みなさんは「情報漏洩」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
大企業がニュースで大々的に謝罪会見を開いている姿を思い浮かべる人も多いかもしれません。正直なところ、私自身も「自分の会社には関係ないだろう」とどこかで思っていました。
ところがある日、まさに自分の会社で不正アクセスによる情報漏洩事故が発生してしまったのです。今回はそのときに経験したこと、学んだことを、できるだけリアルにお伝えしたいと思います。
発覚の瞬間と初動対応
ある日、社内のシステム担当から「サーバーに不審なアクセスがある」との報告が入りました。最初は「外部からのスキャン程度かな」と思っていたのですが、調査を進めるうちに一部データベースへの不正アクセスが確認され、顧客情報が流出した可能性が高いことがわかったのです。
最初の数時間は本当に混乱しました。誰に報告すべきか、どの範囲で情報を共有すべきか、社内に明確なフローが整っていなかったため、「何を優先するべきか」が分からなかったのです。
ここで痛感したのが、社内体制の未整備でした。
個人情報保護委員会への報告義務
情報漏洩が「疑われる」段階でも、企業にはすぐに対応が求められます。特に今回のケースでは顧客の個人情報とマイナンバーが含まれていた可能性がありました。
日本の個人情報保護法(改正個人情報保護法、2022年施行)では、漏洩・滅失・毀損などの「個人データの漏洩等事案」が発生した場合、個人情報保護委員会への報告義務と本人への通知義務が定められています。
具体的には、
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マイナンバーを含む場合
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財産的被害が生じるおそれがある場合
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不正の目的をもって行われたおそれがある場合
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1,000人を超える個人データが漏洩した場合
このいずれかに該当すれば、速やかに委員会へ報告しなければなりません。
私たちの事案はまさに該当しており、緊急で個人情報保護委員会に事故報告を行うことになりました。
個人情報に該当する範囲と「死亡者情報」
このとき改めて学んだのが、「個人情報」の範囲についてです。
個人情報保護法の定義によると、生存する個人に関する情報が対象となります。つまり、死亡者の情報は個人情報には該当しないのです。
これは一見細かいようですが、事故対応の実務では重要でした。なぜなら「亡くなった方の顧客データ」も一部含まれていたのですが、それは法律上の個人情報には該当しないため、報告対象から外せるのです。
ただし、「倫理的にどう扱うべきか」という観点はまた別。たとえ法的には対象外であっても、遺族感情や会社の信用を考えれば、慎重に取り扱うべきだと強く感じました。
社内の情報伝達体制の課題
今回の事故で最も痛感したのが、取締役会を中心とした情報伝達体制の不備でした。
「どの段階で役員に報告するのか」「広報への相談は誰が窓口になるのか」などが曖昧で、初動のスピードが遅れてしまったのです。
結局、取締役会を緊急招集し、意思決定のラインを明確化しました。ここで決めたのは:
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システム担当 → 情報セキュリティ責任者へ即時報告
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責任者から法務部・広報部へ同時に通知
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重大事案は取締役会へ即報告し、広報対応方針を決定
このように**「誰に、いつ、何を伝えるか」**を明文化することが、危機対応では何より重要だと実感しました。
再発防止策の提出
事故後は当然、個人情報保護委員会への報告だけでは終わりません。
委員会からは、原因調査と再発防止策の提出が求められました。
私たちがまとめた再発防止策は:
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システムの脆弱性診断を定期的に実施する
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アクセスログの監視体制を強化する
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社員への情報セキュリティ教育を徹底する
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緊急時の対応マニュアルを整備する
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取締役会レベルでの情報伝達体制を恒常化する
委員会への提出だけでなく、社内外に「ここまで対策している」と説明できることが、信頼回復の第一歩になるのです。
今だから思うこと
今回の経験を通して痛感したのは、「情報漏洩は決して他人事ではない」ということです。
不正アクセスは日常的に起きていて、その一つが自社に当たるかどうかは運に近い部分もあります。でも事故が起きたときの備えは、努力次第で整えられるのです。
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報告義務を理解しておくこと
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個人情報の範囲を正しく認識しておくこと
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社内の情報伝達フローを事前に確立しておくこと
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再発防止策を「机上の空論」で終わらせないこと
これらを実行して初めて、「万が一」に備えられるのだと思います。
まとめ
不正アクセスによる情報漏洩事故は、どんな会社にも起こり得ます。
私たちの会社でも実際に起こり、個人情報保護委員会への報告義務、社内体制の整備、個人情報の範囲の理解、取締役会による情報伝達体制の確立、再発防止策の提出といった一連のプロセスを経験しました。
今振り返れば、この経験はつらかったけれども、組織として大きく成長するきっかけになったと感じています。
この記事がもし、同じように「情報管理」を課題にしている方の参考になれば嬉しいです。