ここから始めよう 2 | STAR☆MOON

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美男ですねの韓国・日本版のお話を書いてます。
*お話は一般公開後1週間でアメンバー限定記事に変更しています。










それから現在までの約9年間、廉と美子は1度も会っていなかった。兄の美男とは偶に連絡を取ってはいたが、柊や勇気ともあれから一切の連絡を絶っていた。



パリから帰国した美子は修道院に半年程身を寄せた後、都心から離れた小さな町で暮らし始めた。
その小さな町にある修道院付きの養護施設で子供達と穏やかに過ごしていた。

そんな時、年に一度行われるシスターやシスター見習い、施設の子供達が歌う小さなコンサートにひょんな事から美子も出演するの事になったのだ。
美子は1人で賛美歌を披露する事になり、当日は緊張しながらも久しぶりに大勢の前で歌う事ができた満足感でいっぱいだった。

その美子の賛美歌を偶然聞いていた有名な音楽プロデューサーの目に留まり、美男の妹だと知らぬままにスカウトを受けたのだ。


あのキラキラした世界になど1人で入れるはずもない…

何しろ私は、世間では未だにA.N.JELLを手玉に取った魔性の女と言われている…


美子は、美男の妹であること、数年前に大きく報じられた件の事を丁寧に話して断ったが、それでも引き下がるプロデューサーに遂に根負けした美子は1人で芸能界という特殊な世界の住人となった。

初めはA.N.JELLを一時期、解散危機まで追い込んだ美子へ、特に同性からの批判が大きかった。
満を持して発表したデビュー曲もあまり話題にならずにネットや雑誌に酷評が相次いだ。
それでも美子は持ち前の根性で毎日レッスンや苦手なダンスも頑張った。



軌道に乗り始めたのはデビューから3年経った頃だった。

美子の声を評価してくれたアニメ界の重鎮から直々にオファーを受けてオーディションを受けたところ見事合格。
声優を務めたアニメは海外の映画祭でも上映され、高評価を得た。
日本でも大ヒットし、中でも美子の声の評価が高かった。

良縁は続くもので、美子の新曲がその年に大ヒットしたテレビドラマの主題歌に抜擢され、ドラマ人気に相まって主題歌も大ヒットし、その年の年間セールスランキングにA.N.JELLの楽曲3曲に次いで4位だった。

それからは雑誌の連載が始まったり、広い会場でコンサートを行ったりと忙しく過ごしながらも稼いだお金を育った養護施設や修道院に寄付したり、仕事が休みの時にはボランティア活動を行ったりして過ごしていた。

美子が偶にバラエティ番組に出演した際の控えめで、どこか天然な可愛らしい発言と、ボランティア活動や寄付したりする慈悲深い行動によって、段々と世間の美子への評価は変わっていったのだった。
今では同性からの支持も厚く、結婚したい女性ランキングでも常に上位をキープしていた。


それから3年、美子にやってきた音楽番組の出演依頼。
初出演で長時間の生放送番組だ。

先輩歌手のカバー曲を披露予定で、レッスンに励んでいる時、美男からの連絡で当日はA.N.JELLも出演する事を知った。

この9年、忘れる事ができなかった人の顔が浮かぶ。
 

"廉さん"


彼は元気なのだろうか
既に隣には素敵な女性がいるのだろうか


廉と過ごした短くも幸せな時間を思い出す事はもうほとんど無かったが、こうして偶に思い出すと未だに胸が痛む。

年齢を重ねて更にキラキラしたお星さまのような廉。
私も少しは貴方のようなお星さまに近づけてるのかな…

痛む胸を押さえながら美子はレッスンを再開させた。






『ねえ、美男…廉さん大丈夫かな。朝からずっと元気無さそうなんだよ』
『まぁ、色々思う事があるんだろ。9年振りに会えるかもしれないんだからな』
『美男、今日の美子の楽屋はどこか知ってるの?』
『もちろん。やっぱり俺達のとこからは遠くに離されてるけどね』
『もし美子のとこ行くなら俺も連れてって~!』
『だーめ。美子の楽屋は男性NGなんだよ』
『美男だって男じゃないか!』
『俺は兄貴だから良いんだよ』
『ずるいぞっ』
『けどスタッフ達の動きを見てると、やっぱり俺達とブッキングしないようにされてる感じはするよね』
『うんうん。さっき、美子らしき人の背中が見えたから声掛けようとしたら、スタッフに遮られたんだよね…声掛けるチャンスだったのにっ』と悔しそうに嘆く勇気。


そんな3人の会話を目を瞑り聞いていた廉。



美子が番組に出ると知ってから、密かに美子に会いたいと思っていた。
誰よりも早く現場入りしたが、肝心の美子の楽屋が分からずに何もできなかった。

リハーサル時間も合わず、せっかく美子が近くにいるのに会えないのは…嫌だ。

自分から別れを告げたのに未だに想ってると知ったら引かれるのだろうか。

美男に連絡先を聞くのが1番手っ取り早いが、勇気が何度も聞いて断られているのを見ると、絶対に教えてくれないだろう。
小さく溜息を吐く廉だった。



『あっ、美子だ!』
『おっ、さすが俺の妹だ』
『かわいい…いや、綺麗だ』

楽屋の大きなテレビに肩やデコルテを大胆に出したドレスを着た美子が現れた。
廉はその美子の姿に釘付けになる。

テレビ越しで、美子の活躍は知っていた廉。
美子をスカウトした音楽プロデューサーとも仕事をする機会も多く、さり気なく近況を聞いたりしていた(こ、こわっ…)

デビュー曲から今まで出した新曲CDはもちろん購入して自身の部屋のCDラックに美子コーナーを設置してるくらい多くのCDを並べている。

そんな美子は今まで控えめな装いが多かったのだが、今日のような大胆なドレスを着ているのを初めて見た廉。



な、なんだその格好はっ…

無意識に口が尖る廉。

だけど、美子の幸せそうに微笑みながら歌う姿に口元が今度は上がっていく。



さすが、俺が認めた声だな

司会者の男と笑顔で会話しているのを見てまた口が尖りそうになる。

あの男…どこ見て喋ってんだっ
美子もそんなに笑いかけると勘違いされるだろうがっ…


そんな廉の表情をこっそり見てい美男はニヤニヤと笑いながらこっそり廉の沢山変わる表情を写真に収めていた。


『やっぱり美子の歌声は良いねえ』
うっとりとした表情をして言う勇気。
『俺達も負けてられないな』
『おーい、そこの百面相男君。妹に見惚れてるところ悪いんだけど、そろそろ出番だから戻ってこーい』
『な、なっ…違う!ちょっと考え事してただけだっ』
『…へいへい』
そう言って美男が廉に近づいてきた。
『そんなリーダーに良い事を教えてやる』
『なんだよ』
美男が廉の耳元に口を寄せて囁いた。
『美子の楽屋、俺達の楽屋を出てまっすぐ行って右曲がって左曲がった角にある。
俺の出番が終わるまで待機させてるから特別に会いに行かせてやるよ』
『…は?』
『美子の事、まだ好きなんだろ?多分、美子もまだ廉の事好きだよ。
だって会う度にそれとなく廉の事を聞いてくるんだもん。それにあいつは分かりやすいからな…なんかお節介を焼きたくなっちゃった』
『…いいのか?』
『いいも何も…9年前の事に関してはもう時効だろ?それに元々は俺のせいでもあるし。俺達も美子も過去の事にするには充分すぎる位の時間は経ってると思うぜ。ったく…どっかのお偉いさんの勝手な忖度で9年も一緒の仕事ができないって普通に考えておかしいよな…俺達はもう何とも無いのに…俺達の出番が終わったら、すぐに行ってくれる?柊と勇気は俺が引き止めるからさっ』
そう言ってニヤッと笑った美男は廉の肩を叩いて楽屋を出ていった。



この日のA.N.JELLのパフォーマンスは大好評で、番組内の瞬間視聴率ランキングでは堂々の1位だったそうだ。




廉は出番を終えると逸る気持ちを抑えながら走っていた。


『…ここだ』

"桜庭美子様"と書かれた部屋の前に廉は立っていた。

ここを開けたら美子がいる
会ったら初めに何を伝えよう…

廉は深く深呼吸をしてノックをした。


すぐに開かれたドアから驚きの表情をした美子が現れた。


『…どうして』
『悪い。ずっとここに立ってると怪しまれるから、入ってもいいか?』
『あ、はい…』
廉は素早く美子の楽屋へと入った。


『あの…お久しぶりです』
『…あぁ。お前、大活躍だな』
『そんな事無いです…』
『…』
『あの…どうして廉さんがここに?』
『…お前と話がしたくて』
『え?』
再び驚きの表情を浮かべて廉を見上げる美子にフッと表情が柔らかくなった廉。
 

何年経ってもその吹けた顔は変わんないな…
大人っぽくなったと思っても中身はあの時の美子のまんまだ



『美子…』
『はい』
『今日、この後予定は?』
『…へ?明日の昼までは何もありませんが』
『そうか…俺も、この後は何もないんだ』
『…そうですか』

廉さんは何が言いたいの?



『今日は何の日か知ってるか?』
『今日…7月15日…ごめんなさい。何の日なんですか?』
『ふっ…そうだよな。覚えてなくて当たり前だよな…美子、俺はお前にずっと会いたかったんだ』
『…』
『あの時お前を守れなくて、あんな風に別れた事、ずっと後悔してた』
『へ?』
『おかしいよな…別れを告げたのは俺なのに』
『廉…さん?』
『こんな日に再会するって…信じられないと思ったけど、こうしてお前に会えたって事は、信じた事無い神様って奴に背中を押されてるって感じた』
『あのっ…』
『美子、今更だけどあの時はお前を守る事ができなくて悪かった。ごめん…凄い怖い思いしてたのに傍にいて抱き締めてやる事もできなかった』
『そ、そんな…あの時は仕方が無かったんです』
『仕方なくても、社長や馬淵の目を掻い潜ってでもお前に会いに行くべきだった…ずっと後悔してたんだ』
『廉さん…』
廉は美子の両手を握り言った。

『今度はそういった後悔はしたくないんだ』
『だから…』
『俺達、ここからまた始めないか?』
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2023.07.15作成
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