動悸、頻脈の発作のうち、上室頻拍とは、心臓の内部の心房、房室接合部(心房と心室の境目)、およびその近傍を発生起源に含む不整脈による頻拍(脈拍が速くなること)、です。このうち、一番頻度が高いのが、動悸が突然に開始し、突然に停止する発作性上室性頻拍(PSVT)です。
PSVTでは、心臓の内部にある通常の電気刺激の伝導の経路(刺激伝導系)に、異常な電気刺激の経路ができることによって起こり、期外収縮などの刺激によって異常な電気刺激の経路にスイッチが入ると頻脈の不整脈の発作が起こります。
刺激伝導系のうち房室結節(心房と心室の境目の付近にある)にできた異常な電気刺激の経路に、スイッチが入って、頻脈の不整脈の発作を引き起こす(AVNRT)のが最も多いパターンです。その他、WPW症候群に伴うものなどもあります。
発作性上室性頻拍(PSVT)の症状としては、動悸、胸部の圧迫感、息切れや、重症例ではめまい、失神などをきたすこともあります。失神は、心臓の拍動の数が速くなることによって心臓の機能が低下し、脳の血流が低下することによって起こります。心臓の拍動の数の多さ、持続時間、背景となる基礎心疾患、によっては頻脈の発作が心機能の低下をきたすこともあります。背景となる心疾患が無いケースでは、PSVTの予後は悪いものではありません。
PSVT(AVNRT)の発症年齢としては、20歳台と40歳台~50歳台にピークがあり、女性に多い傾向があります。
発作性上室性頻拍(PSVT)の診断は、発作時の心電図所見によって行なわれます。
より詳細については、入院での電気生理学的検査(EPS)によって行われます。
PSVTの頻脈、動悸の発作が起こった時の急性期の治療法としては、息を止めていきむバルサルバ法などの非薬物療法、薬物療法、電気的なDCカルディオバージョンによる治療があります。
薬物療法としては、通常、点滴による静脈注射によって不整脈の発作を抑える薬物を投与することによって行われます。
薬物による治療が効果がない場合や、血圧低下などのバイタルサインの悪化がみられる時には、電気的なDCカルディオバージョンによって頻脈発作をおさえる治療が行われます。
PSVTの動悸の発作がおさまったあとの慢性期の治療としては、薬物療法による予防とカテーテルアブレーションによる根治療法があります。
PSVT(AVNRT)の動悸の発作はいったんおさまった後にも再発して繰り返すことがあるため、動悸の発作を繰り返す頻度や起こった発作の重症度等を考慮して、非薬物療法(安静や息こらえで容易に発作がおさまる時)、薬物療法、カテーテルアブレーションによる治療のいずれが適切かが判断されることになります。
薬物療法による予防も有効な方法ですが、薬物療法の効果がない時や、頻回に頻脈の動悸の発作を繰り返す時、根治療法を希望するとき、頻脈の発作時に失神やそれに近い重い症状がみられる時などには、カテーテルアブレーションによる根治療法の適応になります。
カテーテルアブレーションは、心臓内まで挿入した電極付きのカテーテルを介して高周波による焼灼または凍結が行われます。この高周波または凍結によって、発作性上室頻拍(PSVT)の発生源になっている組織を破壊します。
カテーテルアブレーションによる治療は95%の有効性があり、合併症の起こる頻度も低いため、PSVTの根治療法としては有効な方法です。