※溶けない死体 あらすじ


日光の中禅寺湖のほとりで足首だけの死体が発見された。

横浜の精錬工場でも、溶けないで残っている左手だけが発見された。

その二つの人間の死体の一部は、同一人物と断定された。

過去の仲間からの脅迫。過去からの逃避・・・そのための殺人。

死体移動の綿密なトリック。完全なるアリバイ工作。

偶然と必然が複雑に絡み合う。

さらに、姉の妹を思う心。それがさらなる殺人となる。

日常の闇に潜む、人間の深層心理が悲しい。


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第四章  糸がつながらない 

年の瀬も近づいた。街は年末の慌しい様相だ。

数日後、その積載車のセフティーローダーの所在が判明した。

色と形から判明したのだ。

この件については、所轄の刑事が必死で捜したという。

しかし、残念なことに、そのセフティーローダーは、すでに廃車となっていた。

多摩地区にある、山本レッカーサービスという会社の所有車であり、先月に、エンジントラブルということで、修理しても多額の資金が必要だということで廃車にしたいという。

以下、山本レッカーサービスの、山本亘社長への取調べである。

多摩西部警察の小川課長が担当することになった。

新開刑事でもいいのであるが、この件については課長が聴取したいと申し出た。

「山本さん、以前に、野上幸則という男にレッカーを貸したという記憶はありますか?」

「野上・・・えぇ、確かに貸したことはあります。車が壊れたということだったと思います。野上さんとは、私が立川の野上さんの店に行くようになってからの知り合いです。年も近いし、出身も関西ということで仲良くなったのです。私の会社の社員も、野上さんの店を利用しています。いつも、割引券をくれますし、料理も美味しいので・・・」

「そうですか・・・それはいいとして、レッカー車を貸した日付は?」

「確か、十一月だったと思います。いえ、私の会社は、保険会社と契約をして車をレッカーしているのですが、知り合いには、一日一万円で貸し出すこともしています。いつも、レッカーの依頼が保険会社からくることはないですから・・・」

「なるほど、それで、野上が直接に貸して欲しいということでしたか?」

「そこまでは記憶にないですね・・・それにしても、刑事さんが何故に野上さんのことを調べているのですか? あんなにいい人はいませんよ・・・うちの社員も皆大好きな人です。若いのに、昔は苦労したということで、あの年ながら、しっかりとした経営をされているということで、私としても良い手本のような方です。そういう人が何故でしょうか?」

「まぁ、その話はいいのですが、レッカー車についての簡単な取調べです。そんなにたいしたことではありません。ちょっとした事件です。多摩地区のレッカー会社には、全て同じような調べをしています。まぁ、窃盗関係というところです。それと、山本さん、レッカー車を廃車にしたということですが、そんなに簡単に廃車にしてもいいのですか? エンジントラブルなら、中古品と交換すればいいかと?・・・」

「えぇ、普通のことなら修理交換でいいのですが、今回は、エンジンの中が完全に駄目になったのです。それと、もう年式も古いので、ここで新車を購入したほうがいいと判断したのです。もう、十年も使っていますからね・・・」

「そうかね? 何か別に理由があって処分したということはないか? 例えば、何かの犯罪にかかわっているとか・・・えっ、どうなんだ?」

と、小川課長は、語気を強くした。普段は、そんなことはない人であるが、課長としての立場があったのかもしれない。何かとは、部下の刑事たちに対しての課長としての精一杯の態度だった。

「犯罪ですか? そんなことはないですよ。ということは、私も疑われているということですか? 冗談じゃないですよ。私は、何もしていませんよ。野上さんに車を貸しただけです。こんなことで疑われるとは思ってもいない。私は、協力して欲しいというから協力しているのに、こんなんじゃ話しにならない。えっ、刑事さん、いや、課長さんでしたよね。これ以上は話すことはない。このことは野上さんにも伝えておきます。何でも、野上さんの父親は、警察庁関係の官僚出身の代議士と知り合いということですよね?私も、疑われるなら、このことを話しておきます。冗談じゃない・・・ましてや、野上さんが疑われているということも心外です。話にならない・・・」

「・・・山本さん・・・まぁ、落ち着いて下さい。そういう意味じゃないのです。失礼があったなら謝ります。どうか、今日のことは内密にお願いしたい・・・」

「内密? どういうことですか? 単なる窃盗事件レベルじゃないのですか? とにかく、私には関係ない。帰らせてもらいますよ」

「少し待って下さい。山本さんには関係ないのです。ただ、参考としてお伺いしていただけです」

と、小川課長は、平身低頭だ。

やっぱり、この人は事情聴取には向いていない。と、隣の部屋で聞いていた僕と新開刑事は顔を見合わせた。

「課長・・・もう、帰っていいですよね?」

「・・・はい・・・ご苦労様でした・・・」

「どちらにしても、今日のことは野上さんに伝えます。こんなことで疑われるとは思わなかった。気分が悪い。このままでは終わらせませんよ。私にだって意地がある。近いうちに、何らかの連絡があると思います。こんなことはしたくないが、課長の態度は、あまりにも酷い。参考ではなくて犯人扱いだ」

「待って下さい。山本さん、謝りますから・・・野上さんには内密に・・・」

「もう、そんなレベルじゃない。野上さんに言えば、あんたの首は飛ぶかもしれませんな・・・」

「山本さん・・・申し訳ない。この通りです・・・」

と、小川課長は、椅子から降りて、土下座してしまった。

情けない・・・もっと、うまく取り調べをしていたなら、山本さんを怒らせることはなかったはずだ。

新開刑事は、このやり取りを聞いていて、席を立ち、調べ室に向かった。

取調べ室のドアを開け、山本社長の顔を睨みつけ、そして、小川課長に何か囁いた。

その途端、小川課長は椅子から立ち上がり取調室の外へ出ていった。

後で、聞いたことなのだが、新開刑事は、小川課長に全ての責任は新開刑事が取るということを話したということだ。ここで、問題が起きたなら小川課長は、訓告程度の責任ではすまない。

新開刑事は、課長に替わって責任を取るということを言ったのだ。

「山本さん、落ち着きましょうや・・・何も、あんたに疑いをかけているということではない。野上に不審な動きがあったから、あんたを呼んで聞いたということだ。それにしても、野上のことを信用しているようだな? 何か、野上に秘密でも握られているのと違うのか?」

「・・・そんなことはない・・・」と、何かを隠しているような素振りだ。

新開刑事の、勢いと殺気に負けてしまっていたと思う。

「だったら、そんなに怒ることはないだろう。調べてみたが、あんたも警察のレッカー業者として登録している。そんなに警察を毛嫌いすることはないだろう? 言わば、同じような世界に生きているんだ。もう少し、協力してくれてもいいと思うがな・・・あんたの過去も調べているが、叩けば埃の一つ二つはあると思うが・・・まぁ、そこまではしないが・・・」

「・・・新開さんとか言ったな。 で、何を話せばいいのかい? 確かに、野上さんには世話になっている。資金も融資してくれているし、保険会社のレッカーの仕事も紹介してもらっている。ただ、それだけだ。それだけでも、俺は助かっているんだ。悪く言う筋はない・・・」

「そうか、でもな、今度の件は殺人事件がからんでいる。知っていて隠していたなら、犯人幇助としての罪も立件することになるが・・・」

「殺人? そんなことは聞いていないぞ。殺人なら最初から殺人と言えばいいじゃないか?どうも、おかしいと思っていたんだ。で、野上さんに嫌疑が?・・・」

「嫌疑というよりも、参考人の一人ということだ。あんたも、隠していると参考人ではなくて嫌疑がかけられても仕方ないかもしれん。これから聞くことを隠さないで話してもらおうか?」

「分かった。何でも知っていることは話す・・・」

新開刑事の迫力に完全に負けたようであった。

「レッカー車を貸した日のことだが、翌日には返してくれたということか?」

「いや、4日後だ。翌日に返すということだったが、都合が悪くてということだった。借り賃も倍払うということだった。俺にとっては何の損もないし、倍の料金ならと思って承諾したんだ」

「ということは、かなりの距離を走ったということだろう?車の走行距離計をチェックしていると思うが、かなりの走行だったか?」

「確か、一千キロ以上は走っていたと思う。ここに資料がないから確実なことは分からないが・・・」

「一千キロ・・・かなりの距離だな。不思議だと思わなかったのか?」

「・・・別に、大阪への往復の人にも貸すから、不思議とは思わないが・・・」

「野上は、車屋じゃないんだぞ・・・そんなに走ることはないだろう。ましてや、金を持っているんだから、陸送業者にでも依頼したほうが楽なはずだ。そう考えると不思議だろう?」

「確かに・・・一般の人で一千キロもレッカー車を使用することはないと思う?」

「そういうことだよ。山本さん・・・おかしいんだよ。それと、もしかして野上が使った後にエンジンの調子が悪くなって、壊れたということじゃないのか?」

「・・・そう言えば・・・返してもらった翌日から調子が悪くなった。もう、三十万キロも走っていたから寿命だと思っていたが・・・」

「山本さん、野上が何かの細工をしたと考えられないか? エンジンは、どんな具合で壊れたのか?」

と、山本社長に聞き、そして、別室で聞いていた僕を呼ぶように同席の刑事に告げた。

僕は、ゆっくりとドアを開け、新開刑事の後ろに立った。

そして、僕は、ゆっくりと尋ねた。

「山本さん・・・雪田といいます。新開刑事から特別な質問を許可されている者です。警察署員ではありませんが、許可をもらって多摩西部署に協力しています。それで、一つ尋ねたいことがあります?」

「・・・ん・・・どういうことですか?」

「エンジンが壊れてしまったということですが、どのような形で壊れたのですか?」

「エンジンオイルが極端に減り、ピストンとエンジンブロックに亀裂が入ったということです」

「亀裂? どちらにも亀裂があるということですか?」

「そうです。どちらにも・・・」

「それはおかしいですね? オイルが減って摩擦が増え、エンジンブロックかピストンの温度が上がったなら、一般的にはエンジンブロックに亀裂が入るのが普通です。どちらにも亀裂というのは?」

「私が確認したのですから間違いはありません。私が嘘を言っているということですか?」

「いえ、一般的な見解です。で、その亀裂が元でエンジンが焼きついたということですよね?」

「そうです・・・それでエンジンが止まってしまったのです」

「止まる前に、エンジンから音が出ていたと思いますが、その音は聞いたのですか? エンジンが異常に高温になった場合には、必ず、異常な音がでます。ドンドンとかカンカンとか・・・」

「・・・それは聞いていません。突然、止まったものですから・・・」

「それで、エンジンを分解して見たら、亀裂が入っていたということですよね。というのなら、そのエンジンを分解した人は誰ですか?」

「・・・それは・・・知り合いの業者ですが・・・そんなことが関係あるのですか? エンジンのトラブルと何か関係しているとは思えませんが・・・もういいでしょう」

山本社長の態度は、あきらかに不自然になっていた。












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