翼(つばさ)をほしや | 拾い読みあれこれ

拾い読みあれこれ

きょ~も適度に息抜き、よいかげん。ゆっくり歩いて遠くまで

山東京伝の『本朝醉菩提全傳』に、山中で熊に遭遇、組んずほぐれず争ううちに、岩穴に落ちてしまい、「四辺(あたり)を見れば、岸壁屏風を立廻したる如く」で出るに出られなくなる話がある。

そこに、こうある。

「合(あは)せて丁度二百二十両といふ、金(かね)は我身に授かれども、穴に在りては金を持ちたるかひもなし。こヽさへ出づれば俄(にわか)の長者、唯願はくは此穴を、遁れ出でたや翼(つばさ)をほしやと思ひつヽ、空を仰ぎ足擦して、泣悲しむぞ愚(おろか)なる・・・

人生、岩穴に落ちてしまったがごとくのときもある。そこそこのカネが手に入っていても、抜け出す手がかりもなく、翼を望めど叶わぬ夢。いかんともしがたくドツボに嵌ってしまった感じの時が。

これ個人に限らないかも。我がジャパン、「翼(つばさ)をほしや」と言わざるをえぬ手詰まりのなかに落ちていはしまいか。