第10回ライトノベルズ ワンシーンコンテスト 『あやかしの館』 | あべせつの投稿記録

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課題『人の住んでいない洋館に入り込み不思議な体験をする』


『あやかしの館』  あべせつ


山中で迷い、さまよう若き植物学者のりアムの前に突然大きな洋館が立ちはだかった。

「おっ。こんな所に家がある。一晩泊めてもらえるといいんだけど」


しかし、よく見るとその洋館はかなり長い間使われていないらしく、館全体が女性の腕ほどもある太さのツタのような植物でおおわれ、壁面も窓も入り口も外からは見えない。


「うへえ。こんな所に人が住んでるのか?」


入り口を探して館の周囲を歩き回ったが、それらしきドアが見つからない。あきらめて館から離れようとしたとき、ツタの覆いがカーテンを開いたようにさっと左右に分かれ、ポカリと壁に開いた穴が姿を現した。

 

「なんだ?穴から入るのか?変な家だな」


リアムはその穴から中へと入っていった。外光がまったく入らない暗い部屋に入ると、屋敷の中にも一面にあの太いツタがはびこっていて、たちまちの内に穴であったところをおおい隠してしまった。


「妙な家。魔女の館じゃないだろうな。こんにちはあ。誰かいませんかあ」リアムが大声を張り上げると、屋敷の奥から若い女の歌声が聞こえてきた。


するとその歌に反応したかのようにツタが一斉に青い燐光を放ち始め、真っ暗な部屋の中を薄明りで照らし始めた。


「へええ、音声センサー付きの植物か。こんな植物は見たことがないぞ。ひょっとしたら新種の大発見かも?いやそれよりも、まずは家主様に御挨拶だな」


歌声をたどり、部屋の奥へと進んで行くと、なんということだろう!そこには美しい少女の姿があった。いや、少女のようなと言うべきか。


「こ、これは何だ?人間なのか?」


腰まであろうかという長い髪は緑色で、上半身は確かに華奢な少女の形であった。しかしその下半身は太い木の幹のようで広間の床の土間になったところから生えていた。


「マ、マンドラゴラだ!」


リアムは伝説の人面植物マンドラゴラのことを思い出した。

マンドラゴラはリアムを見ると歌を止め、何かを求めるようにその白い腕を延ばしてきた。


「な、なんだ?何をしようと言うんだ?」


リアムがその学者的好奇心から一歩二歩と近づいたとき、マンドラゴラの根元に人の骨が無数に散らばっているのが見えた。


「わあっ!」


リアムが驚いて跳びのくと、マンドラゴラは悲しそうな顔をして、その美しい瞳から涙を流し始めた。悲しげな美少女の顔に気を取られたその一瞬のすきを突いて、背後から音もなく忍び寄ってきていた太いツタはリアムの体に強く巻きついた。

 

「うわっ、やめろ!はなせ!」


もがくリアムの抵抗をものともせず、ツタはマンドラゴラの方へリアムの体を押し出し始めた。マンドラゴラが恍惚とした表情でリアムの体をその腕に抱きしめようとしたそのとき、リアムは見てしまった!その少女の華奢な体であったものが、みるみる内に縦に真っ二つに裂け、巨大な口となっていくのを。


「わああ!食人植物だ!喰われる!」


おそらくその口はハエトリソウのように人体をがっちりとくわえこみ、ゆっくりと消化液で溶かして喰らうのだということが、植物学者であるリアムにはすぐにわかった。


リアムは必死に暴れて服のポケットに入れてあったペンを取り出すと、死に物狂いで自分を捕らえているツタにぐさりと突き立てた。


「ギャアアア」恐ろしい声を上げてマンドラゴラがのけぞると、ツタもするすると体から離れた。


「そうか!こいつらも全部、お前の体の一部なんだな」

不意をつかれてゆるんだツタから抜け出し、リアムは一目散に出口に走った。


「とんだお化け屋敷に来たもんだ。早くここから出なきゃ。さっきの穴はどこだ?」


久しぶりの獲物を逃すまいと四方八方からツタの触手が伸びてくる。リアムはそれを振り払いながら上着を脱ぐと、持っていたライターで火をつけ、ツタの絡まる壁に押し付けた。炎を恐れてツタが天井まで縮み上がると、先ほどの入口がむき出しになって現れた。


「あった!出口だ」

その穴から外に転がり出ると、「これでも喰らえ!」


リアムは枯れ木を拾い集め、次々に火をつけては屋敷の中に放り込んでいった。たちまち屋敷中に火の手が広がり始めると、館全体がまるで体内を焼かれた生き物のように苦しげに身をよじりのたうち回っていたが、やがて小さな黒焦げのかたまりになってしまった。

 

「そうか、この館自体がマンドラゴラの本体だったんだ。ひょっとして大発見を逃したかな」リアムは小さく頭をかいた。 完