幻の名作 ≪その木戸を通って≫
こんばんは。いつもご訪問いただきましてありがとうございます。
≪その木戸を通って≫、
１９９３年フジテレビが初めてのハイビジョン放送の試験放送向けとして製作され
BSで一度放映され、ベネチア国際映画祭とロッテルダム国際映画祭では
上映されたものの、国内では２００８年まで見ることの出来なかった
市川崑監督の幻の名作・・・・・・
山本周五郎原作の滋味ではあるがとても心に染みる佳品に出会えました。
１９９３年というと主役の中井貴一さんはデビューしてまだ１２年。
でも
この方やはりうまい・この頃にはもはや役者としての器量を
充分お持ちになられてたんだと、改めて唸りました。
以前、≪柘榴坂の決闘≫や≪壬生義士伝≫でも投稿しましたが、
全然興味もなかった中井さんにこの作品でファンになり、
≪四十七人の刺客≫から、テレビドラマ≪雲霧仁左衛門≫と芸の
幅を広げられていき、現代劇よりも時代劇の中井さんが数倍ステキと
思うようになりました。
主人公の生き様、美学が映画の魅力だと何度も書きましたが、
この≪この木戸を通って≫ーー私論としては
中井さん演ずるコミカルな武士がすこぶるいい・
作品のメルヘンとも思える題材
雪女や、つるの恩返しに通じるものだが、ストーリーよりも
この武士のキャラが魅力だった。
目の前に現れた記憶喪失の女御の正体を知りたいと観客は推理する。
が、それよりも気乗りしていた縁談をも振ってその女御を女房にするまでの
主人公平松正四郎の突進する姿がほほえましい。
石坂浩二扮する実父にもフランキー堺扮する養父にも言いたいことを言い、
自分の意志を貫きとおし、使用人がつけてくれた女御の名はふさ・・・・にも
やさしい。そして子が出来てまもなくふさは目の前から忽然と姿を消す・
そして、ふさそっくりに成人した娘の嫁入りの日にふさの所在が分かったと報せがある。
こっそり見に行った正四郎は
台所で男と幸せそうに話しているふさを見て・・・・・
またこっそりと帰ってゆく。
”これでよいのだ、これでよいのだ わたしの人生もそこそこに幸せだった・・・とつぶやきながら・
つまりこの女御は消えていった先で正四郎のことも娘のこともまた記憶から消えてしまったのかもしれない。
正四郎に出会う前にも違う男と幸せに暮らしていたのかもしれない。
いろんな憶測は出来るが、それはドウでも良い。
これは正四郎の一方的な幸福感かもしれないが、それでよいのだ。
クレジットでは浅野ゆう子さん扮するふさが中井さんより先にある。
この頃は多分、人気絶頂の売れっ子だったこともあったのか？
もしくは原作がふさをヒロインとして書かれたか？
だが、鑑賞した限りでは中井さんの武士像がいい。
このキャラクターは極めて現代的なオトコである。
同じ市川崑監督作品の役所広司が演ずる どら平太 にも言えることだが
彼も現代的なキャラでどちらも昔の時代劇には絶対に登場したことがない
のである。
≪四十七人の刺客≫の色部又四郎のようなニヒルなものから
≪雲霧≫の重量感のある主人公・・・仲代達矢の雲霧より数段いい。
そして一途な主人公≪壬生義士伝≫の吉村貫一朗。
二枚目の役者で笑いのつぼが断然ワタシ的なこの平松正四郎役の
中井さんはうまい・・・と唸ってしまった。
派手さは全くないが、とにかく心地よい作品だ。
鳴り物入りの大作もいいが、こんな素材を生かした心温まる映画もいい・いい・
機会があれば若い方たちに見ていただきたい作品です。
浅野ゆう子さんはこの作品の儚げな役にはちょっと体格が良すぎて
着物姿がいまいち・・ どら平太 の芸者役のほうがぴったりでしたね。
不思議な魅力に富んだ作品です。
さすが市川監督の作品だけあって映像が抜群に美しい。
屋敷の内外や土壁の重み、そして竹の緑の美しいこと！！
障子から差し込む日の光がやわらかくやさしい美しさを醸し出す。
主なキャスト
ふさ 浅野ゆう子
平松正四郎 中井貴一
田原角之助 榎木孝明
岩井勘解由（正四郎の実父」 石坂浩二
加島大学 神山繁
使用人 吉塚むら 岸田今日子
その夫 吉塚助十郎 井川比佐志
田原権右衛門 フランキー堺
駕籠かき1 うじきつよし
駕籠かき２ 桜金造造
正四郎の友 光石研
ランキングに参加しています。ポチっと押していただけたら
うれしいです。
↓
