楽しかったヒンドゥーの神々の物語@古代オリエント博物館の覚書、その2です。
▼その1はこちら
今日は、個性的な姿をした「ヴィシュヌの化身」についてメモします。
ヒンドゥー教では、宇宙は「創造・維持・破壊」の3つを循環して成り立っており、それぞれを司る神がいる:創造神ブラフマー、維持神ビシュヌ、破壊神シヴァ。
彼らは三組で一体の最高神であるともされる(三神一体=トリムールティ)。
そんなインド三大神のおひとりである維持神ヴィシュヌには、10の化身「アヴァターラ」がいる。
※化身や権化を意味するアヴァターラ(avataara)は、ネットやゲームで使われる「アバター(avatar)」の語源にもなっている。
ヴィシュヌの10化身
- マツヤ(魚)
- クールマ(亀)
- ヴァラーハ(大地を顔で支えた猪)
- ナラシンハ(人獅子:Nara=人, simha=ライオン)
- 倭人ヴァーマナ(悪神バリを退治)
- パラシュラーマ(武人階級を滅ぼした斧持ち大英雄)
- ラーマ(ラーマヤナの主人公、インドの理想的英雄)
- クリシュナ(怪力モテイケメン)
- ブッダ(仏教の開祖)
- カルキ(永遠または時間、または汚物の破壊者)
画像:作者不詳《ヴィシュヌの10の化身(ダザーヴァタール)》1920s 福岡アジア美術館(黒田豊コレクション)
10番目のカルキ「汚物の破壊者」ってなんだ?汚物は消毒ですか?ヒャッハーなんですか??
気になるところですが、ヒャッハーは後にしまして、ヴィジュアル的に面白かった化身の御三方、マツヤ・クールマ・ナラシンハについて。
洪水を予言するお魚、マツヤ
おもしろ化身その1、マツヤ。
マツヤはヴィシュヌ第1の化身で、サンスクリット語で牛丼屋もとい「魚」を意味するとおり、お魚さん。
魚っていうか、魚に食われてるけど…大洪水を予言する重要キャラクターであります。
伝説によると、マヌという聖者が川で小さな魚を助けたが、その魚が実はマツヤで「大洪水が七日後に起こり、全ての命を破壊する」と予言。
マヌは言われたとおりに船を用意し、七人の賢者と全ての種子を乗せると、マツヤはその船に大蛇ヴァースキを巻きつけ、ヒマラヤの山頂まで引っ張った。
こうして生き延びたマヌは、人類の始祖となったそうな。聖書の「ノアの方舟」に似てるね!(マツヤ, マヌ)
画像:作者不詳《Matsya Avatar of Vishnu》c.1870 ※展示外
しかしどう見ても食われてる…
山を背に乗せる亀、クールマ
つづいて第2の化身、クールマは「亀」。
鳥の丸焼きの腹から登場しているこれは何なんだと思いましたが、亀なんだね…
クールマは、ヒンドゥーにおける天地創造神話「乳海攪拌」に登場する巨大な亀。
スリンドラ・モハン・タゴール/挿絵:クリストフリー・ダフ《ヒンドゥーの十大アヴァターラ》1880 黒田豊コレクション
神々と悪魔(アスラ)が不老不死の薬「アムリタ」を手に入れるため、マンダラ山に大蛇ヴァースキを巻きつけて、その尾と頭を引っ張り合って海をかき混ぜたら、いろんなものが生まれた…というお話ですが、このマンダラ山を背に乗せていたのがクールマさん。攪拌中に海に沈みかけた山を、ヴィシュヌが亀に変身して支えたという。
余談だけど、不老不死と山を背負う亀といえば蓬莱山も思い浮かぶ🐢
それにしてもさっきから大蛇ヴァースキ、ロープ代わりにされ過ぎである。
無敵を倒す獣人、ナラシンハ
最後は第4の化身、ナラシンハ。
スリンドラ・モハン・タゴール/挿絵:クリストフリー・ダフ《ヒンドゥーの十大アヴァターラ》1880 黒田豊コレクション
ヒラニヤカシプという魔王を倒すために、ヴィシュヌが変身したライオンの獣人。
しかし、なんでいつも割れた柱の間にいるんだと見ていたら、これにも面白いお話がありました。
世界を支配しイキり倒していた魔王ヒラニヤカシプ、「ヴィシュヌはどこにでもいるって言うなら、この柱にもいるってーのかよ!」と、近くにあった柱を壁ドンならぬ柱ドンしたところ、崩れたその柱の間から本当にヴィシュヌの化身ナラシンハが現れ、その膝の上で魔王は引き裂かれて死んだという。
フィリップス・バルデウス/挿絵:クンラート・デカー《東インドの異教徒の偶像崇拝》1672 オランダ 黒田豊コレクション
というのもこの魔王、「神とアスラにも、人と獣にも、昼と夜にも、家の中と外にも、地上でも空中でも、そしてどんな武器にも殺されない体」というほぼ無敵形態を手に入れていたので、ヴィシュヌは人でも獣でもない“人獅子”の姿となり、地上でも空中でもない“お膝の上”で、武器を使わずに“素手”で引き裂いて殺したという。一休さんもビックリのとんち力。こわ(西遊旅行)
…などなど、ヴィシュヌはピンチの時にいろんな姿になって登場するのですね!
おまけ
ちなみに、冒頭でヒャッハー疑惑が浮上した10番目の化身、カルキ。
ヴィシュヌ最後の化身であり、その名は「永遠」「時間」「汚物の破壊者」を意味し、その姿は白い駿馬にまたがる英雄であるという。(カルキ, カリ・ユガ)
作者不詳《カルキ》20世紀前半 福岡アジア美術館(黒田豊コレクション)
世界が終わりを迎える西暦428899年、世界中の悪を滅ぼす最後の破壊的な力として出現するそうです。弥勒菩薩みたい?
世はまさに世紀末。ヒャッハーどころかおっそろしい救世主でしたもいもい