内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙@国立西洋美術館の続きです。
各章ごとに気に入ったおもしろ装飾のまとめ、その2です。
今回は、ミサ聖歌集、時祷書、暦、教会法令集にいたおもしろさんたちです。
▼前回
ミサのための写本
ミサで朗読されるテキストや聖歌を収めたもの。ミサ典礼書を中心に、朗読集やミサ聖歌集などがある。
聖務日課の合間に行われるミサは、キリストの犠牲と復活を再現し記念する礼拝。
中世のミサは聖職者たちのみで行い、一般信徒はその様子を漏れ聞いた
マッティオ・ディ・セルカンビオ《ミサ聖歌集零葉》の追随者にかつて帰属(彩飾)イタリア, カンブリア地方またはアブルッツォ地方ないしマルケ地方 c.1400-25?
イニシャルの中で聖フランチェスコ*1が持ち上げている幼子は、父なる神に捧げる自らの魂。下部余白の鳥ちゃん親子が可愛い。
ちょっとメソアメリカっぽい顔。他にもいくつかあった。
《ミサ聖歌集断片》フランス, トゥールーズ c.1510
*1:の第一日曜日のミサ冒頭で歌われる入祭唱を楽譜付きで記した一葉。その冒頭の歌詞「Ad te levavi(私の魂は)あなたを仰ぎ望み」のイニシャルAには通常ダビデが描かれるが、フランシスコ修道院に由来する本紙葉では、創始者の聖フランチェスコに置き換えられている。
時祷書
聖務日課書を一般信徒向けに簡略化したもの。
13世紀半ば頃に登場、フランスを中心に普及。15世紀までにフランス、ネーデルラントで人気爆発。最も多くの写本が作られた「中世のベストセラー」*2。
下部に変な人がいる。
《時祷書》イングランド, 1390-40
イニシャル内部に、盲目のロンギヌスが磔のキリストに槍を突き刺す場面が描かれており、この変な人もロンギヌスだそう。
イエスの血が目に入り、視力を取り戻したことで改心したロンギヌス。
鼻水を垂らして目を大きく見開いているのは、彼の奇跡と深い悔恨を表しているそうだ。
しかしなぜここだけ落書きみたいなクオリティ?と思ったら、写字生が書いたとのことで、装飾の人じゃないからか。余白につい描きたくなっちゃったのかな*3
*2:身分の高い者による注文制作では、有名画家が挿絵や装飾を手がけたりした。パリなど主要都市では、既存の手本を用いた既製品を比較的安価に制作し、中産階級に普及。15世紀末〜16世紀には、印刷技術も写本制作に取り入れられる。
*3:たしか写本はレイアウト→写字→装飾の順に作られるけど、この飾り枠はもともとこういう形だったのか、それとも予定外の落書きを上手く囲んだのか?余白の落書きよく見かけるけど、こんなに手が込んでるのにわりとおおらかなの面白い。
暦
礼拝は暦に従って内容が決まるため、写本巻頭には教会暦を所収。月次絵や星座図などの挿絵も描かれた。
1月のカレンダー。上部にいる人面ドラゴンは、司教だそう。
《時祷書零葉》フランス, ノルマンディー地方(おそらくクータンス)c.1420-30
左下で食事してる顔がふたつの人は、過去と未来を向いたヤヌス神。
冒頭のイニシャル「KL」は、
赤い字で記されているのは、特に重要な記念日の出来事。
裏面に1月後半。水瓶座ざばー
司教ドラゴンは完全ドラゴンになってる
教会法令集
カトリック教会が組織運営や信徒たちの信仰・生活について定めた法文を収めた書物。
みっちり!恐怖を覚えるレベルの書き込み…
グレゴリウス9世『グレゴリウス教皇令集(集外法規集)』(パルマのベルナルドゥスの「標準注釈」を伴う)零葉 フランス南西部, トゥルーズ?およびイタリア? c.1300-25
へんてこさん。
教皇クレメンス5世およびヨハンネス22世『クレメンス集』(ヨハンネス・アンドレアエの注解を伴う)零葉 フランス南西部, おそらくトゥールーズ c.1330-50
などなどでした。楽しかったですもいもい
おまけ
中世ネコのくらし 装飾写本でたどる [ Kathleen Walker-Meikle ]
内藤コレクション写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙
会期:2024年6月11日(火)〜8月25日(日)
会場:国立西洋美術館
料金:一般1700円
URL:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024manuscript.html
*もいメモ*
宣誓の書:中世フランスで市参事会員や領主が慣習法の遵守を宣誓する際に用いる。ページに手を乗せて誓うため、紙面が黒ずんでいたりする。
世俗写本:百科全書的な「宝典」、馬上槍試合を記録した「トーナメント書」、免税などの特権を有する爵位のない貴族イダルゴ身分証明書など。
人間や動物の楽師:聖母の時禱のテキストーページに繰り返し登場するモチーフ。e.g.『ギステルの時祷書』零葉 南ネーデルラント, ブリュッヘ? c.1300