「失礼なことを言ふな、装(なり)こそ看板一枚だが、年中口が奢つて居るから、それで銭が持てねえのだ。
(黙阿弥『四千両小判梅葉』)
ここではいつも同じ服装で貧乏にみえるかもしれないが、いつもうまいものを食べているから銭がないのだと負け惜しみをいっている。
食べる楽しみはなににも代え難いという人はいるようだ。うまいもの、珍しいもの、評判のものは兎に角口にしてみたい。それでたとえカネがたまらずともいい。
そうして口が奢ってくるとなかなか貧しい食事には戻れない。カネに不自由し始めても奢る口をいかんともしがたい。よほどの困窮をみるまで奢りは続くのか。
まあおごり高ぶり傲慢な権力者も世の中にはいらっしゃる。口が奢っている程度ならまだかわいらしいか。