「私が出した答えなんだけど。」
「聞くよ。」
「(姉ちゃんの旦那)さんだっけ?」
「姉ちゃんの旦那だろ?」
「近々、極秘で会う。」
「会うって。大丈夫か?」
「もちろんパパ達も一緒に。誰にも言わないで時間空けられるか聞いてくれない?」
「なんで(旦那)なんだ?」
「1番あの人達の近くにいるから。他人だし。思ったままを聞きたいの。」
嫁は親父とも姉ちゃんとも直接会うことは無理だと自分で思った。
でも動くと決めたから見極めたい。
親父の本心も。
姉ちゃんの本心も。
姉ちゃんの旦那には1度しか会ったことがない。
それでも会うと決めた。
凄い決断だと思う。
「明日聞いておく。姉ちゃんにも内緒ってことだろ?昼間なら会社にいるから連絡するよ。」
「1時間とかでいいから。時間は合わせる。仕事終わってからでもいいし。あと、」
「なんだ?」
「あの家(実家)のことなんだけど。最悪私の名義にするか、売るかもしれない。」
「売る!?行く末をシミュレーションしてみたのか?」
「借金の形にする予定ではいるけど、応じなかったら土地は私の名義にする。こじれるようなら無くす。」
「いいのか?実家なんだぞ?親父はどうする?」
「誰の為だけにしたら1番良いのかを考えたの。あの人(親父)の為なら家は残した方が良いのかもしれない。でも私の為なら、家には良い思い出がナイから無くなった方が良いかなとも思ったの。」
「そっか。みんなの為にって思ったらそこは一致しないかもしれないな。」
「私の名義にするのも、私には気がすすまない。あの場所に私の名前が載ることは何となく嫌。」
「そこは臨機応変にってことか。最悪お前の名義にってことな。」
「うん。それと、ヨシおじさん(親父の兄貴)のことなんだけど。試したいことがある。」
「どんなことだ?」
「私は何も知らないフリをしてまた家に行く。家族の存在を確認したいし、あの庭には心残りがあるの。」
ヨシおじさんだけは勘弁だった。
「心残りって何だ?」
「凄く気になる一画があったの。もう少し居れば何かを思い出しそうだった。もう1度だけでも行きたい。」
ここだけは止めた。
「今はやめておかないか?これから事が動くって時にお前の体調が崩れたりしたらどうなる?ヨシおじさんのことは、また後にできないか?」
「記憶が戻ることはそんなに大変なことなの?」
「お前自身が気を失うのと一緒って言ったら想像つくか?その間、お前は自分で何をしてるか分からないんだから。確かめに行きたいのは分かる。大切なことなのも分かる。でもあっちもこっちもは無理だと思う。お前の体が耐えられない。」
「そうなんだ。じゃあまた後にする。」
「先延ばしにするだけだから。後でちゃんと確認しに行こうな。」
納得してくれたみたいで良かった。
会わせることは絶対にできない。
見た目は穏やかなのに。
腹の中は真っ黒で。
しかもオレとJがヨシおじさんが嫁の本当の父親だってことを知ってるって分かってるはずだから。
すました顔してオレも会えないし。
ヨシおじさんだって同じだと思う。
そこに何も知らない嫁がいたら。
何かしらの記憶が戻ったら。
大変なことにしかならない。
だからどうしても止めなきゃならなかった。