『四月になれば彼女は』感想 | SHIGAより愛をこめて

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最近あまり使ってませんでしたが、『四月になれば彼女は』『グラスハート』を応援していきます

四月になれば彼女は

2024.3.22公開

原作 川村元気

監督 山田智和

主演 佐藤健


この作品が難しいと言う声がチラホラあるみたい。時系列の激しい行き来や登場人物への共感などに悩む声も。SNSで一通り感想を追ってみると。よくよく読んでみると解釈違いも多いみたいだけど(わたしのここでの解釈違いも含め)、「難しい」という言葉がひとり歩きして、二の足を踏んでいる人がいるなら、なんとも勿体ないのなんのって!!(T^T)


時系列について振り返ると、

【春の旅行パート】

【藤代・弥生現代パート】

【回想 藤代・春大学時代】

【回想 藤代・弥生過去パート】

藤代・弥生の現代を軸に大まかにこの4つの時間軸が行き来する。でも曲調の変化や物語の流れからも全然難しい行き来ではなく、藤代や弥生が抱えてしまった切ない現実が春との精彩な思い出によって際立つのもあり、心が揺れ動く様子を象徴する効果もあって良かった。回想から回想への展開なんて見事だったと思う。そして【春の旅行パート】から徐々に【藤代・弥生現代パート】へと繋がっていく物語のクライマックス。その【藤代・弥生現代パート】にも春、藤原、弥生が描かれる時間軸にズレがあるけれど、シーンが反復される度にこちらの想いも募って切なかった。その辺が難しく見えたりしたのかな。繋がった人達が色んな事情で互いに離れ離れになったけれど、ひとりになって色んなことを見つめ直せた。藤代や弥生がこれ程不器用ではなく、結婚の前にお互いの気持ちをきちんと話し合うことがあれば、逆に別れる選択肢もあったかもしれない。


この物語はリフレインが沢山ある。1回観てわかる人には分かるけれど、藤代の母親が離婚した理由で愛されることを飽きられめられなかったと明かされたけれど、それは弥生そのものであったし、揃いのワイングラスや、あの日結婚式場で弾いていた曲。麒麟の睡眠時間。春からの手紙も何度もリフレインされる。最初は何気なく耳に届く春の手紙の語りが、事情を知り得た最後にはその声色だけで心を揺さぶってくる。桜のシーンも繰り返される。桜を見て思い出すあの人、あの頃。最後には桜に導かれたかのように走り出す藤代。桜は毎年繰り返し咲いては散る。その桜も翌年必ず見れる訳ではない。そして最大の「愛が終わらない方法は?」という問いかけ。友人のタスクや弥生の妹の言葉や同僚の励ましが、少しづつ藤代の心に響く。春が愛した写真も作品中で沢山散りばめられ、繰り返し登場し、ファインダーを通した真っ直ぐな春の気持ちが愛した人たちの心に寄り添う。人の心が撮りたいと話していた春が、最後に藤代の背中を押す。その最後の写真に写っていたものとは。


弥生の気持ちに共感しずらいという感想もあった。全体的に分かりにくい、難しいと。でも、例えば小説ならどうだろう。難しい文体、しかも難解な登場人物達。読み返すけれど、どうも分からないままにしてある作品。でも、心に響いたり今も印象深く残る作品はいくつもある。なんか知らないけど、よかった。難しかったけど、ここの台詞好きだった、など。映画だってそれでいいと思う。春の優しさが響いたり、藤代との過去パートにドキドキしたり、弥生と藤代の気づきに自分やパートナーを重ね合わせたり。どこか刺さるものがあればそれで凄い映画体験だよ。弥生が特別みたいに言われるけど、弥生のように手にした瞬間無くすことを考える女性(もしくは男性)は割といて、終わりに怯えながら人を愛することも沢山あって、愛を確かめ合う為に何度も喧嘩したり、何度も別れる人たちもいて。約束が欲しいと願っても、約束したところで駄目になるものは駄目になる。それでも人は心より言葉を欲しがる時もあって。臆病な弥生は、もう藤代を愛し始めていて、楽しさが終わる未来が見えた。始まってもいないのに。藤代は春への思いを恐らく断ち切れないまま、目の前で愛することに怯える弥生が愛しくてたまらなかった。だけれど…2人は求め合い、満たされあって、次第にサボってしまうのだ。愛することや、伝え合うことを怠ってしまう。この2人は特別でも何でもない、きっとそこらにいる、ありふれたカップル。少し(いやもしかしたらかなり)臆病な彼女と、少し鈍感な男性。そしてどちらも不器用で。現在弥生の気持ちに共感出来なくても、いつか出会う誰かにとっての最愛の女性は弥生かもしれない。その時にこの作品を思い出し打ち震える。この人を離しちゃいけないと、きっと思うはず。羨ましいな。今、愛する人がいる人がじゃなく、愛すべき人が隣にいる人が。私もあの時、もっと大切に出来たらな。

本来映画って全部が全部理解出来ないといけないわけじゃないんだよね。話の内容ではなく、登場人物の気持ちまで観客1人残らず全員に理解させねばならない、なんて風潮にいつ頃からなってしまったのかな。1億人総SNS時代。私も含め誰もが世間に発信出来る時代。不確かな情報に惑わされずに、自分の信じるその嗅覚で、この作品にどうか辿り着いて欲しいと切に願う。


山田智和監督は著名なミュージシャンのMVなどを手がけてこられた方らしい。主題歌の藤井風さんも手がけているという。この作品とは別に「満ちてゆく」のMVも手がけられて、それもまた凄く素敵。いくつかのご縁で主題歌を藤井風さんが快諾して下さり、藤井さんはこの作品を見終えてすぐに教会で「満ちてゆく」を書き上げたらしい。この歌詞が本当に素晴らしくて。この作品のすべてを描いている。心の中をこんなに豊かに表現出来るなんて。歌声も激しく感情を揺さぶって来る。作品を見終えた時にエンドロールを見ながら、観客のみんなが色んな気持ちに満たされているのが伝わってくる。誰1人席を立たずに。大切な人を愛そうという気持ちで支配された空間て凄いな。中にはもちろん、理解に悶える人も?(笑)ちなみに私はここ10年近くワンオクをカラオケで絶叫してきて、最近はヒゲダンが歌うのが好きで、今はNiziUをひたすら練習しているカラオケマニアで、ソウルミュージシャンは安全地帯、玉置浩二さんなんだけど、藤井さんはオシャレな歌を歌う人くらいしか知識なくて。先日のNHKでの生歌セッションが凄すぎて。YouTubeなんかも漁りだしたりして(笑)基本歌上手い人が好きなんだけど歌の上手さもさることながら、藤井風さんの独特の個性や雰囲気がいいよね。とにかく健さんは、本当に主題歌に恵まれた役者さんだなぁ!!!


で、山田智和監督の今作、私本当に好きです。健さんが出てるからじゃなくて、いや、でも、春は森七菜ちゃん、藤代は健さんでないと無理だから、結局健さんが出てなくちゃダメかも(笑)藤井風さんの「満ちてゆく」のMVも素敵だったけれど、今作どこを切り取っても好きだったなぁ。綺麗な景色とかいったって、写せば良いというものではないと思う。どんなテクニックかは分からないけど、どの景色も染みた。なんていうか、ひとりよがりの景色の写し方だと、こちら側が置いてけぼりになる絵ってあると思うのよね。そういう作品って過去にあったはず。だけど、絵の中の人物の立ち位置が絶妙なのかな。音かな。いや、山田監督、撮影の今村さん、そして劇伴の小林武史さんが最高だったんだよね。公開8日目にして5回見たのもあるけど、何回目かで音楽がすごいことに気がついた。すんごくいい。世界で見てもらっても、絶対響くと思う(4月からアジアを皮切りに上映されるようです)。旅するシーン、ウユニ、プラハ、アイスランド。雨宿りのシーンや朝日のシーン。どれも抜群だったなぁ。健さんの大学生がウブで可愛いくて、森七菜ちゃんも全篇に渡って凄すぎた。藤代が春に惹かれていく演技も秀逸で。あ、ここ、恋に落ちたな、おい。お、ここまた恋に落ちたな、おい。って、ちゃんとこちらもキュンキュンさせてくれるお芝居。台詞も素敵だし、台詞の無いシーンに流れる空気も良きものでした。本当に凄かった、2人とも。春がここに来るの緊張しましたァ〜って恥ずかしがるとこ、いやーたまらん。


健さんのエスカレーターのシーン。人目を気にしつつ、でも溢れ出る涙を止められない、涙で顔が歪む、あのシーン。みんなあんな涙を流したことあるんじゃないの?恥ずかしいくらい情けないやつ。藤代は子供過ぎてどうにも抗いようのない自分も不憫だし、選んでくれなかった春も何だか憎いし。でも、それは、大人になれば分かる。選べなかった、愛情深い女の子だった春と、春の力になりたかった藤代。もう少し2人が大人だったら。でも、そうすれば弥生との出会いも無かった。人は何人もの人と同時には結ばれない。別の時代に別の人を好きになる。相手は誰かの元カノで、誰かの元カレ。「今愛してる人はかつて誰かが愛してた人」って感想ポストしてる人がいて、本当にその通りだなと。今目の前にいる人を大切に出来る、大切にしようと思える素敵な素敵な恋愛映画なんだよ。


もちろん、長澤まさみちゃんも、秀逸でした。難しい役でしたよね。嬉し泣きみたいな芝居って、感情がきちっと無いとぜったい無理だもんね。そして、最後の病院前の浜辺での告白シーン。2人とも素敵過ぎた。あそこ、1番泣いた。私もきっと振り返って「ありがとう」って言う。同じ気持ちになれて嬉しかった。


あと、、、健さん、これまで作品でベッドシーンあまり、愛のないヤツが多くて、いつか愛あるやつがやりたいと「ひとよ」の時話してて(firstlove初恋の恒美とは一応愛はあったかな)今回は無事遂行出来たのかなーなんて(笑)恋人になる前とはいえ、弥生への慈しみが全面に出てましたよね。短かかったけれども、とっても美しかったです。そこも見どころなんだけどなぁ(笑)。


揺れる人々の中にあって、仲野太賀くんとともさかりえさんの安心感が拠り所でしたよね。自分が素直でいられる人がいたら有難いですよね。芝居とは超えたところで、ご本人の人柄みたいなのも投影されてて余計素敵なお2人でした。


ペンタックス約の中島歩さん、落ち着きのある方ですよね。存在そのものが。遅ればせながら初めて拝見しました。低い声も渋くて素敵。健さんと同い年なんだそうです。山田監督や長澤まさみちゃん、撮影の今村さんも健さんと1つ2つしか変わらない。ほぼ同年代で作り上げた今作。30代の方に1番響くんじゃないかな。過去の恋愛と、今の恋愛、もしくは夫婦。色々あって今独りの人にももちろん。


河合優実さん、藤代を詰るような、からかうような、蔑むような、絶妙なお芝居。それに応じる藤代が、みるみる顔が歪んで、ちっとも言い返せない藤代が情けなくて。短いシーンだけども、強烈なインパクト。firstlove初恋でのシーンもいつ見ても憎たらしいです(笑)。強烈と言えば竹野内豊さんも。ヤングケアラー問題てことになるのかな。妻に出ていかれて病んだのかな。春を支えるのに必死と言いつつ、自分がすっかり娘に依存してしまっている。いくつかヤングケアラーのドラマなども見たけど、子供を所有物のように独占してしまっている悲劇。やっと旅に出たという冒頭の春は、自分の身の上から初めて父親に抵抗出来たのか、それとも父が死んだのか、そこはこちらに、委ねられるんだけど、そこはこの作品の本質じゃないから委ねられて全然いい場面だよね。少なくとも旅に出た春の顔は健やかで、晴れ晴れとしている。


あと、書けばキリがないんだけど、登場人物たちのお顔のアップが凄く多かったように思えた。みんな顔で芝居出来る人ばかりだったから、絵柄がスクリーンの大きさに負けてなかったけど、何か理由があったのかな。健さん、横顔が美し過ぎたよ。健さんすごい横顔多用されてたよね。麒麟をなんて目で見つめるんだよぉ。

 

あと、フィルムをゆっくりと拭き取る健さんが、beginningで剣心が刀を磨くシーンと被ったのは、私だけではないはず(笑)


最後に感想と言うよりも、藤代と春のように大学で出会って大学で別れた人の話。初めての濃密な恋愛だったもので別れる時人に仲介してもらって(私が子供過ぎたので)、最後の別れの場所が正しくホームでした。手を振られたら悲しすぎるので、手を振らないで欲しいとお願いすると、動き出す電車の向こうで、ホームの彼が手を振りたそうにこちらを見ていて。その光景が忘れられない。いやぁ、どうしてるかなぁ。この映画を観てるかなぁ。