縄文の女神 投稿作品『オグニものがたり』2 | あべせつの投稿記録

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金色に輝く日差しが暖かく体を包み、奥羽山から吹き降ろす爽やかな風が頬をなでていく、そんなおだやかな春の日のこと。


今日は有力な豪族の娘の結婚式がとり行われるとあって、ムラは朝から大にぎわいでした。


祀りの広場には焼き立てのシシ肉やシカ肉、アユなどの海の幸山の幸が香ばしい匂いをあげながら幾皿も並べられ、美味しい果実酒や採れたての野イチゴ、クリやトチの実の焼き菓子や雑炊なども皆にふんだんにふるまわれていました。


夜になれば、広場のあちこちに松明が灯され、歌や踊りも披露されることでしょう。


その広場の一隅には結婚式のための木製の舞台がしつらえられ、新郎新婦が皆の祝福を受けるために座っています。


二人の座る床には鹿皮が敷き詰められ、カヤで葺いた屋根には色とりどりの花が差し込まれて、あたりには甘い香りがたちこめています。


新郎はあっさりとした麻の編布の貫頭衣(筒状の着物)姿でしたが、新婦はその編布にウルシをほどこした上物の花嫁衣裳を着て、勾玉ヒスイの耳飾りや首飾り、美しい櫛などを身に着けています。


その新郎新婦の後ろには、祭壇があり、一体の土偶が安置されていました。


この花嫁の土偶を、少し離れた場所から憧れたように見入っている十歳くらいの可愛らしい少女がいました。この物語の主人公・オグニです。


さてここで物語をわかりやすくするために、少しこの土偶についてのお話をしますね。


このムラでは、少女に女性のしるしが現れると、家から出てムラのはずれに建てられた物忌み小屋というところに、十日間ほどこもる風習がありました。


その十日の間に、その女性に求婚しようと思う男たちは彼女に贈るための土偶を用意します。力のあるものは土偶にヒスイの耳飾りなどの装飾を施した豪華なものを土師に作らせたりし、財力のない者は自分で工夫を凝らして土をこね、素焼きにして作りました。

そうして自分の能力の高さや気持ちを土偶で表したのです。


物忌み小屋の前にそれは並べられ、小屋から出たとき、女性はその中から夫となるものの土偶を一つだけ選びます。選ばれなかった者の土偶は持ち主に返されますが、持ち主はその土偶を打ち砕いて、人型塚へ叶えられなかった想いとともに捨てて未練を断ち切ります。


一方、選ばれた方の土偶は、無事に婚礼を終えると、巫女により石で砕かれ、人型穴に捨てられます。これは身代り地蔵のように花嫁のこれからの厄災を封じ込めるための大切な儀式としてとり行われました。


そうして夫が決まると花嫁の家では婿を迎える準備をします。当時は入り婿婚といって男性側が女性の家に入るので、新居や結婚式の準備は嫁側がするのが普通でした。


財力のある家では新しい竪穴式住居が建てられ、そうでない家は同居するための新しい部屋が用意されました。


そうした準備はひと月ほどでなされ、その後、いよいよ正式に結婚式をあげることができるのです