『霧の旗』・サスペンスも手がけた山田洋次監督 ・ 1965年度作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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霧の旗  

 市井の人の細やかな機微、
滑稽さ、面白さ、自分勝手さ
それでも人情ーーといったものを表現して、天下一品の山田洋次監督、

寅さんシリーズの監督としてすっかり定着してしまっていましたが、
ミステリー映画の脚本を書き、また監督もしているんです。

本格推理映画の傑作
”ゼロの焦点、”砂の器”で
橋本忍と組んでシナリオを書いています。

ある意味、野村芳太郎監督の
元で育ったと言っても良いかもしれない。

その山田洋次が監督した
≪霧の旗≫.

松本清張原作のこの作品は余程女性向きであるのか
何度か映画にもなり、テレビでも製作されているが
山田監督の演出の良さと
出演者倍賞千恵子、滝沢修の力演、好演とが相まって、

他の製作ものと比べて群を抜く出来栄えである。

何度観ても飽きない上、
見るたびに
面白さが増してくる。

倍賞千恵子はヒロインの桐子に扮する。
彼女の出世作でもある。

桐子《倍賞》は、兄《露口茂》が強盗殺人の犯人とされたが、
無実を信じ、熊本から上京して高名な大塚弁護士《滝沢修》のもとを訪ね、
弁護を依頼するが
弁護料が払えないという理由で
彼に冷たく断られる。

何度も頼むが
応えは同じで、そのうちに
兄は獄死してしまい、
悲しみと悔しさで、
桐子はきつく心に復讐を誓う。

桐子はバー”海草”にホステスとして勤める。

同僚のホステスから、恋人杉田の監視を頼まれる。
尾行した桐子は本郷のしもたやで杉田が何者かに
殺された現場に遭遇する。

そこに偶然大塚弁護士の
愛人径子《新玉三千代》が先に来ていて殺しの現場に遭遇していた。
”殺したのは私じゃない、あなた証人になって”と
頼まれ、桐子は一応頷く。

そこに犯人のものと思われる
ライターが落ちていたのを桐子はポケットに仕舞う。

当然、径子は警察に逮捕され、径子から桐子のことを
聞いた大塚弁護士は桐子に本当のことを警察に話してくれと
頼むが
桐子は冷たく突き放す。

これから桐子と執拗に頼む大塚とのからみが始まっていく。

倍賞千恵子はこういう庶民の娘を演らせると俄然光る演技を
放つ。

この映画では復讐という強い意思力を必要とする役であるが
冷たい表情で完璧にこなす。

土下座をしてまで頼む大塚に桐子は動揺もせず、
罠にかけて関係を持ち暴行罪で
彼を訴え、失脚させ終には
熊本(天草かな)へ向かう舟の上から
ライターを海に投げるという完全な復讐を貫く。

最初は大塚に対して小気味良さを感じるが
あまりの桐子の意固地さにもそこまでやらずとも..と
思えてこなくもない.

冤罪に対する女性の恨みの激しさを誇張する監修で、権力は金で動く、お金の無い者は
泣き寝入りをするしかない
社会の不条理を
桐子を通して社会へ
訴える演出は完璧な映画となっているのではないだろうか。
高慢な権力者が、愛人のために
土下座をするまでぶざまに
自身を落とす大塚に扮する滝沢修さん、
無表情な倍賞さんの冷ややかな演技は秀逸でした。

非情とも思える桐子の人間像を彫りあげたから
この映画は成功したのだろう。

原作以上の出来のこの山田監督の”霧の旗”を
観てくださいね。



製作  松竹  1965年度
監督  山田洋次
脚色  橋本 忍
原作  松本清張
出演  倍賞千恵子/滝沢 修/新玉三千代/川津祐介/
    市原悦子 /露口茂