アースルーリンド外伝。ファントレイユとレイファス。『幼い頃』21 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

「ゼイブン・・・・・・・・・」
セフィリアが、目を、丸くした。
彼は名を呼ばれて微笑むと、セフィリアを、抱きしめる。
「会いたかった」
「そう思われるんなら、もっと頻繁に帰ってらしたらいいのに」
女中頭に、嫌味を言われても、彼は怯む様子を、見せなかった。
「どちらに、行っていらしたの?」
セフィリアに聞かれて、ゼイブンは彼女に微笑む。「君の兄上は、家の事情を良く、知ってらしてね。今度は南領地ノンアクタルだった。いつも必ず一番遠い場所に、飛ばされる」
「私が頼んでる訳じゃないわ」
セフィリアが言うと、ゼイブンは笑った。
それでつい、セフィリアは嫌味を、投げかけた。
「で?南にはエキゾチックな美女が、さぞかし多いんでしょうね?」
ゼイブンはそれはにっこり、微笑むとささやいた。
「でも、君が一番だ・・・・・・・・・」
セフィリアはそう言って顔を寄せてくる夫に、冷たい視線を、送った。
ファントレイユとレイファスは、テラスでお茶をしている母親と乱入する父親の姿を、庭の大木の影で、見つめていた。
会話は筒抜けだった。
「君のお父さん、『神聖神殿隊』付き連隊だっけ?」
レイファスが聞くと、ファントレイユは頷いた。
「なら、アイリス叔父さんの、部下なんだな?」
ファントレイユは頷いて言った。
「セフィリアが、実家は大貴族なのに父さんは違うって。本当は随分、兄上の前じゃ、恥ずかしいって・・・。
どうして、恥ずかしいのかな?」
「セフィリアが、ブラザー・コンプレックスだからさ。兄さんのアイリスがあんまり立派で、君の父さんが見劣りするんだ」
「ブラ・・・・・・・・・?」
「セフィリアの兄さんのアイリスが、君の父さんよりうんと格好いいって事!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ファントレイユはつい、俯いて黙り込んだ。
その時、セフィリアの、低く激昂した声が響いた。
「・・・ファントレイユが、襲われたのよ!貴方、父親としての自覚が全然、無いのね!」
ゼイブンは、セフィリアを見つめて聞いた。
「襲われた?だって君が領地の外に、出さないだろう?屋敷に、押し入られたのか?」
「・・・レイファスと一緒に、抜け出したのよ!
それで・・・素行が悪くて出入り禁止した、フレディって使用人が、あの子を・・・・・・・・・」
セフィリアは思い出すのもぞっとする、という様に、体を震わせた。
ゼイブンは、再会の口づけはお預けだな、と言わんばかりにタメ息を付くと、彼女の元を離れて、木陰に座るファントレイユの横に、腰掛けた。
「フレディに、襲われたって?」
ファントレイユはまた、暫く離れても忘れないように、という表情で、父親の顔をそれはじっと、見つめていた。
「・・・女の子と間違われて、口づけされたんだ」
途端、ゼイブンはくっ!と笑った。
レイファスが途端、ムキになった。
「笑い事じゃ、ないと思う!」
だがゼイブンは、聞く気無く、ファントレイユに尋ねた。
「で?大人しくしてたのか?」
ファントレイユは俯いた。
「お腹を蹴って逃げたけど、直ぐ捕まった」
「体の、でかい奴か?」
ファントレイユは、顔を上げた。
「うんと」
「それで?」
ファントレイユは下を、向いた。
「足を掛けられて転ばされて、のし掛かられてまた、口づけされた」
ファントレイユは、ムカムカしてるみたいだった。
自分の、敗戦報告が気に入らない様子で。
レイファスもそれに気づいたが、ゼイブンも知ってるみたいだった。
「で?どうしてそんな奴にそんな事されたのか、解ってるか?」
レイファスは、あんな野蛮な奴がどういう気だなんて、解るもんかと言いたかったが、ファントレイユにはその問いの答え方が、解っているようで、俯いた。
「・・・手招きされて、付いて行ったからだ」
ゼイブンは、頷いた。
「随分、間抜けだな?」
ファントレイユは顔を、揺らした。
ゼイブンは、言った。
「なあ、ファントレイユ。セフィリアは女だから、男に守ってもらえる。だが同じ顔でもお前は男だ。どうする?セフィリアみたいに、守ってくれる男でも、作るか?」
最低に失礼なその男に、レイファスはむかっ腹立ったが、ファントレイユは俯いた。
「・・・だから、アロンズは逃げたの?僕から」
「アロンズ?」
「守ってくれて、フレディと殴り合ったんだ」
ゼイブンはまた、くっ、と笑った。
「そうか。凛々しかったか?」
ファントレイユは、少し頬を染めてこくん。と頷いた。
だがこの時初めて、その男は焦った。
「・・・まさかそのアロンズの事をうんと、好きじゃ、ないよな?」
ファントレイユは顔を上げたが、どうしてそんな聞き方をするのか解らないように、言った。
「とても、好きだよ?」
ゼイブンがいきなり、レイファスを、見た。
「君から見て、どう思う?」
五歳の相手に、こう聞くか?とレイファスは思った。が、応えてやった。
「ファントレイユは解ってない。とても素直にアロンズに、懐いてる」
「・・・懐いてる、だけか・・・」
途端、ゼイブンが胸を撫で下ろした。が、レイファスはここが好機とばかり、つぶやいた。
「ファントレイユの方からねだって、口づけして貰って、彼は凄く、嬉しかったみたいだ」
ゼイブンがまた、ぎょっとして、小さな息子を、見た。
ファントレイユはどうして彼がそんなに驚くのか、解らないといった表情で、見つめ返した。
レイファスは、ゼイブンの慌てふためく様子に、喉の溜飲がすっと下がった、爽やかな気分になって、にっこりと微笑んだ。
「・・・口づけ、して貰ったのか?」
ファントレイユが、レイファスを、見た。
「レイファスも言っていたけど。まずいお菓子の後は美味しいお菓子を食べるといいって。
フレディのはまずいお菓子で、アロンズは美味しいお菓子だった」
ゼイブンは、ますます青冷めた。
「アロンズに口づけられて、嬉しかったって?!」
「・・・気分の悪かったのが、無くなった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ファントレイユ。お前、自分が男だって、解ってるか?」
ファントレイユは途端、うんざりした顔を、した。
「レイファスと同じ事を聞くの?解ってるに、決まってるのに!」
ゼイブンはレイファスを、見た。どうやらもう彼の事を、“べっぴん"だなんて、呼ぶ余裕すら、無いようだった。
レイファスは止めを刺すように、口を開いた。「・・・・・・・・・ファントレイユは好きな相手なら男でも、構わないみたいだ。口付けされても」
ゼイブンは、思い切り、顔を下げて、沈黙した。
だが、顔を上げて思い直したようだった。もしここで自分が引き下がったら、息子の未来は、無くなると思ったらしく。
「・・・ファントレイユ。女の子で好きな子は、居ないのか?」
ファントレイユは、とても困った。領地内に居る女の子は大抵、うんと年上か年下で、年下の女の子は、まるっきり子供だ。
「・・・・・・・・・みんな好きだけど」
「だけど?」
「やっぱりアロンズが、一番好きだ」
ゼイブンが、がっくりと、首を、落とした。
レイファスが、それとバレないように意地悪く言った。
「父親と遊んで貰えないから、年上の男の子に憧れてるんだろう?」
ファントレイユは意地悪じゃなく、素直に、つぶやいた。
「それは・・・そうかな。だっていつも、女の人ばかりだもの。世話をしてくれるのは」
ゼイブンがますますがっくりと項垂れたのは、言う迄も、無い。
レイファスは心の中でつい、つぶやいた。
このまま父親を放棄し続けたら、ファントレイユは絶対!男にヨロめくぞ。と。
その素質は有りすぎたし、相手も彼を、放っては置かないだろう。
まるでレイファスの心の声が、聞こえたように、ゼイブンは言った。
「君に、剣や喧嘩の為の、家庭教師を、付けるとしよう」
ファントレイユがレイファスに全開の笑顔を、見せた。これでもう騎士ごっこをしている途中、見とがめられても、枝の剣を隠さなくてもいいんだと。
つづく。