『稲妻』・やるせなき成瀬巳喜男監督 ・・《1952年度作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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稲妻



そろそろ、

成瀬巳喜男監督作品を

取り上げみようと思います。



名作 浮雲が映画化される

二年前に

≪稲妻≫が作られている。



多くは高峰秀子さんと、

組んだ作品である。

  



≪鶴八鶴次郎≫ーー川口松太郎原作

≪めし≫ーー林芙美子

≪稲妻≫ーー 々

≪晩菊≫ーー 々

≪浮雲≫ーー 々

≪鰯雲≫

≪あにいもうと≫ーー室生犀星

《驟雨》

≪流れる≫ーー幸田 文

《鰯雲》

≪妻として女として≫

≪女が階段を上がるとき≫

《放浪記》

などなど。



今日は≪稲妻≫を紹介しましょう。

林芙美子は女っぽさで勝負をした作家である。



彼女の好んで描く女はお嬢様でも、奥様でもない。

生きるためには、自分を全部さらけ出して飾ることなく、

ダラしなければだらしなさを、優柔不断であれば

正直にありのままを、それで

男たちに対抗して、必死で生きぬいて行く、

生々しい生活女性である。



決して上品とはいえないがどこか憎めなく可愛ささえ感じる

そんな女を書かせて天下一品なのだ。



浮雲においては、わたしはこの人を男にただ付いて行くしか

出来ない女と書いたが、これはあの優柔不断な男に出会ってしまったから。

それまでは南ベトナムへ、行って、タイピストとして働くなど

行動的な女性に見えた。



しかし一皮向いてみたら男に振りまわされるただの女であった。

《浮雲》のヒロインは男にーーー

だまされやすい。

もろいタイプである。



だが男にとっては可愛い女なのであろう。

哀れと言えば哀れである。



今日の≪稲妻≫に登場する清子と言う女性は果たして



どういう生きかたを選ぶのであろうか?

成瀬監督は女性映画の名手と言われた。

松竹、東宝に所属していた

殆どの女優さんが

成瀬監督の作品で、輝きを放った。

また、黒澤監督は

成瀬監督を

一番尊敬していたとも言われている。



海外での評価が今だ高いが、

最初に高まったのは

成瀬監督の死後10年位経ってからだそうだ。

海外においては

小津さん、溝口さん、

黒澤さん、四番手が成瀬監督だそうである。



さて、

ストーリーに入ります。



おせい(浦辺粂子)には四人の子がいる.

長男嘉助(丸山修)、長女縫子(村田知栄子)、

次女光子(三浦光子)、三女清子(高峰秀子)である.

しかし父親がみんな違う

異父兄妹ゆえ、揉め事が絶えない。



清子は観光バスのバスガールをしている.



姉の縫子が、清子にパン屋の綱吉(小沢栄)との縁談を

持ってくるが、姉がそんな話にかこつけていい金儲けを

企んでいることを清子は

見ぬいていた。



次姉の光子の夫が急死して、後には妾のリツ子と

その子供が残された。光子には子がいない。

光子は仕方なく、綱吉の始めた今でいうラブホテルならぬ

旅館を手伝いに行くが、そこにはすでに長姉の縫子が女房然と

先に居座っていた。



能のない縫子の良人龍三(植村謙二郎)は、仕方なく、

おせいの元へ転がり込んでくる。



そんな中でも綱吉は図々しくも清子を追っかけまわす。



清子はきっぱりと断り、

またそんな環境の家の中が

いやでいやで

たまらなくて家を出て

下宿生活を始めるのであった。



光子は良人の保険金が入ると、それを元手に喫茶店を

始めるが、

今度は綱吉が逆にそこに

旦那然として

入り込んでいく。



清子は

そういった醜い常識を超えた

人間たちに絶望しかけるが、



下宿先の

となりに住む周三(根上淳)と

妹つぼみ《香川京子》の兄妹と

知り合う。

彼ら兄妹の清潔で

躾の良さを感じさせられる

人柄に触れて

ホッと救われる思いがするのであった。



そんなある日、母親おせいが下宿に訪ねて来た。



綱吉を挟んで姉たちがいざこざを起こし、

次姉は行方不明になったと言う。



せっかくあの嫌な環境から逃げ出したのに、

またそんな話を聞かされ

真っ暗い気持ちになってしまうが、

無碍にも出来ない本質はやさしい清子、やっと貯めた少しの

貯金を母おせいに与えると、急におせいは元気になる。



折りから雨になりそうだった空から稲妻が光った。



カミナリ嫌いの光子がこのカミナリで帰ってくるに違いないと

いそいそと母は帰っていった.



自分の生きる道は

自分でレールを敷かねばならないということを

しっかりと知っている清子ですね.

あのごたごたの家の中にいて

ヒステリックになったままで流れに任せる人生もあれば、



ほどほどの結婚話が来るまで待つ手もある.



しかし、この清子は自分の出来る力の中で未来を見つけようと

している。



それでも、林芙美子も

成瀬監督も

いつもと同じように

彼女を応援して

ハッピーエンドの結末に持っていくでもない、

ありのままを描き、

この時代、どこの家庭にもあり得る事情や

社会状況との関わりで

おき得たあり様を

そのまま描き出している。



1952年度のキネマ旬報のベストテンの2位。

ブルーリボン監督賞受賞



制作  大映

監督  成瀬巳喜男

原作  林 芙美子

脚本  田中澄江

出演  高峰秀子、ほか