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「日光市内です。私の好きな食べ物・・・ケーキなのですが、そこのケーキを買って帰ることにしたのです。それで、南さんとは別れました。それから、私は、ケーキを買ってタクシーで会社に戻ったのです。それが何か問題なのでしょうか? まるで、何かの犯人のような質問だと思います・・・」

「いえ・・・ある事件の参考ということで、その時間帯に、Nシステムに写っている人には全員尋ねています。ケーキということですが、どこの店のケーキですか?」

「ワタナベケーキという店です。調べてもらったならすぐに分かると思います。月に三回は買っていますから、それと、そこの店の奥様とは友人ですから、もし、何かの疑いがあるなら証言してくれるはずです。私は何の容疑があるのですか? 参考ということですが、これでは疑われていると思います。確かに、ナンバープレートの変形した車を運転していたことは事実ですが、それが何かの犯罪なのでしょうか? ナンバープレートの件だと思ったから、こちらに来たのです。日光で殺人事件があったということも聞いていますが、私とは何の関係があるのですか?」

「まぁ・・・落ち着いて下さい。安永さんが何かの事件の容疑者ということではありません。あくまで、参考ということです。皆さんに同じことを聞いているので、協力してもらえませんか?」

「・・・分かりました・・・他に何か?」

「その日は、会社を出た時間と会社に戻ったのは何時ですか?」

「確か・・・八時半です。戻ったのは九時半だと思います。南さんは、十一時ぐらいです・・・」

「南さんのことはいいですよ・・・あなたのことです・・・九時半ですね?」

「はい、ケーキ屋さんを出たのが九時十分ぐらいだと思います。間違いないと思います」

「ということは、八時半に会社から一千万円を積んで出た。おそらく、倉田製作所に着いたのは八時五十分ぐらいですね? そして、ケーキ屋に向かった・・・そして、九時十分・・・」と、今野刑事は優しく尋ねた。

「そうだと思います。お金を渡してから、すぐにケーキ屋に行ったのですから・・・」

「そうですか? それで、つかぬことを聞きますが、あのベンツは野上さん名義になっていますね? ナンバーも東京の多摩ナンバーです。あなたは貰ったのではないのですか?」

「貰っていません・・・社長が使っていいといったのです。私のものではありません」

「そうですか、しかし、あんな高級なベンツを勝手に使っていいとは、羨ましい限りですな?乗り心地はどうですか? 貧乏刑事には一生縁のない車ですよ・・・ハハハ・・・」

「・・・それが事件と関係あるのですか? 乗り心地が?・・・」

「いえいえ・・・関係ないですよ・・・しかし、あんな馬力の車なら、タイヤなんかも高性能なんでしょうね? いやね、昔、暴走族から聞いたことがあるのです。新車の純正タイヤだと、何だかパワーに負けてしまうとか?・・・タイヤは純正のようですが、高性能のタイヤにはしないのでしょうかねぇ?」

「タイヤ・・・そんなことは野上さんに聞いて下さい。私は車のことは分かりません・・・野上の言う車に乗っているだけです。」

と、いらだつような顔をしていた。

「では、最後になりますが・・・安永さんと野上社長は、男女の関係ですよね?」

「・・・それが事件と関係あるとは思えません。どう思われても結構ですが、これから用事がありますから、これでいいですね? 最後と言われましたから・・・」

「ご苦労様でした・・・」と、今野刑事は、ニヤリと笑った。

その顔は、まるでスッポンが笑ったようでもあった。

何故、笑ったかというと、安永恵理子はそのベンツで来ていて、参考人聴取の間に、ベンツの車体の内側についた土を調べていたのだ。タイヤには何の証拠もなかったが、中禅寺湖のほとりの土質なら、タイヤが跳ね上げたかもしれない土が付着しているのではないかということだ。

それと、今のタイヤの走行距離は、減り具合から約1万キロということであるが、メーター内の走行距離を調べようとしていたのだ。

しかし、メーター内の走行距離のカウンターは、エンジンをかけるか、イグニッションキーをオンにしないと見ることはできない。

セキュリティー装置がついているので、うかつに手を出すことはできなかった。

安永恵理子がベンツに乗って走りだそうとした時に、今野刑事は、車の前に飛び出して止めた。

「すいません・・・もうひとついいですか?」

「危ないじゃないですか?」と、安永はパワーウィンドウを下ろした。

「すいませんね・・・もうひとつだけです・・・あの日、会社に戻ってから、どこかに出かけたことはないですか?ずっと会社にいたと?」と、今野刑事は、運転席のメーター類を覗き込むような仕草をした。

「ちょっと、顔を近づけないで下さい・・・夕方の六時まで会社にいました。その後、マンションに帰りました・・・もう、いいでしょう・・・失礼なことばかり・・・」

と、安永恵理子はアクセルを踏んで警察署から大通りへ出た。

安永恵理子のベンツの走行距離のメーターは、一万キロ程度ではなく、二万キロに近い数字になっていた。

間違いなく、あのタイヤは新車の時からのタイヤだけではない。

一時期、純正以外のタイヤを履いていたことは間違いないと思われた。

ということで、あのタイヤ痕の高級タイヤ・・・フランスのミシュラン製のタイヤであるが、それを販売したタイヤ専門店等をしらみつぶしに捜すことになったのだ。

これは、全国のタイヤ販売店などを対象としての捜索になった。

しかし、個人的に外国から輸入したとなると完全にお手上げになるということも分かった。

そのことは、新開刑事にも報告された。

「今ちゃん、やはり、タイヤを履き替えていたな・・・よし、その線からも調べ上げてくれ。何課完全な証拠となるものがないと、これからは難しい・・・相手は、そう簡単に落ちるようなタマじゃない。ひとつずつ積み上げていくしかないと肝に銘じておけよ・・・小さなことも見逃さないことだ。地道に捜査したなら、必ず、どこかにボロがある。そのボロの隙間を見つけるんだ・・・俺は、これから京都に向かう。必ず、京都で証拠をつかんでくるさ・・・今ちゃん・・・頼むぞ」

と、新開刑事の語気は強かった。

さらに、面白いことが分かった。

横浜の電気炉の工場で発見された、溶けない手の中に入っていたメモを鑑識が必死で判読していたのであるが、そのメモ用紙のようなものの中に、ひとつだけ文字を判読することができたというのだ。

おそらく、死に際に手の中にしまいこんでいたのだろうと推測される。

殺害した犯人に分からないように手の中にしまいこんだ・・・?

それを知らずに犯人は、何らかの方法で殺害し、その後手首を切断した。

しかし、手の中にあったので、電気炉で完全に溶けることはなかったのだろう。

運良くシュレッダーもかわし、電気炉でも溶けなかった・・・執念なのかもしれない?

殺された男の、ダイイングメッセージというものだと思った。

その文字というものは・・・し○○○・・・という文字であった。

「し」という文字しか判読できない・・・

それ以外にも、何かが書かれているのは間違いないのであるが、鑑識の力を総動員しても判読することはできなかった。

しかし、「し」という意味は何なのだろうか? そして、その後に続く文字はいったい何なのだろうか?

僕も新開刑事も、頭をかかえてしまっていた。勿論、捜査員全員が・・・

さらに、その手は、手首から切断されていたのであるが、手首から2cmのところ・・・つまり、親指の付け根の部分で残っていたのだ。

そのメモを解読することができたのなら・・・一歩、犯人に近づく・・・

僕たちは、そのメモの文字を気にしながら新幹線に乗り京都へ向かった。

新幹線の車内で新開刑事が僕に尋ねた。

「雪ちゃん・・・考えてみると不可思議な事件だよ。手と足首・・・どう考えても面倒なことをやっている。仮に・・・普通に死体をバラバラにしたなら、全部を、色々な地域の山の中の土に埋めるとか、コンクリートで固めるとか、海の中に捨てることのほうが簡単だし安全じゃないかい? 解体車の中に入れて溶かすということは、かなりの危険があると思う。以前、雪ちゃんから聞いたことがあったが、解体車を持ち込む場合は、車の中は徹底的に調べるということだよな・・・鉄以外のものが入っていないかと調べる。それならば、その時点で発見されるというリスクはあるな。いくら、オイル缶の中に入れていても・・・」

「えぇ・・・普通はそうですが、知り合いの解体屋に聞いたところ、長い付き合いの場合は、適当に車の車内を見る程度だということです。おそらく、信用があるということで、そのような業者は調べないのかもしれません。だから、木村自動車解体のような老舗の場合はリスクは少ないのだと思います。木村さんも言っていましたが、古い付き合いなら、解体車の受け入れ作業の時間短縮のために、全く見ないこともあるそうですよ・・・」と、僕が言った。

「とすると、可能性はあるということだな。そうなると、誰が木村自動車解体の車のガラに手を入れたのかということだ。俺の勘では、死んだ中川昭義という線が強いと思う。どこかの誰かが木村のヤードに入ってオイル缶を取り出して手を入れるということはないと思う。手を車のガラに入れるのであれば最初から何かの缶に手を入れて持ってくるというのが筋だろう・・・まさか、電気炉の工場の設備のトラブルで運転停止になり、手が発見されると予想もしていなかったということだ。つまり、その手を入れた奴は、安全で危険・・・リスクの一番ないということで車のガラの中がいいと判断した・・・完全に溶けてなくなるという意味においても・・・」

「えぇ、僕もそう思います。運転停止という予想もしないことが・・・起きた・・・しかし、新開さん、もうひとつの疑問が残ります。手だけの死体が発見されたというニュースはテレビなどで何度も放送されました。ということは、その犯人も知っていたに違いないのです。確か、日光の足首が発見された日よりも、横浜で手が発見された日のほうが早いのですよね?」

「そうだよ。確か、二~三日早いと・・・ということは?」

「えぇ・・・犯人は、足首も電気炉に入れようとしていたと思うのです。しかし、手が発見されたということで、足首の捨て場所を変更した・・・どうも、そう思えるのです。日光の足首は、予定外の行動ではなかったのでしょうか? しかし、どうして日光なのだろう?・・・」

「雪ちゃん・・・俺も同じ考えだ。予定外のことが起き、仕方なく足首を日光へ運んだ。そこまでは当たっているかもしれないが、何故、日光という場所で、簡単に発見されるような場所だったのか?」

「おそらく、犯人は、あわてていたのかもしれません。穴を掘って深く埋めようとしていたが、誰かが来たので深くは掘ることができなかったとか?」

「いや、それはないと思うよ。誰かが来たのなら、掘るのを止めて他の場所に変更したほうが安全だし、日光南署の話だと目撃者はいないということだ。誰かに見られるということはなかったと思う・・・」

「そうですよね・・・確かに・・・しかし、掘った穴の深さは浅かったということですが、普通ならかなり深く掘ると思うのです。それが、浅い・・・時間がなかったのかも?」

「時間? 何の時間? うん、何らかの時間に間に合うようにした・・・だから、深く掘ることができなかった・・・そうかもしれんな?」

「しかし、日光の必要性は、ないと思います。奥多摩でも丹沢でもいいはずですよ。日光? 何かがあるのでしょうね? 日光でなければいけない何かが?・・・」

そんな話をしていると、新幹線は京都駅に着いた。

京都に着くと、その足で京都中央署の桑原刑事を尋ねた。

「その後の、中川昭義の件は進展がありますかね?」と、新開刑事が尋ねた。

「残念ですが・・・進んでいません。母親の線からも調査してみたのですが何も出ませんでした。完全にストップした状態で、署としても困っているのです。野上幸則も走査線上にのぼっているのですが、野上のアリバイはどうでしょうか?」

「残念だが、中川の殺害された日のアリバイは完璧すぎるぐらいだ。野上は、一日中、自分の飲食店の中にいて打ち合わせをしていたことも確認されている。野上の線はないな。しかし、誰かに依頼したということは考えられるから、野上の女の安永恵理子のアリバイも日光南署に確認したが、こっちも完璧だ」

「そうですか・・・アリバイ成立ということですね。それ以外の人物ということもありますから引き続き捜査をします。しかし、物証も何もない事件は辛いですよ・・・困った・・・困った・・・」

と、桑原刑事は、頭をかきむしった。

桑原刑事という人は、年のころなら、僕と同じぐらいだと思う。

交通課から、刑事になった変り種ということを聞いた。

最初は、パトカーの警官になりたいと思っていたのだが、現場の捜査に憧れるようになり、刑事になったということであった。

車についての知識もかなりのものだと聞いた。

昔は、暴走族にも入っていたという噂も聞いた。

その線で暴走族の内情にも詳しいのかもしれない。

そして、僕たちは、中川昭義の死体が発見された場所を見ることにした。






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