昔々の恋の話 3話 | ユイのたわごと

ユイのたわごと

☆何気ない日常☆

そして、週末笹原さんと初めて

プライベートで夕食に出かけました。


私は実家暮らしでしたので、実家の近くまで

車で迎えに来ていただき、彼の車に乗って30分程度のところにある

パスタ屋さんに行きました。


車の中、運転する笹原さんはたまに、助手席の私を見ると

にこにこと微笑んでいて、

「どうしたんですか?」と私が聞くと、暗がりの中

拳を口元に持っていき、少し照れたように「別に、、、」とだけ言って

また、前を見て運転に集中されていました。


特に会話という会話もなく、胸が張り裂けそうな緊張感があり、

でも、この空間には私たち以外誰もいない、

そんな都合の良い幸福感が私を心地よく包んでくれました。


パスタを食べたあと、車で送ってもらい、

「また今度」と挨拶をして帰りました。


そのあとも、毎日メールや電話を繰り返し、

次の週も笹原さんの車で免許更新のため、

車で2時間程度かかる免許センター迄私を連れて行ってくれる約束と

そのあとに、笹原さんの用事で本屋に行く約束をしました。


その約束の日までが待ち遠しく

時間をさらに遅く感じさせるものでした。


笹原さんは薬関係の本を買うために、

大型書店に私を連れて行ってくれました。

私の右手と彼の左手がコツンとあたり、それが3回目に一瞬触れた瞬間、

彼は左手で私の右手を捕まえて、ゆっくりと右側を見る私に

優しく微笑んでくれました。


私にとって、5歳年上の笹原さんの手は温かくて、

すごく儚い夢なのだと、思わずにはいれませんでした。


優しい笑顔もすべて本来ならば、笹原さんの彼女の物。


そう、笹原さんは彼女と婚約迄している仲だということは

最初に食事をしたあの夜に知っていました。


笹原さんと笹原さんの彼女のことやリン君のことを思うと

振りほどけばよかったのに、、、。


でも、どうしてこの手を振りほどくことができるのでしょうか。

ただ、何も言わずに、私は逆に彼の手を握り返すことしかできませんでした。


相手の名前以外なにも知らない世界があるのならば、

私はそこに行きたいと願いました。


そんな都合の良い事を考える私は、浅はかでなんて恐ろしいのかと

自分でさえも間違っていることは誰に言われるまでもなくわかっていることでした。


もう歯止めがきかない自分の感情が

恐ろしい未来を招くということは私の理性が教えてくれます。


それでも、笹原さんの隣にいたいと願ってしまうのです。


私はこの日、リン君に別れを切り出す決意をするのでした。



つづく