※溶けない死体 あらすじ


日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。

横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。

その二つの人間の死体の一部は、同一人物と断定された。

過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。

死体移動の綿密なトリック。完全なるアリバイ工作。

偶然と必然が複雑に絡み合う。

さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。

日常の闇に潜む、人間の深層心理が悲しい。



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「いえ、とても重要なことです。もう少し聞かせてもらいます。その業者を教えてもらいたいのです」

「・・・そんなことは関係ないでしょう。もう、レッカー車はないし、いまさら調べても何にもならん」

あきらかに、山本社長は、いらだっている。

新開刑事が「山本さん・・・あんたを疑いたくはないが、このままなら、あんたにも嫌疑がかかることになる。そのあたりをよく考えたほうがいいと思うが・・・野上のことを思っているのなら、大きな間違いだ。雪田君の質問に答えたほうがいいと思う。どうなんだ・・・えっ、山本さん?・・・」

新開刑事は、大きな声で一喝した。

「ということは・・・私も疑われているということですか?」

「疑われても仕方がないということだよ」と、新開刑事が強く言った。

「それは困る。別に隠しているということはない・・・ただ、エンジンを見た業者は、野上さんの知り合いということは隠していたが・・・それだけしか隠していない。それ以外は本当のことだ」

山本社長は、完全にあきらめてしまった。

事件に関係しているということを、とても不安に思ったようであった。

「野上の知り合いですか? その業者は?」僕は尋ねた。

「えぇ、野上さんにレッカー車を貸し、返してもらった時に、野上さんから、エンジンを壊したようだという話があったのです。それで、私が困った顔をしていると、野上さんは、申し訳ないということで、その業者に見せたのです。それで、エンジントラブルのことが分かり、野上さんは、車を壊したということで、損害金として五百万円をくれたのです」

「野上が、損害金をくれたということですか?」

「はい、もう古い車なので近々に買い換えようとしていたので、そんな大金はいらないと言ったのですが、野上さんは、申し訳ないということで無理やり五百万円を持ってきたのです」

「ということは、エンジンから異音が出ているということは?」

「・・・聞いていません。野上さんが、そういうものですから・・実際は聞いていません・・・」

「山本さん、隠し事は困りますよ。あなたのためにならない・・」僕も声が大きくなった。

「すいません・・・」

「野上から口止めをされていると?」

「いえ、それはありません。そんなに大きな問題になるとは思ってもいなかったし、警察に呼ばれて初めて・・・何かあると思ったのです。だから、野上さんに不利になるようなことは隠していました。野上さんは、私には必要な人ですし、私の会社にも資金を融資してくれている人だから・・・」

「そうですか。融資も?・・・」

「私のような小さな会社に銀行は融資をしてくれません。だから、野上さんの金融会社にお願いしているのです。私にとってはなくてはならない人なんです。私は何かの罪になるんですか?」

「・・・今のところは何もない。ただ、あんたの知っていることは隠さずに話すということだ。隠したなら、場合によっては犯人隠匿になるということも覚えておいたほうがいいな・・・」

と、新開刑事は、諭すように話した。

山本社長の聴取は、これで終わったのだが、今日のことは野上幸則には秘密にしておくという約束になっていた。

山本社長の話から、廃車にしたというレッカー車を調べたという業者も分かった。

多摩地区にある、小さな整備工場だ。

その日、その整備工場に行くことになった。

その工場は、多摩地区の八王子市のはずれにあった。

工場と言っても、親父さんが一人で経営している零細工場ということだ。

大場自動車整備と、道路の歩道の街路灯に文字が薄れた看板があり、その横の道を入ると奥にバラックのような建物があった。

そして、その建物の中に誰かが動いているのが見えた。

僕は、その人に声をけた。

「すいません・・・大場さんはいますか?」

「ん・・・誰だね? 大場だが・・・」と、年のころなら七十才ぐらいの白髪の人が答えた。

「大場さんですか? ちょっと、伺いたいことがあるのですが・・・」

「伺う? 車検か何かかい?」

「いえ、最近、レッカー車のエンジンが壊れたということで、その件について・・・」

「保険屋か? そうなら、その車はないぞ・・・」

「いえ、保険屋ではありません。山本さんのところの車ですよね?」

僕は、単刀直入に尋ねた。

その間、新開刑事は、工場の外で待っていた。

「山本? そんな人は知らないな・・・」

「えっ、レッカーの所有者は?」

「知らないな・・・確か、野上とかいう男が持ち込んできたが、その野上という男の車じゃないのか?」

「・・・野上に間違いはないですか?」

「間違いない。年はとっても記憶は確かだ。それで、何の用事だね? それと、あんたは誰だ?」

「雪田といいます」と、僕は名刺を差し出した。

新開刑事との事前の打ち合わせで、警察という形をとることは止めようということになっていた。

変に警戒されても困るし、野上と付き合いがあるとしたなら、野上に漏れることは必至だと思った。

「ほぅ、あんたも車屋さんか・・・で、何だ?」

「いえ、そのレッカーについて聞きたいのです。エンジンは壊れているということは聞いていますが、それ以外の部品は使えるのではないかと・・・どこにあるのか教えて欲しいのですが?」

僕は、とにかく警察関係ではなく、ただの、車屋が部品を探しているという形にしようと思っていた。

「部品・・・しかしなぁ、車はどこにあるのかは知らない。野上という男が勝手に持ってきて、調べてくれということだったな。それで、エンジンをみてみたが、完全に壊れていた。オイルが入ってなかった。それと、他の部品が使えるのかは知らない。俺がみたのはエンジンだけだ」

「そうですか。それで、レッカーは、どうやってここに運んだのですか?」

「牽引だよ。大型車をひっぱる牽引車だ」

「その牽引車に何か会社の名前は書いてなかったですか?」

「確か、八王工業の車だと思ったが・・・このあたりでは大きな会社だからな・・・」

「八王工業・・・シュレッダーの?」

「あぁ、その会社だ。間違いはない。年はとっても記憶は確かだ・・・」

八王工業というと、例の手だけの死体を横浜の横浜電炉に運んだ会社ではないか・・・

さらに、木村自動車解体から、ボディガラが最初に持ち込まれた会社でもあった。

何かがつながっている。

「大場さん・・・その牽引車を運転していたのは、野上なのですか?」

「違う。運転していた男は別人だ。野上という男ではない・・・」

「で、大場さんは、エンジンが壊れていたということを伝えて?・・・」

「あぁ、エンジンが壊れているという証明書を書いた。普通なら、そんなことはないが、証明書を書いてくれたなら、五万円くれるというからな・・・書いた・・・とにかく、急いでいた。エンジンが壊れていて、修理することはできない、エンジンの乗せ換えが必要だと書いた」

「車が壊れているという証明書ですか? 珍しいですよね?」へ

「あぁ、俺も長い間、車屋をやっているが、こんなことは初めてだな」

「その証明書を何に使うとか言っていませんでしたか?」

「さぁ・・・誰かに見せるというようなことを言っていたと思うが・・・」

間違いない。山本社長に見せるために、証明書を書いてもらったとしか考えられない。

しかし、何故、こんな小さな工場に依頼したのであろうか?

仮に、大きな工場だと何かの理由で発覚することを恐れていたのかもしれない?

それにしても、ここで八王工業の名前を聞くとは思ってもいなかった。

僕たちは、大場自動車整備を後にした。

「新開さん、何か釈然としませんよ。レッカー車を何としても廃車にしたいということでしょうか?」

「あぁ、不思議だな。レッカー車に何かあるとしか思えない。今回の殺人事件に関係している何かがあるのかもしれん。そのレッカー車にはな?」

「えぇ、そうとしか考えられません。レッカー車を処分することの必要性は何なのか?日光のNシステムに写っていただけのことですよ。写っていたとしても、そんなに大きな問題なのでしょうか?それとも・・・他のNシステムにも写っていると勘違いしたのかもしれません?それで、急いで処分した・・・」

そのレッカー車は、廃車にされて埼玉の大手の解体業者で解体されたということは確認できた。

その車のことを覚えていた社長からの証言も間違いないものであった。

「うん、俺もそれを考えていた。雪ちゃん、とにかく、もう一度、日光のNシステムの画像を検分してみよう。何か見落としがあるのかもしれない。それと、他のNシステムにも写っている可能性もあるから、東京と京都の間にある全てのNシステムも調べる必要がある。これは大変だぞ・・・」

「新開さん、大変なことになってきましたね。一千キロ走っているということは、京都で発見された中川昭義の死体を運んだ・・・かもしれないということですね?」

「あぁ、その通りだ。京都中央署にも協力を依頼することになるな。それと、どうしても分からないのが、横浜の横浜電炉で発見された手の死体なんだ。八王工業で完全にシュレッダーにかけられているのに、手だけが残ってしまうということには無理がないかい?」

「そこなんですよ。僕も不自然だと考えていました。あんなに細かく裁断されるのに手だけが残るということはあり得ないと思っています。逆に考えてみると、手はシュレッダーにかけられていたのではなく、後からシュレッダーの済んだ車のガラに入れられた?そういう考え方もないですか?」

「雪ちゃん、そうかもしれんな?そうだとしてなら、八王工業から横浜電炉に行く途中で手を入れたとなる。何故、そんな手のこんだことをしたのか?足首も同じだ。どうして日光なのか?」

依然として僕たちの考えはまとまりのないままだ。

新開刑事は、署に戻ると、レッカー車についての会議を開くことを提案し、多摩西部署の捜査員全員が召集された。

「このままなら、何もつながらない。何か一つか二つを徹底的に調査したいと思う。その一つというのは、唯一の証拠になるかもしれないレッカー車だ。残念ながら廃車なされているが、レッカー車が、どこからどこまで走ったかということを調査してほしい。それと、手と足首の件だが、無駄な動きをしないでほしい。その人物を特定することは重要だが、こんなに捜査してもガイシャの特定はできていない。ここで、一旦、手と足首の人物特定の捜査人員を減らし、レッカー車のほうにいってもらう。それと、ホシは間違いなく野上幸則だ。野上の行動を調べる人員も増やす。レッカー車と野上の両面を中心にしたいと思う。この件については、捜査担当の警視の許可もとってある」

ということで、もう一度捜査体制を作り直すことになった。

僕にも、その件について新開刑事から報告があり、丁度、僕の店に来ていた岩崎弁護士にも話した。

この岩崎弁護士に話したことが、後に大きな問題となるとも知らずに・・・









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日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。

横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。

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過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。

死体移動の綿密なトリック。完全なるアリバイ工作。

偶然と必然が複雑に絡み合う。

さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。

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第四章  糸がつながらない 

年の瀬も近づいた。街は年末の慌しい様相だ。

数日後、その積載車のセフティーローダーの所在が判明した。

色と形から判明したのだ。

この件については、所轄の刑事が必死で捜したという。

しかし、残念なことに、そのセフティーローダーは、すでに廃車となっていた。

多摩地区にある、山本レッカーサービスという会社の所有車であり、先月に、エンジントラブルということで、修理しても多額の資金が必要だということで廃車にしたいという。

以下、山本レッカーサービスの、山本亘社長への取調べである。

多摩西部警察の小川課長が担当することになった。

新開刑事でもいいのであるが、この件については課長が聴取したいと申し出た。

「山本さん、以前に、野上幸則という男にレッカーを貸したという記憶はありますか?」

「野上・・・えぇ、確かに貸したことはあります。車が壊れたということだったと思います。野上さんとは、私が立川の野上さんの店に行くようになってからの知り合いです。年も近いし、出身も関西ということで仲良くなったのです。私の会社の社員も、野上さんの店を利用しています。いつも、割引券をくれますし、料理も美味しいので・・・」

「そうですか・・・それはいいとして、レッカー車を貸した日付は?」

「確か、十一月だったと思います。いえ、私の会社は、保険会社と契約をして車をレッカーしているのですが、知り合いには、一日一万円で貸し出すこともしています。いつも、レッカーの依頼が保険会社からくることはないですから・・・」

「なるほど、それで、野上が直接に貸して欲しいということでしたか?」

「そこまでは記憶にないですね・・・それにしても、刑事さんが何故に野上さんのことを調べているのですか? あんなにいい人はいませんよ・・・うちの社員も皆大好きな人です。若いのに、昔は苦労したということで、あの年ながら、しっかりとした経営をされているということで、私としても良い手本のような方です。そういう人が何故でしょうか?」

「まぁ、その話はいいのですが、レッカー車についての簡単な取調べです。そんなにたいしたことではありません。ちょっとした事件です。多摩地区のレッカー会社には、全て同じような調べをしています。まぁ、窃盗関係というところです。それと、山本さん、レッカー車を廃車にしたということですが、そんなに簡単に廃車にしてもいいのですか? エンジントラブルなら、中古品と交換すればいいかと?・・・」

「えぇ、普通のことなら修理交換でいいのですが、今回は、エンジンの中が完全に駄目になったのです。それと、もう年式も古いので、ここで新車を購入したほうがいいと判断したのです。もう、十年も使っていますからね・・・」

「そうかね? 何か別に理由があって処分したということはないか? 例えば、何かの犯罪にかかわっているとか・・・えっ、どうなんだ?」

と、小川課長は、語気を強くした。普段は、そんなことはない人であるが、課長としての立場があったのかもしれない。何かとは、部下の刑事たちに対しての課長としての精一杯の態度だった。

「犯罪ですか? そんなことはないですよ。ということは、私も疑われているということですか? 冗談じゃないですよ。私は、何もしていませんよ。野上さんに車を貸しただけです。こんなことで疑われるとは思ってもいない。私は、協力して欲しいというから協力しているのに、こんなんじゃ話しにならない。えっ、刑事さん、いや、課長さんでしたよね。これ以上は話すことはない。このことは野上さんにも伝えておきます。何でも、野上さんの父親は、警察庁関係の官僚出身の代議士と知り合いということですよね?私も、疑われるなら、このことを話しておきます。冗談じゃない・・・ましてや、野上さんが疑われているということも心外です。話にならない・・・」

「・・・山本さん・・・まぁ、落ち着いて下さい。そういう意味じゃないのです。失礼があったなら謝ります。どうか、今日のことは内密にお願いしたい・・・」

「内密? どういうことですか? 単なる窃盗事件レベルじゃないのですか? とにかく、私には関係ない。帰らせてもらいますよ」

「少し待って下さい。山本さんには関係ないのです。ただ、参考としてお伺いしていただけです」

と、小川課長は、平身低頭だ。

やっぱり、この人は事情聴取には向いていない。と、隣の部屋で聞いていた僕と新開刑事は顔を見合わせた。

「課長・・・もう、帰っていいですよね?」

「・・・はい・・・ご苦労様でした・・・」

「どちらにしても、今日のことは野上さんに伝えます。こんなことで疑われるとは思わなかった。気分が悪い。このままでは終わらせませんよ。私にだって意地がある。近いうちに、何らかの連絡があると思います。こんなことはしたくないが、課長の態度は、あまりにも酷い。参考ではなくて犯人扱いだ」

「待って下さい。山本さん、謝りますから・・・野上さんには内密に・・・」

「もう、そんなレベルじゃない。野上さんに言えば、あんたの首は飛ぶかもしれませんな・・・」

「山本さん・・・申し訳ない。この通りです・・・」

と、小川課長は、椅子から降りて、土下座してしまった。

情けない・・・もっと、うまく取り調べをしていたなら、山本さんを怒らせることはなかったはずだ。

新開刑事は、このやり取りを聞いていて、席を立ち、調べ室に向かった。

取調べ室のドアを開け、山本社長の顔を睨みつけ、そして、小川課長に何か囁いた。

その途端、小川課長は椅子から立ち上がり取調室の外へ出ていった。

後で、聞いたことなのだが、新開刑事は、小川課長に全ての責任は新開刑事が取るということを話したということだ。ここで、問題が起きたなら小川課長は、訓告程度の責任ではすまない。

新開刑事は、課長に替わって責任を取るということを言ったのだ。

「山本さん、落ち着きましょうや・・・何も、あんたに疑いをかけているということではない。野上に不審な動きがあったから、あんたを呼んで聞いたということだ。それにしても、野上のことを信用しているようだな? 何か、野上に秘密でも握られているのと違うのか?」

「・・・そんなことはない・・・」と、何かを隠しているような素振りだ。

新開刑事の、勢いと殺気に負けてしまっていたと思う。

「だったら、そんなに怒ることはないだろう。調べてみたが、あんたも警察のレッカー業者として登録している。そんなに警察を毛嫌いすることはないだろう? 言わば、同じような世界に生きているんだ。もう少し、協力してくれてもいいと思うがな・・・あんたの過去も調べているが、叩けば埃の一つ二つはあると思うが・・・まぁ、そこまではしないが・・・」

「・・・新開さんとか言ったな。 で、何を話せばいいのかい? 確かに、野上さんには世話になっている。資金も融資してくれているし、保険会社のレッカーの仕事も紹介してもらっている。ただ、それだけだ。それだけでも、俺は助かっているんだ。悪く言う筋はない・・・」

「そうか、でもな、今度の件は殺人事件がからんでいる。知っていて隠していたなら、犯人幇助としての罪も立件することになるが・・・」

「殺人? そんなことは聞いていないぞ。殺人なら最初から殺人と言えばいいじゃないか?どうも、おかしいと思っていたんだ。で、野上さんに嫌疑が?・・・」

「嫌疑というよりも、参考人の一人ということだ。あんたも、隠していると参考人ではなくて嫌疑がかけられても仕方ないかもしれん。これから聞くことを隠さないで話してもらおうか?」

「分かった。何でも知っていることは話す・・・」

新開刑事の迫力に完全に負けたようであった。

「レッカー車を貸した日のことだが、翌日には返してくれたということか?」

「いや、4日後だ。翌日に返すということだったが、都合が悪くてということだった。借り賃も倍払うということだった。俺にとっては何の損もないし、倍の料金ならと思って承諾したんだ」

「ということは、かなりの距離を走ったということだろう?車の走行距離計をチェックしていると思うが、かなりの走行だったか?」

「確か、一千キロ以上は走っていたと思う。ここに資料がないから確実なことは分からないが・・・」

「一千キロ・・・かなりの距離だな。不思議だと思わなかったのか?」

「・・・別に、大阪への往復の人にも貸すから、不思議とは思わないが・・・」

「野上は、車屋じゃないんだぞ・・・そんなに走ることはないだろう。ましてや、金を持っているんだから、陸送業者にでも依頼したほうが楽なはずだ。そう考えると不思議だろう?」

「確かに・・・一般の人で一千キロもレッカー車を使用することはないと思う?」

「そういうことだよ。山本さん・・・おかしいんだよ。それと、もしかして野上が使った後にエンジンの調子が悪くなって、壊れたということじゃないのか?」

「・・・そう言えば・・・返してもらった翌日から調子が悪くなった。もう、三十万キロも走っていたから寿命だと思っていたが・・・」

「山本さん、野上が何かの細工をしたと考えられないか? エンジンは、どんな具合で壊れたのか?」

と、山本社長に聞き、そして、別室で聞いていた僕を呼ぶように同席の刑事に告げた。

僕は、ゆっくりとドアを開け、新開刑事の後ろに立った。

そして、僕は、ゆっくりと尋ねた。

「山本さん・・・雪田といいます。新開刑事から特別な質問を許可されている者です。警察署員ではありませんが、許可をもらって多摩西部署に協力しています。それで、一つ尋ねたいことがあります?」

「・・・ん・・・どういうことですか?」

「エンジンが壊れてしまったということですが、どのような形で壊れたのですか?」

「エンジンオイルが極端に減り、ピストンとエンジンブロックに亀裂が入ったということです」

「亀裂? どちらにも亀裂があるということですか?」

「そうです。どちらにも・・・」

「それはおかしいですね? オイルが減って摩擦が増え、エンジンブロックかピストンの温度が上がったなら、一般的にはエンジンブロックに亀裂が入るのが普通です。どちらにも亀裂というのは?」

「私が確認したのですから間違いはありません。私が嘘を言っているということですか?」

「いえ、一般的な見解です。で、その亀裂が元でエンジンが焼きついたということですよね?」

「そうです・・・それでエンジンが止まってしまったのです」

「止まる前に、エンジンから音が出ていたと思いますが、その音は聞いたのですか? エンジンが異常に高温になった場合には、必ず、異常な音がでます。ドンドンとかカンカンとか・・・」

「・・・それは聞いていません。突然、止まったものですから・・・」

「それで、エンジンを分解して見たら、亀裂が入っていたということですよね。というのなら、そのエンジンを分解した人は誰ですか?」

「・・・それは・・・知り合いの業者ですが・・・そんなことが関係あるのですか? エンジンのトラブルと何か関係しているとは思えませんが・・・もういいでしょう」

山本社長の態度は、あきらかに不自然になっていた。












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日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。

横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。

その二つの人間の死体の一部は、同一人物と断定された。

過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。

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偶然と必然が複雑に絡み合う。

さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。

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つまり、野上幸則の指紋を採取するという目的なのだ。

しばらく休憩して取材が再開された。

「飲食店と、車の関係の会社・・・それだけでもたいしたものですが、それ以外にも会社をお持ちだということですが?」

「えぇ、今度はお金に困っている人を助けたいという気持ちからです。高利な金融会社が多いことに心を動かされました。何とかして低利で融資することができないかと・・・そして、困っている人を一人でも多く助けたいと・・・それで、低利の金融会社を設立したのです。利益なんかはいりません。一人でも多くの人を助けたい、ただ、それだけです・・・それが世間に対しての恩返しだと思っているのです。それと、困っている会社も助けたい・・・私にできることは、そんなものです。しかし、困っている会社を見過ごすということはできないのです。私も会社を経営していますから経営者の気持ちの痛さは分かります。それで、資金繰りで困っている会社にも低利で融資するようになったのです。今の金融会社は、栃木県・・・何故、栃木県かというと、私の母が栃木出身なのです。母も父と出会う前は、貧乏な家庭で育ってきたのです。栃木の人や会社に、少しでも貢献することができたならという気持ちです」

「本当に素晴らしい・・・で、栃木のどこですか? お母様は?・・・」

「日光です・・・日光のはずれの・・・農家です。母は高校を卒業と同時に京都の老舗のかまぼこ店で働くようになり、そこで父に出会って結婚したのです・・・」

「何とも小説のような出会いですね・・・それとお父様も、京都で成功されて大きな会社を経営されていると?」

「えぇ、でも、父は父です・・・私は、父を超えたいと思っていました。父も私の考えに賛成してくれて、東京に行くことを許してくれたのです。今は、父母に感謝しています。この二人の子供に生まれて本当に良かったと・・・」と、野上は目頭を熱くしていた。が、これも演技なのだろう・・・

プライドの高い、ナルシストにありがちな態度だと思った。

「素晴らしい・・・今日で野上さんのファンになりましたよ。こんなに素晴らしい人が多摩地区に住んでいると思うと・・・感激です・・・」

野上幸則の取材は終わった。

取材後の会話である。

「久米君とか言ったね?・・・僕の話したことを、もっと感動するような内容にして欲しい。どのような文を追加していもいいし・・・できたら、僕がボランティア活動もしているという内容も書いてくれないか?」

「ボランティア?」

「何でもいいんだよ・・・年寄りの施設に寄付をしているとか・・・何でも書けるだろう?久米君に任せるからな・・・僕のイメージをもっと良くすることが読者を感動させるのではないか?そんなことは簡単だろう・・・宜しくな・・・」

「・・・分かりました・・・野上さんのイメージをもっと良くしておきます・・・それと、この特集記事は、来月号に出ますから、ご自宅に郵送します・・・」

「あぁ・・・適当に送っておいてくれ・・・読者の少ないミニコミ誌だけど、少しは反響があればそれでいい。期待はしていないが・・・ハハハ・・・これから、人と会う約束があるから、早く帰りたい・・・もう、いいだろう・・・」

と、野上幸則は、早く店を出るように言った。

何という男なのだ・・・

しかし、野上の過去についてのことが分かった・・・

母親は、日光出身・・・それと・・・・京都の暴走族であったということも確認できた。

本人の口からのことであるのだから間違いはない。

つまり、中川、南、田中という奴らの仲間だということだ。

さらに、驚いたことに、車のレッカーサービスの会社を持っていたのだ。

ということは、日光でNシステムに写っていたレッカー車は、野上の会社のものかもしれない。

これは、大きな進展になった。

多摩西部署としては、野上のレッカー会社を捜索することになった。

しかし、どうやら野上の名前での会社登記はしていないようだ。

誰か別の人物を代表にしているらしい? 野上幸則という名前での商法上の会社登記はなかった。

社名も不明・・・ただ、多摩地区にあるレッカー会社という情報だけでの捜索となった。

多摩地区を中心としてレッカー会社を、全て洗い出してみたのであるが、それらしき会社は存在していない。

日光で、Nシステムに移った写真を元にして探しているのであるが、同型、同色のレッカー車両を持っている会社はなかった。

おかしい・・・・?  それとも処分してしまったのであろうか?

「雪ちゃん? どうにもこうにも発見できないな・・・せめて、野上が社長であったなら何とかなるが、野上という名前を聞いてはみるが、どこのレッカー会社でも知らないということだ。誰かが隠しているとしか考えられないな?」

「変でね。隠すことはないと思うのですが? 多摩地区のレッカー車両といっても、そんなに沢山あるわけはないので、全部の車両を陸運事務所で調べてみたらどうですか?」

「今、それをやっているよ。ただ、多摩地区というのは、こっちの勝手な推測だ。他の地域なら、かなり時間はかかるし・・・」

「そんなことはないですよ。あの写真のレッカー車は、三菱のキャンターという車両です。それと、荷台についているセフティーローダーは、神奈川の花見台という専門の有名会社のものに間違いはないと思います。だから、その線からなら早く見つかると思いますが・・・」

「さすがだな、早速、捜査員に知らせておく。早く、雪ちゃんに聞いておけばよかったよ・・・」

僕は、警察というものは、こんなものなのかと思った。

とにかく、警察関係だけで何とかしようとする。しかし、あらゆるものに対しての専門家が存在していることはない。

だったら、早く尋ねてみればいいのだが、警察のメンツというものもあるのだろう。

よく、指名手配した犯人の写真を、数日たってから公開するという、後手後手のことが、今でも当たり前として行われているのだろうか?

警察組織の、旧態依然とした体制に、あきれてしまった。

しかし、新開刑事は、古い体質の中にあっても、体制に反抗している人物の一人であると思う。

だからこそ、色々な事件を解決していたとしても警部補のままであった。

警察組織は、ただの公務員であってはいけないと思う。

普通の公務員よりも高給にし、さらに、成果報酬というものを、もっと取り入れるべきではないか?

どんなに頑張ったとしても、キャリアを抜くということはできない。

そんな組織は、次第に腐っていくのではないかと考えてしまった。










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「それは、田中雅彦という男だ・・・同じ暴走族だった・・・そいつの所在も不明だ・・・」

「もしかしたなら・・・田中雅彦という男が・・・手と足首の死体・・・本人?」

「久米君・・・そういうことだよ・・・可能性としてはね・・・田中も東京にいた。中川も・・・何らかの理由で殺されたということだと思うが、動機がはっきりとしない・・・おまけに、野上の父親の後ろには大物政治家がついていて、警察としては簡単には手を出せない。これで、少しは理解できたかい?」と、僕が答えた。

「雪田さん・・・複雑ですよ・・・僕には何が何だか・・・頭の中が真っ白になっていますよぅ・・こんなことを聞いても記事なんかにはできませんよ・・・何にもつながっていないじゃないですか? みんなバラバラだ・・・まるで推理小説の中の話のようですよ。仮にですよ? 野上が二人を殺したということなら、何が原因なのですか?・・・」

「だから、言っているじゃないか・・・動機が分からない・・・と・・・だから・・」

僕は、少しもどかしく言った。

「・・・で、今後の捜査は?」と、久米は新開刑事に尋ねた。

「何も変わらない・・・ただ、野上と南をマークするしかない・・・それで、久米君にお願いがある?聞いてもらいたいんだが?」と、新開刑事が真顔で言った。

「お願いですか? 僕にできることなら・・・・」

「野上に会って欲しい・・・もう一度・・・それで、取材の続きということで、さぐって欲しいことがある。簡単に言うと、久米さんのミニコミ誌で特集をお願いしたいんだよ・・・例えば、若き経営者の何とかとか・・・今、一番人気の店とか・・・何でもいいから、野上の生い立ちを取材して欲しい。その時に、顔を知られていない刑事をアシスタントとして使って欲しい・・・どうかな?」

「えっ・・・特集記事・・・ですか? 編集長に聞かないと・・・無理だと思いますが? それと、刑事のアシスタント・・・ですか? それは許可が出ないと思いますが・・・はぁ・・・」

と、驚いている。

僕が「久米君・・・何とかならなすかなぁ? 警察としても、何とか大きな壁を壊したいと思っているんだよ。何でもいいから情報が欲しい・・・ねぇ、新開さん・・・」

「雪ちゃんの言うとおりだよ。何とか協力してもらえるように編集長に頼んでくれないかい?」

「一応、やってみますが、警察に協力するということは・・・」

「頼むよ・・・確かに、マスコミを使った捜査というものはご法度だということは知っている。しかし、捜査ではなくて協力ということだ。決して迷惑はかけない・・・頼むよ・・・」

と、新開刑事としては、異例の懇願であった。

この依頼は、刑事課の小川課長には秘密裏に行われることとなった。

万が一、発覚したなら、新開刑事は間違いなく懲戒免職になる可能性が高いのだ。

新開刑事は、腹をくくっていたと思う・・・何でもいいからすがりたいという気持ちの表れだったのかもしれない。

それほどまでに、捜査は進展していないということであった。

日光南署においても、京都中央署においても同じであった。

とにかく、何かの突破口が欲しかったのだ。

その日の夜、久米は編集長とともに多摩西部署を訪れた。

意外に、この編集長も気がきく人であり、新開刑事の提案を素直に承諾したのであるが、交換条件として、多摩西部署に自由に出入りすることを望んでいた。

地元の小さな、ミニコミ誌程度で、警察へ出入りすることは珍しい・・・

それを望んでいた。新開刑事は、独断で署長に承諾を取ることを約束した。

開かれた警察という歌い文句で、強引に地元のミニコミ誌の記者を自由に出入りさせることに成功したのだ。

これで、交換条件は成立し、野上の特集記事のページも一ページだけ割り当てられた。

が、本当のところは、この特集記事は一冊だけ製本するということなのだ。

このミニコミ誌というものは、購読者に郵送で送るというシステムをとっていて、書店には並ばない。

つまり、一冊だけを野上のために作り、その一冊を野上に見せるということなのだ。

実際は、野上のページには、他の記事が乗ることになる。

前回の、特集取材のときも、野上は、こんな小さなミニコミ誌なんかには興味がないという素振りをしていた。俺は、こんなちっぽけなミニコミ誌に出るような男ではないということだろう。

そういうことで、一冊だけのミニコミ誌になったのであった。

しかし、プライドの高い男であるから、野上一人だけの特集記事ということを提案すると、顔色は一変して承諾したということだ。

特集記事名は、 若き狼の野望・・・客を呼べる最高のもてなしがここにある。

都内を中心として全国展開を目指す・・・これからの飲食業界の風雲児。野上幸則に聞く・・・ビジネスチャンスとは?

という格好のいいタイトルになった。

しかしながら・・・ミニコミ誌には不釣合いのタイトルでもあった。

早速、野上に連絡をとり、野上はすんなりと承諾した。

プライドの高い男であるから、そのプライドをくすぐるようなタイトルにのってきたということだろう。

多摩西部署からは、出口操刑事が女性アシスタントとして同行することになり、出口刑事は、髪型を変えたり、少し濃い目の化粧をしていた。さらに、用心のためにメガネもかけることになった。

取材の当日である。多摩コミニケ誌の社内に全員が集合していた。

「出口・・・水商売の女のようだな・・・ハハハ・・・孫にも衣装か・・・ハハハ・・似合うもんだ」

「新開さん・・・ヤメテクダサイ・・こんな化粧をしたのは初めてですよ。最悪・・・知り合いに見られたなら、どうしよう・・・」

「バカ・・・誰にも分からないようにしているんだ・・・面が割れたら困ることになる。おまえはアシスタントとして見ていればいいんだ。余計な口出しはするなよ。久米さんの指示通りに動け。警察の人間ということが分かったなら・・・大変なことになる。いいか・・・野上の挙動を監視するということは絶対に忘れるなよ・・・質問事項は、久米さんに話してあるからな・・・」

「・・・分かりました・・・女スパイとして頑張りますよぅ・・・」と、少しは、楽しい気分のようだ。

東京都立川市にある野上幸則の飲食店の中で取材は始まった。午後の二時だ。

夜の営業時間前なので、従業員は誰もいない。

「野上さん・・・本日はご協力ありがとうございます。前回の記事で、オーナーの経歴なども知りたいという投書が多数寄せられましたので、改めて特集枠をもうけることになりました。オーナーの素顔が出せたならいいと思っています。それと、今日はアシスタントで、田口康子(出口刑事)が助手として写真撮影をしますので宜しくお願いします。」と、久米泰典は出口刑事を紹介した。

「田口康子といいます。宜しくお願いします・・・」と、出口刑事はペコリと頭を下げた。

「こちらこそ・・・宜しく・・・」と、野上幸則は言った。

「では、野上さんが、ここまで大きくなった経緯について伺います。お生まれはどこですか?それと、東京に進出というか・・・来られたのは何才ですか?」

「京都の左京区です。そこに18才までいました。それから、東京に入ったのです」

「京都にいた時は、どのようなお子さんでしたか?」

「かなりのワルでしたよ・・・バイクを乗り回して親に迷惑をかれてばかりの子供でした。しかし、18才になった時に、このままではいけないと思って、家を出て東京で一旗あげようと思ったのです。このままなら私は駄目な人間になると思ったのです。それで、高校を卒業すると同時に・・・」

「なるほど・・・バイクというのは、失礼ですが・・・暴走族のようなことを?」

「えぇ・・・その通りです。私が作った暴走族グループでした。最初は、若さ故で、いきがって走っていたのですが、次第に虚しいと感じるようになっていったのです。他人に迷惑をかけるというか・・・そんなことに虚しさを覚えて・・・それで解散したのです。そのころから、何かの会社を作って社長になりたいという気持ちも膨らんできました。それで、東京・・・で自分の力を試してみたいと思ったのです」

「素晴らしいことですね・・・何かをやるために東京という大都会でチャレンジする・・・知り合いはいたのですか?それと、東京に来てからは何をしたのですか?」

「いぇ・・・誰もいません。だからこそやりがいがあると思ったのです。自分ひとりだけで挑戦していく、そして、必ず、成功してみせると・・・それからは必死で働きました。トラックの運転手、大工の見習い、中古車屋、宅配の弁当・・・色々と経験しました。朝早くから夜遅くまで必死でした。とにかくお金を貯めて何かをやろうと・・・東京に来てから五年になっていました。そのころは、小さな飲食店・・・居酒屋ですが・・・居酒屋に興味を持っていたのです。もっと勉強して居酒屋をやろうと決めたのです」

「居酒屋?・・・そこが、野上さんの出発点ということですか?」

「はい、居酒屋からです。立川に小さな・・・席数も十席の店を開きました。そこが出発でした。必死で働き・・・二年後には二号店・・・つまり、今ここの店なのですが出店することができたのです。そのころには、他の業種にも興味を持っていましたので、別に会社を作りました」

「素晴らしいですね。で、別の会社というのは?」

「車の関係です。中古車屋にいたので、車に興味があったのは確かですが、中古車屋よりも壊れた車を助けたいという気持ちが強く、レッカーサービスの会社を作ったのです。車が壊れて困っている人を助けたいという気持ちからです。その会社は利益なんかを考えていません。JAFなどに入っていなく、また、保険会社のレッカーサービスのオプションにも入っていなくて困っている人を助けたい・・・それも、他社よりも、はるかに格安で請け負う・・・それが私の使命だと思ったのです。若いころ、バイクを乗り回して迷惑をかけたという負い目があったからこそ、そういう考え方になったのです。車とバイクのレッカーサービスです。人のためになることなら何でもよかったのです。飲食店も人の心を癒してくれるし・・」

「本当に素晴らしい考えだと思います。だから、今の野上さんがあるのですね。本当に素晴らしいことです。野上さんの人柄が出ていると思います。人のために役にたちたい・・それでこそ、本当の経営者というのでしょうか? 昨今は、ただ、お金のためだけに働くという経営者が多い、しかし、野上さんは違う・・・こんな素晴らしい方の取材ができて光栄でよ。それで、少し休憩しましょう・・・田口君は写真撮影と・・・何か飲み物を・・・」

と、田口康子(出口刑事)に指示した。

「はい、コーヒーを買ってありますから、野上さんもどうぞ・・・」と、コーヒー缶を渡した。

その後、野上の写真撮影が行われた。

このコーヒー缶は、大切なことに使う目的であった。








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※溶けない死体 あらすじ


日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。

横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。

その二つの人間の死体の一部は、同一人物と断定された。

過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。

死体移動の綿密なトリック。完全なるアリバイ工作。

偶然と必然が複雑に絡み合う。

さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。

日常の闇に潜む、人間の深層心理が悲しい。



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「・・・ごめん・・・これ以上は・・・」

「・・・京都って何ですか? それだけでもいいじゃないですか? 別の殺人事件と関係があるということは、連続殺人事件ということですか? 記事にはしませんから・・・お願いしますよ・・・」

と、僕たち二人をまじまじと見た。

「新開さん・・・京都の件はいいですよね? 記事にしないと言っているから・・・」

「新開刑事・・・絶対に記事にはしませんよ。信用して下さい・・・そのかわり、僕の知っていることを話しますから・・・」と、久米は何やら知っているという素振りをした。

「久米さん・・・何を知っているというのかい?・・・」

「中川のことですよ・・・木村自動車解体の中川昭義のことですよ・・・京都ということでピンときましたよ。確か、中川は京都で死体が発見されたのですよね? それなら、中川のことを話しますよ・・・」

「えっ、何で久米さんが中川のことを知っているんだい?」と、新開刑事が尋ねた。

僕は、はっとした・・・久米の乗っている車は、マークⅡのツインターボなのだ。

間違いない、僕の店から買った車であればそうなのだ。

「久米君・・・もしかしたなら・・・車検を受けたのかい? 木村のところで・・・」

「さすが、雪田社長・・・先月が車検だったのですよ・・・木村のところは僕の家の近くなので、車検を木村にお願いしているのです。それで、中川と知り合いになったのです・・・先月で2回目の車検でしたし、中川や木村の社長とも付き合いがあります。一度ですが、中川と飲んだことがあったのです・・・」

「一緒に飲んだ・・・あの人付き合いが悪いという中川とか?」新開刑事が叫んだ。

「えぇ、お互いに元暴走族ということで意気投合したんですよ・・・それで、一回だけ・・・」

「久米さん・・・ちょっと詳しく話してもらえないか? こっちの、情報も記事にしないというなら考えてもいい・・・それで、どんな話をしたのかい?」

「情報交換ということですね・・・・ハハハ・・・そうこなくっちゃ・・・」

「分かった・・・話してくれるかい?・・・中川の過去のことは調べているが、東京に来てからのことは分からないことが多すぎる・・・」

「いい奴でしたよ・・・死んだというニュースを見た時は驚きましたが、一度だけですが、酒の勢いというのでしょうか? 色々と話してくれました。暴走族仲間ということで気が大きくなっていたのかもしれません・・・確かに、木村のところの社員とは付き合いがなかったと言っていました・・・」

ということで、久米は、中川との酒の席での会話を話してくれた。

以下、中川昭義と久米泰典との会話である。

「久米さんのマークⅡは、珍しいですよ・・・サンルーフもついているし・・・なかなか探しても見つからない車種です。羨ましい限りです。僕のような貧乏整備士にとっては無理な車です。それにしても、羨ましい・・・それと、ツインターボだから馬力もあって運転は楽でしょう?」

「確かに楽だけど、その分燃費が悪くてね・・・それに、僕も小さなミニコミ誌の記者だから月給も安くて、車を維持することで精一杯なんですよ。昔は、親の金で車を乗り回していたけど、東京に来てからは、一人暮らしだし、アパートの家賃も高いし・・・栃木にいたほうがよかったかもしれない?親と一緒だと金がかからないし・・・稼いだ金は全部使えるし・・・そうは思いませんか? 中川さん・・・」

「その通りだと思いますよ。僕も、京都から出てきて、色々と仕事を替わりましたが、替わるたびに貧乏になっていくのですよ・・・ハハハ・・・京都はよかった・・・車もバイクも乗り回して・・・警察と追っかけごっこしていましたよ・・・ハハハ」

「えっ・・・警察と?・・・」

「・・・暴走していました・・・暴走族に入っていたのです・・・」

「・・・実は・・・僕も・・・族していました・・・同じじゃないですか? 何か同じ匂いのする人だと思っていたのですよ・・・ハハハ・・・栃木県でも有名な暴走族でしたよ・・・今、思うと懐かしいと思いますよ。でも、姉が暴走族のバイクにひき逃げされてからは、族を脱退しました・・・いずれは、僕も同じことになるのかと思ってね・・・」

「ひき逃げ? で、お姉さんは?・・・」

「えぇ・・・足の骨折だけですみました。しかし、そのひき逃げ犯人は未だに捕まっていないのです。僕なりに捜してみたけど、無理でした・・・まぁ、過去のことですよ・・・」

「・・・そうですか? 轢いた人は、今でも怯えて暮らしているかもしれませんね?・・・・」

と、中川は、ゆっくりと話した。

「そうかもしれません? 死ななかったのが救いですよ。姉は、運が良かった・・・そんなことを起こしたなら一生が台無しになってしまう。そんな人生を送りたいとは思いませんよね?」

「勿論です・・・僕も怯えながら生きていきたいとは思いませんよ・・・それより、久米さんは、どうして東京にきたのですか?」と、中川は話題を変えた。

「暴走族として地元でも嫌われ者になっていましたし、何をやっても誰からも白い目でみられるので、思い切って東京にでも行ってみようと思ったのです。東京に行けば、僕のことを誰も知らないし新しく生まれ変われるかもしれないと思って・・・それで・・・」

「僕と似ていますよ・・・皆、そうなんですよね? 一度、悪いイメージがついたなら何をやっても誰も良いほうに見てくれることはないです。だから僕も、京都から逃げ出したということです。どこに行っても元暴走族ということがついて回るし、何かの事件があれば、必ず、警察から疑いの目で見られる・・・そんな生活が嫌になって・・・同じですよ・・・母親も、そうして欲しかったと思います。人の目というものは、一度何かをやったなら、一生認めてくれないと思います。ましてや、昔から母一人、子一人の貧乏な家だし・・・ずっと近所の嫌われ者でしたから・・・せめて普通の仕事について真面目にしていたなら何の問題もなかったのかもしれません。しかし、暴走族に入ったということで、さらに嫌われ者になったのです。仲間も皆、族の人で・・・それで・・・僕は東京、母は引越しをしたのです・・・久米さん・・・こんなことを話すのは東京に来てから初めてですよ・・・久米さんとは友達になれそうな気がします」

「色々とあったのですね?世間の人は、他人の過去のことにこだわるのが普通だから、そこで何をしても誰も・・・そんなものですよ・・・あーあ・・・でも、東京に来て良かったと思っていますよ・・・」

と、久米は、ビールジョッキを飲み干した。

「東京に来て良かった? 僕は何も変わりませんよ・・・何も変わらない・・・」

「変わらない? どうして? 少しは・・・」

「いえ・・・何も変わりません・・・京都の時の仲間も東京に来てしまいました。それで・・・」

「えっ・・・それで?・・・」

「えぇ・・・京都の時の暴走族のリーダーやサブリーダーも東京に来たのです。それで、下っ端の僕に色々と命令するのです。せっかく、生まれ変わろうとしていたのに・・・」

「また、暴走族のようなことを?」

「いえ、違います。裏の金融や大麻の販売をさせられていました。僕がどこに逃げても追っかけてくるのです。その男に逆らうことはできないのです・・・昔、金銭的にも世話になったし、母の病気の薬代も・・・世話になりました。だから・・・東京にいても何も変わらないのです・・・久米さんが羨ましいです」

「・・・そうですか?・・・でも、今は整備工場で立派に働いているではないですか? 縁が切れたということじゃないのですか?」

「えぇ・・・何とか・・・でも、今は裏や闇の仕事はなくなったのですが、僕は一生、そのリーダーの人についていくしかないのです。リーダーも今は、東京で会社を経営しています。仕方ないのです。昔のことがあるから・・・」

「昔?・・・どうして?」

「それは・・・それは言えませんよ・・・昔のことです・・・」と、グラスの焼酎を飲み干した。

その後、この話題にふれる会話はなくなっていたのです。

何かふれてはいけないという感じがしていました。

昔に乗っていた車のことや、将来の夢を語っていたのです。

と、久米泰典は話した・・・・

「久米君・・・そのリーダーという男の名前は聞かなかったかい?」僕は尋ねた。

「えぇ・・・何も聞いていませんが?」

「そうか・・・その男というのは、多分・・・野上幸則という男だよ・・・そして、サブリーダーは、南紀夫・・・ということだよ・・・多分ね・・・」

「・・・野上幸則・・・野上?・・・あっ・・・その男なら取材したことがありますよ・・・確か、立川で大きな居酒屋系の飲食店をやっている人ですよ・・・今年の夏の飲食店特集ページで取材しましたよ。その男です。野上幸則・・・間違いないと思います・・・」

「久米君・・・君は、この事件の関係者と不思議と関係しているよ・・・それで、野上の何について取材したの? 店のことは別として? 他に・・・あったの?」

「大半は店の取材ですが、記事にしていないところもあります。それは、取材後の雑談の中で野上が話したことですが・・・昔はワルで、自分が関係していて時効になった事件もあるといって笑っていました。そして、冗談だよ・・・と言い直したのです。彼はワルがのし上がったということを強調したかったのかもしれません? 僕は、何も気にしなかったのですが、今思うと・・・」

「時効・・・・? 何だ・・・詳しく聞いていないかい?」と、新開刑事が尋ねた。

「・・・えぇ・・・そこまでは・・・聞いていません・・・事件に関係しているのですか?」

「久米さん・・・あんたも、ここまで知っているなら、もう隠すことはないと思う・・・今回の一連の殺人事件の発端は昔の京都に関係している可能性がある。その容疑が野上にかけられているということだよ。中川昭義の死についても野上が関係し、手と足首の死体についても野上が関係していると推測している。ただ、今のところは動機がはっくりとしない・・・そういうことだ・・・」

「・・・どういうことですか? 中川と野上・・・そして、南・・・その三人は昔、暴走族の仲間・・・仲間が仲間を殺したということですか? 中川が殺された・・・ということは・・・手と足首の人は誰なんですか? 新開刑事・・・どういうことですか?」









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「戻ったの? で、何か収穫はあったの?」

「色々と不思議なことが分かったよ。殺された中川昭義と野上幸則、それと、南紀夫も昔は暴走族だったよ。野上が何らかの情報を持っているという確信があるんだ。それで、明日から野上の身辺調査をやり直すことになったよ。アリバイは完璧なんだけど、何かが隠されていると思う?・・・」

「へぇ・・・線がつながったんだ。それで、安永恵理子の線は、どうなんだよ・・・」

「その線は何もないよ。京都でのことだから、安永には関係ないと思うよ・・・で、何で安永なんだ?」

「三浦真紀さんの義妹だろ・・・だから、心配になってね。ということは、野上のアリバイが崩れたならいいということなのかい?」

「いや・・・アリバイが崩れたからといっても、何の確証も物証もない。ただ、野上が殺したんじゃないかという推測だけだ。その推測で動くしかない・・・他に容疑のかかるような奴はいないから、とにかく、野上の線でいくということらしいよ・・・」

「やっかいな事件になったな・・・最初は、簡単に犯人を捕まえることができると楽観していたのに・・・」

「あぁ、調べれば調べるほど闇の中に入っていくよ・・・動機も何も見当たらない。ただ、京都で何かがあったのじゃないか・・・その何かが、十五年たった今となって殺人が起こっているのじゃないかと思っている。その何かさえ分かれば・・・」

そんな会話であった。

しかし、この岩崎弁護士と僕の会話の全ては、岩崎弁護士から三浦真紀へと流れていたのだ。

翌朝、野上幸則を再度徹底的に調査するということが決定したが、父親が代議士の後援会長ということで、確証が得られないなら任意聴取もやってはならないという上からの通達であった。

「雪ちゃん、捜査しづらいな・・・一応、課長は納得したようだけど、一歩間違うと、課長も俺も首が飛ぶと思うよ・・・一応、今野刑事にも伝えてはいるが、野上については慎重に捜査するようにと話したよ。南についても、野上の親友だから同じだ。外堀から埋めていくしかないな・・・さて、中川昭義が殺害された当日の全員のアリバイを掘り起こしてみるか?」

ということで、あまりにも大勢の捜査員なら問題も発生するかもしれないということで、野上や南についての捜査人員は縮小されていた。

野上については、多摩西部署、南については日光南署が担当するということになった。

他の刑事たちは、手と足首についての人物特定ということで捜査するということになった。

手に残っていた火傷のような傷については、全国の整形外科病院に照会していたが、何も得られることはなかった。

手と足首の人物特定は暗礁に乗り上げていた・・・

新開刑事も足を棒にして、野上のアリバイを崩そうとしていたが、完璧すぎるぐらいの鉄壁なものであった。

一方、南紀夫のアリバイについては、安永恵理子の証言があることで、崩せないでいたのだ。

つまり、京都で中川昭義が殺害された当日は、南と安永は仕事の関係で、一日中行動をともにしていた。


その当日の、安永恵理子からの証言である。


「その日は、野上社長の指示で、南さんと渋谷にある会社へ行っていました。渋谷の道玄坂にある、谷岡商事という商社です。朝の九時からの打ち合わせでしたから、その時間には会社の受付にいたと思います。

その後、昼過ぎまで打ち合わせをしていました。

それから、谷岡商事の社長の谷岡さんと、昼食をすることになり、谷岡商事をでました。

食事は、谷岡社長の懇意にしている近所の寿司店でした。

食事が終わって、谷岡商事に戻ったのは、午後3時くらいになっていたと思います。

その後、社長室で歓談していました。

えぇ、谷岡商事とは野上の経営する飲食店の食材の仕入れをしているところです。

主に、ベトナムからの海産物の輸入です。

谷岡商事を出たのは、午後の三時半過ぎになっていました。

南さんは、谷岡社長を紹介してくれた方なので、同行をお願いしたのです。南さんもその日は仕事がないということでした・・・それから、私は、南さんと別れて上野へ向かいました。新幹線に乗るためです。

十六時三十一分の東京駅発のやまびこ六十一号に乗り、宇都宮へ向かいました。

その後、自宅についたのは、六時過ぎだったと思います。

南さんは、大宮で人と会うということで、大宮までは一緒でした」


谷岡商事の受付の女事務員の証言である。


「確かに、安永さんという方と南さんという方が受付に来られました。女性は派手な服装でしたからよく覚えています。男性の方は、地味な灰色のスーツでした。当社の社長と打ち合わせの予定だということで確認しまして、その後、社長室へ案内しました。

社長とは懇意のようで、社長が笑顔で迎え入れたのを覚えています。その後、食事に出られまして、三時ぐらいに戻られました。その後、お二人は帰られました。確か、三時半過ぎだったと思いますが・・・」

安永恵理子と女事務員の証言は一致していた。

ということは、南のアリバイも実証されたということだ。

つまり、京都の鴨川で発見された中川昭義の死体の殺害時間は、その日の午後四時から六時の間という鑑識の報告があったのだ。そして、その後、鴨川に捨てられた・・・

その発見が、翌日の早朝ということだ。

安永恵理子、南紀夫の中川昭義殺害の当日のアリバイは完全だった。

ましてや、野上幸則のアリバイも完璧であったので、捜査本部としては何も手出しができないでいた。

この三人からの線というものは鉄壁のアリバイで守られていたのだ。


東京も日光も京都も、捜査は壁に突き当たり、ジレンマの毎日になっていた。

手と足首の事件については、連日マスコミで取り上げられていたのであるが、捜査が進まないことと、人物特定ができないということでマスコミからのバッシングも多くなっていた。

そんなある日の午後である。多摩西部署に一人の記者が訪れた。

「例の殺人死体遺棄事件の合同捜査本部はここですか?」と、刑事部屋の中の新開刑事に尋ねた。

「そうだが・・・あんたは?」

「こういう者です。久米泰典といいます」と、多摩コミニケ誌という名刺を差し出した。

「久米さん・・・何の用事だい?」

「手の人物特定の状況に興味がありましてね?その後、テレビでも新聞でも新しい情報がないので気になったものですから? いえ、僕が何かの情報を持っているということではないのですが、日光の足首と同一人物ということですよね? いゃ、出身が日光なので何だか気になって・・・」

「で、何を聞きたいのかい?」

「手と足首だけが発見されたということですよね。しかし、他の死体は発見されない。これなら迷宮入りは間違いないと思うのです。余計なことかもしれませんが、警察の力の限界ではないかと思うのです。多摩地域を中心に発行している僕の社としても人事ではないと思いましてね・・・それで、報道されていないことを伺おうかと・・・記事にするなと言うなら、記事にはしません。少し、話してもらえませんか?」

「報道されている以外のことか? それは言えない・・・警察の秘密だからな・・」

「・・・秘密といっても、何の進展もないではないですか? もう少し、情報を公開したほうがいいと思いますよ・・・こうして世間から忘れ去られてしまうのです。確かに、他にも色々な事件があると思いますが、こういう警察の秘密主義が迷宮入りをする原因だと思うのです。大きな新聞やテレビは、毎日事件を報道していますが、僕のような小さな会社では、地方の事件よりも地元の事件のほうに興味があるのです。そういう読者が多いのです。もしかしたなら、その読者の中に、事件について知っている人もいるかもしれません。地元でないと分からないこともあるのです。どうでしょうか?」

「・・・久米さん・・・あんたの言うことは理解できるが、署としての立場というものがある。ひとつの社だけに情報を流すということはできない・・・」

「ですから、記事にはしないと言っているじゃないですか?教えて下さいよぅ・・・」

そんな言い合いをしている時に、僕は刑事部屋に入ったのだ。

「新開さん・・・何かあったのですか?」と、僕は二人の顔を見た。

「雪ちゃん・・・記者さんが、しつこいんだよ・・・例の事件だけどな・・・」

「記者? もしかしたなら久米君かい?・・・」

「・・・あっ・・・雪田社長・・・何でここにいるのですか?」

「やっぱり久米君だ・・・元気かい? もう、五年ぐらいになるかな?」

「そうですよねぇ・・・あの時はお世話になりました。それで、どうしてここにいるのですか?」

この、久米泰典という男とは、五年前に僕の中古車店で、車を買ってくれた人であった。

顔のわりには、スポーツタイプの車、マークⅡセダンのツインターボ・・・顔のわりというのは、年よりもかなり若く見え、言葉も優しい感じの男なのだが、昔は暴走族として、栃木県内で暴れていたという・・・つまり、馬力の大きな車を探していたのだ。つまり、顔つきと過去の経歴が似合わないということであった。

「新開刑事と知り合いなんだよ・・・それでね・・・久米君は何なの?」

「そうなんですか?・・・僕は、取材ということです。例の殺人事件・・・手と足首の・・・」

「確か、ミニコミ誌の記者だったよね? それで・・・事件の取材ということか。でもね、今は何もないよ。人物特定もできないし、京都の殺人事件も関係していると思うけど、そっちも進展なしだよ・・・」

と、話したところで、新開刑事が、口をはさんだ・・・

「雪ちゃん・・・京都の件は内密だ・・・それぐらいでいいだろう? 知り合いとしても限界があるんだ・・・」

と、新開刑事は、まずいという顔をした。

「えっ・・・京都は駄目でしたか・・・すいません・・・久米君・・・忘れてくれよ・・・」

「・・・雪田さん・・それはないでしょう・・・ここまで聞いていて、それはないでしょう・・・雪田さんが知っているということは一体何があるんですか? 僕にも話して下さいよ・・・」

と、僕の顔を覗き込んだ。








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その間に、京都中央署の桑原刑事が、捜索願の書類を持ってきた。

「新開さん、雪田さん・・・今回の事件に関係している奴らは全員が元暴走族です。殺された中川昭義や行方不明の田中雅彦・・・野上・・・それと、南・・・今、所在が確認されているのは二人だけです。もしかしたなら、田中雅彦も殺されているのでしょうか?」

「桑原さん・・・可能性はないとは言えないな。もしかしたなら、手や足首は、雅彦なのかもしれない?」

と、新開刑事。

「僕もそうかもしれないと思っていました。何らかの仲間割れ・・・それにしても、殺害の方法が違いすぎます。それぞれは別の事件なのかもしれない? それと、動機が全く見えない。同じ事件だとしたならば、この四人の過去に何かがあるのかもしれません。しかし、十五年も経過しているのに? いまさら・・・」と、僕は言った。

「そうだな・・・何かがあったとしても、そんなに過去のことではないと思うが? しかし、全員をもう一度洗う必要がある。桑原さん・・・京都百足連合が発足した当時の資料が欲しい。それと、解散した理由も調べて欲しい・・・頼むよ」

「新開さん・・・分かりました。早速、調査させます・・・」

こんなやり取りをしているうちに、叔父さんが雅彦の写真を持って帰ってきた。

十代と思われる写真が数枚あり、その中の一枚を日光南署の今野刑事へ送った。

京都中央署の桑原刑事の調査によると、京都百足連合の実態がはっきりとしてきた。

今から十六年前に野上幸則と南紀夫を中心として発足したということだ。

当初のメンバーは五人。その中に中川昭義と田中雅彦の名前があった。

車よりもバイクを中心とした暴走行為をしていた。

他のメンバーの名前も記載されていたが、そのメンバーで所在が分かっている奴らを徹底的に調べるという。

さらに、解散理由は、暴走族同士の傷害事件を起こし、警察の命令で解散したという。

傷害といっても、相手の暴走族の1名に全治1ヶ月の怪我を負わせたということであった。

それが解散の原因だということであり、野上も警察の解散命令を受け入れたということだ。

それ以外の詳細な内容はなく、その資料からは何も得るものはなかった。

その日の夜、僕は昔からの友人の自宅を訪ねた。

武田博之という男で、僕が中古車屋を始めた時に、開店時に最初に車を買ってくれた人であり、その後、実家のある京都に戻り家業の漬物屋を継いでいる。東京にいた時は、大手の漬物メーカーで勉強していた。

「雪田さん・・・久しぶりですね。元気ですか? 仕事かなにかで・・・」

「武田さんも元気そうで何よりです。仕事ではなくて、知り合いのお伴というところですか・・・初冬の京都はいいものですね。東京にはない風情がありますよ」

「えぇ、確かに東京にはない町並みだし、歴史の重さというのでしょうか? 東京にいた時よりも、少しだけのんびりと生活しています。もう、お子様も大きくなられたでしょうね?」

「子供? いゃー、結婚もしていないですから子供もいませんよ。なかなか縁がなくてね・・・」

「・・・すいません・・・てっきり、あの当時の女性と結婚されていたと・・・」

「あぁ・・・あの女・・・しっかりとふられてしまいましたよ・・・ハハハ・・・」

僕にも、中古車屋を始めた時に付き合っていた女性がいた。

その女性は、僕の店を手伝ってくれていたのだ。

しかし、僕の煮え切らない性格で逃げられてしまったという最悪の過去があった。

「・・・すいません・・・それで、お伴ということで観光ですか? 観光なら僕に任せて下さいよ。いつまで滞在するのですか? 明日なら、朝から時間がありますが?・・・」

「いえ、観光というほどのものではないのです。刑事のお伴・・・なんですよ。ちょっと事件が・・・」

「刑事・・・事件・・・何か物騒なことですか? まさか、殺人事件ということはないですよね?」

「その、まさか・・・なんですよ。鴨川のほとりの殺人事件です・・・」

「あぁ、記憶にありますよ。殺されたのは東京の人らしいですね。その件ですか? しかし、刑事さんに同行するというのは、雪田さんも事件に関係しているのですか?」

「関係というほどのことはありませんが、友人の弁護士が多少関係したのです。勿論、犯人ということはありませんが、当初、間違われてね・・・それで、僕にも容疑がかかったのですよ。それと、横浜と日光で発見された死体と関係があるのではないかと・・・車に関係しているので、僕も興味を持って京都まで来たということです。まぁ、いつもの僕の悪い癖なんですが・・・」

「雪田さんらしいですよ。前にも、連続殺人事件でマニラへ行っていたと聞いていますよ。まるで、刑事みたいですね・・・失礼な言い方ですが、お金になるのでしょうか?」

「ハハハ・・・一銭にもならないですよ・・・趣味のようなものです。こんなことをしているから女に逃げられるのですよ・・・ハハハ・・・で、武田さんは、ご結婚は? 奥にいらっしゃるのは奥さんですか?」

「・・・えぇ、女房です・・・」

「うらやましい限りですよ。お子さんも・・・?」

「・・・いました・・・」と、武田さんは目を伏せた。

「・・・ん・・・いたということですか? 余計なことを・・・」

「いえ、十五年前の夏になります。ちょっと事故で・・・生きていたなら、十八才でした。それ以来子供には縁がなくて・・・」

「事故? 車ですか?」

「えぇ、ひき逃げです。家の前の通りでした。女房が目を離した隙にバイクに轢かれたのです・・・即死でした・・・」

「・・・バイク・・・ですか? それで犯人は?」

「捕まっていません。偽造ナンバーのバイクでした。女房はとっさにナンバーを覚えていたのですが・・・目撃した人の話だと、若い男が二人で乗っていたということです。暴走族の身なりだということで、警察も簡単に捕まりますよということでしたが、偽造ナンバーということと、バイクの破片も何もなかったので・・・」

「そんなことがあったんですか。何とか早く捕まえてほしいですね。余計なことを思いださせてしまったようで・・・僕こそすいません・・・何も知らなかったものですから・・・」

「いえ・・・こちらも悪いのです。飛び出してしまったのですから・・・」

奥の漬物を作る場所に目を向けると、奥さんが下を向いてむせび泣くのが見えた。

「継続捜査ということで、人員も縮小されているようです。おそらく、もう無理ではないかと・・・」

「そうですか? で、目撃した人は運転していた男の顔を見ていないのですか?」

「フルフェースのヘルメットなので・・・ただ、左の手の小指の付け根に火傷の傷のようなものがあったということでしたが・・・確かではありません。警察も暴走族の関係を調べてくれたようですが、そのような傷のある男はいなかったということです。それと、轢いたバイクも発見されたのですが、盗難バイクでした。指紋もきれいにふき取られていたということです。もう、昔のことです・・・いまさら・・・犯人が見つかったとしても息子が帰ってくることもないし、今は、記憶の中だけに生きています。もう、終わったことですから・・・すいません、変な話になってしまって・・・雪田さんにお話しても・・・」

「いえ・・・」

と、言いかけようとした時に携帯が鳴った。新開刑事からであった。

「新開さん、何ですか?・・・」

「雪ちゃん・・・どこにいるんだよ・・・新しい情報だよ・・・本庁の科捜研からだ。手と足首は同一人物だが、手のほうは整形したような痕が分かった。最初は、溶けかかっていたので分析も難しかったのだが、かなり昔に手術したことが分かった。その線からも捜査をするということになったよ。10年以上前の手術ということらしい。当時の整形病院をしらみつぶしに当たることになったよ・・・」

「・・・手のどこなの?」

「小指の付け根だ・・・」

「何だって・・・小指の付け根・・・ちょっと待ってよ・・・」

「何が待ってだよ?・・・それと、手と足首の性格な年代も分かったということだ。十代から二十代前半だ。皮膚の組織の分析ではっきりと分かってきた。どんなにみても、30代になることはないということだ・・・少し時間がかかりすぎたが、熱で組織の分析が遅れていたらしい・・・」

「・・・」僕は言葉を失っていた。

「雪ちゃん・・・聞いているのか?」

「・・・小指の付け根に間違いはないよね?」

「間違いないよ・・・どうしてだい? 何かあったのか?」

「新開さん、今どこにいるの?」

「京都中央署だ。日光南署に例の田中雅彦の写真をメール転送で送ったから、その連絡待ちをしている・・・で、何があったんだ?」

僕は、この件について武田さんに説明した。

もしかしたなら・・・そのひき逃げ犯と同一かもしれないと?・・・

僕は、急遽、京都中央署へ戻った。

「新開さん・・・ちょっと、おかしなことが・・・桑原さんも聞いて下さいよ・・・」

僕は、武田さんの子供のひき逃げのことを説明した。

「雪田さん・・・何か関係があるかもしれませんね? そのひき逃げの資料をもう一度取り寄せてみたいと思います。もしかしたなら・・・しかし、15年も前のことですから、担当の刑事も退職したりしているかもしれません。とにかく取り寄せてみます・・・」と、桑原刑事は管轄警察へ向かった。

「雪ちゃん・・・また、ややこしいことになったな。線でつながるならいいが、もし、全く違うことなら回り道をすることになる。それは、桑原刑事にまかせておいて、例の田中雅彦の写真の件だが、さっき、日光南署の今野から連絡があったよ。野上の会社の中に田中はいないということだ。それと、解約した携帯電話の発信・着信履歴を確認したのだが、おもしろいことが分かったよ・・・田中は中川の携帯へ頻繁にかけている。つまり、中川と田中は連絡を取り合っていたということになる。勿論、野上との通話記録もあったが、突出して中川との通話が多いんだよ。それも、ここ最近になってからなんだ。去年は、ほとんどなかったのだが、今年になってからは異常に多い・・・何か大切な話をしていたと思うが?」

「田中は野上のところの社員ではなかったということですか? おかしいなぁ・・・てっきり、野上の会社で働いていたと思っていたのに・・・で、田中の所在は不明のままですか?」

「不明だ。野上の紹介で、どこかの会社にいたことは確かだと思う。しかし、どこなのかは不明だし、住所も分からない。ただ、携帯電話が野上の所有ということだけだ。野上に聞くしかないと思う・・・とにかく、明日、東京に戻って尋ねてみるしかない。それからだな・・・」

「・・・また、闇の中ですか? 田中はどこにいるのでしょうか? 新開さん、野上と南を任意で聴取できませんか? 中川の殺害された日時が確定しているのですから、アリバイを確認することはできると思いますが?」

「任意か?・・・元暴走族の仲間というだけで・・・任意は難しいかもしれん。・・・それと、野上の父親のことが分かった・・・京都で、大きな会社の役員ということだ。野上信也という男だ。その野上信也がやっかいなことに京都の代議士の後援会長なんだよ・・・うかつにやるとやっかいなことになる。さらに、その代議士は警察官僚あがりだ。課長が何というかな?」

「そうですか。やっかいですね・・・しかし・・・」

「雪ちゃん・・・しかしも何もないよ。確証もなく、任意で聴取したなら、俺の首だけじゃすまないかもしれん? 元警察官僚とは・・・困った・・・とにかく、ウラでアリバイを崩すしかないと思うよ」

「・・・首? そういうもんですか・・・何とかなりませんか? 一番怪しいのは野上なんですから・・・」

「明日、東京に戻ろう・・・こっちのことは桑原にまかせておけばいい?」

「分かりました。明日は、東山の祭りにでも行こうかと思っていたのに・・・今年も見ることができない・・・残念ですよ・・・空也踊躍念仏を一回ぐらいは見たかった・・・」

「祭りか・・・雪ちゃん・・・その祭りでも見て、夜に戻るかい? せっかく京都にいるのにもったいないな。その念仏を踊りながらやってみるか。何かアイデアでも閃くかもしれんな・・・」

ということで、空也踊躍念仏を見るために六波羅蜜寺に行くことになった。

不思議というか、念仏を唱えながら踊る・・・今年の汚れを落とすために・・・

そして、その夜遅くに東京へ戻ったのだ。

その夜、岩崎弁護士から電話があった。












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中から中年女性が顔を見せた。身なりのしっかりとした落ち着いた感じの女性であった。

「何かご用ですか?」ゆっくりと話す。

新開刑事は、素性を話して、片瀬栄治の所在を尋ねた。

「現場におります。栄治に何かあったのでしょうか?警察の方ですから・・・」と、不安な顔をした。

「いえ、ちょっとお話を聞きたいだけです。栄治さんに何かあったということではありません。ご存知だとは思いますが、中川昭義さんの事件について聞きたいことがあるものですから・・・」

「・・・そうでしたか? 左京区のビルの建築現場にいます・・・今、電話してみますから・・・」

と、家の中に戻り、しばらくしてから、その現場の住所をメモしてきた。

ここから車で十五分ぐらいのところだという。

その現場に着き、片瀬栄治を呼び出した。

がっちりとした体型の、優しい顔をした男であった。

新開刑事は、中川の母親の言うことを説明すると・・・

「よく覚えています。昭ちゃん・・・昭義の仲間の野上と田中と南のことだと思いますが?・・・」

「うん・・・南・・・南紀夫ですか?」

「えぇ・・・そうです。南紀夫です。僕よりも5才年上です。野上さん・・・いえ・・・野上の一番の親友だと思います。昭義を暴走族に引き入れたのは南です・・・」

「詳しく話してもらえませんか?」と、新開刑事が言うと、昔を思い出すように・・・

「昭義が、小学校5年の時だったと記憶しています。南は、昭義の家の近くに住んでいました。年は離れていましたが、昭義と僕と南は仲のいい兄弟のようなものでした。しかし、南は野上が京都百足連合という暴走族を作ると、その仲間となったのです。最初は、十人ぐらいでしたが、次第に大きくなり三十人ぐらいになったと思います。僕も誘われましたが暴走族になることは断固として断ったのです。しかし、昭義は、兄のように慕っていた南からの誘いですから断りきれなかったのです。それで、暴走族に入って野上と知り合ったのです。野上という男も昭義のことを色々と面倒みていましたから、昭義も兄のような感覚があったと思います。それと、野上の家は金持ちで、裕福ではなかった昭義に小遣いをあげていました。だから、兄のように・・・しかし、野上の暴走行為はエスカレートしていき警察に捕まったり、さらに傷害事件も起こしたりしたのです。全ては野上の命令だったと聞いています。野上は、何もしなくて、金にものをいわせて昭義や南に命令をしていました。ひどい奴でした・・・」

「・・・ということは、昭義君や南紀夫は、野上幸則のいいなりだったということですね?」

「はい、絶対服従の関係だったと思います。それと、一年ぐらいで京都百足連合が解散になったので、その後のことは知りません・・・急に解散したのです。僕は、昭義のことが心配でしたから、昭義に会って・・・真面目に生きて欲しいと言ったのです、そうしたら、東京に行くということなのです。近所にも迷惑をかけたので、ここでは暮らせないと・・・お母さんにも迷惑だから・・・本当は優しい子なのです。全ては、南、野上・・・田中の責任です・・・」

「片瀬さん・・・その田中という人は誰ですか?」と、僕は口を開いた。

「田中ですか? 確か、野上よりも年下の奴です。詳しいことは知りませんが・・・いつも、野上と行動していました。学校にも行っていないということを昭義から聞いた記憶があります。父親と暮らしていて、遊興費は、野上から貰っているのだということでした。それで、子分のようについて回っていたと聞いています。ここ十年以上は噂も聞いていません。昭義も同じで、東京に行ったということは確認していましたが、連絡は一度もありませんでした。それが、死体で発見されるとは・・・」

と、悲しい顔をした。

「そうですか。田中という男について詳しい人はいませんか?」

「田中・・・田中・・・あぁ、・・・いますよ。叔父です・・・僕の取引先の大工なのです。確か、父親は交通事故で死んで、少しの間、田中・・・田中雅彦というのですが、その叔父さんのところにいたと聞いています。叔父さんなら何か知っているかもしれません。ここではなくて、別の現場にいますから、連絡してみましょうか?」

「助かります。それと、田中という男の名前は分かりませんか?」

「田中としか聞いていませんので・・・叔父さんに聞いてみて下さい・・・」

ということで、僕たちは新たなる情報を得た。

その叔父さんは、田中の父親が、高校の時に不慮の交通事故にあい他界してから、少しだけの間、面倒を見ていたということであった。

大工の職人らしい風貌だ。

「警察が何だ? えっ、甥っ子の、雅彦のことかい?」

「えぇ、雅彦というのか? どこにいるのかを知りませんかねぇ?」と、新開刑事。

「あんな、恩知らずの奴は知らない・・・もう、半年も連絡はない・・・生きているのか、死んでいるのかも知らない・・・で、何で東京の刑事なんだ? 雅彦が何かやったのか?」

「いえ・・・居場所を探している。何をやったとかではないが、ある事件のことで聞きたいことがある」

「また、何かやらかしたということだな? あいつなら、何をするか分かる。ろくでもない奴だから暴力団にでも入っていると思うが・・・連絡がないから何も分からん・・・東京にいると最後の電話があったが、東京のどこにいるのかは知らん・・・連絡はとれない・・・」

「東京?・・・」

「あぁ・・・半年前は金融関係の仕事だと言っていた記憶はある。ただ、どこかは知らん。父親が死んでから、俺が面倒を見てきたのに、東京に行きやがった・・・それが、十年前だ」

「・・・ということは、半年前までは連絡があったということか?」

「あぁ、半年前の電話が最後だ。今月になって少し心配になったから携帯へ電話をかけても使われていないということだ。毎年、年末には帰ってきていたが、今年の予定を聞こうと思って電話したら、使われていないということだ」

「携帯へ電話をかけたのは、いつなんだ?」

「十日前か・・・そこいらだ・・・俺に、内緒で携帯の番号を変えた。それで怒っている。まぁ、東京にいてもいいが、ただ、一人の甥っ子だから心配はしていたが、連絡がつかないなら、どうしようもない」

「十日前? それまでは、年に何回か電話はあったと?」

「あったよ・・・」

「雅彦を誘ったという人は誰なんだ? もしかして、野上か南という奴じゃないか?」

「野上だよ・・・昔からのワルだ。雅彦も野上という奴と知り合わなければ京都で仕事の手助けをしたいと言っていた。死んだ父親・・・俺の兄だが・・・大工だ。3人で工務店を作るのが夢だった。それを、野上という奴は台無しにしたということだ。暴走族に入らなければ・・・」

「雅彦の携帯番号は分かるかい?」

「あぁ、しかし、使われていないぞ。この番号だが・・・」と、携帯を見せた。

新開刑事は、その電話番号をメモすると・・・

「田中さん、必ず、雅彦さんを捜してみますよ・・・それで、捜索願を出してもらいたいのです。それがあれば、警察としても動きやすい。今、京都中央署の刑事を呼びますから書類を書いてもらいたい?」

「そうかい。あんたはいい刑事のようだな? しかし、雅彦が変な事件にかかわっていないといいのだが・・・で、何の事件なんだ?」

「鴨川で発見された、雅彦さんの知り合いの中川昭義という男の殺人事件だよ。昔の暴走族仲間を洗っていてな・・・それで、雅彦さんのことを調べるということになったんだ・・・」

「・・・雅彦も殺されているということか? えっ、どうなんだ?」

「・・・それは分からないから、こうして調べているんだよ」

「何もなければいいが・・・確かに、雅彦はワルだが、人を殺すような度胸はない。俺が一番知っている・・・雅彦に限って殺人をすることはない・・・頼むよ、刑事さん・・・」

叔父さんの態度は一変していた。顔には、殺人をしたのではないかということと、逆に殺されているのではないかという不安で蒼白になっていた。

新開刑事は、桑原刑事に連絡して捜索願の書類を持ってくるように指示している。

その間に僕は、叔父さんに尋ねた。

「雅彦さんは、金融関係の会社で働いているということですが、名前も何も分からないのですか? どんなことでもいいですから記憶にあることを教えて欲しいのですが?」

「そう言われても・・・待てよ・・・確か、名前は分からないが、野上の紹介ということは話していたような気がする・・・それと、野上の関連会社とか・・・何とか・・・それしか覚えていないな・・・」

「野上が関係しているということですね?」

「・・・だと思うがな?・・・」

すると、新開刑事の携帯が鳴った。

何やら、えっ?・・・とか・・・そうか?・・・とか・・・顔は真剣な表情になった。

新開刑事は、僕を呼び寄せた。

「雪ちゃん・・・面白いことになったぞ・・・田中雅彦の解約したかもしれない携帯の番号で調べてもらったのだが、契約者は野上幸則になっているという。一体・・・どういうことだ?・・」

「えっ・・・野上が契約者? 何で・・・普通なら、そんなことはないと思うけど、もしかしたなら、野上の会社で働いていたということで?・・・」

「そうかもしれないな? どっちにしても雅彦君は野上と関係したいということだな。しかし、携帯電話を解約したということは、野上と別れたのかもしれない? しかし、おかしいなぁ・・・?」

「新開さん・・・おかしいですよ。仮に野上の会社で働いていて辞めたとすれば、今は別の会社で働いているということかもしれません。そうしたなら、叔父さんに連絡があってもいいと思います。金銭的に携帯電話を買うことができなくても電話ぐらいはできるはずですよ。十円あればいいだけのことですから?それとも、連絡することができない何らかの理由・・・があるのかもしれませんが?・・・」

「何だって? 雅彦は、どこにいるんだ?」と、叔父さんは、また不安な顔になった。

「田中さん・・・雅彦さんの写真はありませんか?」と、僕が尋ねると、数枚の写真ならあるという。

「新開さん、何やら変な展開ですよ。何かがおかしい・・・全ては、野上に関係している。中川昭義といい、雅彦君といい・・・皆、京都出身で、元は暴走族・・・これは何かありますよ?・・・」

「雪ちゃん・・・間違いないな。なんだか嫌な予感がする。雲の中の隙間が見えてきたかもしれん。」

「えぇ、雲の中の隙間・・・とにかく、雅彦君の写真を日光南署の今野刑事へ送ってみましょう。もしかしたなら、チェリーファイナンスで働いていたかもしれません。必ず、雅彦君を知っている人がいると思います。野上の会社の人なら・・・」

叔父さんは、家に帰って写真を持ってくるということになった。










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「いいところですね・・・冬の京都は素晴らしい・・・雪があったなら、もっといいですよ・・・」

と、僕は大きく手を空に向けた。

「そうだな。仕事で来るようなところじゃないな? こんなに風光明媚な場所に殺害死体は似合わないな。川の流れの音・・・小鳥のさえずり・・・そよぐ風が木にあたり、木の葉がヒラヒラと舞い落ちる。なんと素晴らしい景色、なんて素晴らしい陽の光・・・その光の中に男と女がいる・・・そして京の建物の風情・・・そして、祇園の街・・・そこで食べる京懐石が・・・人の殺伐とした心を癒す・・・京都に来ると、皆、詩人になれるんだ・・・なんてな・・・」と、新開刑事。

「ハハハ・・・新開さんは似合わないよ・・・こんなところに捨てられた中川の生い立ちを調べることが先決ですよ。それから、京料理ってとこですか? あーあ、こんな綺麗な川のほとりで京美人としっとりと歩いてみたいもんですよ・・・僕も、岩ちゃんのように美人と見合いでもしたくなりましたよ」

「俺もだよ・・・古女房じゃぁ・・・な。俺にも第二の人生があってもいいと思うよ・・・」

「・・・新開さん・・・無理ですよ・・・いまさら・・・無理、奥さんと一生・・・」

ひとしきり、死体発見現場を見た後で、中川昭義の母親のところに行くことにした。

ここからだと、車で四十分ぐらいだということであった。

そのころ、東京の岩崎弁護士は、とんでもないことをしていた。

例の見合い相手の三浦真紀と会い、妹に容疑がかけられているということを話してしまったのだ。

「えっ、妹の恵理子が? どういうことですか?」

「とにかく、その野上とかいう男も関係しているということですよ。例の日光で発見された足首だけの死体・・・何か、それに関係しているのではないかということです」

「殺人事件の容疑ということですか? まさか・・・恵理子に限って・・・そんなことは・・」

「そう思います。三浦さんの妹さんに限って・・・そんなことはないですよね?」

「岩崎さん・・・もう少し詳しく話してくれませんか? 知っているところだけでいいのです?」

「口止めされているから・・・まぁ、いいでしょう。三浦さんなら何の問題もないと・・・」

「すいません・・・お願いします・・・」と、頭を下げた。

岩崎弁護士・・・弁護士というのは、口が堅いのではないのか?

ちょっと、美人とみると・・・こうなってしまうのか?

岩ちゃんも、男・・・ということであった。

「三浦さん、恵理子さんと付き合っている野上幸則を最重要容疑者として身辺調査をしているということです。その流れで、恋人の恵理子さんにも容疑がかけられているのです。勿論、その事件当日のアリバイは完全だということなのですが、警察としては、そのアリバイを疑問視しています。恵理子さんも共犯ではないのかと・・・」

「そうなんですか? 恵理子に限ってそんなことはないと信じていますが、野上という男と付き合っているから、こんな事件に巻き込まれるのですね。殺人事件なんて、それも容疑者だなんて・・・早く、別れさせておけばよかったと後悔しています。それで、恵理子の身柄はどうなっているのでしょうか?」

「拘束されているということはないようです。容疑といっても、参考人という扱いになっていると聞きました。おそらく、警察は身辺調査の段階だと思いますが・・・何もないですよ・・・心配ないです。ただ、足首の発見された当日に、近くを車で走っていたということですからね。それで、恵理子さんにも容疑がかかったということだと思います。まさか、野上が主犯で、恵理子さんも共犯ということは絶対にないと思いますよ・・・もう一人の不審な男も走査線上にあるそうですから・・・」

「男?・・・」

「えぇ、野上の友人です。それと、恵理子さんも知り合いということで、当日、恵理子さんと一緒に車に乗っていたという男です。南紀夫と言うそうですが?・・・」

「恵理子と一緒に?」

「誰かに貸すお金を運ぶために同行したということです」

「それで疑われているということですね?・・・」

と、岩崎弁護士は、僕から聞いたことの大半を三浦真紀に話してしまったのだ。

「三浦さん、僕が話したことを恵理子さんには言わないで下さい。あくまで、今の段階の捜査状況ということです。もし、恵理子さんに話してしまうと悲しむと思います。どうか、約束は守って下さい」

と、自分ことは棚にあげていた。

三浦真紀に話したことで、三浦真紀は知らなくてもいいことを知ってしまった。

そっちのほうが、どんなに悲しいのかということを岩崎弁護士は考えてもいなかったのだ。

「そういうことですが、これから食事でもしませんか? 仕事も終わったので?」

「いえ・・・今日は帰ります・・・」と、三浦真紀は、複雑な顔をして足早にその場を去った。

岩崎弁護士が、三浦真紀に話したということで捜査がかく乱されていくのであった。

つまり、三浦真紀が妹の安永恵理子に話してしまったということだ。

それによって、捜査状況が野上にも伝わることになる。

そんなことも考えないで岩崎弁護士は、捜査状況を話したということと、その後、三浦真紀から、しつように捜査状況について尋ねられることになり、警察の動きの大半は洩れることになる。

岩崎弁護士も、三浦真紀に好意をもっていたのであるから、ある意味において好かれようとしていたと思う。

結局、三浦真紀からの連絡のたびに、僕から聞いた事件の情況を話すことになった。

■三章 過去 

京都の鞍馬の中川昭義の母親の家の前に着いた。

「ここですね? 新開さん・・・このアパート・・・101号室・・・」

「よし、ドアをノックしてみよう・・・」と、ドアをノックした。

しばらくすると中から、咳声とともに白髪の女性が顔を出した。

「・・・何ですか?」

「警察のものですが、中川昭義さんの?」

「母ですが・・・まだ、何か?・・・知っていることは全てお話しています。もう、話すことはありません。早く、昭義を殺した人を捕まえて下さい。昭義が不憫でなりません・・・」

と、体を丸くして咳き込みながら尋ねた。

「えぇ、必死で捜査しています。今日は、昭義さんの過去のことについて伺いたいことがあります。ちょっとお時間をもらえませんか?」

「・・・過去ですか?」

「えぇ、中学から高校にかけてのことです・・・事件に関係があるかもしれないのです?」

と、新開刑事は優しく母親の顔を見た。

すると、部屋の中に入って下さいという素振りになった。

母親は、60才ぐらいだと思う。肺と気管支の病気のために寝たきりだという。

その病気のせいで、年よりもかなり上に見える。

頬は痩せこけ、体も細く、見るからに病人ということが分かった。

生活保護を受けながらの生活だということも聞いていた。

「お母さん・・・昭義君の学生のころの話をしてもらえませんか? 学校のことよりも、学校以外でのことです。暴走族に入っていたということはありませんか?」

「・・・中学のころには・・・京都百足連合という暴走族に入っていました。免許もないのに、バイクを乗り回したり、他の暴走族と喧嘩ばかりしていました。小学生のころから、そのような人たちと付き合い始めて、中学には、どうしようもないほど悪事をしていました。私には止めることはできません。警察の方にも迷惑ばかりかけていました・・・」

「小学生から? 付き合っていたのは何という名前か覚えていませんか?」

「名前ですか? ええっと・・・確か、野上とかいう人と・・・田中という人と・・・その人たちは昭義よりも年上で、確か・・・あの当時は高校生ではなかったかと思います。何度か家に来たことがありました。それと、もう一人・・・名前は思い出せませんが・・・よく来る男がいたと思います。それ以外にも暴走族の人はいましたが、その三人が昭義を迎えにきたりしていました・・・」と、咳声になった。

「野上・・・野上に間違いはありませんか? 野上幸則・・・この男ですか?」

と、新開刑事は、野上の写真を見せた。

「・・・・・少し太ったように思いますが、間違いないと思います・・・目元のホクロに記憶があります。野上という男だと・・・昭義のことを好き勝手に利用していました。昭義には兄弟がいませんでしたから、兄のように慕っていたと思いますが、私から見たなら、やくざの子分のようなものでした。この野上という男が昭義を駄目にしたのです。この男と出会うまでは素直でいい子供でした・・・」

「そうでしたか・・・野上に間違いないということですね・・・それと、もうひとつ聞かせて下さい。南という男の名前に記憶はありませんか? 例えば・・・南紀夫・・・」

「南ですか? 南も野上と同じです。小さいころはいい子だったのですが・・・田中という男の名前は記憶にありません。 すいません・・・」

「いえ・・・記憶にないなら仕方ないと思いますが、あの当時の写真などはありませんかねぇ?」

「写真? 別の刑事さんにも聞かれましたが、一枚もないのです。生まれた時の写真はありますが、大きくなってからの写真はありません。写真の嫌いな子でしたから・・・」

「・・・そうですか・・・」と、新開刑事は残念そうな顔をした。

そこで、僕が尋ねることになった。

「雪田といいますが、お母さん・・・昭義君の暴走族以外の友人はいませんでしたか?」

「はい、何人かいました。小野田、志垣、確か・・・それと、年上になりますが、片瀬という人です。片瀬という人は、昭義の学校の先輩でした。昭義が暴走族に入ったことを残念に思っていて、何度も忠告してくれた人です・・・ 」

「その、片瀬という人の住所を知っていませんか?」

「知っています・・・近所です。昭義の葬儀にも来てくれました・・・」

その片瀬という男に会うために、僕たちは片瀬の自宅へ向かった。

この時点で、京都中央署の桑原刑事に片瀬という男のことを聞いたのであるが、署としては全く知らないということであった。

そこまでは捜査していないということだ。あくまで、暴走族の線からの捜査が中心であった。

片瀬栄治は中川昭義の三年先輩になるという。

建築関係の会社で働いているということも分かった。

「新開さん、野上幸則と中川昭義の接点はありましたね。大きな収穫ですよ・・・南紀夫との接点が不明なのが残念ですが・・・それと、田中とかいう男は誰なのでしょうか? 野上と一緒にいたということは、今でも野上と付き合いがあるのではないでしょうか? 田中・・・」

「雪ちゃん・・・俺もそう考えていたよ。それと、もうひとり・・・南ではないかと思う。写真でもあったなら、早かったが・・・日光南署に連絡して南紀夫の写真を送ってもらうことにするか? 俺のミスだ・・・野上の写真しかなかったからな・・・とにかく、隠し撮りでいいから送ってもらうことにする・・・」

と、新開刑事は、今野刑事に連絡をして写真の手配をした。

車は、片瀬栄治のいる家に着いた。

大きな家であり、表札には片瀬と書いてある。

おそらく、この家の息子なのではないか、さらに、表札の横には片瀬工務店とも記載されていた。

ドアのボタンを押した・・・








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「日光市内です。私の好きな食べ物・・・ケーキなのですが、そこのケーキを買って帰ることにしたのです。それで、南さんとは別れました。それから、私は、ケーキを買ってタクシーで会社に戻ったのです。それが何か問題なのでしょうか? まるで、何かの犯人のような質問だと思います・・・」

「いえ・・・ある事件の参考ということで、その時間帯に、Nシステムに写っている人には全員尋ねています。ケーキということですが、どこの店のケーキですか?」

「ワタナベケーキという店です。調べてもらったならすぐに分かると思います。月に三回は買っていますから、それと、そこの店の奥様とは友人ですから、もし、何かの疑いがあるなら証言してくれるはずです。私は何の容疑があるのですか? 参考ということですが、これでは疑われていると思います。確かに、ナンバープレートの変形した車を運転していたことは事実ですが、それが何かの犯罪なのでしょうか? ナンバープレートの件だと思ったから、こちらに来たのです。日光で殺人事件があったということも聞いていますが、私とは何の関係があるのですか?」

「まぁ・・・落ち着いて下さい。安永さんが何かの事件の容疑者ということではありません。あくまで、参考ということです。皆さんに同じことを聞いているので、協力してもらえませんか?」

「・・・分かりました・・・他に何か?」

「その日は、会社を出た時間と会社に戻ったのは何時ですか?」

「確か・・・八時半です。戻ったのは九時半だと思います。南さんは、十一時ぐらいです・・・」

「南さんのことはいいですよ・・・あなたのことです・・・九時半ですね?」

「はい、ケーキ屋さんを出たのが九時十分ぐらいだと思います。間違いないと思います」

「ということは、八時半に会社から一千万円を積んで出た。おそらく、倉田製作所に着いたのは八時五十分ぐらいですね? そして、ケーキ屋に向かった・・・そして、九時十分・・・」と、今野刑事は優しく尋ねた。

「そうだと思います。お金を渡してから、すぐにケーキ屋に行ったのですから・・・」

「そうですか? それで、つかぬことを聞きますが、あのベンツは野上さん名義になっていますね? ナンバーも東京の多摩ナンバーです。あなたは貰ったのではないのですか?」

「貰っていません・・・社長が使っていいといったのです。私のものではありません」

「そうですか、しかし、あんな高級なベンツを勝手に使っていいとは、羨ましい限りですな?乗り心地はどうですか? 貧乏刑事には一生縁のない車ですよ・・・ハハハ・・・」

「・・・それが事件と関係あるのですか? 乗り心地が?・・・」

「いえいえ・・・関係ないですよ・・・しかし、あんな馬力の車なら、タイヤなんかも高性能なんでしょうね? いやね、昔、暴走族から聞いたことがあるのです。新車の純正タイヤだと、何だかパワーに負けてしまうとか?・・・タイヤは純正のようですが、高性能のタイヤにはしないのでしょうかねぇ?」

「タイヤ・・・そんなことは野上さんに聞いて下さい。私は車のことは分かりません・・・野上の言う車に乗っているだけです。」

と、いらだつような顔をしていた。

「では、最後になりますが・・・安永さんと野上社長は、男女の関係ですよね?」

「・・・それが事件と関係あるとは思えません。どう思われても結構ですが、これから用事がありますから、これでいいですね? 最後と言われましたから・・・」

「ご苦労様でした・・・」と、今野刑事は、ニヤリと笑った。

その顔は、まるでスッポンが笑ったようでもあった。

何故、笑ったかというと、安永恵理子はそのベンツで来ていて、参考人聴取の間に、ベンツの車体の内側についた土を調べていたのだ。タイヤには何の証拠もなかったが、中禅寺湖のほとりの土質なら、タイヤが跳ね上げたかもしれない土が付着しているのではないかということだ。

それと、今のタイヤの走行距離は、減り具合から約1万キロということであるが、メーター内の走行距離を調べようとしていたのだ。

しかし、メーター内の走行距離のカウンターは、エンジンをかけるか、イグニッションキーをオンにしないと見ることはできない。

セキュリティー装置がついているので、うかつに手を出すことはできなかった。

安永恵理子がベンツに乗って走りだそうとした時に、今野刑事は、車の前に飛び出して止めた。

「すいません・・・もうひとついいですか?」

「危ないじゃないですか?」と、安永はパワーウィンドウを下ろした。

「すいませんね・・・もうひとつだけです・・・あの日、会社に戻ってから、どこかに出かけたことはないですか?ずっと会社にいたと?」と、今野刑事は、運転席のメーター類を覗き込むような仕草をした。

「ちょっと、顔を近づけないで下さい・・・夕方の六時まで会社にいました。その後、マンションに帰りました・・・もう、いいでしょう・・・失礼なことばかり・・・」

と、安永恵理子はアクセルを踏んで警察署から大通りへ出た。

安永恵理子のベンツの走行距離のメーターは、一万キロ程度ではなく、二万キロに近い数字になっていた。

間違いなく、あのタイヤは新車の時からのタイヤだけではない。

一時期、純正以外のタイヤを履いていたことは間違いないと思われた。

ということで、あのタイヤ痕の高級タイヤ・・・フランスのミシュラン製のタイヤであるが、それを販売したタイヤ専門店等をしらみつぶしに捜すことになったのだ。

これは、全国のタイヤ販売店などを対象としての捜索になった。

しかし、個人的に外国から輸入したとなると完全にお手上げになるということも分かった。

そのことは、新開刑事にも報告された。

「今ちゃん、やはり、タイヤを履き替えていたな・・・よし、その線からも調べ上げてくれ。何課完全な証拠となるものがないと、これからは難しい・・・相手は、そう簡単に落ちるようなタマじゃない。ひとつずつ積み上げていくしかないと肝に銘じておけよ・・・小さなことも見逃さないことだ。地道に捜査したなら、必ず、どこかにボロがある。そのボロの隙間を見つけるんだ・・・俺は、これから京都に向かう。必ず、京都で証拠をつかんでくるさ・・・今ちゃん・・・頼むぞ」

と、新開刑事の語気は強かった。

さらに、面白いことが分かった。

横浜の電気炉の工場で発見された、溶けない手の中に入っていたメモを鑑識が必死で判読していたのであるが、そのメモ用紙のようなものの中に、ひとつだけ文字を判読することができたというのだ。

おそらく、死に際に手の中にしまいこんでいたのだろうと推測される。

殺害した犯人に分からないように手の中にしまいこんだ・・・?

それを知らずに犯人は、何らかの方法で殺害し、その後手首を切断した。

しかし、手の中にあったので、電気炉で完全に溶けることはなかったのだろう。

運良くシュレッダーもかわし、電気炉でも溶けなかった・・・執念なのかもしれない?

殺された男の、ダイイングメッセージというものだと思った。

その文字というものは・・・し○○○・・・という文字であった。

「し」という文字しか判読できない・・・

それ以外にも、何かが書かれているのは間違いないのであるが、鑑識の力を総動員しても判読することはできなかった。

しかし、「し」という意味は何なのだろうか? そして、その後に続く文字はいったい何なのだろうか?

僕も新開刑事も、頭をかかえてしまっていた。勿論、捜査員全員が・・・

さらに、その手は、手首から切断されていたのであるが、手首から2cmのところ・・・つまり、親指の付け根の部分で残っていたのだ。

そのメモを解読することができたのなら・・・一歩、犯人に近づく・・・

僕たちは、そのメモの文字を気にしながら新幹線に乗り京都へ向かった。

新幹線の車内で新開刑事が僕に尋ねた。

「雪ちゃん・・・考えてみると不可思議な事件だよ。手と足首・・・どう考えても面倒なことをやっている。仮に・・・普通に死体をバラバラにしたなら、全部を、色々な地域の山の中の土に埋めるとか、コンクリートで固めるとか、海の中に捨てることのほうが簡単だし安全じゃないかい? 解体車の中に入れて溶かすということは、かなりの危険があると思う。以前、雪ちゃんから聞いたことがあったが、解体車を持ち込む場合は、車の中は徹底的に調べるということだよな・・・鉄以外のものが入っていないかと調べる。それならば、その時点で発見されるというリスクはあるな。いくら、オイル缶の中に入れていても・・・」

「えぇ・・・普通はそうですが、知り合いの解体屋に聞いたところ、長い付き合いの場合は、適当に車の車内を見る程度だということです。おそらく、信用があるということで、そのような業者は調べないのかもしれません。だから、木村自動車解体のような老舗の場合はリスクは少ないのだと思います。木村さんも言っていましたが、古い付き合いなら、解体車の受け入れ作業の時間短縮のために、全く見ないこともあるそうですよ・・・」と、僕が言った。

「とすると、可能性はあるということだな。そうなると、誰が木村自動車解体の車のガラに手を入れたのかということだ。俺の勘では、死んだ中川昭義という線が強いと思う。どこかの誰かが木村のヤードに入ってオイル缶を取り出して手を入れるということはないと思う。手を車のガラに入れるのであれば最初から何かの缶に手を入れて持ってくるというのが筋だろう・・・まさか、電気炉の工場の設備のトラブルで運転停止になり、手が発見されると予想もしていなかったということだ。つまり、その手を入れた奴は、安全で危険・・・リスクの一番ないということで車のガラの中がいいと判断した・・・完全に溶けてなくなるという意味においても・・・」

「えぇ、僕もそう思います。運転停止という予想もしないことが・・・起きた・・・しかし、新開さん、もうひとつの疑問が残ります。手だけの死体が発見されたというニュースはテレビなどで何度も放送されました。ということは、その犯人も知っていたに違いないのです。確か、日光の足首が発見された日よりも、横浜で手が発見された日のほうが早いのですよね?」

「そうだよ。確か、二~三日早いと・・・ということは?」

「えぇ・・・犯人は、足首も電気炉に入れようとしていたと思うのです。しかし、手が発見されたということで、足首の捨て場所を変更した・・・どうも、そう思えるのです。日光の足首は、予定外の行動ではなかったのでしょうか? しかし、どうして日光なのだろう?・・・」

「雪ちゃん・・・俺も同じ考えだ。予定外のことが起き、仕方なく足首を日光へ運んだ。そこまでは当たっているかもしれないが、何故、日光という場所で、簡単に発見されるような場所だったのか?」

「おそらく、犯人は、あわてていたのかもしれません。穴を掘って深く埋めようとしていたが、誰かが来たので深くは掘ることができなかったとか?」

「いや、それはないと思うよ。誰かが来たのなら、掘るのを止めて他の場所に変更したほうが安全だし、日光南署の話だと目撃者はいないということだ。誰かに見られるということはなかったと思う・・・」

「そうですよね・・・確かに・・・しかし、掘った穴の深さは浅かったということですが、普通ならかなり深く掘ると思うのです。それが、浅い・・・時間がなかったのかも?」

「時間? 何の時間? うん、何らかの時間に間に合うようにした・・・だから、深く掘ることができなかった・・・そうかもしれんな?」

「しかし、日光の必要性は、ないと思います。奥多摩でも丹沢でもいいはずですよ。日光? 何かがあるのでしょうね? 日光でなければいけない何かが?・・・」

そんな話をしていると、新幹線は京都駅に着いた。

京都に着くと、その足で京都中央署の桑原刑事を尋ねた。

「その後の、中川昭義の件は進展がありますかね?」と、新開刑事が尋ねた。

「残念ですが・・・進んでいません。母親の線からも調査してみたのですが何も出ませんでした。完全にストップした状態で、署としても困っているのです。野上幸則も走査線上にのぼっているのですが、野上のアリバイはどうでしょうか?」

「残念だが、中川の殺害された日のアリバイは完璧すぎるぐらいだ。野上は、一日中、自分の飲食店の中にいて打ち合わせをしていたことも確認されている。野上の線はないな。しかし、誰かに依頼したということは考えられるから、野上の女の安永恵理子のアリバイも日光南署に確認したが、こっちも完璧だ」

「そうですか・・・アリバイ成立ということですね。それ以外の人物ということもありますから引き続き捜査をします。しかし、物証も何もない事件は辛いですよ・・・困った・・・困った・・・」

と、桑原刑事は、頭をかきむしった。

桑原刑事という人は、年のころなら、僕と同じぐらいだと思う。

交通課から、刑事になった変り種ということを聞いた。

最初は、パトカーの警官になりたいと思っていたのだが、現場の捜査に憧れるようになり、刑事になったということであった。

車についての知識もかなりのものだと聞いた。

昔は、暴走族にも入っていたという噂も聞いた。

その線で暴走族の内情にも詳しいのかもしれない。

そして、僕たちは、中川昭義の死体が発見された場所を見ることにした。






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