上京して半年が経った。
今だに地元は恋しいままである。
開けた大地に澄んだ空気、そして何と言っても2,000m級の峰々が大地を見下ろす景観。夜景も都会とは違い、控えめで目を引く光はこれといってない。星空も美しく、月も場所を選ばず仰ぎ見ることができる。漆黒の山際とほのかに明るい夜空との絶妙なコントラストは、田舎ならではの眺めであろうか。
久しぶりに実家に帰った。と言っても、1力月ぶりくらいか。現実逃避や鬱憤晴らしではなく、単純に会いたい顔や恋しい場所があったからだ。
ふうと一息ついたところで、目を閉じた。鈴虫の鳴き音に包まれているのに気がついた。どうやら今夜はゆっくりお休みできそうだ。帰省1日目の夜を迎えているわけだが、この寝床は至高の領域そのものである。
すぐ隣の網戸からは、肌を優しく撫でるような、冷ややかな風が流れてくる。畳特有の匂いと土壁の匂い、パッチワーク調の敷布団の少し硬めの肌触り、川のせせらぎまで聞こえてくる。どれをとっても落ち着く要素で、私にとってはこれこそが幸せそのものだ。
静まり返った空間に、カチカチと時計の音がこだましている。心が少し緩んでしまったのか、涙が頬をつたった。感情の整理がつかず、訳も分からず、思考を巡らすのも億劫である。何せ夜に耽ることは良くないときく。
この空間に身を預けて眠りについた。