僕は結局1年ちょっとで大阪営業所を退職し地元に帰ってきた
そのわずか1年の間にいろんな人との出会いやたくさんの思い出があるのだが
それを書いていくと更に長い日記になってしまうので割愛する
とにかく僕は家の近くの食品会社に再就職した
今度は現場仕事だった
そこの工場はとても忙しくて二交代の勤務で朝の6時から夜の6時までの早番と夜の6時から朝の6時まで働く遅番勤務があった
故郷に帰った気楽さはあったが
くたくたになって家に帰るという毎日だった
でも学生時代の友人とはよく遊べるようになり
それなりに楽しい毎日だった
1年、2年と経過していき
オコシとは疎遠になったが時々手紙を書いた
彼女もしばらくすると返事を送ってくれた
たいがいは仕事の悩みや近況報告といった内容だった
保母さんという仕事の悩みや喜びがいつも綴られていた
それにセツルでの思い出話もあった
その後、保母を辞めて違う仕事に就くことになったこととか
時には付き合っている彼に対する不安な気持ちが書かれていることもあった
大阪の仕事を辞めてから3年ほど経った頃
結婚が決まりました
という手紙が来た
彼の就職が決まって結婚できるめどがついたのだそうだ
「今は、結婚の準備というか、慌ただしい毎日です。特別、何をするというわけでもないけど、落ちつきません。このあいだウェディングドレスを着たりしたのだけど、何か照れくさくて一人ではしゃいでいます。今も荷物だらけの部屋で(片づけている中で)手紙を書いています。あれもこれもダンボールに詰め込んで分けています。「紙ふうせん」のコンサートに行ったこと、覚えていますか?ナッツに録ってもらったカセットテープも大事に持っていきます。あの時の紙ふうせんの歌声、すてきだったですね…楽しかったし…そんな事を思っているから、なかなかはかどらなくて…いっぱい散らかってます。思えばいろいろな人にお世話になって、教えられて、今があるんだなと感じます。ナッツ君ともいろいろな話をしたし、お世話になりましたね…。本当にありがとう…」
オコシの結婚式の2ヶ月ほど前にヌルヌルの結婚式が愛知県であった
そこに僕とライアンとカススケとタマとオコシが友人として招待された
普通だったらなかなか来ないものだが
オコシもわざわざ来てくれた
当日僕とライアンは彼女を迎えに車で名古屋駅ま
で行った
また彼女に会えるなんて
なんだか不思議な縁があったのかもしれない
恥ずかしそうな笑顔でオコシは現れた
上品な赤いワンピースの彼女は少し痩せてとてもきれいになっていた
美しくなった彼女を見て僕は心の中でいいようのないため息をついていた
いったいお前はいままで何をしていたのだ…
ヌルヌルの結婚式までの時間に近くの神社に行った
ライアンが気をつかって僕とオコシの二人だけの写真を撮ってくれた
「あんた、これが最後のオコシとの思い出やで」
僕はいつか彼女の下宿で撮った二人の写真のことを思い出した
あの時はこんな日が来るなんて夢にも思わなかったなぁ…
もう本当に最後のツーショットだった
ヌルヌルの結婚式では僕とオコシとライアンは同じテーブルだった
時間が止まって欲しいと思った
結婚式が終わり
僕はまたオコシを車で名古屋駅まで送って行った
日帰りの強行軍で彼女は帰って行った
笑顔で手を振りながら
それがオコシに会った最後になった…
しばらくして彼女から手紙が来た
「いろいろ本当にお世話になり、ありがとうございました。思いきって行ってよかったな~と思います。会って少しの時間だったけどセツルをやっていたあの頃に戻ったようでした。(中略)
ナッツもこれから社会の中でいろいろあると思いますが、自分を大切にして頑張ってください。名古屋駅に向かう車の中でナッツが言った事…『セツラーにはしあわせになってほしい…』そんな言葉が心に残ります。私もそう思います。もちろんナッツに対してもそうであって欲しいと思います。」
あぁ
本当にこれでもう終わりなんだ
もうどうしようもないんだ
彼女の手紙を読みながら後悔ばかりが頭の中を駆けめぐった
悩んだ末に
最後に彼女に手紙を書いた
名古屋に来てくれてありがとう
学生時代からいろんな話をしてくれてありがとう
本当に楽しくて大切な思い出ばかりです
…僕はずっとずっとオコシのことが大好きでした…
最後の言葉に手が震えた
いまさら書いてどうするんだ
馬鹿な男だ…
分かっているけど
自分勝手だけど
いままでどうしても言えなかったこと
書けなかったことを書いた
もちろん彼女からの返事は無かった
彼女は4月の終わりに結婚するのだ
勝手な一方通行の手紙に
返事なんて書ける訳も無かった
やがて彼女は結婚して
手の届かない存在になってしまった
ダスティン・ホフマンになれなかった僕は
いまある環境の中で時間に流されるように生きていくしかなかった
オコシからはそれからも年賀状が毎年送られてきた
やがて男の子が生まれ
そして女の子が生まれ
年賀状の写真の子供達はだんだんと成長していった
そんな年賀状もいつしか途切れてしまった
僕もいろんな恋をして
やがて結婚した
昔の思い出は
古くなった映画のフィルムのように少しづつ記憶がかすれて消えつつある
それでも僕はいまでも時々オコシのことを思い出す
アルバムの中の彼女は
温かい微笑みで
僕に語りかける
時にやんわりと僕を叱ったり
励ましてくれる
そして僕はいまでも思っている
オコシに会えて本当に良かった
僕は一生君を忘れないよ
と。
(終わり)