〇収録
第二巻 p144~179
週刊少年ジャンプ(赤マルジャンプ)増刊号1996年Summer Special掲載
〇解説
★設定(p144)
この読切漫画の主人公のベインハルト・ロズナーは、凄腕のデリーター(抹殺屋。金銭さえ払えば人間や建造物や組織などを抹殺する犯罪者のこと)。ベインハルトにはかつて恋人がいたが、マフィアが5年前に密造したドラッグ「ウルトラ・ホーリー」でその恋人は死んでしまった。ベインハルトは、その恋人とよく似たアンドロイド(人間そっくりのロボット)「ティナティナ」とペアを組んでいて、ティナティナからは「べオ」と呼ばれている。
★p145
国家治安維持局の兵士たちがマフィアの廃人兵一人を射殺する。
★p146~149
・ロズナーが住んでいる国(以下「この国」と表記)から離れたコショウ連邦の海運がロズナーに「ただでさえメルカルド共和国の鉄鉱に押されててやばい」「あの海峡の賊を片付けてもらわないと…」と仕事の依頼をするが、「桁が二つ違う」と報酬が低いことを理由に一蹴される。
・すると、背後から「(桁を)二つと言わず三つ増やそう」と提案する男が現れる。ロズナーはその話に乗った。その男はp145で「オーケー」「完了だ」と言っていた人物。ティナティナは国家治安維持局を「国家の犬」と言うが、ロズナーは「惜しいね正解は政府の犬だ」という。ロズナーが住んでいる国(この国)の国家治安維持局は、この国の政府の言いなりになっているようだ。
★p150
・マフィアの廃人兵は、合成麻薬「神の祝福」を服用されていた。この麻薬は「乱用者を命令実行能力のある廃人にさせる作用」がある。どうやら「組織のための兵隊を作る」ために開発された麻薬のようだ。
・ドラッグの説明のあいだ、ロズナーは「ウルトラ・ホーリー」という麻薬と車いすに乗った恋人を思い出す。
★p151
・国家治安維持局の男は報酬を三桁増やそうとするが、ロズナーは「一桁でいい」と答える。ロズナーによれば、「コショウ連邦の海運は麻薬のビジネスで大金を稼いでいる」のだという。コショウ連邦の海運が言っていた「あの海峡の賊」とは、「神の祝福」を開発したマフィアのことなのだろう。そして、その海運とそのマフィア(海峡の賊)は、麻薬のビジネスをめぐって争っていると考えられる。
・国家治安維持局からのオファーを受け、ロズナーはそのマフィアを倒すことにした。
・国家治安維持局の男から「ドラッグは嫌いか」「ポリシーか?」と訊かれたロズナーは「個人的感想だよ」と答える。
★p152
白い戦車に乗ってマフィアのアジトに向かうロズナーとティナティナ。2コマ目の矢印は、初期の久保が多用していた。ロズナーは「マフィアを合法的に潰す手段なんかいくらでもあるのに(国家治安維持局の親玉の)政府は何で わざわざ俺達に依頼したんだろ?」「それとも何か合法的にマフィアを潰せない理由でもあるのか?」と疑問に思う。ティナティナはプリンが大好物で、ロズナーに「あとでプリンやるぞ」と言われて元気を出す。
★p153~155
ティナティナはロズナーの有能な片腕として活躍しており、アジトの見張りの末端二人組をあっさりと倒した。見張りの末端は「たりーよな」「見張りなんてジャンキーにやらせればいいのに」と愚痴をこぼしていた。
★p156
ロズナーの恋人はティナという名前らしく、アンドロイド「ティナティナ」は今は既に亡くなっているティナの姿と記憶を受け継いでいる模様。もともと足が不自由だったティナは麻薬の売人に「足が治る」と騙されて麻薬「ウルトラ・ホーリー」に手を出してしまった。その結果、ティナは苦しみながら息を引き取ったという過去がある。
★p157~158
アジトからマフィアの末端兵士が応戦しに来るが、ロズナーらに圧倒される。
★p159
マフィアの黒幕が登場する。黒幕はサングラスをしている。
★p160~162
黒幕は抹殺屋(デリーター)の戦闘力の高さに焦る。黒幕はクラッカー(ここでは爆薬という意味)を用意させ、ロズナーの前に姿を見せることにする。p161で、ロズナーはドラッグという単語を口走った敵に怒りをぶちまけている。
★p163~165
黒幕は「自分の組織のメンバーだった女」をロズナーの前に見せつける。この女は合成麻薬「神の祝福」の製造目的を知り、脱走を試みたため、記念すべき兵士第一号にされる予定だったが、麻薬のバランスが合わず今じゃ一人で歩くことすらままならないと伝え、この女を人質のように扱う。ロズナーは車いす生活だったティナの姿を重ね合わせ、この女を救うため、黒幕にその女をよこすよう叫ぶ。
★p166~170
だが、その女には爆薬が仕掛けられていることをティナティナが察し、身を挺して爆薬からロズナーを守った。
つまり、その女は「クラッカー」であり、一連の黒幕の行動はロズナーを爆殺するための芝居だった。
ティナティナはその衝撃で足の装置に支障をきたしてしまう。
ティナがウルトラ・ホーリーに手を出したのは売人が「足を治せるよ」とティナを騙したから。
ロズナーは「あのときドラッグで生きている奴らなんて信じない」と決めたのに……と後悔する。
★p171
ロズナーは黒幕を殺そうとするが、黒幕から「俺達(マフィア)が政府の依頼を受けてウルトラ・ホーリーを製造した」という衝撃の事実を聞かされる。
この国には「首相→政府→国家治安維持局」という命令系統が存在し、なんと政府はマフィアに麻薬を製造させていたという衝撃的な事実が明かされる。SV(ソリビジョン)とは立体テレビのこと。
★p174~176
黒幕はロズナーに「一緒に手を組んで政府に報復しないか」と提案するが、その提案をロズナーは拒む。
★p177
ロズナーが黒幕を射殺したのはp165の回想シーンのようにティナと同じセリフを聞きたくなかったからだと考えられる。
★p178~179
アジトを完全に破壊して、白い戦車に乗り込むロズナーとティナティナ。ロズナーは足が不自由だったティナのことを思い浮かべながら、「爆薬を庇って壊れてしまった足の部分は、すぐに歩けるようにしてやるよ」とティナティナに言う。二人は、二人だけで首相官邸と軍部を抹殺する計画を立てている模様。具体的な抹殺方法を考えるティナティナにロズナーはプリン食べないかと提案する。
〇総評
布石・伏線が山のようにあり、ストーリー展開が素晴らしい。しかし、良く読み込まないと、ストーリーが頭に入ってこないので、雑誌掲載時の読者アンケート人気は良くなかった可能性がある。
ただ、本作の「アンチ・ドラッグ」精神は強烈なメッセージ性を放っており、少年漫画でここまで踏み込んだ読切作品は少ないと思われ、本作は久保のユニークさを感じさせる。