笹原さんと初めて手をつないだ日の次の日の夜、
私からリン君に電話をしました。
「 リン君、ごめん。もう会えない。嫌いじゃないけど、もう前みたいにリン君と会えない。
気持ちがもうさめちゃったの。 」
私はずるい、自分をよく見せたい気持ちと
自分が非道な人間であることをごまかすために、
抽象的に、リン君に伝えた。
「 俺はユイに会いたいよ。もし悪いことがあるなら直すし、急にどうしたの?
電話じゃ納得いかないから、ちゃんと顔をみて話してよ。 」
そうリン君は言いました。
私も 「 最期だから 」と言って、次の週末、彼の住む街に電車で行くことにしました。
リン君の住む街は、私の地元よりも北国で、
秋の風が顔にあたると、私の耳は寒さで痛くなるのでした。
彼は、いつものように駅まで迎えに来てくれました。
「 ユイ!!!会いたかった。 」
彼は私を見つけると、手を握り少しはにかんで
微笑んでくれました。
優しく笑いかけて貰える、資格なんて私にはあるはずかないのに、
リン君のいつもと変わらない態度が私の心に大きな斧を振り下ろすのでした。
「 リン君、あのね。」
私よりも15cmくらい背の高い彼を見上げて、
口を開くと彼は、自分の口元に右人差し指を持っていき、
私に口を開かないように合図をします。
私は彼に連れられて、彼の家にお邪魔しました。
私は、もう彼の手をつなぐ気持ちは起きないというのに・・。
すると彼のお母さんが私を出迎え、リビングに通してくれました。
その日私は、リン君のお母さんが再婚すること、
リン君の祖父がもう長くないこと、リン君を再婚相手の息子にするつもりはないことを
話してくれました。
「ユイちゃん、リンをよろしくね。もう私はリンのそばにいることはできないから・・・。」
そう、彼女は言いました。
「私なんて・・・なにも・・・。」
それ以上私は何もいえず、うつむいて考え直すしかないのでした。
愛することができないのに、リン君のそばにいるなんできないけれど、
私がこのままリン君のそばにいることで、リン君のお母さんも笹原さんも笹原さんの未来の奥さんも
みんなが幸せになることが出来て、円満になにもかもが終わると考えるのでした。
私の笹原さんに対するこの気持ちが間違っているものだから、
だから、笹原さんに知り合う前の状態にすべて戻すべきなのだと、
私は自分の気持ちにふたをすることを決めたのでした。
リン君は「 もう少しだけ、考えてくれる? 」というので、
私は何も言わずにうなずきました。
つづく