3月某日、北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画@SOMPO美術館に行きました。
本邦初、北欧の絵画にフォーカスした本格的な展覧会。
北欧の中でもノルウェー、スウェーデン、フィンランドの自然や伝承に見られる神秘に注目。
ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館より、19〜20世紀初頭のコレクション約70点を紹介しています。
開幕間もなくの平日午後に行きましたが、思ったよりお客さんも多かったです。
特に、普段あまり多くは見かけない雰囲気の学生さんが多くて、北欧神話はゲームやアニメなどのモチーフにもなっていたりするからかな?と思いました(後で聞いたら『進撃の巨人』はユミルとか出てきて北欧神話をベースにしているそう)。
かくいう私も、ゲームやアニメなどは疎いけどファンタジー大好きだからすごく楽しかったです!
特にやっぱり2章:魔力の宿る森。
神話や民間伝承から着想を得たファンタジックな作品が集い、ずっと脳内で楽しい楽しい言ってた
たとえばノルウェーの国民的画家、テオドール・キッテルセン!
テオドール・キッテルセン《トロルのシラミ取りをする姫》1900 ノルウェー国立美術館
本展のメインビジュアルにもなっている、トロルのシラミ取りをする囚われのお姫様。
暖炉の火がマジカルな色をしていて、薄暗い部屋の姫の姿やトロルの毛を縁取っている。
かっこいいオオカミの光る目。
テオドール・キッテルセン《アスケラッドとオオカミ》1900 ノルウェー国立美術館
役立たずの末っ子アスケラッドが、無垢な心で姫を救い王国を手に入れる冒険物語より。
ノルウェーの物語には、役立たずの末っ子がよく活躍する。
❓❓<たとえばロシアの『イワンのばか』とか、日本でも『因幡の白兎』の大国主神とか、不出来な弟や気のいい弟のハッピーエンドは古くから世界であるけど、末子成功譚ってなんで広まったんだろう?弱者の逆転勝利がカタルシスをもたらす?現実の大成者に末っ子が多い?末子相続の慣習から?
不気味なトロルやノッケンなど、キッテルセンの作品をアニメーション化した映像集もよかった!
テオドール・キッテルセン《ノッケン》1904
沼に潜み、人を溺れさせるノッケンも、ゆらゆら水面に浮かび上がっていた。
ガーラル・ムンテ《山の前の門に立つオースムン》《一の間》《五の間》《帰還するオースムンと姫》1902-04 ノルウェー国立美術館
こちらは、主人公オースムンがトロルを倒し姫を救出するというノルウェーの伝説を描いた全10作品からなる連作(英Wikipedia)。
ムンテはノルウェー装飾芸術の第一人者というだけあって、フラットに描かれた装飾豊かな画面が楽しい。
時間軸が横に流れていく画面は、ジャポニスムの影響もあるそうだけど、懐かしいテレビゲームみたい。あとトロルがみんな可愛い。
展示外の連作も全て揃うとこんな感じ。場面の妄想が膨らむ!
Image: Wikimedia Commons
こちらもノルウェー、中世から伝わる物語詩(バラッド)『リティ・シャシュティ』を描いた1枚。
ガーラル・ムンテ《山の中の神隠し》1928 ノルウェー国立美術館
山に住む妖怪の王に誘惑され、子供を授かった少女シャシュティは、子と共に山へと連れ去られてしまう。
描かれているのは、シャシュティに人間界のことを忘れさせるため、王が魔法の飲み物を与えているところ。
ハイジのエンディングみたい
フィンランドの国民的絵画《傷ついた天使》で知られるヒューゴ・シンベリは、こんな1枚が見られた。
唐突に生えた鳥のように大きな一輪の花。
それを眺めて愛でる貧しい青年と、切って手にしようとする裕福な青年。
中世の細密画やルネサンス絵画に魅了され、ガッレン=カッレラから象徴主義的な美学を学んだシンベリの世界は、中世っぽい奇抜なユーモアと、象徴派の厳かなムードが同居する。
ロベルト・ヴィルヘルム・エークマン《イルマタル》1860 フィンランド国立アテネウム美術館
世界の始まりに登場する大気の乙女イルマタルが描かれている(なぜか明治の西洋画みたいな奇妙さを感じた😓
イルマタルが原初の海で波と交わり、賢者ワイナモイネンを身籠ったことで世界が創造された。*1
<ちなみにワイナモイネンは700年以上もお腹にいたから、生まれた時からおじいちゃん。
『カレワラ』
カレワラは、フィンランドやロシア北西部カレリア地方で語り継がれてきた民話や詩を編集したもの。
1835年に初版刊行、多くの絵画や音楽、文学にインスピレーションを与えた。
フィンランドの大作曲家シベリウスもカレワラを題材とした曲を多く手がけた。動画は同叙事詩に登場する英雄の悲劇に基づく「クレルヴォ交響曲」。
19世紀北欧では、ナショナリズムを背景に民族独自の文化伝統が追求され、北欧神話や中世アイスランド散文文学の『サガ』など、民間信仰由来のモチーフに関心が高まった。
ロシア支配下にあったフィンランドでは、カレワラが独立機運を高める重要な作品となり、今でも2月28日を「カレワラの日」としてしている。
…などなど。
ほかに風景画の自然描写もやはり楽しかったので、続きを書けたらまたもいもい
▼書けました
いちばんわかりやすい北欧神話 (じっぴコンパクト新書) [ 杉原梨江子 ]
北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画
会期:2024.3.23.土〜6.9.日
会場:SOMPO美術館
料金:一般1600円
WEB
【巡回予定】
松本市美術館:2024.7.13.土〜9.23.月
佐川美術館:2024.10.5.土〜12.8.日
静岡市美術館:2025.2.1.土〜3.26.水
ヨーロッパの北部をおおまかに表す北欧という区分は、一般的にノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5 か国を含みます。このうち最初に挙げた3 か国はヨーロッパ大陸と地続きにありながらも、北方の気候風土のもとで独特の文化を育みました。 本展覧会は、この3 か国に焦点を定め、ノルウェー国立美術館、スウェーデン国立美術館、フィンランド国立アテネウム美術館という3つの国立美術館のご協力を得て、各館の貴重なコレクションから選び抜かれた約70点の作品を展覧するものです。 19 世紀から20世紀初頭の国民的な画家たち、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクやフィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラらによる絵画などを通して、本展で北欧の知られざる魅力に触れていただければ幸いです。
*1:多くの伝承ではワイナモイネンが世界を創造したが、カレワラ著者のリョンロートがイルマタルを発案しその属性を与えた。あとイザナミのようなイルマタルだが、ワイナモイネンの嫁話で魔女ロウヒに「見るな」と言われて見ちゃうバージョンを見かけた。そのロウヒは月と太陽を隠して天岩戸っぽい。
もいメモ:本展でトロルをたくさん見ていたら、子供のころ『三びきのやぎのがらがらどん』が不気味だったのを思い出した。ノルウェーの昔話を描いたこの絵本にも怖いトロルが出てきて、絵柄も子供向けの可愛さはない。母に読むよう言われて、当時はそんなに好きじゃないなって思ったんだけど、だからこそかよく覚えている。そういう世界がずっと今の自分にまで根付いていて、よい物語にたくさん出会わせてくれていたんだなと改めて思った。ここまで不気味カワイイもの好きな娘になるとは誤算だっただろうけど😇