけど、会うのが辛かった」
彼が仕事で悩んでいて転職したいという気持ちは何度も聞いていたので
いつかはこんな日がくるのは覚悟していた
だが僕も仕事でかなり悩んでいた
一人で落ち込んでいた時にHが来てくれたのだ
松山、宇和島、高知…
月のうちに2日ぐらいだったけど
彼と会って愚痴を言い合う時
僕は幸せだった
同じような悩みを持った仲間がいる
一人の出張はツラいけど同じ境遇の同期がいる
だから乗り越えられる気がした
だが彼の悩みは僕よりもきっと深かったのだろう
川之江のビジネスホテルに泊まった夜
一人で夕食を食べて
海岸の近くに車を止めて
僕は一人で泣いた
二人で泊まって楽しかったことを思い出して泣いた
Hの今までの苦しみを思って泣いた
自分のこれからを考えて泣いた
悲しくて、苦しくて、
泣いた
泣くのは嫌だ
涙を流すのは嫌だ
自分がどんどん弱くなっていくような気がする
そんなことがあった少し後に
またオコシに会った
僕の営業車にオコシを乗せて日本料理の店に行ってすき焼きを食べた
すき焼きを作る時に
目の前に二つの調味料があった
一つが醤油
もう一つがソース
オコシがこれが醤油だというのを信じて牛肉にソースをかけてしまった
でも二人で笑いながらソースのすき焼きを食べた
やっぱりあまり美味しくなかった
その時にオコシから彼氏が出来たという話を聞かされた
まだ大学に通っている学生だという
聞いた瞬間に
周りの景色が凍りついたような気がした
血の気がひいて
頭の中が真っ白になった
またか…
お前はいったい今まで何をやっていたんだ
いくらでも告白するチャンスはあったのに
怖くて本当の気持ちが伝えられなくて
結局このざまだ…
もう
この場から逃げ出したいと思った
オコシの顔がまともに見れなくなってしまった
「そろそろ帰る?」
と聞くと
「まだいいよ。9時ぐらいまでは」
僕はちょっとヤケクソ気味に
「今からドライブしようか?」
と言った
「うん、いこう」
と彼女が言うので
「じゃあ、海に行こうか」
「うん、いく」
それで真っ暗な夜道を走らせて
彼女の案内に従って海の堤防を走った
堤防の道幅は狭くて
なんか嫌だなぁ
と思っていたら対向車が来た
お互いにギリギリまで避けてすれ違ったのだが
その時片側のタイヤが堤防のコンクリートを擦りながら通過したのでオコシがビビってしまって
海に降りる道を忘れてしまって
結局海を見にいくのは断念した
なんて冴えない日なんだろう
もう帰るしかない
でもオコシは
「喫茶店でも行く?」
と言って逆に打ち解けてきた感じで
僕は複雑な気持ちになった
結局なんだかんだと話をしながら彼女を送っていった
その日宿に帰ると
僕はやりきれない気持ちで床についた
まるでフーテンの寅さんだな
一人で浮かれていい気になって
気がつかないうちに彼女にはいい人ができて…
自分もかっこ悪過ぎて
いっそ何もかも捨てて旅にでも出たい気分だった
「思い起こせば、恥ずかしきことの数々…いまはただ反省の日々を過ごしております」
いつかこの日を振り返って
寅さんのように
こんな風に思うんだろうな
それから半年ほど過ぎて
僕は転職することにした
失恋の痛み
という訳ではなかったのだが
この仕事に挫折してしまったのだ
その間に2回ぐらいオコシに会った
自分の中ではもう失恋しているのに
友達としてまだ繋がっていたかったのだろう
情けない話だ
退職を決めた夜に
オコシに電話した
初めは驚いていたが自分の気持ちを分かってくれた
「もう一度会いたかった。また四国に来ることがあったら知らせてね」
と言ってくれた
退職に関しては
急に辞めたいと決めた為に会社の上司や先輩には迷惑をかけてしまった
いま思えば義理を欠いた行動で自分を温かく見守ってくれた人達をガッカリさせるような辞め方になってしまった
だからいまでもこの時のことを思い出すと胸が痛む
さよなら四国
さよなら大坂
さよならオコシ
僕の大きな挫折だった。