![P1001533.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20210128/17/aaoo46/fb/7e/j/t02200392_0240042814888045199.jpg?caw=800)
高村薫氏の「照柿」上下(講談社文庫)を読んだ。
脳出血で倒れたときに読んでいた本が、手元に残っていたのでようやく読み終えた。
警視庁の警部補である合田雄一郎と、その幼馴染みである野田達夫が18年ぶりに再会することで起きてしまう殺人事件、ひとりの女を巡る物語である。あるいは人間の崩壊過程をリアルな日常描写のなかで淡々と描き尽した小説である。
合田雄一郎は、ある殺人事件の捜査をしているときに、鉄道線路に落下して轢死する女の姿を部下とともに目撃してしまう。落下してしまった女と一緒にいた男と、それを追っていた女・佐野美保子。その瞬間、美保子の存在を強烈に意識するようになる合田雄一郎だった。
そして、美保子は合田雄一郎の幼馴染みである野田達夫と不倫していることを知る。ひとりの女の存在がふたりの男の人生の歯車を狂わし、最後は工場労働者として家庭生活を営んでいた野田達夫が殺人事件の手配者になってしまうというストーリーである。
熱処理で炉の温度調整の不具合で、不良品に悩まされる達夫の日常風景や、捜査で一線を逸脱していく合田の日常風景の張り詰めるような描写が作品の重い主旋律となっている。
幼い頃、兄弟のように育ってきた雄一郎と達夫がが、接触したことで起きる不完全燃焼のような化学反応。その色である照柿色に飲み込まれていく、男たちの姿に慄然としてしまうような読後感である。
破滅してしまう人間というのは、その人生の各過程のなかで破滅因子をあらゆるところに潜ませているものである。パンパンに膨らんだ風船か、底無し沼のようなものである。