想定を上回るペースで少子化が進んでいます。

去年生まれた子どもの数は、統計開始以来初めて80万人を下回り(速報値)、過去最少を更新。

こうした中、少子化対策の強化に向けた政府のたたき台がまとまりました。

児童手当や高等教育費の負担軽減策、育休取得の推進など、注目の施策はどのように盛り込まれたのか。

ポイントを6つの「Q」で詳しくまとめました。

Q.「少子化対策のたたき台」とは?

A.岸田総理大臣が目指す「次元の異なる少子化対策」の具体化に向けて、31日、政府がとりまとめたものです。

今後はこのたたき台をもとに、詳しい施策の内容や予算の規模、それに財源を具体化し、6月の「骨太の方針」の策定までに将来的な「子ども予算倍増」に向けた大枠を示すとしています。

Q.どんな中身?

A.たたき台では、令和6年度からの3年間を集中期間として取り組む具体策として、以下の支援策などが列挙されています。

児童手当は、今は一定以上の所得がある世帯で支給しないなどとしている「所得制限」を撤廃し、対象年齢を高校卒業までに延長するとしています。

また、子どもが3人以上の多子世帯への支給額を諸外国の制度も参考に見直し、増額する方針です。

出産費用は、健康保険の適用の導入を含め、支援のあり方を検討するとしています。

学校給食費の無償化は、給食を提供している学校の割合なども確認し、課題の整理を行うとしています。

大学や大学院など高等教育にかかる負担軽減策では、在学中は授業料を支払わず卒業後に、所得に応じて納付する制度を、令和6年度から修士課程の大学院生を対象に先行導入し、拡充を図るとしています。

子育て世帯の住まいの支援では、公営住宅などへの優先入居のほか多子世帯などに配慮した住宅ローンの金利負担軽減策を検討します。

保育の質の向上では、積み残しの課題となっている1歳児と4・5歳児の保育士の配置基準を改善するとしています。

また、保育所の利用要件を緩和し、親が就労していなくても子どもを時間単位などで預けられる「こども誰でも通園制度」の創設を検討するとしています。

育児休業給付は、出産後の一定期間内に両親が「産後パパ育休」制度などで共に育休を取得した場合、最長4週間は給付額を引き上げ手取り収入が変わらないようにするとしています。

このうち、主な施策についてさらに詳しく見ていきます。

Q.「児童手当」は?

《今の仕組みは》

児童手当は所得制限を設けた上で、中学生までの子どもがいる世帯に市区町村などから支給されます。

▼3歳未満の子ども1人あたり月額1万5000円▼3歳から小学生までの第1子と第2子は1万円、第3子以降は1万5000円、▼中学生は1万円です。

一定以上の所得がある世帯では給付に制限がかかり、「特例給付」という形で、子ども1人あたり月額5000円に減額されて支給されています。

たとえば、扶養している配偶者と子ども2人がいる4人家族の場合、世帯で最も収入が高い人の年収額の目安として、960万円以上の場合は「特例給付」となります。

ただ去年10月以降は、年収1200万円以上の場合は「特例給付」も含めて支給されません。

「特例給付」を含む所得制限の対象は、中学生までの子どものおよそ1割、160万人程度に及んでいます。

《たたき台では》

児童手当をめぐっては、与野党ともにこれまで拡充を訴えていて、主に所得制限や支給対象年齢、それに子どもが3人以上の多子世帯への加算のあり方が焦点になっています。

たたき台では、今は一定以上の所得がある世帯で支給しないなどとしている「所得制限」を撤廃するとともに、中学卒業までとなっている支給対象年齢を高校卒業までに延長するとしています。

また、多子世帯への支給額を諸外国の制度も参考に見直し、増額する方針です。

ただ、所得制限の撤廃をめぐり、政府内では今の制限をすべて撤廃し、所得によらず一律に給付するよう制度を改めるべきだという意見の一方、親の所得によらず、すべての子どもに何らかの給付を行うようにするが、「特例給付」という形を残すことも含め、一定以上の所得がある世帯への減額措置はやむをえないという意見もあります。

政府は多子世帯への支給額増額の検討も含め、今後対象や金額などを財源の議論とあわせて検討し、6月の「骨太の方針」の取りまとめまでに結論を得ることにしています。

《財源は》

では、どの程度の財源が必要になるのか。「特例給付」を含め、所得制限をすべて撤廃するには、試算では、1500億円程度の追加の財源が必要になります。

また支給対象年齢を今の中学卒業までから高校卒業までに拡大し月額1万円を支給すると仮定すれば、4000億円程度の追加の財源が必要になります。

さらに以前の自民党少子化対策調査会の提言にあるように子どもが複数いる多子世帯への支給額を増やし、第2子には月額最大3万円、第3子以降は月額最大6万円支給するとすれば、数兆円規模の追加の財源が必要になるという試算もあります。

今後は財源の確保が最大の課題になります。

Q.「高等教育費用」の負担軽減は

A.「たたき台」には、教育費の負担が理想の数の子どもを持てない大きな理由の1つになっているとして、大学や大学院など高等教育にかかる費用の負担軽減策も盛り込まれました。

具体的には、すでに奨学金を借りていて今、返済している人が月々の返済額を減らすことができる制度について、利用可能な年収を現在の「325万円以下」から「400万円」に引き上げるとともに、出産した際や、3人以上の子どもがいる世帯などについては、さらなる対応を行うことを検討するとしています。

また現在一定以下の世帯年収の家庭から大学などに進学する子どもを対象に行っている授業料の減免や返済不要の奨学金の給付について、3人以上の子どもがいる世帯については、2024年度から年収およそ600万円以下の中間層にまで対象を広げます。

一般的に文系より学費が高い理工農系の学部などについては3人以上の子どもがいる世帯でなくても中間層に拡充します。

さらに卒業後に授業料を「後払い」とする制度を新たに設け、まずは大学院の修士段階の学生を対象に2024年度から導入します。

授業料の後払いは、年収が300万円程度に達したら始まりますが、子どもが2人以上いる場合は、年収400万円程度までは支払いが始まらないようにするということです。

Q.「幼児教育・保育」の強化は

A.幼児教育や保育の現場で子どもの事故や不適切な対応が相次いでいる中、安心して子どもを預けられる体制整備を急ぐ必要があるとして、保育士1人が見る子どもの数を定めた「配置基準」を改善するとしています。

現在、1歳児は「6対1」(子ども6人に対し保育士1人)、4歳児・5歳児は「30対1」(子ども30人に保育士1人)となっています。

これを1歳児は「5対1」に、4歳児・5歳児は「25対1」の配置にした場合に、運営費を加算します。

配置基準をめぐっては8年前、消費増税を財源に3歳児については同様の加算が給付されましたが、1歳児、そして4、5歳児については、財源の確保ができないとして積み残されていました。

次に、0歳から2歳の「未就園児」についてです。

「未就園児」がいる子育て世帯の多くが育児で孤立し、不安や悩みを抱えているとして、親の就労状況によらず、保育所などを柔軟に利用できる「こども誰でも通園制度」を新たに作るよう検討するとしています。

現在は、保育所や認定こども園などは親の就労などにより保育が必要という認定を得ないと原則、利用できません。

「たたき台」では、「こども誰でも通園制度」を新たにつくり、現行制度は残したまま、さらに、就労要件を問わず柔軟に利用できるようにするとしています。

そのためにまずは、空き定員がある園がどこの園にも通っていない子どもを預かった場合に園に対し一定の助成をするモデル事業を拡充するとしています。

Q.「育児休暇」の取得推進は

A.「育児休業」については、家庭内で育児負担が女性に集中している状況を変え、夫婦が互いに協力しながら子育てをし、それを職場が応援する社会を作る必要があるとして、男性の育休取得も促進します。

出産後の一定期間内に両親ともに育児休業を取得した場合、育児休業給付の給付率を引き上げ、休業前と同じ程度の手取り額を確保できるようにするとしています。

具体的には、産後8週間以内に男性が育休を取得した場合で、最大28日間分が対象で、女性についても、男性が取得した日数と同じ期間、休業前の手取り額相当まで給付率を引き上げます。

さらに、職場に気兼ねなく育休を取得できるよう、中小企業を対象にした助成を強化します。

具体的には、育休を取得した人の業務をカバーする人に手当を支給したり、代替要員を新たに雇ったりした場合に、事業主に助成金を支給する制度を大幅に強化するとしています。

男性の育休取得に力を入れる企業では

「たたき台」に育児休業給付の強化が盛り込まれたことについて、男性社員の育休取得に独自の給付制度を設けている都内の建設会社からは内容を評価するとともに、育休取得のノウハウ共有などの支援が今後も必要だという声が聞かれました。

東京・新宿区に本社を置く建設会社「東亜建設工業」は、全国各地で港湾や物流倉庫の建設などを行っていて、社員1700人余りのうち8割が男性です。

業界全体で慢性的な人手不足のなかで若い世代の人材確保を進めようと、去年10月からは育休を取得した社員に対し、通算1か月間は取得前と同額の基本給を支払う制度を独自に設けました。

その結果、前の年度の2021年度には12%だった男性社員の育休取得率は今年度、2022年度は47%まで向上する見通しとなりました。

人事部 松田巽海さん

「育休を取得した社員から収入面が心配だったが支援によって取得の決断ができたという声が聞かされていたので、政府が育休中の給付率を引き上げるのは効果があると思う。育休の取得を進めようとすると業務の調整や引き継ぎ、新たな人員確保などさまざまな障害がある。業務の引き継ぎや人員確保などへの支援やノウハウの共有などを国が進めてもらえれば、さまざまな会社が育休推進に取り組みやすくなるのではないか」

奨学金の問題に取り組む若者の団体は

「たたき台」に奨学金制度の充実などが盛り込まれたことについて、奨学金の問題に取り組む若者の団体は一定の評価をするとともに若い世代の債務となっている奨学金の問題について議論を続け減免措置の拡充を今後も進めるよう求めました。

奨学金を返済する若者などでつくる団体、「奨学金帳消しプロジェクト」は去年6月に設立され、返済に困る人たちの相談を受け付けています。

団体が去年インターネットのアンケートで奨学金を返済したことがある人およそ2700人を対象に生活に与える影響を聞いたところ、返済を延滞したことがある人がおよそ3割、自己破産を検討したり自己破産したりした人がおよそ1割いたということです。

代表を務める岩本菜々さん(24)は、政府が公表した少子化対策のたたき台で奨学金制度の充実など高等教育にかかる負担の軽減策が盛り込まれたことに一定の評価を行いました。

代表 岩本菜々さん

「今、奨学金を返済している人の問題は返せる見込みがなくなっても本人が亡くなったり働けないほどの障害を負ったりする以外で免除される制度がないことだ。自己破産を考えるほど追い込まれている人がいる中で今、困っている人たちに対する減免措置の拡充をより進めていくべきだ。今後も若い世代の奨学金の債務をどうするのかということをもっと積極的に議論する必要があるのではないか」

困窮世帯の子どもや若者の支援に取り組むNPO代表は

困窮家庭の子どもの学習支援などを行っているNPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長は、少子化対策を検討する政府の会議に参加し、高等教育にかかる費用の負担軽減などを求めてきました。

渡辺由美子理事長

「少子化や子どものことを真正面に見据え、政府が取り組むという姿勢を示したことは評価できる。特に所得の不安によって子どもを諦める人が多い中、若い世代の所得を増やすというメッセージを打ち出したことは重要で、幅広くメニューを示したことも評価できる」

一方で「どの施策も具体的な内容に今一歩踏み込んでいない」と指摘しました。

「児童手当や賃上げなども具体的にどれくらい増えて生活がどう変わるのかイメージが持てない。近い将来に結婚したり子どもをもったりする可能性がある若い世代が今困っていることを把握する必要がある。この世代にとっては奨学金返済の負担が重いため返済の免除や高等教育の無償化などを検討すべきだ」その上で「少子化を食い止めるため残された時間は限られているので、示された施策を実行するため集中的に財源を投じる必要がある。少子化は現役世代だけの問題ではないので国民全体が負担に協力してもらえるよう国を挙げて取り組んで欲しい」