【横浜高はこうしてドクターKを打ち砕いた】
――小倉清一郎氏(横浜高コーチ)特別寄稿
松井裕樹君はプロ注目の好投手だが、桐光学園の野呂雅之監督とも仲がいい。
だからあえて、ウイークポイントを言わせてもらう。
25日の神奈川大会準々決勝で
横浜高は、松井君に対してスタメンにあえて左打者を5人並べた。
セオリーではないが、松井君のスライダーは右打者の懐に
食い込んでくるため、右の方が打つのは難しいからだ。
ところがこの試合、スライダーの落差は、いい時の半分になっていた。
昨年は宇川一光君(東農大1年)という上級生捕手が、
ひたすらワンバウンドのスライダーを止めてくれていた。
今年は1年生捕手のため、松井君は知らず知らずのうちに置きにいっていたように見えた。
<配球、セットにあるパターン>
配球にも偏りがあった。スライダーの3球連続は90%ない。
つまり、スライダーが2球続いたら次はないということ。
直球を続けるのも2球まで。
「3球目は違う球がくる」と横浜高打線全員が頭に入れて臨んだ。
捕手がスライダーを嫌がっているから、100球投げたら、
直球が55~60球、スライダーが25~30球、チェンジアップが15球程度。
25日は最速149キロが出たようだが、平均は140キロ前後だったように見えた。
暑さ対策はできていたか。スタミナ面にも課題があるようだ。
クイックもうまくない。だから盗める。
セットポジションもパターン化していた。
セットして2~2・5秒で牽制球。
3・5~4・5秒でホームへ投球する。
「セットして3秒経ったら走れ」と徹底した。
牽制を続けない。3球続けることはまずない。
にもかかわらず、盗塁は俊足の浅間が1つ成功しただけ。
他の選手は挑戦すらしなかったのは残念だった。
<マシンを使って「見逃す」練習>
横浜高が「打倒・松井」でやってきたことは、
バッターボックスの後ろに立ってカーブマシンの球を見逃す練習の繰り返し。
ワンバウンドのスライダーを見極めるためだ。
ベルトからヒザの高さに落ちてくる球だけを打ち返す練習もした。
だから松井君のワンバウンドのスライダーは、だいたい見逃すことができた。
この練習は奏功したといえる。
球数を投げさせて後半勝負という作戦がハマった。
球威対策は「150キロ」に設定した打撃マシンに振り負けないよう、
徹底的に振り込んだ。これ以上は各自に任せたが、
高浜や3番を打たせた渡辺元智監督の孫でもある渡辺佳明(2年)、
松井君から3安打した6番の松崎健造(2年)あたりは、
さらにマシンを2、3メートル前に出して体感速度を155キロくらいにして振っていた。
松井君は、基本的には常に全力投球。
今大会で体が暴れ出したのが気になった。
踏み出した右足が地面に着く前に右肩が開く。
地面に着いた右足が三塁側にズレてしまうから、
タメがきかず、十分に腕が振れない。
今大会はボールがかなり高めにきていた。
だから、低めは捨てて高めを狙うよう指示した。
準々決勝での高浜、浅間の本塁打は、いずれもボールが高かった。
昨夏の甲子園で1試合22奪三振の大会新記録を作り、
「怪物」と称される松井君は、
春の大会から練習試合で浦和学院から18三振を奪った
今月上旬あたりにピークがきてしまったのではないか。