レトロな昭和の喫茶店にハマって色んな喫茶店でモーニングを食べ歩いていた事がある。


特にさびれた商店街にあるような小さな喫茶店が私のお気に入りだった。

あるほとんど人通りのない小さな商店街に〇〇2号店と書かれた喫茶店を見つけた。

1号店など無さそうな喫茶店だったのだが、狭い入口の割には奥行きがあって4人がけの椅子が6個と2人がけが4つ、カウンター席が10個ほどあった。

空いていた事もあって、私は店の奥にあったマスターがよく見える4人がけの席に陣取りモーニングを頼んだ。

マスターがコーヒーを入れる所を見るのも楽しいからだ。かと言って初めてのお店でカウンター席に座るのはハードルが高い。

ちょうど良い席が空いていて良かったなと私は特に何をするでもなくモーニングを待っていた。

すると、ほどなく入口のドアが開いて腰の曲がった小さなおばあさんが店に入ってきた。おばあさんは、カウンターの中にいるマスターに声をかけながら奥まで歩いてくると、何の迷いもなく私が座っている席にドサっと自分の荷物を置いた。

えっ…?

私はあたりを見渡した。他の席はめちゃくちゃ空いている。4人席なんてあと4つ空いている。

なぜ⁉️なぜなんの迷いもなくここに荷物を置く⁉️

私の視線など全く感じていないように、おばあさんは荷物を置いたまま奥にスタスタと歩いて行き何十個と並んだ小さな引き出しの一つをあけ薬の袋を取り出した。

自分の薬をお店に置いてるの⁉️

コーヒーを入れるマスターを見たかったはずの私だがおばあさんの動きから目が離せない。

そして、おばあさんはそのまま私の座っている席まで戻ってくるとそこに座った。

いやーっ‼️😱なんでーっ⁉️😱

ものすごく動揺している私の所に、マスターがモーニングを運んできた。

私は当然マスターがおばあさんに注意してくれるものだと期待していた。

それなのにマスターはおばあさんに

「あっ薬用の水すぐ持ってくるから」

と言ったのだ。いや!あかんやん!ここに水持ってきたら、この席にずっと座るやん!ここ私が先に座ってた席やん!

心の中ではマスターにまくし立てていた私だが、実際は何も言えずに、喉が渇いて普段は飲まない水をゴクゴクの飲んだだけだった。

結局、おばあさんは、当たり前のようにそこに座り続けマスターともう1人いたお客さんと世間話をし始めた。私はやっと悟った。そう!このテーブル席はおばあさんの席だったのだ。よそ者で新参者の私がそれを知らずに恐れ多くもその席に座ってしまったのだと。間違っていたのは私、席を変わるべきは私だったのだと。盛り上がる世間話をよそに、ダッシュでモーニングをたいらげ、私は逃げるようにその店を出たのだった。

その事がトラウマになり、私の昭和のレトロ喫茶店巡りは終わりをつげたのだった。