そうして、三軒目の農家を訪れた時だった。
少し手前でアロンズは馬を止めると、その隅の大木の下に、居てくれと頼んだ。
「・・・樽を入れ替えるから、君達が乗っていたら、農家の旦那に見つかってしまう。
これを、食べてていいから」
アロンズはさっきの農家で貰った、干しりんごを、二人に渡して、大木の隅に居る彼らを振り向いて微笑んだ。
風がさやさやと頬を撫で、気持ちのいい緑に囲まれた場所で、とても、のどかだった。
「美味しいね」
レイファスが笑うと、ファントレイユもつい、微笑んだ。
がさっ!
音に、振り返ると少し離れた場所に、一人の青年が遠ざかる姿が、見えた。
振り向くその顔に、ファントレイユは見覚えが、あった。農家から、良く卵だとか焼きたてのパンだとかを届けていたフレディと呼ばれる、アロンズよりは少し年上の少年で、でもいつの間にか、出入り禁止を喰らった子だった。
ファントレイユが見ると、フレディは振り向いたまま、大木の下に居るファントレイユをじっと見つめた。
年の割に体格が良く、黒に近い焦げ茶の巻き毛で、浅黒い肌をしていて、黒に近い色の瞳を、していた。
まるでファントレイユが居るのを、さっきから知っていたように暫く、じっと見つめ続けていた。
レイファスが、不安になって言った。
「・・・ガラの悪い知り合いだね?」
ファントレイユは、そっとレイファスを見た。
「以前、屋敷に出入りしてた。アロンズも、知ってる子だよ」
アロンズと一緒だから、大丈夫。と、ファントレイユは言ったつもりだった。が、レイファスは彼がアロンズより年上で、その上体格もいいのに、少し不安げな顔を、した。
「君も何度か、顔を合わせた事が、あるの?」
ファントレイユは頷いた。
「初めは、他の子達と一緒に少し遊んだけど・・・。
でも、もう遊び友達にしてはいけないって、セフィリアに言われた」
レイファスは、頷いた。
「年上過ぎるから?」
ファントレイユは首を横に、振った。
「そうじゃなくて・・・。少し、乱暴な所があるからって」
「君に、乱暴な事をした?」
ファントレイユは、レイファスを見た。どうしてそんなに聞くのか、不思議だったが答えた。
「そうでも、無いけど・・・。溝に、落ちそうになった時、でも助けてくれた」
「セフィリアは、それを見ていたの?」
ファントレイユは、頷いた。
「・・・君を助けたのに、どうして遊び友達から外すんだろう?」
ファントレイユはその時の事を、思い出した。
「・・・落っこちないよう抱きしめられたけど・・・その後暫く、僕を離さなくて、セフィリアはそれが気に、触ったみたいだった。フレディは、自分はあんまり清潔じゃないから、僕に触るのがセフィリアは不快なんだって、言ってた。
・・・けどセフィリアは僕と遊ばせる子は大抵、お風呂に入れて綺麗にした子と遊ばせるのに。
何日もお風呂に入ってないデッロだって、僕と遊ぶ時はまずお風呂に、入れられるって」
「・・・その時、フレディは君に何か、ヘンな事を、しなかった?」
「ヘンって?」
「君、だって女の子みたいだし」
ファントレイユはもの凄く、むっとした。
「僕もそうかもしれないけど、君の方がうんと女の子に、見えると思うな!」
レイファスは、そんな事はとっくに、知ってると肩を、すくめた。
ファントレイユが、それは怒ってるみたいで、レイファスはもう口を開かなかった。
けど、直アロンズが、戻って来た。二人はまた、荷台に乗った。樽は中味がいっぱいになっていて、たっぷん、たっぷんと音を、立てた。
つづく。