KENWOOD LS-11ESを骨までしゃぶるシリーズ~
本日はドキドキ初体験のサラウンド軟化処理を中心に、メンテから始めてみたいと思います。
採寸メモ
いきなり脱線ですが、
当ブログは当初ヒトに読ませる気などさらさらなく、Andromeda制作開始の際に、メモ代わりと備忘録代わりを主目的にはじめたものになります。だって本当に忘れちゃうんだもん(愚)そのことは実は今もそんな変わりません。このため読み手を一切無視した記述が続いたりします。
エンクロージャー内容積=
WHD = 0.000001 * [(199*374*199)+(165*340*15)-600000-(57*57*3.1415*80)]
=約 14.2 litters
次・・・
背面パネル代替寸法:
WxH = 107.4 * 83.4 (笑)
実測板厚、バッフルが20mm。天地左右背が15mm...。
だんだん鉄ちゃんみたいになってきた(笑)
外観上の瑕疵がここ。
おそらく一番大きなキズがこれ。
その他、ごく軽微な表面こすれ跡はあり。
サラウンドの軟化処理に初挑戦
すべてのバラシ・分解処理が完了しました。
これから自身初の/ちまたで噂の/サラウンド軟化処理にチャレンジしたいと思います。
私は布製のサラウンドが嫌いです。理由は音が良くないからです。
布製のサラウンドは派手に音を輻射します。面積の大きなソフトドームのようなものです。しかもその輻射は反射波で長く尾も引きます。それを強引に制動しようと、ねっとりべったり、粘弾制動剤を塗布したサラウンドが沢山ありました。それで特性は改善されるのでしょうが、でもその制動剤は経年劣化でカッチカチに固まるのですよね(ドフでよく見ます)。そうなってしまうと除去も難しいです。で、ダンプ剤の量が少ない布でもやはり10年あたりを過ぎると硬化してしまうのです。
エッジ逆共振のないサラウンドなんて存在しないです。だからそれは良い。だけれども尾を引くのは困る。一番物理性能が良いのは一般的なウレタン製のサラウンドで素早く収斂します。しかしウレタンは経年劣化が早すぎる。へたすると8年ほどで崩落してしまう。布は音が良くない。結局、消去法で個人的にはバランスのよいラバーサラウンドが一番好き・・・となります。
布製サラウンドが硬化すると、FsやQtsが上昇します。そうすると、低音が出なくなって腰高な音になるのはもちろんのこと、中高域でも派手に輻射して音を荒らします。
同じ理由で、ソフトドームもあんまり好きではありません。最初はいいんだけれど、やっぱり10年以上経過するとダンプ剤を塗ったダイアフラムそのものが硬化して、初期の性能が出なくなるからです。以前バラしたS-X3IIやS-UK5のドームトゥイーターもカチカチで、もはや「ソフトドーム」では有りませんでした。
そんなこんなで、古くなったスピーカーの布製サラウンドを定期的に軟化処理して本来の性能に戻すというメンテナンステクニックが一般化したわけですね。ネットで一番有名なのはブレーキフルードを使ったメンテでしょうか。
本稿の実施にあたっては、あまたのブログの先達を参考にしております、いつもありがとうございます。。。
平の絵筆がエエらしいよ~(御堂筋くん風に) ...と聞いたので、買ってきました、CanDoで。
ただ、CanDoで買ったせいか、絵筆の穂先は接着剤で固着しておりなかなかほぐれず酷いものでした(ごめんねCanDo)。
強引に解して使いました。
バインダー材/ダンプ剤としては、先達のご意見どおりコニシのボンドG17を使います。
手元に在庫もあるのですが、弾性がフレッシュなものが欲しかったので「新品」をCanDoで買ってきました。
溶剤としてはラッカー薄め液を購入しました。
ペイント薄め液はダメだそうです。トルエンは入手困難な上に弊害がある。ということでコレ一択です。
さぁ、屋外で作業です。
サラウンド軟化処理の前に、まずはミッドレンジの金網外しから着手します。
G17を混合する前のラッカー薄め液で作業できるということと、ゴムボンドが溶解するのに時間が掛かるからです。
メタルネットの外周。ひたひたになるまで。しかし、その内側のダイアフラムサラウンドには薬剤が掛からないように。飛び散らないように。慎重に絵筆で塗りました。・・・といっても写真では判らないですね。
次に、ウーファーサラウンドの軟化処理を実施します。
ムダだったような気もしますが... ダイアフラムに溶剤が掛からないように、マステで軽く養生してあります。
ラッカー薄め液にG17を加えます。ほんのわずか。
計量はせずに色だけで判断します。ほんの僅かに黄色味の液体になるまで。
元の弾性剤を完全に除去できるわけでなく、軟化して弾性剤を加えるだけだから、薄めの方が良いのです。多すぎると乾燥後に硬化します。
塗り終わりました。
けっこう沢山。しかしサラウンド接着面には及ばないよう。
これで数時間、放置します。
放置していたミッドレンジはどうなったでしょうか。。。
あっ、これは凄い。軽い力でラクにネットが外れますね。大成功です。
いや。。。凄いホコリ(笑)
こりゃ外さないと清掃できないですよ。外してよかったかな。
ウーファーも方も、施術前よりサラウンドの艶が増したような。
そして、数時間後に触ってみると、確実に軟化されています。
ただですね。。。 サラウンドが軟化できても、やはりスティッフは硬めなのです。スパイダーが硬いんだろうな。
想像していたとおりです。このドライバーは元から支持系が硬めで、Qが高いんです。おそらく狙ってそうしています。
私はこういう想像をしています。
・FsやQは高めなんでないの?
・振動系はかなり軽いんでないの?
・それで能率が高いんでないの?
じゃ、実際に軟化後のウーファーのT/Sパラメーターを測ってみましょうか。
ここで気づきます。
サラウンド軟化処理前のT/S測り忘れた~ (涙)
これじゃBefore / Afterわからないから効果測定にならないじゃん。
ドライバーのT/Sパラメータを測っておく
では、DATS V3を使って、軟化処理の終わったウーファーのT/Sを測っておきましょう。
DATSとは?? このようなものです。
なんなんコレ? ただのケーブル?
こんなモン買わなくたって、T/Sは測れるのですよ。
オーディオI/F, ケーブルスイッチBox、基準抵抗、計測ソフトウェア
を準備できれば。実際、それらも作ったし使っていました。
でもね、DATSはラク過ぎるんです。ドライバーに繋いでぽんとボタンを叩くだけで、一発でT/Sの計測が終わってしまうのです。メチャクチャ楽。これを使った後では他のソリューションは使う気がしなくなります。
この小さな装置の中には、簡素なA/D D/Aが入っているのと自動スイッチャーが入っているから配線の繋ぎ直しが必要ない。
だからT/S計測の厄介なシーケンスを全自動にできているんです。オススメです。
T/Sを計測する際には出来るだけドライバーを宙吊りにする必要があります。(周囲からの音響輻射を無くすということね)
といっても限界があるので、ガラス瓶の上に浮かせて誤魔化します。
これで殆んど測れてしまうのですが、Vasだけは繋いだだけじゃ測れないです。
いくつかの測定技法があるのですが今回はAdd Massを使いました。ただ、ドライバーを痛めてもいいような/繊細ではないドライバーでしかAdd Massは使えません。セラミックやアルミナダイアフラムではもってのほか。
Vasの計算はどの手法も簡単で、二点間の計測結果差分からの逆算で「こうなのでは?」とVasを推定するものです。
・容量法:基準箱を準備します
容積 1-2 間での Fs、Qtsの違い → Vasを推定する
・音圧法:基準音圧を変えます
音圧 1-2 間での Fs、Qtsの違い → Vasを推定する
・質量加算法:追加質量を準備します
質量 1-2 間での Fs、Qtsの違い → Vasを推定する
正確な測りで、錘の質量を測っておきます。
ウーファーに質量加算します。
この状態でDATSに加算質量を入力してから、「Vasを算出」を実行します。
得られた結果を見ていきましょう。
青がRch、緑がLch。もちろん、どちらが右でどちらが左かなんて、もはや判別できません(笑)
想定どおりでした。
…というか、想像を上回るほど極端なウーファーです。
19cmウーファーとしてFsが高い。Qが高い。そして、振動系の質量が極端に軽い。これはまるでオールドファッション・フルレンジです。
◆Fs = 86Hz / 76Hz。
ウーファーとしては高すぎだろ~ 特に19cmウーファーとして。これは異例に高いです。低音を諦めてる。
◆Qts = 0.64 / 0.58 Hz
Qが高すぎだろ~ 現代スピーカーじゃないみたいだ。さながら、Upsilonの古代フルレンジと同じような設計思想です。
◆Mms = 13.4g / 12.9g
か、軽い・・・。まるでフルレンジだ。19cmのドライバでこれは異例です。もはやウーファーではない。フルレンジだ。
もしかして、私が褒めていた「中域の良さ」は(クロスが1kHzと高めのこともあって)ミッドではなくウーファーの音質を褒めていたのかも知れません??
それと、LchとRchのバラツキの激しさです。これもはや現代スピーカーじゃないよな。中世のドライバーのように激しくばらついてます。これだとキャビネット設計とか激しく困ると思う。でも、まさにこの極端設計がLS-11ESの「オモシロさ」の本質なのかも知れないですね?
ミッドとトゥイーターも特性測っておこう
せっかくDATSを立ち上げたので、ミッドとトゥイーターのインピーダンスも測っておきます。パッシヴクロスオーバーの再設計には必要となる情報です。(アクティブクロスオーバーには不要)
まずミッド。
そぉかあ~。 なるほどFsが381Hzか。裸でこれですから、バックキャビティで覆うとさらにほんの少し上昇してしまいます。であれば、クロス1kHzも納得ですね。これだけ派手なインピーダンス上昇があって、かつインピーダンス補正はなし。だとすると、1kHzより下へ落としてくるのはかなり厳しいです。DSPでフィルタ峻度を欲張ればもっと落とせるし、パッシヴでもお金をかければクロス周波数落とせるけど、そんなに簡単ではないです。ソフトドームでもFsが250Hzのモノはあるから、もう少しFs低く抑えて欲しかったな~。でも、Fsを落とすと(本機の美点である)中域の能率も下がっちゃうんですよね。6万円の大型機ミッドとの差分は、まさにその辺りかな。
こちらはトゥイーター。
そうかぁ~。 Fsは1728Hzか。。。。売っている単売トゥイーターとはかなり違います。これはやはり、スーパートゥイーター向け。5kHz未満の再生には向きません。
これだけ先鋭な1.7kHzのFsを潰さずクロスするというのがスピーカーフェチ的にはやや気持ち悪さがあります。ソレを鑑みるとクロスオーバーをできるだけ高く取りたいというのは妥当な設計思想です。ここに限らず見ればみるほど色々な所の手抜き/妥協/甘受が見えてくるスピーカーとなっています。でもコストなりでそれは当然の判断とも思います。
市販スピーカーを徹底的に屠るのは本当に楽しい。ポテンシャルを感じれば、改造する楽しみも生まれます。少しですが、学びもあります。