下田の恋 | 地球の日記☆マーク♪のblog☆

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この地球は今大きく変わろうとしている。自国主義からコロナ禍を経て、調和・融和へとイノベーション(変革)し、人生100年時代へ向けて脱炭素の環境優先へとベクトル(地球的エネルギー動向)が動いた。
常に夢を持って波に乗ろう!


 

そうか、あれからもう一年が経つのか……。

 

光陰矢のごとし……少年老い易く学成り難し。 青雲の志いまだ衰えず。

 

大人になった今も、吾が少年のような恋心は、尚健在なり。

 

当時の記事を読み返すに、その時のディテールが瑞々しく甦ってくるのである。

 

 

 

伊豆の恋・・・・・・それは、旅情に駆られて伊豆下田の駅頭に降り立った時から始まっていた。

 

 

ロープウエイで寝姿山に手繰り寄せられ

 

 

このサボテンのような植物に旗竿の如くそびえ立つ紅い花。 

 

赤と緑のコントラスト。

 

美しい、なんという名か……。

 

これが僕のセロトニンにインプットされた。

 

そして、あてもなく下田の湊に手掛かりを求めて彷徨った。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりの下田港。

 

 

潮の香りがする漁の船が波に揺られ、海面には午後の光がキラキラ煌めいている。

 

ペリー上陸地の辺りにあるこれは・・・・・・。

 

そこに、あの赤と緑のサボテンだか花だかよく分からない草花が、風も吹いていないのに、ふと僕の心を揺らす。

 

 

 

 

道端の草花へ如雨露で水を遣っていたご婦人に、僕は思わず尋ねていた。

 

まるで、その花が訊いてくれと言わんばかりに。 いやなにかに導かれるように。

 

その品の良さそうなご婦人が、紅い花の瑞々しいつぼみのような唇を揺らして応じる。

 

それは、アロエの花だと言う。

 

その情念細やかな話し方はとてもここには表現しきれないが、女性の持つ奥ゆかしさの中に打てば響くような知性が渦を巻いている。今の女優で言うなら吉瀬美智子か。

 

目は口ほどにものを言いと云うが、会話を交わす中に互いのやりとり、こんなことを言っても阿吽の呼吸で分かる方だろうと感得し、もっと強い球をクイックで投げてみようか、とか。

 

押し引き 知識、理性、教養、感情の深さを探り合いながら、時々、ああこの方はいい人だなと目の光を確かめながら、時々キラッと輝くのを見逃さずここらへんが丁度心地いい会話かな、と、ジョークも織り交ぜながら、率直に分からないことを質問してみる。

 

たとえばペリーはどこらへんに上陸したとされているのでしょうか?とか

何でここ下田を開港地としたのでしょうね。

 

……その程度でひと時の会話を楽しめたらと暗中模索していた。

 

 

そしてあの山は寝姿山ですか?なんの寝姿でしょう?岩がゴロゴロむき出しているから牛さんでしょうか?とすっとぼけて訊いてみた。

 

するとそのご婦人、少し照れたように小声で、「女性の寝姿と言われております」

 

「そうですか。するとどっちが頭でしょう?」と言って、僕は思わずしまったと悔いた。なんて莫迦な事を聞くんだと一瞬凹んだ。

 

が、そのご婦人、相変わらず何事も無かったかのようににこにこ微笑んで光を絶やさない。

 

この方はできた女性だ。

 

だから僕も挫けなかった。で次の矢を放った。

 

「とすると、ペリーもこの寝姿山に魅せられて、沖の方からこの下田港にふらふら入って来たのかも知れませんね。(笑) (・・・・・・顔がニヤついてなかったろうね)

 

(コホンとここで軽く咳払いをして)

 

ただ、当時は岸壁などは無かったんでしょう。どうやって上陸したのでしょう?」

 

すると、そのご婦人、左の腕を挙げて僕のやや後方を指差す。

 

「あの辺りの岩へ短艇で上陸したとうかがっております」

 

そのとき、僕のゆびさきがその方の指に一瞬触れた……気がした。

 

僕はぷーんと潮の香りとともに、袖口から漏れる艶やかな女しょうの色香に包まれた。

 

そして、しびれるような電気が流れた。

 

一瞬クラッと眩暈がしたように思った。 そして呼吸が乱れた。

 

 

ひるみそうになったが、それでも僕は持ち直して次の矢を放つ。

 

ここで僕は意地悪く「1853年ペリーは浦賀に来航したのに、なんでこんな辺鄙な漁師町の下田を開港地にしたんでしょうかね。まさか本当に寝姿山に魅せられてではないでしょう(笑)」

 

そして目の表情、光を追っていくと、なんとも艶やかな潤いのある瞳がしなやかに応えてくれた。

 

「できるだけ江戸から遠いところにしたかったんでしょう」

 

口よりも目が語っていた。察した。そうか、ここの当時の領主はできた人だったのだな。

江戸幕府は、ここ天領豆州韮山代官、江川太郎左衛門英龍に厄介な外国関連を押し付けた。

 

その領主の仁徳で民政に弾力性が培われて今に息づいているのか。と悟った。それがここの風土となり人々に魅力を湛えている源泉かと推察した。

確かに下田の人人は魅力的だし、下田へは何度でも行きたくなる。

 

 

それで僕は、じっと彼女の目を見つめながら 「下田はいいところですね。人情もあたたかいし……」

 

 

そして、君の名は?と聞くと、

 

すると右の袖を差し出し、僕の左後方を指差した。

 

振り向くと彼女が消えてしまいそうで、目を見開いたまま

 

僕は今度は振り向かず、じっと彼女の目を見つめながら、その細い彼女の手を握った。

 

麗しい瑞々しさで花のつぼみのようであった。

 

 

「ここに来て良かった。貴女に出逢えて良かった」 と素直に口から出せた。

 

 

うるんだ双眸で 「嬉しい!」 と、生の声を久々に聴いた。女を感じた一瞬でもあった。

 

 

勇気が要ったけど、人を喜ばせるいいことをしたと思った。

 

僕には、もうそれだけで充分だった。

 

 

 

 

「下田は紫陽花の季節がいいですよ」と仰っていたっけな。

 

今でも思うのだが、あれは花の精に誘われて微睡んでいるうちにみた白昼夢だったのか……。と。

 

 

そしてこの頁を繰るたびにその衝撃が今でも甦る。

 

 

 

              ~ 吟 ~