『もず』・あの時 松竹大船映画 絶頂期 有馬稲子さん・1961年度作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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好きなのは戦前のフランス映画です。

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古き良き時代の松竹大船映画を一本。

脚本家の水木洋子さんがテレビドラマとして書いた作品を

一年後に渋谷実監督で撮った作品   『もず』を取り上げます。

 

水木洋子さんは成瀬監督の『浮雲』や、市川崑監督の『おとうと』

 

テレビでは大河ドラマの「竜馬がゆく」などを書かれた大御所です。

 




強力女性週間の興行として母と娘の情愛と憎愛をテーマに創られた作品。

この時代、今だったら名作と言われるようなこんな作品が普通に作られていたことのあらためての驚き。

渋谷実監督は成瀬巳喜男や、五所平之助監督の助監督を経て、デビューまもなく

頭角を現した松竹では巨匠にして、異端児と言われた人である。

松竹では、一時は、小津監督、木下監督と共に御三家と称された。風俗描写や、群像描写を得意とする

ユニークな監督である。

『本日休診』は特に好きな作品だ。


さて、『もず』

まず、キャストの豪華さをご覧ください。

ちさ子     有馬稲子

すが子     淡島千景

おなか     乙羽信子

女将      山田五十鈴

おてる     桜むつ子

阿部ツネ    清川虹子

アヤ子     岩崎加根子

一惠      高橋とよ

酒田      川津祐介

波子      日高澄子


あらすじを


すが子は新橋の裏手の場末の小料理屋(一福)に住み込みで仲居として働いていた。

ある日、松山から、長い間離れて暮らしていた娘のちさ子が訪ねてきた。


20年ぶりの再会。

ちさ子は結婚生活に破れ、美容師になるべく上京してきたのだった。


店の二階で久しぶりの母娘の時間。それを破ったのはすが子のパトロンの藤村がやってきたことだ。

隣の部屋で藤村に甘え、じゃれつく母親を見てとっさに母のだらしなさを感じ取ったちさ子であった。


ちさ子はこっそりと店を抜け出していった。



そしてある日銀座を歩いていて藤村に声を掛けられた。

ちさ子は藤村に美容院の勤め口を紹介してもらった。

住み込みで働き始め、センスのいいちさ子の腕を店の主人、波子は気に入った。


藤村はこのところ、もうすが子には飽きてきていてそろそろ潮時だと思っている。

店に来た時につい、すが子に、ちさ子の店のことをしゃべった。

そして、ちさ子にちょっかい出しそうな藤村と険悪ムードになって、

藤村は、もう来ないからと言い残して帰って行った。


すが子はそそくさとちさ子を訪ねていった。

ちさ子は何となく迷惑感を感じないわけではなかったが、そこは母娘。

娘として母に邪険にはできない。

お互いに胸の内を話すうちに口論となり、

もう訪ねてこないと、寂しそうに帰っていく母の後姿を見て泣き出した。


背中でそれを感じたすが子は走って戻ってきて、ちさ子をなだめ抱きしめるのだった。

すが子は一福の女将とそりが合わなかった。

腰を痛めたこともあって、仲居仲間のおてるの家へ転がり込んだ。


老婆の一惠が何かと世話を焼いてくれた。

おなかも来て、すが子、おてると家族のように暮らし始めた。

ちさ子は知らせを受けてやってきた。


一惠は、ちさ子の縁談を持ってきたが相手が60歳の老人なのに承諾したことで

せっかく親子の仲が落ち着いてきたのに、また喧嘩になってしまった。


 美容院の同僚のアヤ子の紹介で、親子は阿部ツネの家の二階を借りることになった。

 



ツネとすが子は馬が合うようだった。

母とツネが出かけた日、ちさ子は、松山出身の酒田を家に呼んで食事をしていた。

酒田はちさ子に結婚を申し込んだ。が、断ったちさ子。坂田を送って行った間に帰ってきたすが子は

部屋の様子で男が来た  とやきもちを焼き、また喧嘩になった。

止めるツネの言葉も効果なく、二人はまた、決別した。そしてすが子は自殺を図った。

すが子との生活に疲れ果てたちさ子は松山へ帰ろうと思った矢先、

すが子がまた倒れたとツネから連絡がきた。

ツネの話では、すが子はもう長くは生きられないということだった。

母を入院させたものの費用を捻出せねばならないちさ子は思いあぐねて藤村に相談した。


藤村は承諾する代わりにちさ子の身体を要求してきた。

どうしようもなく、泣く泣く藤村に身を任せ、お金を握って、急ぎ病院へ駆けつけるちさ子。


だが、着いたときはもう遅かった。すが子は息を引き取っていた後だった・・・・・・

 

そして、母が握りしめていた袋の中には、さち子名義の預金通帳が入っていた。

 

皮肉にも母が死んでから母の温かい愛に気づかされたさち子だった。

 

慟哭するちさ子。人間ドラマの佳品です。


本作品の一年前のテレビドラマでのすが子役 は杉村春子さんだったそう。

それを知った時にああ杉村さんのすが子で見たかった!と思わずにいられなかった。


この作品の時の淡島さんは37歳で50代の母親役。年齢というよりも演技が空回りしていて共感できなかった。

ただの老け役ならまだしも50代の女の色香を残し、娘と張り合う母親役は無理があるように思われた。


しかし、山田五十鈴さん、乙羽信子さん、清川虹子さん、桜むつ子さんと共演陣の人たちの演技合戦はすごい。

すばらしい。

これだけしっかりした作りと演技陣の作品がごく普通に作られていることに感服しました。

 

さすがに渋谷監督の風俗描写が冴えわたっていた。

 

男に媚びないと生きていけない悲しい女のさが。そういった様を映し出す戦後の様子。

 

いまだ戦後の世相を引きずっている感がよく出ていたように思う。

 



有馬ネコちゃんが「東京暮色」「彼岸花」「風花」「わが愛」に続いての「もず」は

一連の稲子カラーが出ていて素晴らしかった。

でも、やはり、この母親役は杉村春子さんで見たかった。

 

にんじんクラブ制作。


    


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