※一部数式が正しく表示されないケースがあるようですがその場合はお手数ですがこちらのリンクをクリックしてください。

 

しょっぱなから??、なタイトルと感じる人もいるかもしれませんが(これでもタイトルに結構悩んだんです)、、、電検では交流理論から送配電工学における電力(有効/無効/皮相電力とか、元は交流理論ですが)、当然その用である電気機器(変電気、回転機等)、果ては制御工学のラプラス変換に至るまでまで複素数を扱います。

 

たとえばインピーダンスか複素数を使って交流回路の問題などを解いたりしますよね。

 

しかし、なぜに複素数なのかそこに疑問を持っておられる方も多いのではないかと思います。(少なくとも交流理論初学者の時代の私はそこがもっと知りたいと思いました)

 

そこで私は無謀にもその謎(でも何でもいんですが)の解明(だだの解説)に一連のブログシリーズとして挑んでみようと思います。(ブログ初心者としていきなりハードル上げすぎたとすでに後悔しております。)

 

尚、まだあくまで予定ですが、このシリーズでは概ね以下の感じで、電験における複素数の世界の説明を計画してます。(基礎知識として多少の微積分の知識とかベクトルの考え方と知っていると望ましいです。)

 

(その1) 複素数って何??? ~虚数と複素数

(その2) 美しきオイラーの公式 ~指数関数とオイラーの公式

(その3) 交流理論への複素数の導入 ~交流の表現、位相の概念

(その4) インピーダンス登場 ~インピーダンス概念によるオームの法則の拡張

(その5) 実践交流回路 ~実際の問題への適用

 

(その6)以降は送配電工学や制御工学にも踏み込めればとは思いますが、、力尽きるかもしれません。(多分力尽きます)
 
※実は今回だけで上の(その3)の内容まで書こうと思ってたんですが意外と複素数を説明するだけでも文量が多くなってしまったので、、あきらめました。複素数の基本的なところ理解している方は正直今回は飛ばしてもいいって思います。

 

なお、一連のブログシリーズはその趣旨より、数学的厳密な理論を取り扱ってはいない、かなり雑な展開なので、気になる方は深堀されるのも面白いと思います。

ただし、数式につきましては遠慮なく使用していきます。これには電検を受けるには問題から立式して計算するという行為は避けられないため、数式にはできるだけ慣れてほしいという意図もあります。

 

とりあえず今回のアウトラインですがこんな感じで説明してみます。

1.虚数と複素数の説明

 1.1 虚数単位と虚数

 1.2 複素数

 1.3 複素数の計算

 1.4 演習問題

2.複素数の視覚的イメージ(複素平面図)

 2.1 複素平面

 2.2 複素ベクトルとフェーザ表示

 2.3 複素ベクトルの加減算

 

さて、本題に入ります。

 

1.虚数と複素数の説明

まず、電気のことはいったんわすれて複素数に関して中学校の数学から紐解いていきたいと思います。(私は普通科高校の教育過程を通過してないので高校数学からのアプローチは苦手なのです。)

なお本項は複素数をわかっている方は無視して次項に進んでも構わないと思います。

 

1.1 虚数単位と虚数

さて、複素数の説明に入る前にそれを構成する虚数について説明します。

次のような単純な2次方程式

 

 

において解は

 

 

の2つあることはご存知だと思います。

 

たとえば正方形の面積 がわかっていて、一片の長さを求める問題では、上記の方程式を解いて、2つの解のうち負数は正方形一片の長さとしては妥当ではないので、正数のみを解として選択して と回答します。

 

そして、中学数学では次のような場合

 

 

解は存在しないしないこととしているはずです。なぜなら我々が具体的に認識している数(これを実数(Real number)といいます)は2乗すると必ず正になるので、2乗して負のとなるものはないとの考え方があるからです。(負の実数を具体的に認識できる量とするのか?など考えると、この説明は誤謬があるとは思いますが、本件の議論とは離れますのでご容赦ねがいます、、、)

しかし、数学のすごいとろは具体的に認識しずらい抽象的な数を定義の名の元で定めて、抽象世界で議論を進めるところです。(ここが逆に数学がとっつき難いと思われるところなのかもしれませんが、、、)

つまり二乗して負の数になる数はあるんだ、ということを受け入れて、これを新しい概念として定義しようって考えるのです。

とりあえず、まず二乗して-1になる数を

 

もしくは

 

と、記号"j"を用いてこれを虚数単位(Imaginary unit)なるものとして定義づけます。(あくまでも定義です!!)

そうすることで、 のような方程式の解は

 

と虚数単位に実数をかけた形で表現できるようになり、この二乗して負になる(実数)×(虚数単位)で表せる数、これを虚数(Imaginary number)と呼ぶことにしたわけです。(英語の直訳は想像上の数っていう意味です。)

ちなみに数学分野の慣例では"Imaginary unit"の頭文字で"i""を虚数単位の記号としますが、電検さん界隈では記号"i"は電流を表すのに使う変数として多用されるため"j"を用いる慣習となっています。(まぁ定義付けさえきちっと共有できていれば、正直記号はなんでもいいのです)

 

1.2 複素数

(初稿を書く時点で)本項はどのように導入しようかと悩みました、複素数は実数と虚数の和だと言ってそれで終了ってことでも良かったんですが、、前項で 形式の単純な二次方程式から饒舌に虚数を導入した手前、やはり本項も二次方程式から導入しようと思います。

扱うのは一般的な二次方程式

 

 

です、この方程式では細かく解くと

 

 

という感じになります。(要は解の公式です。)

 

ただ、中学数学では平方根の中身 を解の判別式ととして、これが正の時に(実数の)解が存在することになります。

ここで前項の虚数の概念を導入すれば判別式 が負の場合も虚数単位"j"を使って以下のように解を表現できます。

 

 

このように二次方程式の解として (実数)±j (実数) ⇒(実数)±(虚数) という形式の数が導きだされましたもう、この数は今まで取り扱ってきた実数でも、先ほど導入した虚数でもどちらでもないので、数学では新しい数の概念として複素数(Complex number)としてよぶことにしました。

あらためて定義を整理して一般化すると任意の実数q,pと虚数単位 j を使って複素数は以下のように定義されます。(前例で符号が負のケースはpが負と考えます。)

 

 

また、今後は交流理論の流儀に従い文字の上にドットをつけた記号(例)で複素数であることを明示的に表すことにします。

(この表現法や虚数単位を"j"とすることは電検さん界隈(交流理論分野)独特の表現で一般的な数学の世界では違ってたりするので留意は必要です。)

複素数を構成する実数、虚数それぞれの成分を表す実数(p,q)のうちp実部(Real part)q虚部(Imaginary part)と呼びそれぞれ

 

 

と記述したりもします。ここまで読んでいただいた方はお分かりと思いますがReはRealから、ImはImaginaryから頭二文字からとってます。

 

もう一つ定義として二次方程式の二つの解 (実数)±j (実数) のように実部は一緒で虚部が符号が反対である関係を共役(きょうやく、conjugate)または複素共役(Complex conjugate)であるといい、電検さんの世界では複素数の上に"-"を付けた表現でそれと共役な複素数(もしくは共役複素数)として表現します。先ほどの例だと以下のように表現します。(数学では右上に"*"を付ける表現も使われます。)

 

 

以上、本項では一般的な二次方程式から複素数の概念を導入し、実部、虚部や共役に関する定義に触れてみました。

複素数は実数、虚数を拡張した概念ですので当然、実数自体や虚数自体も複素数となります(それぞれ虚部、実部が0のケース)

実は一般的なn次方程式はn個の複素数を持つことが知られておりますが、ここでは深く触れず、、というか私も証明を知りませんのでほっといて次に行きます。(いい加減で申し訳ありません。)

 

1.3 複素数の計算

本項は複素数に関する四則演算について考えてみます。

結論から言うと複素数同士を足したり、掛けたり、割ったりしても結果は複素数の範囲内にあります。

本項ではそれを以下の二つ複素数>をつかって示していこうと思います。(一応断っておきますがa,b,c,dは実数です)

 

 

まず足し算(加算)です。

 

 

簡単ですね、結果の実部、虚部はそれぜれ元の数の実部同士の和、虚部同士の和になります。

 

引き算(減算)もか同様で次の通りです。

 

 

ここで見たように(実部)、(虚部)に注目すると当然以下の関係が成り立ちます。

 

 

 

掛け算(乗算)は足し算、引き算よりは難しくはなります。

中学校数学の積の展開がわかっていれば何とかなりますが、虚数単位の二乗であることは考慮しないと結果が複素数であるということにはたどり着けません。

 

 

少し複雑ですね。でも、結果は複素数になりました。

これは公式のように覚えるのではなく、考え方を理解しましょう。

なお、掛け算においては次のように足し算、引き算のような関係は成り立ちませんので注意が必要です。

 

 

上記関係は成り立たないのですが、次回以降、議論を進めていけていけは別の面白い関係があるのが見えてきます。

 

さて、割り算に入る前に共役関係にある複素数同士の足し算と掛け算は面白い結果が得られますので見てみましょう。

ここではとそれと共役な複素数を使ってみます。

まず足し算(加算)です。

 

 

掛け算(乗算)はこうなります。

 

 

足し算、掛け算いずれの場合も虚部は0になります、つまり結果は実数になるのです。特に掛け算の結果は興味深いと思いませんか??

 

さて問題は最後の割り算(除算)です。

ここでは都合上,、実部、虚部とも0である複素数()ではない()ものとします。(実部、虚部どちらかが0でなければ成り立ちます)

まず、とりあえず式にしてみましょう。

 

 

さて、これは複素数なのでしょうか??

この問題を解決するには分母の共役複素数を分母、分子に掛けるのです。先ほどの共役関係にある複素数同士の掛け算を使って次のようにできます。

 

 

どうでしょうか、見事に(実数)+(虚数)の複素数であることがわかりました。まただと実部、虚部ともに分母が0で都合が悪いのもわかるお思います。この割り算の結果も掛け算と同様、一見すると複雑ですが、ここは掛け算と同様、公式のように覚えるのではなく、考え方を理解することが重要です。とくに分母の共役複素数を分子分母にかけて分母を実数かするところがミソで実際の計算は意外と簡単だったりします。

 

以上、複素数同士の四則演算について解説しましたが、重要なのは四則演算しても複素数であること、あととくに掛け算と割り算については計算の考え方を理解することです。

 

掛け算と割り算については次回以降オイラーの公式を使って別のアプローチでより簡単に計算でき、興味深い関係がわかるのですが、それは次回以降に譲りましょう。

 

1.4 演習問題

前項の各演算を複素数が以下の場合についての四則演算を実際に計算してみましょう。

 

(1)

(2)

(3)

(4)

 

2.複素数の視覚的イメージ(複素平面図)

 

本項では想像上の数の意味をもつ虚数と実数からなる複素数を視覚的にとらえるために複素平面の考え方を導入します。

 

2.1 複素平面

通常実数は一本の数直線上の一点として表現することはご存知の通りとおもいます。

虚数に関しても同様に一本の数直線(虚数単位を取った実数)として表現することができます。

さて実数、虚数を成分として含む複素数はどうにか表せないだろうか??っというときに考えられたのが複素平面(Complex plane)です。

複素平面で複素数を表すのはは二次元のx-y平面上の点(x,y)を表すのと同じです。x-y平面上の点はxを横軸にyを縦軸にとってx,yの値と対応する点を示すのですが、複素平面は横軸に実部をとって実軸(Imaginary axis : Re)と名付け、縦軸に虚部を取って虚軸(Imaginary axis : Im)と名付けた二次元の平面で、1つの複素数はその平面上の1点として表すことができます。

例えば を複素平面上に表現(プロット)した場合は下図のようになります。

 

図2.1 複素平面への複素数のプロット(a=2,b=3)

 

このように複素平面を使うことにより複素数は平面上の点として表せま。、ちなみに実数は実軸上、虚数は虚軸上の点となります。

 

2.2 複素ベクトルとフェーザ表示

前項では複素数は実部および虚部の二つの値を使って複素平面上の1点として表せることを示しました。

複数の数字の組は単一の数字(スカラー)に対して一般にはベクトルといわれ、大きさと向きを示す量を表します。(かなり雑な定義付けです。)

複素数 も同様にベクトルとして捉えることができてこれを複素ベクトル(Complex Vector)といいます。

具体的には複素平面上の原点(0+j0)からに向かった方向にその間の距離を大きさとするベクトルで下図のように矢印で表現できます。

 

図2.2 複素平面の複素数ベクトル(a=2,b=3) 

 

ここで大きさに当たる量((0+j0)からとの間の距離)を複素数の絶対値(Absolute  value)といい、電気計算では頭の"・"をとった表記で表します。(実数の符号をとった正の値である絶対値の拡張した概念です。)

上図からも明らかにわかる通り絶対値はであり以下の通りa,bから三平方の定理で次のように算出できます。

 

 

つぎに上図で向きを表す角ですがこれを偏角(argument)といいます。実軸の正方向からみた複素ベクトルの矢印の角度で反時計回りを正とするようにとります。なぜ反時計回りを正とするかはその方が実部aおよび虚部bを以下のように記述できるという都合もあります。(時計まわりを正とすると虚部の式に負の符号がつくだけなのですが)

 

 
そしてこれはつまり複素数j
 

 
と記述できるということなのです。
 
ただ、ここで電検界隈で注意して頂きたいことがあります。
 
それは、よく設問に「遅れ位相を正とする」と問題に但し書きがされていることがあります。
これは実はその問題で言及される位相差(通常はθで表します)が、この偏角の定義と逆に時計回りを正としているということを、暗に示しているのです。いきなり説明するのは難しいので今後の議論としますが、これには、電力業界では圧倒的に遅れ位相が幅を利かせているという背景があります。位相差でθを使うことが多いので本ブログシリーズでは明示的に偏角を扱うときにはφを用います。
 
電検さんとしてはまず「遅れ位相が正とする」というという言葉が出た時には、位相差でθ複素平面上で時計回りが正だということを意識できればいいと思います。

 

さて、話を戻しますがこの偏角で扱う単位についてです。
これまでの議論で偏角の単位は一般に角度をらわすのに使う度数法をもちいて[°]でも数学でよく出る弧度法を用いて[rad]でっも、どちらでも構わないのですが、、次回以降のお話し特に微積分を扱うときには[rad]が意味を持ってくるので両方の単位を扱えるようにしましょう。
ここでは細かい話はしませんが一回転は度数法で360[°]、弧度法で2π[rad]です。([rad]はラジアンと読みます。)
本ブログシリーズでは度数法で角度を表すときのみ[°]を付けて表現していきます。([rad]は基本的には省略します。)
 
偏角は絶対値同様a,bから三角関数の正接(tan)の逆関数(arctan)を使って求めることができるのですが、、あんまり使わないと思いますので説明省略します。
 

これで一つの複素数を一つのベクトルとしてとらえる複素ベクトルの考え方と複素数の絶対値および偏角の考え方を解説しました。

ここまで読まれた方はピンときた方もいるかもしれませんが、複素数は(a,b)というような実部と虚部の組だけでなく、(A,φ)という絶対値と偏角の組によっても表すことができます。 電検でも使われる表記法の一つとして"∠"を使った以下のような記法がありますので覚えましょう。
 

 
この記法のように複素数(複素ベクトル)を絶対値(大きさ)と偏角(向き)によってあらわすことをフェイザ表示(phaser)といったりします。
 
いくつかわかりやすい例を示しておきますので、実際に複素平面を自分で書いて確認してみましょう。
それぞれの共役な複素数についても同様に複素平面に書いてみてフェイザ表示(大きさ、偏角)がどうなるか考えてみましょう。
角度も[°]、[rad]のそれぞれの場合で考えてみましょう。
 
(1)
(2)
(3)
 

2.3 複素ベクトルの加算

そろそろ足し算、引き算あらため加減乗除をつかって加算とかの用語を用います。

本項では、複素数(複素ベクトル)の加減算が複素平面上でどのようになるのかを簡単なアニメーションで示します。

結論から言うと幾何学でのベクトルの加減算と同じになる(当たり前ですが)ということです。

 

文字数が限界に近そうなので、もうささっと動画の添付だけで、説明抜きで失礼します。

尚、動画では以下のように色分けしてます。

 

青:

赤:

緑:演算結果

 

図2.3-1 ベクトルの加算

 

 

図2.3-2 ベクトルの減算

 

 

以上、HTMLの文字数でブログエディタに文句を言われたのでも今回はこの辺りで終わりにします。

次回は本当はその1の内容としてまとめたかったんですが出来なかったオイラーの公式にまで話を進めます。

(思いのほか悪い意味で凝性な性格のせいで無駄に長い文になってしまった結果です)

 

 

※本ブログは加筆修正を積み重ねて、分かりやすさ、とっつきやすさを追求したいと思いますの

で、皆さんの正直よくわからんというフィードバック歓迎しております。(誤記/誤謬のご指摘も謹んで承っております)

 

<おまけ> 記事タイトル没案紹介

 

•「交流理論における複素数の役割」

⇨キャッチーでないので却下

 

•「美しき複素数の世界」

⇨価値観に共感できないかもしれないし、壮大な印象を与えかねないので却下

 

•「電験さんのための複素数論」

⇨そもそも複素数論なんて造語だし、複素関数論はあるけど電験の説明のためには飛躍しすぎるので却下