(東京暮色)・日本の女優さん16 有馬稲子さん・・異色の小津作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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異色の小津作品
≪東京暮色≫

日本の女優さん 16
有馬稲子さん

愛称 ネコ ちゃん
彼女もオン年 85歳ですが
お若い!
最近
(やすらぎの郷)なる
テレビドラマに出てらっしゃるがお美しいですね。

彼女の持ち味は上品でありながら そのけだるさ
鼻にかかった独特な声、
憂いを含んだ美しさでした。

1951年にデビューしてから間もない(東京暮色)は
大人になりきっていない女性を演じています。
暗い画面ではありますが
とにかく可愛いです。

1954年 晩菊
1957 東京暮色
1958 彼岸花
1959 風花
1959 浪花の恋の物語
1961 もず
1961 ゼロの焦点
1962 お吟さま

(ゼロの焦点)以外は
吐夢の部屋でもとりあげましたね。
岸恵子さん、久我美子さんと3人で
にんじんクラブというプロダクションを立ち上げて
当時話題になりました。

岸恵子さんは
芯のしっかりした
で、おおらかな感じの役どころ多し。
久我美子さんは
はっきりと発言する
進歩的な役どころ多し。

ネコちゃんは
人生に迷い、反抗し
本当はいい娘なのに
どこかふて腐れた役多し。

このにんじんクラブに関わる
おもしろい因縁の作品を
後日、投稿しますので楽しみにしてくださいませ。

さて、

穏やかさが定番となっている小津映画の中にも
異色作がある。
親娘の思いの食い違いや、恋愛の断層を描いて話題をよんだ
≪東京暮色≫。

小津ファミリーの 原節子さん、有馬稲子さんに加え
最初で最後の出演の
山田五十鈴さんの共演。
これにいつもの脇役、杉村春子さん、笠智衆さんが加わる。

男を作って娘達を置いて逃げた母に、山田五十鈴さん

逃げられた夫に、笠 智衆さん
長女に原さん、
次女明子に
有馬稲子さんことネコちゃんが扮しています。

その家庭の設定、生活レベルはいつもの様子と変わりは無い。
が、舞台設定がいつものようにハイカラな
キレイな場ではなく、
場末の麻雀屋、安アパートと...らしくない設定である。


🌠✴️
そもそも男を作って逃げた母の行きつく先は、麻雀屋であった。

明子は母の顔を知らない。
麻雀やの近所の安アパートに住むけんちゃんという青年の
子を身ごもっている明子は毎日毎日、姿を消してしまった
そのけんちゃんを捜し歩いているのだが。。。

そこで母は明子の姿を見て堪らなくなって近づいてくるのである。
姉は堅実だが嫁いだ夫が物書きだかで二人は倦怠期を
迎えていて、実家に戻ってきている。

若い明子だが随分退廃的な性格である。
物事を達観したようで小津映画に登場する育ちのよい女性を
超えた、世の中をわかったような生活態度である。

母がどういう理由でうちを出たかを知らされていなかった明子は
母と会っているうちに父が自分の本当の父なのかという疑問を
抱き始める。

いつもの穏やかな父の面影を残しながらも、
娘の態度に苦悩する父を笠さんはいつものように
淡々と演じている。

原さんもゆったりとはしているがいつもの明るさと気品だけの
役どころではなく、いつもにない表情が見られる。

暗くて陰鬱で小津作品としては異色である。
木下映画に仮にこのような状況の女性が登場すると
もっとしたたかで(よい意味で)強くたくましい女性として
存在するなり、成長するなりして描かれるのだが。

小津さん映画ではここが限界のところであろう。
弱くて涙を流す女性となってしまうのも頷ける。

もともとがちゃんとした家庭の娘であるから、
そういう事情にも免疫がない。が父や姉に相談するとか
女友達に相談することも無い。

木下映画もある種の映画では、もう暗くて暗くて陰鬱で
やりきれない部類の映画も沢山ある。
がしかし、そこに登場する女性は必ずと言っていいほど
女性がたくましい。

もともとが控えめである小津の女性は強がっても
自分で解決するほど強くないのである。

だから、その暗さが暗さを呼んでしまった。
今で言う不良少女でもない。
親に反発してぐれているわけでもない。

親に反発してわめけば見ているほうもスカッとするのであろうが
それが無いからじめじめする。

若い娘はふしだらだった母親の血が自分に流れていると思っている。
そのことが堪らないのだ。。。
そういう環境の若い娘が通る道だ。
自分の生い立ちをハッキリさせたい。
ハッキリさせることなどはなから何も有りはしないのに。




女性が夜一人で喫茶店でコーヒーを飲むだけで
警察に連れて行かれる時代だ。

母を知らずに育ったから淋しくて、無口で暗い娘になったと、
姉は言うが、
父は明子を充分に可愛がって育てたと言う。
多感な娘は親が思う以上に余計なことを考えてしまうものだ。
親と子の生きていくうえでの大事なものが違うとでも言うのか?
その親と娘の断絶のようなものを描きたかったのか。

しかし行き違いはあってもそこにはあの小津さん独特の
常識があって、ケジメの有る世界の縦糸はしっかりとある。

中流家庭のどこにでもある問題を小津さんのカラーで描くと
こうなるのだ。
しかし、そんな中でも会話にくすっと笑わせるセリフが
うんと登場する。

そこで見ているほうはホットする。
それが無ければただ暗いやるせない重いだけの映画に
なってしまっただろう・

だが最後はやはりつらいものが待っている。
明子は電車に跳ねられて亡くなる。


母親に会いさえしなければこんなことにはならなかったと
姉は

言う。
やはり明子は弱い弱い女性であった。自分を責めて責めて
死んでしまった。
ああーやるせない、やるせない。
小津さんの映画で涙が出たのはこの作品だけ。

原さんの優しさと強さの混じった号泣が印象的だ。
東京にいるのが堪らなくなって、北海道へ移り住むと言う母。
姉も強くても人の子。いくら歳はとってもは母恋しかった筈だ。
だが母を見送りには行かなかった。
父の為に....
そして、夫の元に帰る決心をする。
子には両親がそろってこそ幸せだとわかった。

この締めくくりで、やはり小津の映画だと
感ぜずにはいられないラストです。
最初と最後できちんと小津映画になっているのです。

後年名カメラマンとなった川又 昴が撮影助手をしているのも
興味深い。