認知症の母の為にジグソーパズルを買った時に思い出した事がある。
もう何十年も昔の事で、今は亡き父もいて、母も若く元気だった。私は働き始めたばかりで弟は学生だったあるお正月休みの事だ。
誕生日にもらったミッキーマウスのジグソーパズルを楽しもうと私は、自室で箱を開封して2000ピースの大作に着手した。
すると母が
「そんな狭い所で無理やろ。居間でひろげたら?」と呼びに来た。
居間に行くと既に大きな無地の布が広げられていた。
「ここにピースを全部あけてまず色別に分けていかんと終わらへんぞ」
と厳かに父が言う。
特に助けを求めた訳でもないのに、なぜか終わらない夏休みの宿題のように弟を含めた家族全員でジグソーパズルをする事になった。
何時から始めたのかは記憶にないが、それは深夜まで続いた。2000ピースは難しく全く進まなかった。
学生の弟と自営業の両親は次の日も休みだったが、私は仕事だった為、
「明日仕事やし、私もう寝るから」と戦線を離脱した。
「はいはい。お休み」
あとの3人は、こちらを振り向く事なくそのまま作業を続けていた。
朝起きると、居間に行った私は愕然とした。
家族3人が仮眠状態で寝転んでいた居間にあるちゃぶ台の上に出来上がった2000ピースのパズルがババーンと置かれていた。
「出来上がってるやん‼️💢」
私の絶叫に目を覚ました母が、
「あー、出来たで。明け方までかかったけど。良かったな。」
「いやいや、なんでやねん⁉️💢ジグソーパズルはその過程を楽しむもんやん‼️最後のどんどんハマっていく所が楽しいんやん‼️私のジグソーパズルを私抜きで完成させてどうすんねん⁉️」
父は十三回忌を迎え、母はもう30ピースも完成させることはできない。新年なのに、いきなり激怒から始まったあのお正月を今は懐かしく思い出すばかりだ。