MX-1000用のサブウーファーのブロック、
=UltimateMicroSubのディテールを練り直しています。
オリジナルのUltimateMicroSubは7Litterきっかりのウルトラ小容量でしたが、今回のは練り直しをして、8.5Lと、ほんのちょっぴりだけボリュームUPしています。
これによって周波数レスポンスはほとんど変わらないんだけれども、能率UPと耐入力UPを狙っています。
今回は、前回設計と違って、VituixCAD内にあるToolのEnclosureを使って計算をしました。
Ultimate Micro Subは俗に6th Order Bandpass と呼ばれるエンクロージャー形式です。
これはVituixCADの中でいうとBand pass type 3 という設定になります。
すなわち、6次の系をもち、6次の肩特性を持つバンドパスボックスということですね。
ドライバー+ポート+ポート、各々が2次の系を持つから全部で6次の系ということです。
長岡翁言うところのダブルバスレフや、DRWといったシステムも全てはこの6次系になります。
再チューニングした結果です。
まず周波数音圧特性。
スッゴイですよね。
3インチ=8cmのウーファーで、f3が19.2Hz...ですよ。考えられますか?
しかも箱の大きさはたかが7リッター~8.5リッター。
子どものランドセルくらいの外形サイズです。
スピーカーを設計・自作に精通した方ならば、これがいかに異常事態か理解頂けるかと。
これがタダの机上論で終われば良かったのですが、過去のUltimate Micro Subの実測値でもf3は18Hzでした。
能率は鬼低く、74.5dB/2.83V です。
もともとドライバの中低域能力が78dB程度しかないので、それがバンドパス化でさらに低くなった形です。
じゃあ十分な音量を稼ぐためには100Wくらいの半導体アンプが必要なんでしょ?
...ご安心ください。それがね、10Wもあれば十分なのです。
なぜって、ぜんぜん耐入力が無いからです。
このサブウーファーは3W前後叩き込むと悲鳴を上げます。
より正確に記述すると、ナローレンジなロックやポップスなら5W程度までいけるが、一部の凶悪なソースでは0.5Wで破綻します。
インピーダンス特性です。
ポート1、2ともに効率よく動作している様子がわかります。
530Hzで3.6Ω切ってるのは気になりますよね。
2.83V印加時のパワーコンサンプションです。
低域よりも500Hz付近のパワー消費が大きいのが気になりますよね。この帯域、ほとんど再生音は出てないのにね。
なので、3~4mHくらいの鉄心インダクタを入れちゃおうかなと思っています。再生帯域には影響ないけど、520Hzのインピーダンスはかなり上昇するから、パワー消費を抑えてアンプに優しいスピーカーになります。
Excursion(変位量)です。
サブウーファーで最も注視して見ておかねならないのが、この変位量。
このドライバーはXmax=±7mmもの変位量を持つ変態ドライバーですが、ご覧のとおりわずか1Wで、10Hzでは破綻しています。20Hzでは全然大丈夫。したがって、10Hzでも十分な振幅を持つ一部の変態ソースでは、1Wの小音量でも破綻するわけです。通常のソースなら、5Wまでは平気ですが、ワイドレンジなHi-Fiソースになると・・・もって3W。
能率が極めて低いため、小音量でも破綻します。
過去のリポートをご一読ください。
群遅延です。
6thオーダーですからね。まあ、ヒドいもんですね(笑
20Hzで38.1msは、常温で9メートルくらいの遅延です。
過去にさんざんバスレフや6thの遅延を馬鹿にした記事がありますので、ご一読ください。馬鹿にしつつも自分でもこのように沢山作っているのです。たしかに不自然な低域にはなりますが、もの凄い超低音が出ますよ。
ベロシティです。
ポートを通過する低音の音速ですね。
ここの速度が上がれば上がるほど、ポート境界でのノイズが出やすくなり、反射回折による歪も出やすくなります。この速度上昇を防ぐには、ポート開口直径を大きくすれば回避できます。ポート開口は大きくても小さくても特性にほとんど差が出ず、ほとんどこのベロシティへの影響といえるので、ポートノイズや反射の影響を避けたいがために、ポートを太くしているというのが各ベンダーの実情です。
でもね、MicroSubは仕方がないんですよ。8.5Lの小容量でポート直径を増やすと、ポートレングスが何mにも長大になり、オマケにバンドパスなんだか共鳴管スピーカーなんだか分からない構造になってしまいます。
今のポートサイズは現実的だなと思っています。
VituixCADで、箱の基礎設計はできました。
それを基に、こんどは箱の実寸法の設計をしていきます。
私の場合は上図のような感じでスプレッドシートの自動計算を使いながら、各部分の寸法をトライ&エラーで詰めてゆきます。
寸法が決まったら、今度はそれをCADに落として、デザインや板取りにフィードバックしてゆきます。
こんな風に改善ループのプロセスを繰り返すわけです。
設計のブラッシュアップで高さは以前より40cm低くなり、少し見た目の安定感が出てきました。
逆に、アコースティックセンターが低くなったので、違う椅子を用意しないと聴けない可能性も出てきました。
マトリックススピーカーは遠くで聴くよりニアフィールドリスニング(例えば1.5m前後)で聴く方が良い音がする/面白い体験ができる、と思っています。なので、サブウーファーはまるでパワーが入らないのですが、近接で聴くことである程度その弱点が表面化しないと考えました。
以上、
このUltimate Micro Subは、ほんの数リッターという小箱でありながら、18Hz-19Hzがマトモに再生できてしまうという、音圧だけなら世界的にも類例を見ないオニ特性を誇っていますが:
その代り、以下のような大きなトレードオフが沢山あるんです。
- 能率が決定的に低い
- なのにパワーがまるっきり入らない
- よって、大音量での超低域再生はできない
- 低域端の群遅延時間が大きく自然界の低域とはかけ離れている
- ちょっとヤバめのソースを掛けるとすぐパルパルとノイズが出る
こんなに色々と制約あるなら、サブウーファーなんて要らないじゃないかと。
でもそこは私の業ですね。
このブログを少しだけ長くお読みの方にはもうバレバレですが、私は極度のサブソニック(超低域)フェチです。20Hzの出ないスピーカーなんてスピーカーじゃないとさえ思っています。少々下品だろうがえげつなかろうが、出ないよりは20Hzを垂れ流したいと思っている。
単純に20Hzを出して高品位な音を聴きたいだけなら、手持ちのXbass(振幅・群遅延特性は最高です)と新作マトリクススピーカーを、DSPでクロスオーバーで繋いで聞けば、おそらくもっと品位の高い音が聴けます。でも、それじゃあ詰まらないんだな。
制約まみれのなかで、本来なら実現不可能なことを可能にしていくことにこそヒトは燃えるわけです。
- 小さな一箱でステレオ感なんて出るわけが無いじゃないか。
- こんな小さな箱で20Hzが再生できるわけないでしょ。
- インダクタレスで中高域のフィルタリングができるわけがないでしょ。
- パッシヴで綺麗なクロスオーバーが繋がるわけが無いじゃないか。
特殊環境の人だけが使えるものではなくて、誰でも使えて/再現可能で/制約されたサイズやコスト条件のなかで不可能を可能にしてこそ、本物の技術な気がする。だからそこにチャレンジしたくなってしまう業が発動するわけですね。(・・・って、すっかり作ること前提の話になっちゃってますけど、本当に作るかどうかは五分五分です)