「・・・あの額縁を、いじって扉を開けてしまったんですか?
あそこは・・・・・・・・・!」
ディングレーがつい、身を乗り出すと男に訊ねた。
「あそこは、どうした?」
流れる黒髪とがっしりとした肩の、威厳の塊のような気位の高く荒っぽい様子のディングレーと、巨人のように立派な体格のオーガスタス。その横の小さな美少女のような可憐なレイファスに一斉にじっ。と見つめられ、男はその立派な騎士達に気後れしたように、しどろもどろに成った。
「・・・その・・・古い造りで、先日掃除した後、扉を一斉に開けられる仕掛けが、壊れたばかりで・・・・・・・・・」
ディングレーは一気に、青冷めた。
「・・・あの無数の扉を今、連中は一つ一つ、開けて回ってるんだぞ?!
一斉に、開ける装置があったのか?!」
だが召使い頭は泣き出しそうに顔を歪めた。
「・・・だから、そのからくりが、先日壊れたばかりで、職人はまだ、直していないんです!」
「どうしてとっとと、直さない!」
ディングレーが怒鳴ると、オーガスタスが彼に控えろと、静かに警告した。
「彼を泣かすな」
ディングレーはオーガスタスを見上げ、そして召使い頭を、見た。
その茶色の瞳が潤んでいるのに気づき、慌てて付け足す。
「俺は怒ってるんじゃ、無いぞ!」
が、どう聞いても怒鳴り声で、説得力が全然無いな。とレイファスは俯いた。
オーガスタスが彼に静かに告げる。
「・・・ともかく方法があるんなら、試したい。
そのからくりの場所に、案内して貰えるか?」
召使い頭は、その大きな男の声がとても穏やかなのに、ほっと安堵し、頷いた。
案内する男とオーガスタスの後に続くディングレーは、隣のレイファスにささやいた。
「・・・どうしてオーガスタスだと、あの男はあんなに安心するんだ?
俺だって・・・優しかったろう?
まあ・・・それなりに」
レイファスは曖昧に、笑った。
「・・・うん。
それなりには、優しかった。
・・・かも、しれない」
その返答に、やっぱり怒ってるとしか見られなかったんだと気づき、ディングレーは俯いて、吐息を吐いた。
つづく。

この連載を、始めから読む


ぽち。してね


こっちもね
天野琴音のその他の作品
アースルーリンド 
『ファントレイユとの出会い』 大人のファントレイユが近衛で大活躍してます!
『教練校での出来事』> 入学したてのファントレイユに貞操の危機が?
『野獣のうぶな恋心』 天然テテュスに惚れ込む、遊び人のグエンの翻弄される恋心
『ゼイブンの夢。』 ファントレイユの教練入学でゼイブンがパニック!
『確かなもの』 ギュンターの生い立ち
『ドゥーゼンの、思い煩い』 成り行きでローランデを犯したドゥーゼンは、ギュンターに睨まれ捲り・・・。その他SF
『Memory of Haruka or the far past』 彼はかつて、アトランティスに居た・・・。
『キリスト教圏では絶対書けないショート。』 キリストの、もう一つの物語
創作日記は
こちら
登場人物紹介
は、こちら
アースルーリンド用語集
はこちら


ぽち。してね