※一部数式が正しく表示されないケースがあるようですがその場合はお手数ですがこちらのリンクをクリックしてください。

 

電検さん向けのブログなのに前々回前回とまったく電気の話してないやん!!っていう本ブログシリーズですが、長らくお待たせしました今回ようやく交流回路で複素数を導入することのさわりの話をしようと思います。

 

今回のアウトラインはこんな感じです。
実は今回の記事中では「なぜ複素数なのか?」っていう疑問の根幹は解決しないと思います。
そのあたりは次回以降見えてくるのでは??と勝手に考えてますが、とりあえずまず、交流世界へのイントロダクションとして本記事はお読みいただければ幸いです。

1.三角関数から指数関数へ
 1.1複素数の復習
 1.2交流と三角関数による交流の表現
 1.3指数関数による交流の表現
2.位相
 2.1同一周波数の複数の交流と位相の概念
 2.2複素平面上での位相差の表現

 

1.三角関数から指数関数へ

1.1複素数の復習

さてまずは簡単に前回までのおさらいを兼ねて、今回出発点となるところを整理してみようと思います。

 

(1)虚数と複素数

まず虚数と複素数の話から入ります、さて虚数とは実数に対する概念で2乗して負の数になる数で2乗して-1となる虚数単位”j”(数学界隈では”i”が持ちられることが多い)と任意の実数bをとの積 jb として表せる数でした。
そして複素数は(実数)+(虚数)として定義される数で任意の2つの実数a,bと虚数単位jを用いて



のように表せる数の概念でした。

そして電鍵さんの世界のしきたりでは複素数を表す変数を頭に"・"をつけた表現で



と表記するしきたりや、aは実部、bを虚部といい、複素数の実部、虚部をとりだす以下のような記法についても触れました。




また複素数にたいして実部の符号が反転したものをZの共役複素数といいそれを頭に”-”`をつけた表現で



と表すことも説明しました。

 

そして複素数の四則演算(加減乗除)についても説明し、特に加減算は以下のような実部同士、虚部同士の加減算、



になること、そして乗除算ではそうならないことにも触れました。

 

(2)複素平面とフェーザ表示とオイラーの公式

複素数は実部と虚部という2つの実数成分を持っているため2次元平面の点として記述でき横軸に実部(実軸)をとって、縦軸に虚部(虚軸)をとったものを複素平面といい、任意の複素数はその原点から対応する点へのベクトル(向きと大きさを持った値)という概念(複素ベクトル)も取り上げました。
複素平面で例えば複素数は以下のように表すことができます。
 

図1.1 複素平面による複素数の表現

 

そして複素ベクトルの大きさを絶対値といい電検さんの世界では”・”を取って表記でき、先のAの例だと三平方の定理



より、



となること、そして向きを表す角度φを 偏角といい複素数を絶対値と偏角で表現する次のようなフェーザ表示



を説明ました。そして、絶対値と偏角から実部と虚部を三角関数を使って以下のように表すことができ



 

そして驚くべきことにこの式から数を虚数とした指数関数(自然指数関数)の公式であるオイラーの公式

 



をもちいて



と、複素数は指数関数を使って絶対値と偏角とで表すことができることを学んだのです。

そして、指数形式を使えば乗算、除算は非常に簡単に以下iにように記述できることも触れました。

(例)との乗除算




以上が本記事のプロローグです。


 

1.2三角関数による交流の表現

さてここから交流について触れていきますがそもそも交流とはなんなんでしょう
交流は直流に対する概念ですが、時間変化しない一定の値をもつ電圧/電流が直流であるのに対し、交流は単純に時間変化のだけのある電圧、電流をいうわけではありません。

少なくとも狭い意味で交流というときは時間を変数とした三角関数で表せられる時間変化を伴う電圧、電流やそれを取り扱う回路のことを言います。
もっというと直流を究極には交流の一形態とも考えることもできたり、、、、

、、とまあ、そんなことことをくどくど書いていてもよくわからないと思いますので(書いてる本人が自覚してる)で以上の説明は忘れてもらって、数式とヴィジュアルに訴える形で直流と交流を説明します。

 

ここでは交直の説明は電圧でも電流でも同じなので、とりあえず取り扱うのは電圧だということにしますが。(一般化して量として取り扱ってもいいのですが電験さん向けなので具体的な電気量でということで、、)

時間tを変数とする電圧を表現する関数を小文字のvをつかって



と表記します。(適宜した下付き添字を追加して区別します。)

さて直流(DC:Direct Current)ですが 直流電圧は次のように表記できます。



ここで”(Const)”というのは電圧値が定数(一定の値)であることを明示するためにつけているだけです。つまり直流電圧というのは常に時間tによらず一定の値の値をとるものになります。
 

次に交流(AC:Alternative Current)ですが交流電圧は次のように三角関数で書くことができます。



振幅(Amplitude)というもので交流の電圧値を代表して表す値の1つで時間変動する電圧値のピークの値です(正確には負のピークもあるのでピークの絶対値)。さて実際の電験さんたちの世界では交流の電圧値を代表する値には実効値(Effective Varue または Root Mean Square Value)というものが用いられます。実効値に関しては別記事で説明する予定ですが現段階では上式のような交流(三角関数で表す交流)では実効値と振幅との間には以下の関係があることだけ知っていただければと思います。簡単に結論だけ言うと電力計算する際に実効値を使ってた方が都合がいいのです。



交流と複素数のイメージを結びつけるには振幅を使って説明する方が都合がいいのですが、事実上実効値で表記することが暗黙のうちにルールのようになっているのも実情です。
そこで本ブログシリーズでは振幅でビジュアルを示しつつと実効値を可能な限り併記することとさせて頂きつつ、くどいくらい実効値と振幅の違いに言及し実際の電験の問題では暗に実効値を使うんだという説明をさせていただくこととします。(ここは意識的にそうします。)
とりあえず前式は実効値を使って以下のようにも書けます。



φは位相とか位相角などと言われ角度の単位([rad]または[°])をとるものす。後で説明しますが、2つ以上の交流電圧(または交流電流)を扱う際には意味をもちますが、単独の交流電圧(または交流電流)を取り扱う際にはあまり意味を持ちません。また、ここでは三角関数として余弦(Cos)を使ってますが別に正弦(Sin)を使っても構いません。というのも余弦(Cos)と正弦(Sin)の関数はそれぞれφがπ/2(90°)の差があるからです、、といっても位相を説明しないとわかりにくいかもしれませんね。
とにかく、ここでは説明の都合、余弦関数を用いてφ=0の以下の場合を考えます。



最後にω(ギリシャ文字でオメガと読む記号です)ですが、これは角周波数(Angular Frequency)と呼ばれるもので交流の変化の速さを表すもので、単位は[rad/s]です。これは三角関数が角度の関数を持つため単位秒あたりの変化する角度[rad]で表す必要があるためです。
これではなかなか直感的にイメージしずらいのでもう一つ、交流の変化の速さを表すのに周波数(Frequrency)と呼ばれる値があり、これは単位秒あたり何回変化するかというものを表す値で単位[Hz]とか[]が用いられます。正直こういう風に言葉で角周波数、周波数を説明しても分かりにくいかと思いますので、後ほど図を交えて説明するときにも何度か言及、補足させていただきます。
ここでは周波数fと角周波数ωとの間にはいかの関係



があることと、交流の関数は周波数fを使って



とも書けることのみに説明とどめておきます。

さて、時間tを変数とする関数としてDC電圧、AC電圧を式で記述する方法は以上です。感のいい方はお気づきと思いますが関数という以上、グラフ化できます。
あえてこれまでこの用語を避けて説明してきたのですが、横軸に時間t、縦軸に電圧値など時間の関数で表せられる値をプロットしたものを波形(Wave Form)と言います。(そんなこたぁ知ってるって方もおられると思いますが、あえてここまで”波形”という言葉を避けてきました。)

先ほど紹介した直流電圧の式も交流電圧の式も波形で表すことができいかに示します。
ここでは各パラメータは以下の通りとしております。

直流:
交流:

 

図1.2-1 交流波形(正弦波)の例(1) - 直流波形との比較

 

直流が交流波形というものが値が三角関数により正負()に往復する波形であることがわかります。一般に三角関数の正弦(Sin)や余弦(Cos)で表せられる波形を正弦波(Sin Wave)と言います。正負に往復する波形は正弦波だけではないというのはわかると思いますが、断りなく交流といった場合は正弦波の波形を持った交流と考えて差し支えありません。そして実効値と振幅との関係が



になるのも正弦波の時だけということも覚えておきまししょう。(これは意外と勘違いしている人がいます。)
実効値に関しては別途説明すべきとは思いますが今はこの程度にとどめておきます。

さて次に交流電圧波形のみに注目して、周波数がどういうものか考えてみましょう、周波数fを2[Hz]から100[Hz]に変化させたときの交流電圧波形の変化を示したものが以下の図です。

 

図1.2-2 交流波形(正弦波)の例(2) - f:2[Hz]~100[Hz]

 

周波数fが大きくなるにつれ正負の往復波形間隔が短く(変化が速く)なるのがわかると思います。これを先程は変化の速さと説明したのです。そして正負の往復間隔の時間Tを周期(Period)といい周波数とは次のように反比例の関係があります。



つまり周波数を周期によって定義づけると単位秒あたり何周期分の波形があるかということになるのです。

 

1.3指数関数による交流の表現

さてここからが今回の本題です。
交流と複素数を結びつけるところです。

先程は三角関数を使った交流波形の表現を説明しました。



さて、複素数の話に戻ります。
オイラーの公式から導き出した、複素数の表現です。



ここでとしてみましょう(だまされたと思って)



ですね、実効値で表すと



だったりしますね、

もうここまで言うとわかると思いますが、指数に虚数単位を導入した指数関数が時間tを変数とする(時間変化する)複素数の値をもつ関数であり、その実部、虚部はいずれも正弦波を表す三角関数となっていることが分かりますね。そして実部だけを取り出した場合余弦(cos)の関数でこれまで扱っていた正弦波の式と対応してることが分かると思います。つまり実部を取り出す"Re[]"をつかって



もしくは実効値を使って



実はここまでの議論で正弦波を余弦(cos)で記述していたのはここで"実部"を取り出すということを想定していたからで、正弦(sin)で正弦波を記述して、ここで虚部を取り出すように議論をすすめることも間違いではありません、本質的にはあんまり変わらないのです。余弦を使ったのは個人の趣味と思ってください、、なんか実部(リアルな値)を取る方がそれっぽいとかそんな程度の理由です。ということで以降も実部を取り出す方針を採用します。

すこし話が脱線しましたが、複素数の関数(指数関数形式)を使って正弦波交流の波形を記述できるのはわかっていただけたと思います。(、、、多分)

そう、ここで交流の世界と複素数の世界が交わったのです。(どやっ)

それで、なにがすごいの?っと思われるかもしれません、、それは当然です。
ここでの議論はあくまで、これからの議論の下支えに過ぎないのです。
電検で交流回路を扱うときにといった時間の指数関数や記号"Re"を使って実部を取り出すなどといったことは、わざわざしないのは(多分)承知のの通りです。そういったことをこれから位相の概念を交えて説明していきたいと思います。

ここでの話は交流を複素数で表すことの背景だということを理解して頂ければと十分だと思います。

 

2.位相

ここからは周波数が同じ値の複数の交流を考え、交流波形を表すパラメータとして周波数、実効値(振幅)に加えもう一つ重要な位相(および位相差)という概念を導入します。

 

2.1 同一周波数の複数の交流と位相の概念

1.2項の説明では交流(正弦波形)の一般的な記述として



を紹介しました。そこには時間tを変数とした正弦波を表す関数のパラメータとして実効値(または振幅)および角周波数ω(または周波数f)の二つに加えてφという記号の物がありました。
つまり正弦波を表すには3つのパラメータがあるということです。
交流回路の問題では基本的には回路の各部の電圧や電流は同じ周波数(角周波数)として使われます。

(加えて言うと複数の異なる周波数の電源などが接続されている場合は、角周波数単一の回路の重ね合わせとして考えることもできます(重ねの理)。このことや周波数が回路を通して同一で扱えることも、回路が線形システムといわれるものであることを前提とした考えで、一般論でゃなかったりするのですが、これはかなり難しいくなるというか解析的には事実上説明できなくなるので興味のある方は調べてみてください。)

また話がそれましたが、前述の理由のため交流回路で複数の交流波形を考える場合は周波数が同一の波形を考えるということが多いのです。つまり、実効値(振幅)、φの二つのパラメータの違いで考えるということです。
先ほどの説明では実効値(振幅)については説明したのですが、φについては位相というもので、単一波形を考えるときにはφ=0として無視していいという旨で、さらっと交流波形は以下式で扱いました。



さて、φの違いが波形に与える影響とは何なんでしょうか??
ここでは複数の交流波形を考慮するときに必要な位相(Phase)の概念を考えてみます。

まずφを含む波形を以下式として



としてφ=0とした前式の波形(赤)との波形(青)とを比較プロットした図を示します。

図2.1-1がφを0からπ[rad](180°)に増やしていった時で、図2.1-2がφを0から-π[rad](-180°)に減らしていった時の波形となります。

尚、振幅はで揃えています。

 

図2.1-1 位相φによる正弦波形への影響(φ:0→π[rad] :進み位相)

 

図2.1-2 位相φによる正弦波形への影響(φ:0→-π[rad] :遅れ位相)

 

どうでしょうか??

図2.1-1よりφが正で増えていくにつれての波形が左に動いていっているつまり時間的に先行していっていることが分かると思います。
そう位相φは時間軸方向の相対的な波形の位置と対応しているのです。
計算したらわかると思いますが、この先行する分の時間差は時間軸ではφ/ω[s]なのですが、交流回路を扱うときこうした時間的な差を時間の単位で表すことはあまりせず、この位相の単位である角度の単位つまり[rad]または[°]で表すのです。
そして図2.1-1のようにφが正の場合はφだけに対して「位相がφ進んでいる(v. Lead , Advance etc...)」といいます。

またφがπ[rad](180°)のときつまり位相がπ[rad]進んだとき、時間軸では半周期(0.5T[s])進み、丁度が反転した状態になります。

位相が進むのと反対にに図2.1-2のようにφが負の方向に減ていていっている(絶対値は増えていっている)時はは時間軸上を右に動いている、つまり波形が時間的に遅れていっていることが分かると思います。
この場合は先ほどとは逆にに対して「位相が-φ遅れている(v. deley etc...)」といいます。(-の符号は負の値の絶対値を取り出すために付けてます。)

φが-π[rad](-180°)のときつまり位相がπ[rad]遅れたとき、時間軸では半周期(0.5T[s])遅れ、こちらも丁度が反転した状態になります。これは位相がπ[rad]進んだ時と同じになります。

感のいい方は気づいたと思いますが、交流波形は周期T[s]の波形の繰り返しで、この周期T[s]は位相として角度の単位で考えると2π[rad](360°)のため、位相が丁度2π(360°)の整数倍違うことは本質的に同じ波形を意味するからです。
今回例示したπ[rad]進んだ波形とπ[rad]遅れた波形もφの差は2π[rad]となり同じ波形となるのです。

どうでしょうか位相というものが分かってきたでしょうか??
周期Tを尺度とした時間的な遅れや進みを角度の単位で表しているというのが分かると思います。
そして位相というのは複数の波形を扱う際に意味を持つといっていた意味もこれで分かるのではと思います。
大事なことは位相は時間と同じく相対的なもので、ほかの(同一周波数の)波形の位相との差に意味があるということです。
単独波形で扱う場合は時間軸のゼロ点(基準)の取り方をかえて違う時刻を0[s]とすると、波形の式の記述上は位相φは変わるのですが特に意味がないのです。これは正弦波の関数に正弦(sin)をつかっても余弦(cos)を使ってもどちらでも議論できることにつながってます。

さて、より一般的に2つの正弦波形を区別する記述の例を以下に示します。




3つ以上の波形も敢えては書かないですがわかると思います。

ここでに対する(を基準とする)の位相は



となります、(が正の時はに対してが進んでいる、負のときは遅れている)
こうした位相の差はその名も位相差(Phase Difference or Phase Shift)ともいわれます。
そして各波形は以下のように記述したときも二つの関係として捉えれば本質的には変わらないのです。時間軸の取り方が違うだけで、位相差は一緒の二つの波形を表しているのです。




参考までに最後にがπ/2[rad](+90°) となる二つの波形のパターンのプロットを下図に示します。(この2ケースは本質的には同じもので位相は差が重要だと認識頂ければ幸いです。)
ここで各ケースの位相は以下の通りとしています。
 

ケース①:

ケース②:

図2.1-3 位相差90°の正弦波形 ケース①


 

図2.1-4 位相差90°の正弦波形 ケース②

 

以上、実は位相は意外と深い概念でφだけというよりはむしろを位相として捉えるなど、、、もっと深い展開等があったりするのですが、これは電検の話題とも離れますので、とりあえずはこの程度の説明に留めて次に進めます。

 

2.2 複素平面上での位相差の表現

前項で位相および位相差の概念を学んだので今度は位相(もしくは位相差)の概念を複素数と結び付けてみたいと思います。

まず扱うのは一般化した以下の二つの波形です。




さて、複素数と結び付ける手続きは1.3項と同じようなアプローチをとります。つまり指数を虚数とする指数関数の実部として余弦を記述する方法です。まずついて以下のように記述できます(振幅表記は省略)。



ここでRe[]の中身に注目すると指数の法則より、



とでき、時間の関数ではない(定数の)複素数の積になっていることが分かります。
ここで定数部分のうち、絶対値、偏角の複素数の定数の部分を



とします。この複素数にはの周波数以外のパラメータ要素(実効値および位相)が含まれていることが式より明らかだと思います。さらっと導きましたが、この複素数の形式こそが交流理論で交流を表す複素数(複素ベクトル)として一般に、、というか散々扱われるものなのです。
くどいようですが電圧や電流を表す場合は振幅値ではなく実効値が用いられることがしきたりであり、それは複素ベクトルで表す際の絶対値もそうであることに注意してください。

に関しても同様に



複素数が求められます。

さてこれらの複素数を使って改めて波形を記述してみます(複素数の大きさが実効値であることに注意してください。)




Re[]のなかの共通の積として現れる部分は周波数(角周波数)と時間に依存する部分です。と考えてもいいのですが、振幅/実効値の違いにも依存しないいう意味でを扱います。)

さて,

このは複素平面上で時間に対してどのようにふるまうのでしょうか??
前回のブログを思い出してください、これは大きさ1で偏角がωtの複素数と考えることができます、つまり、偏角が時間tにたいして角周波数ωによって増えていく絶対値1の複素ベクトルとなります、、その軌跡は原点を1とした半径1の円(単位円)の上を単位時間当たりω[rad/s]で左回りで回転するものとなります。以下図でその振る舞いを見てみましょう、下図はが複素平面上で回転していて、Re[]でその挙動の実部成分を取り出す、つまり実軸に投影すると余弦関数()になる様子を表しています。(時間j軸は単位[s]にしてますが、周波数60[Hz]を使いたいので、アニメーションはスローモーションと思ってくださいね。)
ここまでで気づかれた方もいるかもしれませんが周波数f[Hz]というのは複素平面上でが単位秒あたり何回転するかというのにも対応しています。

 

図2.2-1 複素平面上での指数関数の振舞いと実軸投射

 

ここで、時刻t=0(もしくは周期Tの倍数)のときは虚部が0の1であり実部上の1を表すベクトルであることもわかります。
さてここで




のRe[]のなかの複素数の複素平面上での軌道を考えます。
先ほども触れましたがおよびは時間に依存しない複素数(複素ベクトル)でそれぞれ絶対値、偏角を持ちます。なおここで絶対値は前回の説明したようにのようい複素数の変数の記号から頭の"・"を取った表記でもいいのですが、ここではより明示的に実効値を使うという意味で前記の通りとしています。

を乗算するということの意味を考えます。1.1項でおさらいした複素数の掛け算を思い出しましょう、そうつまり、この乗算はの大きさ1にを掛け、偏角にを足したものです。(今さら感はありますが先ほどのを定義づける過程でそのことは既に示されていたりします。)
そして周波数が同じならこのの間の角の関係は時間に依存せず一定であることが大事なのです。
つまりが時間により複素平面上で回転するのに伴い、同じ角度差の関係を保ちつつ回転するということです。
絶対値は実効値なので実際のの波形はをこれをさらに倍したものの実軸投影になります。

前項の最後に示したケース①、ケース②に関して複素平面図や波形を示してみます。
まずt=0の時の複素平面上の状態を示します。
 

図2.2-2 位相差90°の正弦波形の複素平面図(t=0)  ケース②

 

図2.2-3 位相差90°の正弦波形の複素平面図(t=0) ケース②

 

次に時間の経過によりが複素平面上回転するときの時間発展とその倍(振幅に変換)の実軸上の投影がになっていることを観てみます。

 

図2.2-4 位相差90°の正弦波形の時間発展(複素平面図および時間-実部表示) ケース①

 

 

 

図2.2-5 位相差90°の正弦波形の時間発展(複素平面図および時間-実部表示) ケース②

 

どうでしょうか、、見えてきましたでしょうか、、、通常ベクトル図を描くということはこの回転しているベクトルを適当な時刻で静止させたものを描くということです、取り出す時刻はどの時間でもの位相の関係は変わらないのでどの時刻で取り出しても良いのです。それができるため、都合の良い複素ベクトルが実軸と重なる瞬間を取り出してベクトル図を描くと行ったことができるのです。これが頻繁に電検でベクトル図で出題される電圧Eとかを基準(実軸向き)としてベクトル図を描けっていう問題の意味するところです。

静止させたものを描くということはまたが事実上無視されてもいいことを意味しています。実際電検の問題でも参考書でもこのに言及しているものは無いように思われますが、より深く交流を理解するためにはこの「背後にがある」ということは知っておくといいと思います。

これまたくどいようですが、実際の交流の波形は複素ベクトル表示の大きさが振幅であるときの回転軌跡の実軸投影であるのですが、、、通常の複素ベクトル表示では実効値が複素ベクトルの大きさとして使われることに注意して頂くことを再度申し上げておきます。
(違いさえ分かっていればどちらを使っても本質的には同じなんですが、、しきたりのようなものなので受け入れてください)

 

本ブログは以上です、何とか交流と複素数を結びつけるところまで来ました、、今回は扱う量が電圧なのか電流なのは関係のない議論をしました(何を使ってもいいからとりあえず電圧値で議論しただけです)、次回はより電気っぽく交流の電圧値、電流値の関係を考えていきます。
直流だとオームの法則で比例則があり、比例定数としての抵抗値があったりしますが、交流でも似たような関係が現れてきて、そこからインピーダンスの概念を説明したり、複素数での交流の計算は実は無意識に(限定的な条件のもとですが)微分方程式を解いていることだったりを仄めかすことができたらと思いますので、お楽しみにしてください。

 

※本ブログは加筆修正を積み重ねて、分かりやすさ、とっつきやすさを追求したいと思いますので、皆さんの正直よくわからんというフィードバック歓迎しております。(誤記/誤謬のご指摘も謹んで承っております)