≪私の殺した男≫ ・ビリー・ワイルダーの師匠 エルンスト.ルビッチ監督作品 ・1932年度作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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戦前のフランス映画が大好きです。

あなたはどんな映画がお好みですか??





今日取り上げる作品は、
静かな,しかし痛烈な反戦映画です。


   ≪私の殺した男≫。


1932年度作品。  米
監督 エルンスト.ルビッチ。
出演 フィリップ.ホームズ。

ナンシー.キャロル。

ライオネル..バリモア

主演のフィリップ.ホームズと
エルンスト.ルビッチ監督については後ほど記述致します。

ライオネル.バリモアは
お若い方には、ドリュー.バリモアのおじいさんと言えば、
なるほど ですかしら。
フランク.キャプラ監督作品には欠かせない俳優さんでしたが、
私の好きな作品、
我が家の楽園と
すばらしき哉人生
でのバリモアが好きです。
弟はジョン.バリモア
妹はエセル.バリモア この
二人も名優でした。
さて、

ストーリー

第一次大戦さなか、西部戦線で、独仏両軍は
白熱の戦いを繰り返し、
必死の格闘を演じていた。

仏軍の若き兵士,ポール《フィリップ》も無我夢中で独軍の兵士を殺した

それは戦争というよりもむしろ殺し合いというようなものだった。

ポールは殺した相手の手帳を抜いて中を見た.

名前や住所、そして両親の事が書かれてあった。

戦争が終わるとなぜか心惹かれるままに
そのドイツ兵士の家を訪ねずにはおれなかった。

ポールは丘の上の墓標に花を手向け、
恐る恐る,家を訪ねていった。

そこには年老いた父と優しい母親がひっそりと暮らしていた。

老父は
ホルダリアン《バリモア》と
名乗る村の医師であった。
ポールは勇気を出して、自分が
戦地で、あなたの息子さんを殺したと告白しようとした。

だが、ちょうどその時、ドイツ兵の婚約者エルザがやってきて
チャンスを逃した。

老父はポールの方を向いて”今この方が来られて、せがれの
墓に詣でてくれたのだよ”とエルザに告げた。

この家の両親はポールを息子の友達と思い込み、
息子の思い出話に花を咲かせるのだった。

ポールはその両親の望むままに
毎日のように家を訪問し、
彼らの話し相手になった。

毎日話し相手になっているうちに
そのドイツ兵が勇敢な愛国者である事、
心やさしい親思いの息子である事を
ポールは知った。

老父ホルダリン自身も猛烈な
愛国者であったが今は
戦争そのものを憎む気持ちに変っていることも知った。

そして、ポールにいつまでも、ここにとどまって欲しいと
懇願するのだった。

ポールの苦しみは
倍になって彼を責めた。

そのうえ、エルザに対して
愛情を感じるようにも
なっていった。

ますます、真実を、全てを告白せねばならないと日に日に
苦しみは増した。

ある日、とうとう意を決して
老父の前に立った。

まさに真実を話そうとしたときに、
エルザが咄嗟に彼の話をさえぎり、
”ポールはこの町にずっといてくれるそうよ”と
両親に告げたのでした。

恐らくエルザはいつしか真実を悟っていたのだろうが
今,この年老いた両親に真実を告げる事よりも
両親と一緒に毎日暮らしてあげる事のほうが
真実なのだと判断したのであろう.

ドイツ兵の両親は涙を流して喜んだ。

彼が真実を話したところで死んだ息子は帰ってこないし、
猛烈な愛国者であった父は
お国の為に殉じた息子を
悲しいけれど、誇りに思っていただろう。

戦争による死は
誰をも憎むことは出来ない.
戦争を起こす国家が悪い。

国と国の戦いであって,
逆の場合もありえたことを分っているであろう父親である。

だからこそ、真実の告白よりも
残された人生を幸福で豊かな気持ちにさせてあげる事のほうが
人間として素晴らしいという事を
エルザはポールに示したと思う。。

やっと戦争の苦しみから解放された、ポールの終戦であった。

最近では≪プライベート.ライアン≫が
息子達をすべて戦争にとられ、
末の弟だけでも救え、そのために
戦地に捜しに行くという 
粋な テーマの映画があったが、
残された家族というものへ焦点をあてたという点では似ている。

プライベート.ライアンを
観た時になにか
魚の骨がのどにつかえたような感触を持ったが
ある日、そうだ!
ルビッチのあの作品だ!...と思い浮かんだ。

構成はまるで違うのだが、
親の想いをテーマにしたという点で
うんと似ていると思います。

エルンスト.ルビッチ。。。。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、
ビリー.ワイルダーの師匠ですね。

戦前に活躍した監督で、ドイツ人でありながら
最もアメリカ映画らしい軽妙な語り口、その持ち味を
持ち込んだ瀟洒な天才である。

野暮ったさのない、
気の利いた切れ味は
小気味良いものである。

それを受け継いだのが
ビリー.ワイルダーなのである。
ワイルダーのルーツ
ここにあり❗️です。

わたしはルビッチ監督の作品では、≪陽気な中尉さん≫と
≪ラブ.パレード≫しか観ていないが、

観ていると自然に身体が踊りだしそうな楽しい作品であった。

そのルビッチが初めて
戦争の怖さをこういった構成で世に送り出した。

戦後のひとつの家族の中に
残忍な戦争の怖さを描き出した
佳品である。

ワイルダー同様、ただの洒落者好きなだけの監督ではなかった。

この時期1930年代のハリウッドは、
ジョセフ.フォン.スタンバーグとエルンスト.ルビッチが

東西両横綱的存在の巨匠であった。

まずは、ワイルダーの師匠のルビッチを一本と思い選びました。

この時代の新しい二枚目スター、フィリップ.ホームズは
弱々しい感じの繊細な、清潔な感じのスターでした。

それが、
スタンバーグの
≪アメリカの悲劇≫で、
底辺の社会から抜け出そうと
焦るあまりに女を殺してしまう,病めるアメリカ青年を演じ、
また、
今作品では戦場というところに送られたばっかりに
ドイツ兵を殺す羽目になった弱いアメリカ兵を演じて見せた。

前者は、資本主義社会の暗さを、
後者は戦場における非人間性を描いた。

ふたりの名監督の
そんな意義深い作品に主演できたフィリップは

これ以上はあるまい
望外の幸福者であろう。。。。。