美容整形の手術を受けて感染症を発症するなどトラブルが起きた際に、患者が美容外科の学会の窓口に相談した内容の一部が、了解なくクリニック側に伝わっていたことが分かりました。学会では指摘を受けて対応を改めていて、個人情報の管理を徹底したいとしています。
おととし、関東地方のクリニックで30代の女性が胸を大きくする豊胸手術を受けたあと、感染症を発症し強い痛みや傷口からうみが出たということです。
女性は去年4月に、日本美容外科学会=JSASがホームページ上に開設している「トラブル110番」という窓口に相談しましたが、その内容が手術を受けたクリニック側に伝わっていたことが分かりました。
学会のホームページには相談内容がトラブル相手に伝えられることは記されておらず、女性への事前の連絡もなかったということです。
女性は「すべて筒抜けなんだと怖くなり、誰を信用して相談すればよいか分からなくなり、とても苦しかった」と話しています。
学会によりますと、相談は年間およそ100件あり、そのすべてを名前や住所を除いて学会の役員に転送していたということです。
その役員の1人は女性が手術を受けたクリニックの医師でしたが、そのまま相談内容が伝えられていました。
また去年までは、一部のトラブル相談について相談者の承諾を得ないまま学会が医療機関側に直接連絡を取り、口頭指導などをすることもあったということです。
相談窓口のトラブルに詳しい中村雅人弁護士は「相談を受け付ける場合、その情報をどのように使うかを本人に伝える必要がある。相談者が匿名を望んでいるのに利害関係者に情報が伝わるのは最も避けなければならない」と指摘しています。
日本美容外科学会=JSASは指摘を受けて対応を改めていて、「今回の指摘を真摯(しんし)に受け止め、個人情報のさらなる保護と、安心して相談できる形にするよう努めてまいりたい」とコメントしています。
おととし、関東地方にある美容整形クリニックで豊胸手術を受けた30代の女性は、感染症を発症し、痛みが続いたり傷口からうみが出たりしました。
女性はクリニックに相談し、消毒などの応急処置を受けました。しかし、その後も傷みが続き、胸に注入した充填剤の除去をお願いしましたが、医師から「できない」と言われたといいます。
女性は手術ミスだったのではないかと考え、日本美容外科学会=JSASのホームページにあるトラブル相談窓口に連絡を取りました。
日本美容外科学会は900人余りの医師が会員となっている団体で、当時は「患者のトラブルに関する相談について美容医療に精通した医師などが答えます」などとしていました。
女性は自分の名前や住所とともに受けた手術の内容やその後の症状などについて記載し、痛みを解消するためにどこで治療を受ければよいか質問しました。
ところが、相談のメールを送ってから数日後に、手術を受けたクリニックの担当者から学会に相談したことをたずねられたといいます。
担当者は学会への相談内容は自分たちに回ってくるなど話し、これからはクリニックに直接問い合わせるよう求めてきたということです。
学会からは相談内容を相手のクリニック側に伝えるという説明は一切なかったということです。
女性はその後、別の医療機関に相談し、胸の充填剤の除去手術を受けました。
女性は、「全部筒抜けなんだと、つながっているんだと怖くなって、誰を信用して相談していいのか分からなくなり本当に苦しい思いをした」と話しています。
日本美容外科学会=JSASによりますと、厚生労働省や消費者庁などからアドバイスを受け、6年前、学会のホームページにトラブル相談の窓口を設けました。
寄せられる相談は、年間100件ほどで、その回答案を作るため、学会の事務局から、理事など9人の役員にメールで転送されていました。
その役員の1人に、女性が手術を受けたクリニックの医師が含まれていましたが、情報が伝えられていました。
相談内容を役員に転送する際には患者の名前と住所は除かれていたということですが、相談内容のほか、患者の年齢や性別、それにクリニックの名前などの情報は伝えられていました。
学会のホームページには、役員に情報が転送されることは明記されていませんでした。
また学会では去年まで、トラブル相談の中で、クリニックや医師の対応に問題があると判断した場合は相談者の承諾を得ずにクリニック側に直接連絡を取り、口頭注意などを行っていたということです。
学会ではこうしたトラブル相談の対応を改め、去年末からは指導のためにクリニックに直接連絡を取ることをやめ、相談者へのセカンドオピニオンにとどめているということです。
また相談内容を学会内で共有する場合は、関係する医師を外すといった対応を検討していきたいとしています。
日本美容外科学会=JSASの保志名勝理事長は、「患者が幸せになってほしいとの一心から行っていたが、今回の指摘を真摯(しんし)に受け止め、個人情報のさらなる保護と、安心して相談できる形にするよう努めてまいりたい」などとコメントしています。
相談窓口のトラブルに詳しい中村雅人弁護士は今回のケースについて、「個人情報保護法では情報を収集する際に目的を示し、その目的以外に使うときは本人に同意を取らなければいけない。今回はトラブル相手に情報を伝えることを示しておらず、必要な手続きをしていなかったと言える。利害関係のある人に相談内容が伝わるのは最も避けなければならない」と指摘しています。
そのうえで、「トラブル相談だけでなく不祥事などの公益通報の窓口でも企業側に情報が漏れるケースが相次いでいる。通報者が不利益を受けてしまうと誰も相談できなくなってしまうので、罰則を設けるなど情報の管理を徹底する仕組みが必要だ」と指摘しています。