※溶けない死体 あらすじ
日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。
横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。
その二つの人間の死体の一部は、同一人物と断定された。
過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。
死体移動の綿密なトリック。完全なるアリバイ工作。
偶然と必然が複雑に絡み合う。
さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。
日常の闇に潜む、人間の深層心理が悲しい。
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「いえ、とても重要なことです。もう少し聞かせてもらいます。その業者を教えてもらいたいのです」
「・・・そんなことは関係ないでしょう。もう、レッカー車はないし、いまさら調べても何にもならん」
あきらかに、山本社長は、いらだっている。
新開刑事が「山本さん・・・あんたを疑いたくはないが、このままなら、あんたにも嫌疑がかかることになる。そのあたりをよく考えたほうがいいと思うが・・・野上のことを思っているのなら、大きな間違いだ。雪田君の質問に答えたほうがいいと思う。どうなんだ・・・えっ、山本さん?・・・」
新開刑事は、大きな声で一喝した。
「ということは・・・私も疑われているということですか?」
「疑われても仕方がないということだよ」と、新開刑事が強く言った。
「それは困る。別に隠しているということはない・・・ただ、エンジンを見た業者は、野上さんの知り合いということは隠していたが・・・それだけしか隠していない。それ以外は本当のことだ」
山本社長は、完全にあきらめてしまった。
事件に関係しているということを、とても不安に思ったようであった。
「野上の知り合いですか? その業者は?」僕は尋ねた。
「えぇ、野上さんにレッカー車を貸し、返してもらった時に、野上さんから、エンジンを壊したようだという話があったのです。それで、私が困った顔をしていると、野上さんは、申し訳ないということで、その業者に見せたのです。それで、エンジントラブルのことが分かり、野上さんは、車を壊したということで、損害金として五百万円をくれたのです」
「野上が、損害金をくれたということですか?」
「はい、もう古い車なので近々に買い換えようとしていたので、そんな大金はいらないと言ったのですが、野上さんは、申し訳ないということで無理やり五百万円を持ってきたのです」
「ということは、エンジンから異音が出ているということは?」
「・・・聞いていません。野上さんが、そういうものですから・・実際は聞いていません・・・」
「山本さん、隠し事は困りますよ。あなたのためにならない・・」僕も声が大きくなった。
「すいません・・・」
「野上から口止めをされていると?」
「いえ、それはありません。そんなに大きな問題になるとは思ってもいなかったし、警察に呼ばれて初めて・・・何かあると思ったのです。だから、野上さんに不利になるようなことは隠していました。野上さんは、私には必要な人ですし、私の会社にも資金を融資してくれている人だから・・・」
「そうですか。融資も?・・・」
「私のような小さな会社に銀行は融資をしてくれません。だから、野上さんの金融会社にお願いしているのです。私にとってはなくてはならない人なんです。私は何かの罪になるんですか?」
「・・・今のところは何もない。ただ、あんたの知っていることは隠さずに話すということだ。隠したなら、場合によっては犯人隠匿になるということも覚えておいたほうがいいな・・・」
と、新開刑事は、諭すように話した。
山本社長の聴取は、これで終わったのだが、今日のことは野上幸則には秘密にしておくという約束になっていた。
山本社長の話から、廃車にしたというレッカー車を調べたという業者も分かった。
多摩地区にある、小さな整備工場だ。
その日、その整備工場に行くことになった。
その工場は、多摩地区の八王子市のはずれにあった。
工場と言っても、親父さんが一人で経営している零細工場ということだ。
大場自動車整備と、道路の歩道の街路灯に文字が薄れた看板があり、その横の道を入ると奥にバラックのような建物があった。
そして、その建物の中に誰かが動いているのが見えた。
僕は、その人に声をけた。
「すいません・・・大場さんはいますか?」
「ん・・・誰だね? 大場だが・・・」と、年のころなら七十才ぐらいの白髪の人が答えた。
「大場さんですか? ちょっと、伺いたいことがあるのですが・・・」
「伺う? 車検か何かかい?」
「いえ、最近、レッカー車のエンジンが壊れたということで、その件について・・・」
「保険屋か? そうなら、その車はないぞ・・・」
「いえ、保険屋ではありません。山本さんのところの車ですよね?」
僕は、単刀直入に尋ねた。
その間、新開刑事は、工場の外で待っていた。
「山本? そんな人は知らないな・・・」
「えっ、レッカーの所有者は?」
「知らないな・・・確か、野上とかいう男が持ち込んできたが、その野上という男の車じゃないのか?」
「・・・野上に間違いはないですか?」
「間違いない。年はとっても記憶は確かだ。それで、何の用事だね? それと、あんたは誰だ?」
「雪田といいます」と、僕は名刺を差し出した。
新開刑事との事前の打ち合わせで、警察という形をとることは止めようということになっていた。
変に警戒されても困るし、野上と付き合いがあるとしたなら、野上に漏れることは必至だと思った。
「ほぅ、あんたも車屋さんか・・・で、何だ?」
「いえ、そのレッカーについて聞きたいのです。エンジンは壊れているということは聞いていますが、それ以外の部品は使えるのではないかと・・・どこにあるのか教えて欲しいのですが?」
僕は、とにかく警察関係ではなく、ただの、車屋が部品を探しているという形にしようと思っていた。
「部品・・・しかしなぁ、車はどこにあるのかは知らない。野上という男が勝手に持ってきて、調べてくれということだったな。それで、エンジンをみてみたが、完全に壊れていた。オイルが入ってなかった。それと、他の部品が使えるのかは知らない。俺がみたのはエンジンだけだ」
「そうですか。それで、レッカーは、どうやってここに運んだのですか?」
「牽引だよ。大型車をひっぱる牽引車だ」
「その牽引車に何か会社の名前は書いてなかったですか?」
「確か、八王工業の車だと思ったが・・・このあたりでは大きな会社だからな・・・」
「八王工業・・・シュレッダーの?」
「あぁ、その会社だ。間違いはない。年はとっても記憶は確かだ・・・」
八王工業というと、例の手だけの死体を横浜の横浜電炉に運んだ会社ではないか・・・
さらに、木村自動車解体から、ボディガラが最初に持ち込まれた会社でもあった。
何かがつながっている。
「大場さん・・・その牽引車を運転していたのは、野上なのですか?」
「違う。運転していた男は別人だ。野上という男ではない・・・」
「で、大場さんは、エンジンが壊れていたということを伝えて?・・・」
「あぁ、エンジンが壊れているという証明書を書いた。普通なら、そんなことはないが、証明書を書いてくれたなら、五万円くれるというからな・・・書いた・・・とにかく、急いでいた。エンジンが壊れていて、修理することはできない、エンジンの乗せ換えが必要だと書いた」
「車が壊れているという証明書ですか? 珍しいですよね?」へ
「あぁ、俺も長い間、車屋をやっているが、こんなことは初めてだな」
「その証明書を何に使うとか言っていませんでしたか?」
「さぁ・・・誰かに見せるというようなことを言っていたと思うが・・・」
間違いない。山本社長に見せるために、証明書を書いてもらったとしか考えられない。
しかし、何故、こんな小さな工場に依頼したのであろうか?
仮に、大きな工場だと何かの理由で発覚することを恐れていたのかもしれない?
それにしても、ここで八王工業の名前を聞くとは思ってもいなかった。
僕たちは、大場自動車整備を後にした。
「新開さん、何か釈然としませんよ。レッカー車を何としても廃車にしたいということでしょうか?」
「あぁ、不思議だな。レッカー車に何かあるとしか思えない。今回の殺人事件に関係している何かがあるのかもしれん。そのレッカー車にはな?」
「えぇ、そうとしか考えられません。レッカー車を処分することの必要性は何なのか?日光のNシステムに写っていただけのことですよ。写っていたとしても、そんなに大きな問題なのでしょうか?それとも・・・他のNシステムにも写っていると勘違いしたのかもしれません?それで、急いで処分した・・・」
そのレッカー車は、廃車にされて埼玉の大手の解体業者で解体されたということは確認できた。
その車のことを覚えていた社長からの証言も間違いないものであった。
「うん、俺もそれを考えていた。雪ちゃん、とにかく、もう一度、日光のNシステムの画像を検分してみよう。何か見落としがあるのかもしれない。それと、他のNシステムにも写っている可能性もあるから、東京と京都の間にある全てのNシステムも調べる必要がある。これは大変だぞ・・・」
「新開さん、大変なことになってきましたね。一千キロ走っているということは、京都で発見された中川昭義の死体を運んだ・・・かもしれないということですね?」
「あぁ、その通りだ。京都中央署にも協力を依頼することになるな。それと、どうしても分からないのが、横浜の横浜電炉で発見された手の死体なんだ。八王工業で完全にシュレッダーにかけられているのに、手だけが残ってしまうということには無理がないかい?」
「そこなんですよ。僕も不自然だと考えていました。あんなに細かく裁断されるのに手だけが残るということはあり得ないと思っています。逆に考えてみると、手はシュレッダーにかけられていたのではなく、後からシュレッダーの済んだ車のガラに入れられた?そういう考え方もないですか?」
「雪ちゃん、そうかもしれんな?そうだとしてなら、八王工業から横浜電炉に行く途中で手を入れたとなる。何故、そんな手のこんだことをしたのか?足首も同じだ。どうして日光なのか?」
依然として僕たちの考えはまとまりのないままだ。
新開刑事は、署に戻ると、レッカー車についての会議を開くことを提案し、多摩西部署の捜査員全員が召集された。
「このままなら、何もつながらない。何か一つか二つを徹底的に調査したいと思う。その一つというのは、唯一の証拠になるかもしれないレッカー車だ。残念ながら廃車なされているが、レッカー車が、どこからどこまで走ったかということを調査してほしい。それと、手と足首の件だが、無駄な動きをしないでほしい。その人物を特定することは重要だが、こんなに捜査してもガイシャの特定はできていない。ここで、一旦、手と足首の人物特定の捜査人員を減らし、レッカー車のほうにいってもらう。それと、ホシは間違いなく野上幸則だ。野上の行動を調べる人員も増やす。レッカー車と野上の両面を中心にしたいと思う。この件については、捜査担当の警視の許可もとってある」
ということで、もう一度捜査体制を作り直すことになった。
僕にも、その件について新開刑事から報告があり、丁度、僕の店に来ていた岩崎弁護士にも話した。
この岩崎弁護士に話したことが、後に大きな問題となるとも知らずに・・・
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