北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画@SOMPO美術館の続きです。
19〜20世紀ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの絵画に見られる神秘に注目した展覧会。
今回は自然描写が魅力的だった作品を記録です。特に雪や氷、木々の影、漏れ出る光が素敵!
▼前回:北欧の神話や伝承にまつわる作品
カール・ステファン・ベンネット《ストックホルム宮殿の眺め、冬》制作年不詳 スウェーデン国立美術館
1850年代以前で、ロマン主義を反映した幻想的な街として同地を描いた珍しい作品。
月明かりと一面の雪で青白く、人々が影になって歩く。雪が積もる船は、当時新しい帆船外輪船。
灯りを手にしているのだろう人影から漏れ出す光が目を引く。水辺の奥に並ぶ、氷のように透けた白い木々も美しい。
ヨーハン・フレドリク・エッケシュバルグ 《雪原》1851 ノルウェー国立美術館
山間に分厚く積もった雪に惹かれる。青くて、もったりとしている。
北欧の景色はあちこちにムンクみたいなうねりが見られて面白い
ヘルメル・オッスルンド《カッルシューン湖周辺の夏の夜》制作年不詳 スウェーデン国立美術館
こちらの雪はツヤツヤのキラキラ。冷たそうな湖面に影が落ちる。
湖のほとりに家がぽつんとあって、その小ささから景色の広大さがわかる。
スウェーデン最北を描く画家が本作で描いたのは、ノルウェーとの境にあるイェムトランド地方の湖。
北欧の風景画を見ていて、ゴーギャンやナビ派を連想することがしばしばあったのだけど、オッスルンドは実際、ゴーギャンに師事したという。フランス的フォルムや抽象的な線、浮世絵にも関心を寄せた(英Wikipedia)。
ヴィクトル・ヴェステルホルム《クヌーツボーダの岩》1909 フィンランド国立アテネウム美術館
雲の切れ間?地/水平線?から差し込んでくる光。
それが逆光になって、中央の木を赤く染めている。
赤みがかった地面にも、いろんな色が入っていて楽しい。
ニルス・クレーゲル《春の夜》1896 スウェーデン国立美術館
薄闇の春の夜に、モンスターのような大きな枯れ木。
その背後には鳥の群れのような雲が走り、画面全体が鍛金加工のようにポツポツしてる。
エーリック・ヴァーレンショルド 《森の中の逃避》1903
こちらも、もの越しの光が美しい。
向こう側の手に持っているのだろう灯りが、暗い森を進む一行を仄かに照らす。
描かれているのは、13世紀アイスランドの作家スノッリ・ストゥルルソンによるノルウェー王のサガ集から、『オーラヴ・トリュッグヴァソン王のサガ』の一場面。
邪悪な女王グンヒルドから逃れるため、オーラヴ王の母が生まれたばかりの子をつれて森の中を逃げるシーン。場面といい描写といい、キリスト教絵画みたい。
🧐<余談、このオーラヴ1世はヴァイキングをキリスト教化する重要な役割を担ったそうだ。
ヴァーレンショルドは、世紀転換期ノルウェーを代表するレアリスムの画家。民衆の生活や北欧民話の書籍の挿絵などを描いた。
都市風景にも裏側から漏れる光。
エウシェン・ヤンソン《ティンメルマンスガーダン通りの風景》1899
夜の街灯から光がこぼれ、青いモヤの空が広がる。
ヤンソンは青を基調とした作品をよく描き「青の画家」とも呼ばれた(作例👉WikimediaCommons)。
ナショナル・ロマンティシズムが高まった1890年代、薄明の時間帯の静謐な都市風景が盛んに描かれ、神秘的な北欧イメージを体現した。ヤンソンはその代表的なひとり。
最後は、眩しい光。
59 アルフレッド・バリストゥルム《ストックホルムの水辺の冬景色》1899
雪が厚く積もったストックホルムの水辺。
大画面から雪の晴れた日の眩しさ、ひんやりさが感じられて清々しかった。
うっすら霞む背景はミルク色のベネチアの朝みたい。
馬の背や人の顔にも日があたっていて、雪はよく見るといろんな色をしている。馬車の前はざらざらと暗く、解け出して汚れた感じがする。
都市開発が進んだ19世紀北欧では、絵を学びにパリへ行く画家たちも多く、写実主義や印象派の影響を受けて、理想化せず克明に都市を描くようになった。
…などなど。
雪はバラエティ豊かで、水はキンキンに冷たそうで、小暗い景色にこぼれる光や影が印象的な北欧の風景画。
神話のつくりとか、自然へのまなざしとか、北欧絵画にはなんだか親近感をおぼえます。日本と通じるところもあるのかも(Japandiとかも人気だしね😊
派手さはなくとも、染み入ってくる魅力があるなあと思いますもいもい
ざっくり北欧絵画と19世紀
一方で、19世紀前半にそうした自国独自の自然や伝承がよく描かれた背景には、当時ヨーロッパの潮流であったナショナリズムの高揚とロマン主義、印刷技術の急速な発展などがあった。
古典主義の「普遍的な美」から脱却した「多様な美」を追求した時代、北欧でも大陸の追従から独自の表現が求められ、母国の自然や文化、歴史に注目が高まる。
北欧の原風景はロマン主義らしいドラマティックな素材となり、自然や歴史は権力者の意図を内包する風景画として描かれた。視覚芸術がナショナル・アイデンティティを構築する装置としての役割を担い、印刷技術の発展がその広範な普及を後押しした。
19世紀後半となると理想化よりも写実性が重視され、政治的意図も薄れていくが、神秘主義や民間伝承は残った。工業化・都市化の反動から台頭した象徴主義を北欧も取り入れ、自然と調和した原始的暮らしへの渇望や、個人の体験に基づく感情を芸術で再現した。
そのように、暗く厳しい気候自然で暮らす人々にとって神秘性は重要であったが、やがて近代化と共に影をひそめていった。
北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画
会期:2024.3.23.土〜6.9.日
会場:SOMPO美術館
料金:一般1600円
WEB
【巡回予定】
松本市美術館:2024.7.13.土〜9.23.月
佐川美術館:2024.10.5.土〜12.8.日
静岡市美術館:2025.2.1.土〜3.26.水
ヨーロッパの北部をおおまかに表す北欧という区分は、一般的にノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5 か国を含みます。このうち最初に挙げた3 か国はヨーロッパ大陸と地続きにありながらも、北方の気候風土のもとで独特の文化を育みました。 本展覧会は、この3 か国に焦点を定め、ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館という3つの国立美術館のご協力を得て、各館の貴重なコレクションから選び抜かれた約70点の作品を展覧するものです。 19 世紀から20世紀初頭の国民的な画家たち、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクやフィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラらによる絵画などを通して、本展で北欧の知られざる魅力に触れていただければ幸いです。