カルロス・カスタネダ 呪術師シリーズ重要部分 その1
〇「誰もがお前の感ずることを言うことはできん。熱でも、光でも、色でもないんだ、もっと別なものなんだからな」
「説明できないのかい?」
「できんな。出来ることと言えば、テクニックを教えてやることだけだよ。目に見える像を別々にして、物を2つに見ることを学んだら、次は2つの像の間の部分に注意を集中させなければいかん。その部分ではだな、目を見張るような変化が起こるだろうよ。」
〇「夢の使い方を学ぶ時のコツというのは、ただものを見るだけじゃなくて、その光景を維持させるってことだ。あらゆるものの焦点を合わせるのに成功した時、夢は現実になる。そうすれば、眠っているときにすることと、眠っていないときにすることには違いがなくなるわけだ。わかるか?」
〇「まず、出発点として自分の両手を見つめる。それから別のものに目を移してチラッとそれを見る。出来るだけたくさんのものに目を向けるんだぞ。ちょっとしか見なければ像は動かんてことを覚えておけ。それから両手に戻るんだ。際限なくいろいろなモノを見つめられるようになったら、新しいテクニックへの準備も大丈夫ってことだ。これから、その新しいテクニックを教えるが、準備万端にしてから使うんだぞ」
彼は15分ほど黙っていた。そして起き上がって背筋を伸ばし、私を見た。
「夢を使い次の段階は旅をすることを学ぶんだ。手を見るのを学んだのと同じようにすれば、自分自身に動いてどこかへ行くように命ずることができるんだ。まず行きたいところを決めにゃならん。良く知っているところがいい。学校とか公園とか、友達の家とかだ。そして、そこへ行けと自分に命令するんだ。このテクニックはかなり難しいぞ。それには2つの事をせにゃならん。まず、自分に特定の場所へ行くように命ずること。それからこのテクニックをマスターしたら、その旅の正確な時間をコントロール出来るようにならねばならん」
〇私は彼の指示に従い1時間以上も書き続けていた。書くことに夢中になってしまったのだ。突然腕が疲れているのに気づき、ドンファンの目と頭が200メートルほど向こうの山の頂上から降りてくる層雲を指しているのがわかった。ドンファンがそれほど近くにいるのにやっと聞こえる程度の声で、私の耳元で囁いた。
「あの霧の塊に沿って目を前後に動かすんだ」
彼が言った。
「だが、直接見るんじゃないぞ。瞬きをするだけで焦点を霧に合わせちゃいかん。あの霧の塊に緑色の点が見えたら、目でわしに示すんだ」
私はゆっくりと私たちの方へ降りてくる霧の塊に沿って目を左から右に動かした。おそらく30分ぐらいが過ぎただろう。暗くなりつつあった。霧の動きは極端に遅かった。ある時、急に右の方にかすかな光が見えたような感じがした。最初は霧を通して緑色の藪が見えるだろうと思っていた。直接それを見ると何にも気付かないが、目の焦点を合わせずに見ると、ぼんやりと緑色の部分がわかるのだった。ドンファンにそれを示した。すると、彼は目を細めてそれを見つめた。
「そこに焦点を合わせてみろ」
彼が耳元でこうささやいた。
「見えるまで瞬きせずに見るんだ」
私は、何を見るはずなのか聞きたかったが、彼が話してはいけないということを思い出させるような目で睨みつけた。私はもう一度目を見張った。上の方からやってくる霧の塊はまるで個体のように宙づりになっていた。それは、私が緑の色合いに気付いた部分の真上に並んでいた。目が疲れてきたので細目にしてみると、最初に細い霧が見えた。それから、私の頭上の上を前にある霧の塊をつなぐ橋のような支えのない細い霧が見えた。ちょっとの間、山の頂上から吹き下ろされ、橋を壊さずにそれに沿って進む透明な霧が見えたように思った。その橋が実際に個体であるかのような光景だった。あるとき、その蜃気楼が、その橋より下の暗い部分と明るい砂岩の色とを実際に区別できるほどまでに完璧になった。
〇「でも集合点を動かすのはとても難しいから、それができたら本当に素晴らしいことだってあんたは僕に言ったじゃないか」私は抗議した。
「確かにな」彼は認めた。
「これがもう一つの呪術師の矛盾なんだ。難しいが、世界で一番単純なことなんだよ。これはもう話したことだが、高熱は集合点を動かすことができる。飢えや怖れれや愛や憎しみもそうだし、神秘主義もな。それに不屈の意思。こいつは呪術師の好む方法だ」
〇古代の呪術師が唱え、ドンファンが丁寧に説明してくれたもう一つの記念すべき進展は、睡眠中の集合点はごく簡単に移動するようになるのを発見したことだった。これを理解するとそれがまた別の発見のきっかけになった。すなわち、夢はすべて移動と結びついていたのだ。古代の呪術師たちは、移動が大きければ大きいほどより異常な夢を見ること、そしてその逆も成り立つという事を見た。ドンファンは、彼らはこの観察から集合点を移動させる優れた技術を考案したと言った。すなわち、別な意識状態を創り出す植物を摂取すること、空腹、疲労、ストレスの状態に身を置くこと、そしてとりわけ夢を操ることだ。このようにしてたぶんそれとは知らず、彼らは夢見を完成させたのだ。
〇折あるごとにドンファンは社会化の牢獄から夢見の注意力を解き放つのに必要とするエネルギーは、私たちに存在するエネルギーを移動することによって生じると指摘した。これ以上の真実はないだろう、夢見の注意力の発生は、生命力の改変によって直接生ずるものなのだ。ドンファンが言ったように私たちには、エネルギーを高めるための特別な供給源に接続する方法がないので、可能な限りの手段を使って現存するエネルギーを転換しなければならない。
ドンファンは、エネルギー移動の車輪に注油するは、呪術師の方法が最良のやり方だと主張した。そして、呪術師の方法の中で最も効果的なのは「自尊心をなくすこと」だといった。彼は呪術師が何を行うにしてもこれは不可欠であると信じていて、弟子を教えるにあたっても、この要求を満たすようにと強調していた。彼は、自尊心は呪術師の最大の敵であるだけでなく、人間の大敵でもあるという意見の持ち主だった。
私たちの得るエネルギーの大半は自尊心を保つために消費されている。というのがドンファンの論だった。それは、私たちが際限なく自分の体裁を気にすることを見れば明らかだ、褒められているかいないか、好かれているかいないか、認められているかいないか、とまったくきりがない。彼は、もし私たちがその自尊心をいくらかでも手放せれば驚くべきことが二つ起きる、と言った。
一つは自分が偉大であるという幻想を保っているエネルギーを解放することができる。もう一つは第二の注意力に入るために十分なエネルギーを供給することができ、宇宙の本物の偉大さを垣間見ることができるのだ。私は見たいものをすべてに確固とした夢見の注意口を集中できるようになるまでに、2年以上もかかった。そのうちに熟練してきて、生まれてからずっと続けてきたように感じたものだ。
何より不可解だったのは今までその能力がなかったということを自分で納得できなかった事だ。その可能性があると考えることでさえもどんなに難したった事か。夢に出てくるものを調べる能力は私たちに自然に備わっている能力、例えば歩くことと同じようなものであるに違いない、という思いが浮かんだ。私たちの肉体は唯一の方法、つまり二本足で歩くようにできているが、歩くことを身に着けるまでに大きな努力を要するのだ。
〇「完璧な夢見のためにまずしなければならないことは、頭の中で話すことをやめることだ」
あるときそれはこう言った
「それをやめるために一番いいのは指の間に2~3インチの水晶か、滑らかで薄い川原の小石をいくつか挟むことだ。指をちょっと曲げて水晶か小石を押すのだ」
使者はサイズと幅が指と同じなら金属の棒でも同じ効果があると言った、手順はそれぞれの手の指に少なくとも3つの物を挟み、痛みを感じるぐらいに強く握るのだ。その握力に内的会話をやめさせる奇妙な特性があるのだ。使者は水晶が一番望ましいと言っていた。他の物でも練習すれば効果はあるが、水晶が最も効果的だというのだ。
「完全な静寂の瞬間に眠りにつくと、夢見への完璧な入口が保障される」使者の声は言った。
「また夢見の注意力も高まる」
「夢見るものは金の指輪をするべきだ」別の時に使者は言った。
「ちょっときつめの方がいい」
使者の説明は金の指輪は夢見から日常の世界へ日常の意識から非有機的存在の領域への架け橋となるということだった。
「その橋にはどういう働きがあるんだ?」私は聞いた。何を言っているか理解できなかったのだ。
「指が指輪に触れていると橋がかかる」使者は言った。
「夢見るものが指輪をはめて我々の世界にやってくると指輪は我々の世界のエネルギーを集めて保存する。必要な時には、その指輪が夢見る者の指にエネルギーを放出することによって夢見る者をこの世界に運ぶ。指にはめた指輪の圧力も同様に夢見る者を彼に世界の戻すように作用する。絶えず指の上になじんだ感覚を与えるのだ。」
別の夢見の時使者は、私たちの皮膚は日常世界のエネルギー波のモードを非有機的存在のモードに変調したりあるいは逆にしたりするための完全な器官だといった。また、皮膚を冷やしておき、顔料や油をつけないようにと勧めた。さらに夢見る者は気ついてベルトやヘッドバンドやネックレスをして、エネルギーを変換する皮膚の中心として働くように圧力がかかる点を作ることも進めた。
肌は自動的にエネルギーを遮蔽する。そして、エネルギーを遮蔽するだけでなく、あるモードから別のモードに変換するようにさせるには、夢見の中でその意図を大声で表現すればいい。と使者は説明した。
ある日、使者の声は信じられないような贈り物を与えてくれた。夢見の注意力の鋭さと正確さを保つには口蓋の裏からそれを引き出さなければいけないと言った。そこには人間ならだれにでも注意力を貯める巨大な貯蔵庫があるのだと。使者が教えてくれた秘訣は、夢見の間に舌の先を口蓋に押し付けられるように練習せよと言うことだった。
使者が言うには、この課題は夢の中で両手を見るのと同じぐらい難しく骨の折れるものだということだった。だか、一度出来るようになると、夢見の注意力を制御するのに驚くような効果を発揮するらしい、私はあらゆることについて豊富な助言を受けた。だがその助言も繰り返し言われないと、すぐに忘れてしまう。ドンファンにこの忘れっぽいという問題を解決するにはどうしたらいいか助言を求めた。彼の意見は予想通り簡単なものだった。
「使者が夢見について言ったことだけに集中しろ」彼はこう言った。
