〇収録

第三巻 p148~193

週刊少年ジャンプ平成8年(1996年)36号掲載

 

 

〇解説

★設定(p148

主人公は麗(うらら)という16歳女性で、刻魔師(こくまし)という職業についている。

刻魔師は、自分の体に封紋という刺青を彫り、自らの肉体を触媒として「民に害をなす魔物」を封紋に封じ込め、自らの精神力によって有事の際に(封印された魔物を)使役する者たちであり、刺青召喚師(タトゥーサマナー)ともいう。

刻魔師は害をなす魔物から民を守ることで、民から謝礼を得ている。

一度封印された魔物を刻魔という。刻魔は、術者(刻魔師)の”気”のみが命をつなぐ糧(かて)となる。刻魔は刻魔師にコントロールされているので、民に害を及ぼすことはないが、それでも民は(合理的な理由ではなく感情的な理由で)刻魔を恐れている。

麗には、剣牂(けんそう)や響(きょう)などの刻魔がいる。

 

 

★p149

表紙。麗と剣牂が描かれている。1990年代の漫画同人誌を彷彿とさせる絵柄なように感じられる。久保は漫画同人誌の界隈で名をはせていた高河ゆんのファンだった。

 

 

p150157

冒頭に「時は未来 世は古代」とあるのは、「時代設定は(『刻魔師 麗』が発表された1990年代よりも)未来だが、舞台設定(俗にいう「世界観」)は古代に近い」という意味だろう。p150の2コマ目の「魔」は魔物という意味だと思われる。

麗は東劉(とうりゅう)という魔物を封じ込め、民を救っている。

東劉のキャラデザインを見て「ポケモンのイワークと少しだけ似ているかも」と感じた。ポケモンのアニメ放送が始まったのは1997年4月1日だが、原作となるゲーム「ポケットモンスター 赤・緑」の公開は1996年2月である。

p152で「東劉…」と呟いている魔物は東劉の兄貴である。

麗と剣牂は民を東劉から救ったにも拘らず、民は「人体とは明らかに異なる身体をしている剣牂」に怯えている。落ち込む剣牂を麗は「愛してるぜ」と言いながら抱きしめる。

 

 

★p158~161

剣牂は自分が麗に所属するようになった経緯を回想する。剣牂はもともと静紅という刻魔師に所属していたが、静紅は魔物に殺されてしまう。剣牂は魔物に立ち向かうも敗北し死にかけていたが、麗に救われたという過去を持つ。

 

 

★p162~163

麗は剣牂を封印させ、東劉を解封(封印空間から解き放つこと)する。麗は爺さん(辻頭虎斗斧)の家の中に入る。

 

 

★p164~165

爺さんは封紋を彫る職人。麗は爺さんに金銭を渡しているが、爺さんは「古びて今にも倒壊しそうなこの家」に愛着を持っており、建て直しに消極的である。

「カバチたれる(つべこべ言う)」は広島県の方言であり、久保は広島県出身である。

どうやら麗の背中には途中までしか彫られていない封紋があるらしく、その封紋を彫り上げてほしいと麗は爺さんに頼む。

 

なおp164の4コマ目における「サッサと コレ…彫り上げてくんねーと新しい刻魔(ヤツ)封印れ(いれ)らんねェんだよ」の「新しい刻魔」には2通りの解釈がある。

一つ目は東劉を指すという解釈で、二つ目は「麗が東劉の次に封印することになる刻魔」を指すという解釈である。

p167の4コマ目に「おぬしがさっき乗ってきた新しい刻魔」とあることから、一つ目の解釈を行う読者が多数派だろう。だが、麗は一度、東劉を右足の膝蓋骨あたりの封紋に封印している。

一つ目の解釈をしてしまうと、麗は右足の膝蓋骨あたりの封紋に東劉を封印することが既に可能となっているにも拘わらず、「背中の封紋を彫り上げてくんねーと新しい刻魔(ヤツ)封印れ(いれ)らんねェんだよ」と(爺さんに)述べていることになってしまう。

 

二つ目の解釈では、「新しい刻魔」は「麗が東劉の次に封印することになる刻魔」を指す。

つまり、麗は「たったいま東劉を封印したように、今後も封印しなきゃいけないような刻魔が現れるだろう。そのような事態に備えて『新しい刻魔』用の封紋を完成させなきゃいけない」と考えて、爺さんに背中の封紋の続きを彫ってもらっているということになる。

ネタバレとなるが、のちに麗は東劉の兄貴(霰座)を封印することとなる。

二つ目の解釈であれば「爺さんが背中の封紋を彫り上げていたお陰で、麗は霰座を(背中の封紋に)封印できた」となり、ストーリーの展開に矛盾や不自然さが生じない。

 

 

 

★p166

霰座が、爺さんの家の前で休んでいた東劉を発見する。

 

p167

解説を行ったり語尾が「じゃ」だったりと、ポケモンのオーキド博士を連想させるコマが多い。ただし、『刻魔師 麗』は1996年に発表された作品であり、ポケモンのアニメは当時まだ公開されていない。魚のスクリーントーンはゾンビパウダーでも使用されている。

因みに、霰座は氷魔という魔物であり、『BLEACH』の日番谷冬獅郎と類似した能力を有している。

 

 

★p168

1コマ目の麗の目を光らせる技法は、久保帯人作品でよく見られる。

「コンニチワ」とあるが、標準的な日本語表記をするならば「コンニチハ」となる。

カウパーとは性的興奮時に弱アルカリ性の粘液を出す副生殖腺「カウパー腺」のこと。

 

 

★p169

霰座の目には麗が「脳ミソスカスカ系の小娘」にしか見えなかったため、霰座は「麗に封印された」という東劉の話を信じることができず、東劉が自分を裏切ったと思いこむ。霰座は激怒し、東劉に対して「おんどれみたァなモン(オマエみたいな者)の生き死になんぞアウトオブ眼中やっ」と言い放つ。

 

 

★p170~173

霰座という名前を知った麗は霰座を封印しようとするが、麗と霰座の間に力の差がありすぎるようで霰座を封印できない。

麗が発している「封紋開口!開け 封ずるものの声!」「選択の双門 服従と死」「我が肉体の示す門をくぐれ!!」などといった台詞は、『BLEACH』でしばしば登場する詠唱を連想させる。

麗は「封印できないなら殺してしまえばいいんじゃない」と言って、「響」という魔弾(魔物の一種)を弾丸のようにして放つも、霰座はその攻撃をあっさりと防ぐ。p173で霰座の台詞の吹き出しが麗に矢印となって刺さっている。

 

 

★p174

霰座に「弱い」と言われてキレた麗は霰座を「包茎野郎」と罵倒する。

麗は剣牂を開放して霰座を倒そうとするが、爺さんが「今のお前には3体以上(の刻魔)を同時に実体化(体外に開放すること)させるのは体の負荷が大きすぎる」と言い、剣牂を開放するのを止めようとする。

それを聞いた霰座は「麗が東劉を殺せば、麗は体の負荷のことを気にせずに剣牂を開放できて、霰座と麗は正々堂々と戦えるじゃん」と提案する。

だが、東劉が死ぬのを避けたい麗は自分の体を限界まで使うことを決断し、剣牂を開放する(東劉が1体目で、響が2体目であるため、3体目となる剣牂を開放することは、3体以上を同時に実体化することを意味する)。

 

 

★p175~181

麗は剣牂に「霰座を封印するから、霰座の動きを止めてほしい」と言う。剣牂は麗の体力の限界を心配する。

 

★p182~187

剣牂は善戦するが、麗の“気”がもたなくなってしまい、追い詰められる。p184で、霰座は麗の所有物である刀を奪っている。しかし、麗は「響」の他にもう一体、魔弾を持っており、魔弾「鏨」(ざん)を発動する。霰座を倒した麗は霰座の封印に成功する。

 

★p188~189

封紋内亜結界(封印空間)で会話をする霰座と剣牂。剣牂によると、麗は一番当てやすい(刀を持った霰座の)手を狙わず、一番よけやすいところを狙って魔弾「鏨」を発射したのだという。そのような攻撃は霰座を余り傷害しないで済むというメリットが霰座にある一方で、麗自身にとってはメリットがない。しかし、麗は身寄りがないためなのか、「私達(魔物のこと。特に刻魔)」のことを何よりも大事にしてくれるのだという。

 

★p190~192

剣牂は(静紅という主を喪ったあと)麗に所属するようになった経緯を思い出しながら、麗への感謝や恩を霰座に伝える。それを聞いた霰座の顔は明るくなっていく。

「だから私はここにいる」はデジタルモンスターの名台詞「だから今、僕はここにいる」に似ている気がするけれど、多分これは気のせいだろう。

 

★p193

麗と霰座の戦闘で半ば倒壊している爺さんの家。爺さんは「どうあっても建て直せということ…らしいの」と気に入っていた古びた家を建て直すことにする。

爺さんは戦闘で疲弊した麗の頭を冷やしているが、麗は「へーき…もう一人にはならないよ」と寝言を呟いている。これは恐らくp191の回想シーンの続きであり、麗は剣牂に「へーき…もう一人にはならないよ」と語っていたのだろう。

最後のコマをよく見ると、麗の右腕に一つの封紋(刺青)が見えるが、p170の1コマ目にも同じ封紋がある。

 

 

 

〇総評

前作「ULTRA UNHOLY HEARTED MACHINE」よりもコメディ色が少し強くなっている。久保は2001年ごろに<その61 あなたにとっての「ヒーロー」もしくは「ヒロイン」を教えてください。 >と質問されて「ヒーローはジョン・ボン・ジョヴィ。ヒロインは道太貫麗。」と答えており、麗をかなり気に入っている様子。

 

 

〇追記

ネットで『刻魔師 麗』に関する資料が多数あったので、それらをnoteの記事にまとめた。